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第四章 虚実の幽霊船
第五十七話 徘徊のゴーストタウン
しおりを挟むあれから、ノートゥンク川を暫く渡り歩き、ソワール王国に向かう方面の中途まで来ていたときだった。
船足が落ち着き、皆、一様に船室に集まっていた。
エリューが船室の机に両手を着き、訝しげな面持ちで話し出した。
「イーミ姫様、ちょっと話があるんです」
「何、エリュー?」
「皆さんも、一緒に聞いてください」
ファイやヒョウ、イーミ姫様、他の面子も頓狂な顔をする。
一体、どうしたのだと。
「おう、何だ、エリュー?」
ファイが明るい声で答えを返した。
ヒョウは、船室の隅の方で腕を組み、壁に背を凭れ掛けている。訝しげな表情だ。
「皆さんは、気付いていないかも知れませんが、さっき、ヒョウさんの傷を治している時に、死霊騎士の幽霊船が消える瞬間、私、見たんです。幽霊船の先端の部分に古代魔法文字でアオンって、書かれていたんです」
「アオン?」
「一体、何のことだ?」
ヒョウとファイが驚いた声音を上げ、顔を見合す。エリューが懸念し、言葉を濁した。
「キット、何か死霊騎士と関係があるかもしれないな。それに捨て際に、死霊騎士は、『古代から封印された我の魔船』とか言っていたじゃないか?」
キュラが人差し指を立て、耽々と不可解な謎の手掛かりをついていく。
「恐らく、魔船の手掛かりだ! キット何かあるに違いない」
ヒョウが凭れていた体勢から、身を乗り出し、重厚な声で言った。
「そうね、だとしたら、ソワールに行く序でに、ソワールの王立図書館で調べましょ」
「王立図書館?」
ファイが、訝しげな面持ちで言う。一体、何のことだと。エリューは、知っているかのような面持ちだ。
ニミュエがファイの肩にパタリとゆっくり留まり腰かけた。
ボンは端の方で訊きながら、魚を食べていた。
そして、イーミ姫様がジト目で続け様に言った。
「ファイ、あなた、ソレイユにいて、一度も行ったことないわね」
「ハハ、済みません。剣術ばかり、鍛錬していたもので」
ファイは、頭に手をやり、少し姫に対して済まなさそうな顔をする。
イーミ姫は呆れた面持ちだった。
「もう! どこの国にも基本的にはあるの。ソレイユにもあるし、国が管理しているから古文書とか、古い本から新しい文献まで全てあるの。もしかしたら、何か手掛かりが書いてある文献があるかもしれないわ」
「なら、決まりだな。舵を取るぞ」
ヒョウはそういい、船室のドアを開け、舵のある方に出向いていった。
「お前、モンスター学とか勉強してるときに古文書みにソレイユ図書館みにいかなかったのかよ?」
「ああ、すまねー、全くいってねー。あるのもしらなかったぜ」
「はぁ、おまえって、学校の既定の勉強ばっかりかよ」
レイティスが呆れた顔でいい、手で顔を隠した。
「まぁ、いいじゃないか、レイティス、必要最小限のことはしてるんだ」
「団長」
「敵の弱点や特徴を掴むことだけ、騎士にはできていればいい」
「後は腕だ。腕を磨け」
「は、団長!」
レイティスが敬礼をしながら言った。オネイロスもファイが図書館を知らないのは意外だったようだが、モンスターの特徴を知っているだけでいいといった面持ちだった。
そのとき、イーミ姫様がにこやかな笑顔で口火を切った。
「フフ、素性が判るかもしれないわ、行きましょ」
そして、各員、船を出そうと持ち場についた。
持ち場に着き、ヒョウが舵を握りながらエリューの方を向きいった。
「よーし、スピードを上げるぞ! エリュー、そっち持って!」
「はーい」
イーミ姫様の切り出した話はみんなの気持ちを一つにした。
徳を持った不思議な人だ。
船はスピードを上げ、ソワール王国へ向かった。
皆一様に、船を動かす役割分担をこなしていった。
☆☆
船室の会話から、数時間が経ち、船上から、街と一緒に大きな港が見えてきた。もうすぐ、新しい街、ソワールだ。
船室から皆、甲板に出てきた。新しい街に表情が歓喜づいていた。
「やっと、着いたわね。ここがソワール王国よ」
「ソワール王国、俺、初めてだ。この国に来るのは」
ファイが、目を輝かせながら、嬉しそうな顔を見せた。
ヒョウは隣で無言で情景を眺めていた。
「フフ、ファイ、感心しているみたいね。ここは、ソワール王国のアレクサンドロス都市よ。私は、外交で何回も来ているから、そんなに興味は湧かないけどね。でも、ここの食べ物、美味しいのよ~。ヒョウ、あそこの港に船を止めましょ」
「了解」
ヒョウが頷き、舵を回し、船を港に近づけ止めた。ヒョウは再び口を開いた。
「よし、ファイ、碇を下ろせ!」
「おう」
言うと同時に、ファイは重いであろうデカイ碇を難なく持ち、海底に沈めた。
「皆、とりあえず、先に、ソワールの王立図書館に行きましょ。確か、ソワール城の近くにあったはずよ」
「判りました」
イーミ姫の言葉に、エリューが可愛く返事をする。キュラやテアフレナも船室から出てきた。
そして、みな碇で船が止まると、一様に陸地に降りだした。
だが、異変は起こっていた。
☆☆
港から、暫く歩き、イーミ姫様達はソワールの街中にいた。
しかし、妙な雰囲気だ。人気が全くといっていいほどなかった。皆、この異変に懸念し、怪訝な面持ちをしていた。
ヒョウは緊迫感を解かなかった。いつ襲われても、対処出来るように、自動小刀(オートナイフ)で、身構えていた。
「変ねぇ、前に来たときは、賑やかだったのに、メインストリートで、こんなに人がいないなんて」
「って、いうか、全くいないな」
ファイが辺りをキョロキョロ、首を振り、見渡しながらいう。
「何か、ゴーストタウンみたいですね」
エリューが怖そうに身体をブルッと一瞬、震わせた。
「恐らく、例の白煙の事件が原因だろうな」
ヒョウが、訝しげな面持ちで核心をついてくる。確かにこの異変はメインストリートの模様じゃない。
錆びれた町並みに等しかった。
「噂で聞いていた通りね。キット、警戒しているんだわ」
イーミ姫様が眉毛を燻らせ、言った矢先だった。
「お兄ちゃん、どこから来たの?」
「へ?」
年の頃は十歳にも満たないだろう、可愛い小さな女の子が近寄ってきて、ファイの服の裾を小さな手で握り、笑顔で問いかけてきていた。
女の子に、虚偽はなかった。
その時、近くの家の窓から、人影が見え、ファイたちを一瞥し、急に、バタンと窓を急いで閉め、ドアを開けて、誰かが出てきた。
「メイリン、外に出たらいけないってあれだけ言ったでしょ!」
まだ、若い女性だ。どうやら、少女のお母さんのようだ。
声を張り上げ、メイリンという少女の腕を引っ張り、家に連れ戻そうとした。メイリンは、抵抗した。
「お母さん、大丈夫だよ、このお兄ちゃん、悪い人に見えないもん」
メイリンは屈託のない純粋な笑顔で、応える。お母さんが、口をへの字に曲げた。
メイリンの腕を無理矢理、引っ張ろうとした。
その時、見兼ねたファイが、腰を落とし、メイリンに語りかけた。
「俺たちは、ソレイユから来た、旅のものだよ」
「安心しろ、白煙の事件とは何の関係もない」
ヒョウが続けていう。しかしながら、この街の様子では、信じるはずもなかった。
「ふーん、ほんとにそうなら、何か見せてよ」
メイリンが問い質そうと、ファイに言ってきた。
ファイが、困った顔をし、どうしようかと、イーミ姫様と顔を見合わせ、顎に手をやり、必死に方法を探そうとした。
「どうも、済みません、家の子が迷惑掛けて。さぁ、メイリン、お家に帰るわよ」
「いや~、お兄ちゃんと遊ぶの!」
メイリンは、駄々をこねて、その場で蹲り、泣き叫んだ。
お母さんが困った顔でアタフタとしている。ファイは困っていた。
「泣くなよ、仕方ネーな、何かあったかな?」
そういい、ファイは懐に手を突っ込んだ。
「あっ、これ、まだ一枚あった。ソレイユ製の金貨を上げるよ。俺にはもうお金は必要ネーから、ね、イー、じゃなくて、お嬢様!」
懐からファイは金貨を取り出し、姫様の素性がバレそうな一言を口走り、笑顔で少女に金貨を渡した。
メイリンは、金貨をもらい、嬉しそうな顔で、泣き止んで、金貨に書かれていた文字を読もうとした。
近くにいたお母さんが金貨の文字をみたのか、険悪だった雰囲気は消えていた。
「お嬢様? おほん、あんまり当てにしないように」
イーミ姫さまが面白おかしく、咳払いをし、ファイを見遣った。
「あはは、済みません」
ファイが、気を使って、頭に手をやり、動じた顔で言葉を返すと、一同に少し笑みが飛んだ。
そして、メイリンが口を開いた。
「あ、ありがとう、お兄ちゃん」
「な、嘘じゃネーだろ? 泣くなよ。また、どこかで逢えたら遊ぼうな」
「済みません、こんなもの戴いて。さぁ、家に入るわよ」
「全然、いいぜ」
ファイがそういうと、親子は家の方に手を繋いで歩いて行った。
「バイバイ~」
メイリンがファイのほうを振り返り、手を振る。ファイも笑顔で軽く、手を振って返した。
「可愛らしい子供ですね」
エリューが微笑みながら言う。
「あぁ、あんな子供まで、殺されているのを黙って見過ごす訳にはいかない」
「その通りね。確か、ここの道を真っ直ぐ行くと、大きな建物が出てくるはずよ。そこがソワール王立図書館よ。行きましょ」
「はい」
イーミ姫の言葉にファイが返答すると、一同はまた王立図書館に向かう為、メインストリートを歩き出した。
風だけが吹き荒む、誰もいない道をズット歩いて。
☆☆
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