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第四章 虚実の幽霊船
第四十九話 死霊騎士
しおりを挟む「おい聞いたかよ、また、ソワールで大量殺人があったみたいだぜ」
「ほんとかよ? 例の得体のしれないやつだろ?」
首都オーの情報掲示板を見て、字を読める人が困惑した顔で言い張る。
丁度、イーミ姫さまたちがそこに通り掛った。
「赤の情報掲示板ね」
イーミ姫さまが立ち聞きをしたのか、赤の掲示板を見て顔色を変えた。
「で、姫様なんて書いてあるんですか?」
ファイが剣幕を変えて、イーミ姫さまに問う!
後ろにキュラとテアフレナがいた。ファイの肩にはニミュエが止まって手を上に伸ばしている。ボンはオーの商店街の食べ物屋から流れてくる料理の匂いを鼻で嗅ぐのに必死になっていた。
「んとね、ソワール王国のアレクサンドロス都市で怪物も何もいないのに、道を歩いただけで何人もの人が、殺されてるって、書いてあるわ」
「つまり、得体の知れない何かによる、大量殺人か」
ヒョウが重苦しい声で言う。
「こうも書いてますね、今までに殺された人に共通しているのが、夜に殺されていること、それに、背中と首を鋭利な物で後ろから斬られていると、どの殺された人にも共通しているとありますね」
エリューが大人しく可愛い声で謎めいた顔をしながら答えた。
「エリュー情報掲示板の色で何か違うのか?」
ファイが全く分からないといった顔つきでエリューに問う。
エリューはニコリと笑った。
「デッドレベルが最高値から、赤、黄、青、白、の四段階の危険レベルがあって、赤ってことは、可也、危ない常習的な最高レベルの危険事項ってことです」
エリューが淡々と言う。
テアフレナがそうだと頷いていた。ファイ以外はみな、知ってる模様だ。
レイティスもニコリとしていた。
そのとき、姫様が何かに気づき話し出した。
「おかしいわね、赤の情報板が出るってことは、かなり、危ないってことね、何か魔族が絡んでるのじゃないかしら?」
「そうだとしたら、そいつを倒さない限り、これからも、ズット人が殺されるってことか?」
「そうね、多分、被害が甚大になるわね。ファイ、皆、行きましょ。罪のない人が殺されているのを、見て見ぬ振りは出来ないわ」
「姫様らしいです!」
エリューが微笑ましい顔でスラッといった。
「イーミ姫様、わしもこの事件をどうにかしたいです。子供まで殺されているのを見逃す訳にはいかない」
オネイロスが珍しく、甲高い声で言った。情報掲示板の余りに凄惨で子供まで惨殺された記事の絵柄を見て、眉間に皺を寄せ、きっぱりという。
「フン、いいだろう! 俺も賛成だ!」
ヒョウが重苦しく吐き捨てた。
姫様が、皆の顔を見た。皆、こくりと頷き、賛成だった。
「じゃぁ、早速、行きましょう。 ここは首都オーだからアレクサンドロス都市は北西の方角ね!」
イーミ姫さまは天使アスタルテの書を片手に空に向かってゴーサインをする。
アスタルテも封印の書の中から返事をしているようで、一瞬白く封印の書が光った。
「ここからだと、まず、ノートゥンク川を船で渡って、途中にある、マリーンって街を中継し、そこから、また、北西に真っすぐ船足を出すしかないな!」
船場の方を見遣りヒョウは言う。 一同の視線が船着場の方へいく。
ヒョウは先陣を切って、船着き場に指でこいとジェスチャーをし歩いていく。
「行くぞ!」
皆一様に、意気を上げ、ヒョウの後をついていく。船場に向かい堂々と闊歩(かっぽ)した。
これから、どんな苦難が訪れるとも知らずに……。
☆☆
あれから暫くの時間が経ち、メンツは船に乗り、ノートゥンク川を渡っていた。
ファイが甲板の方に船の船室から出てきた。
「もう夜か……。ん、何だ、あれは?」
辺りは真っ暗だったが、船の篝火(かがりび)だけが、遠くから赤々と照り、薄っすらと巨大な骸骨(がいこつ)を付けた軍艦のような巨大な船がファイたちが乗っている船の西側に朧(おぼろ)に火を揺らしながら現れ、こちらに向かってきてるではないか。
「骸骨船? 何だ? この異様な邪気は?」
ファイは警戒心を顕わにし、邪気を感じる船の明かりのある方に急いで向かっていく。
「ファイ、どうしたんだ?」
「ヒョウお前も気付いたのか! 物凄い瘴気だ。姫さまたちは?」
「まだ寝てる!」
ヒョウがそういった矢先だった! 急に何かが向かってきた!
BYUN!
「ヒョウ危ない!」
急に発せられた刃靭のようなものに対処するため、ファイは急いで船のドアから出てきたヒョウをとっさに突き飛ばした。
「ッ、何奴!」
ヒョウが甲板に仰向けにこけ、魔剣アイスブレイカーを握り締め、身体を起こそうとしながら剣幕を変えて、声高になり言った。
「どうした、ヒョウ!」
さっきの刃靭の一撃で、船が揺れたのか、異変に気付き、キュラとテアフレナが船室から出てきた。
「運のいい奴だ。我が魔剣、死霊剣(デスゲイザー)の太刀を躱したのだからな!」
「死霊剣(デスゲイザー)だと?」
ファイは唐突なことに一瞬、動きが止まり、表情が曇る。
「テアフレナ、姫様の安全を確認しろ! ここは私が引き受ける」
「はい、キュラさま」
その時だった。
「どけ、ファイ! フン! 氷斬巨刀(アイス・ザンバー)!」
急速に、ヒョウは体勢を立て直し、天まで貫くような氷の刃靭を思いっきりエネルギーを瞬間的に膨張させ、正体不明の敵に振り翳した。
BYUN!
「何ぃ、消えただと?」
何と、あれだけの速さのヒョウの一撃を見事に受け、切った直後に正体不明の敵は姿が残らず消えていた!
「チッ、確かに、斬ったはず!」
ヒョウは悔しそうに舌打ちし、剣の段平をぎらつかせ、表情を曇らせるものの、構え直す。
その時だった!
「フン、愚かよのぅ! フハハ、お前らなどにワレを倒せるはずがない! 死霊騎士(デスナイト)とでも、名乗っておこうかのう!」
死霊騎士(デスナイト)は、傲慢に皮肉ったように屠る。
容姿は、頭は骸骨で白い骨がむき出しになっており、眼のところに騎士の兜のようなマスクを付けて目を隠し、赤い燐光を漲らせている!
背中に骨だけのドラゴンの羽のような物が左側にだけあり、片翼になっており、黒いマントを羽織っている。
死霊騎士(デスナイト)は軽く後ろ手に浮遊し、また姿が薄くなっていく。
「待て、逃げるのか!」
ファイが魔剣イフリートを引き抜き、死霊騎士(デスナイト)の方に攻撃を仕掛けようと駆け出す。
「よせファイ、深追いするな!」
急いで、手強い危険を感じたのか、ヒョウはファイの前に立ち塞がり右手を水平に張り、制止する。
ファイの動きが止まった。
「この船から妙な魔闘気が出ておるから来てみれば、やはりその魔闘気、魔剣士のものであったか。若僧よ、威勢は良いが功を焦るとワレのように古代から長生きは出来ないぞッ!フハハ、また会おうぞ、魔剣士ども!」
死霊騎士(デスナイト)はドロッとした声で言うと同時に姿を消した。一体、何だったのだろう?
「クソッ!」
ヒョウが冷徹な顔で、闘争心、剥き出しで舌打ちをする!
「何ぃッ? 骸骨船が消えた?」
ファイが遠くを見遣り、一瞬の出来事にポカンと口を濁す!
「何だったんだ? 今のは? 幽霊船か?」
「いや、ファイ虚実じゃないぞ。見ろ、さっきの奴の一撃で甲板が抉れてる!」
キュラが唖然としているファイに言い聞かすように、剣の切っ先を甲板の抉れているほうに向けた。
「……ッ、ほんとってことか。 幸先の悪い夢だぜ!」
ファイは抉れた跡を手先で軽く触り、眉間に皺(しわ)を寄せる。
「おい、ファイ、二時間置きに、見張りをするぞ。この状態では、今度、また襲われたら、余りに姫様危険だ」
キュラは魔法剣レイジングライアを鞘に収め、重苦しい重圧のある声でいった。
「あぁ、判ってる」
ファイも手強さを察知しているようで、動揺の色を浮かべる。幽霊船が消えた後、辺りは真っ暗になっていた。
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