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第二章 封印の書
第三十二話 竜との戦い
しおりを挟む「何だ、あれはッ?」
「どうしたんだ?」
ファイが問うが、ヒョウは身体が凍り付いたかのように一瞬、表情が止まった。
「おい、チンタラしてる場合じゃないぞ。大変だ、飛行タイプの竜(ドラゴン)が一匹、近くにまだ竜(ドラゴン)が三匹いるぞ。それに……とてつもなくデカイ変なのが一匹いる!」
ヒョウは空中で懸念し、唾棄し、荒々しくいった。
そして、地にまたヒョウは降り立った。
「なッ、飛竜(ワイバーン)か?」
ファイは空を瞻(み)、ヒョウの方を向きいった。
「あぁ、飛行タイプはそうだろうな!」
いうなり、ヒョウは敵のいる方に走り出した。
ファイも釣られて走る。他の面子も同時に走り出した。
「デカイ奴ってどんなタイプだ?」
「炎と氷がくっ付いて首分かれしていたな!」
「炎と氷がくっ付いている? そんなバカな」
そういい走り、目の前の視界に確認できるほど、大きく映るものがあった。
「ッ、何だあれは?」
ここからでも見えるくらい、その氷と炎がくっ付いた化け物はデカかった。ファイは一瞥し、驚嘆した。
口を開き立ち止まり、次の言葉が出なかった。
そのときだった。
「多頭竜(ヒュドラ)よ!」
二人に追いついて来たイーミ姫さまが怪訝な相貌でいった。エリュー、キュラ、テアフレナも隣にいた。
化け物を見ても、ファイたちは戸惑いをみせることなく前に走り続けた。
「何でこんなところにあんな強力なやつが!」
「竜(ドラゴン)は出ても、多頭竜(ヒュドラ)はおかしいな。湿地帯を好むはずだが……。しかし、ここはあいつらが大好きな川が沢山あるからな」
ヒョウは走りながらいった。
「でも、厄介なのは飛竜(ワイバーン)よ。あのスピードでとバレちゃぁ、私たちでは、到底、追いつかないわ。それに火を街にまき散らされたら」
そのときだった。
イーミ姫さまがいった矢先、頭上にいきなりワイバーンが飛来し、人間の動体視力では追いつけないくらい速いスピードで翔(と)び突如動いた!
BUOOOOOOOOOO!
飛竜(ワイバーン)は炎の息(ブレス)を頭上からヒョウたちに向けて吐きつけた。
「ッ!」
ヒョウは右手で咄嗟に勘でイーミ姫さまを突き飛ばした。イーミ姫さまはその反動で放れた道の脇に倒れ込み、ヒョウも左手の奥の方に瞬時に押し飛んだ。
キュラとテアフレナもどうにか無事だった。キュラは身に着けている耐熱マントでイーミ姫さまを包み込むようにし、炎から守っていた。
左右に散って、上手い具合に吐き付けられた炎を躱し、体勢を立て直そうとする。
吐き付けられた炎は、余りの熱量で地面を抉り溶かし消えた。
すぐさま、飛竜(ワイバーン)は瞬足にその場から一時、息(ブレス)を吐き終わるとどこかへとんで行ってしまう。
片時の安堵にしかならなかった。
またいつあの強力なブレスを吐きつけられるか、わからなかったからだ。
「大丈夫か?」
「えぇ、なんとか! ありがとう、キュラ守ってくれて」
「いいえ、大したことではありません。これが私の仕事ですから」
イーミ姫さまの言葉にキュラは平然といった。
「……チッ、たしかに速いな。だが、この街には各港にある、魔防御扉(ガードウォール)をどれか起動すれば街全体が白い光りでドーム型に包まれ、どんな属性攻撃に対しても、防御バリアが張れるようになっている」
「魔防御扉(ガードウォール)?」
「その起動スイッチはどこに?」
答えを急かすようにイーミ姫さまは再三きいた。
「たしか、各港の入口近くにあるはずだが」
ヒョウは体勢を立て直しながらいった。
「……んッ?」
ヒョウは魔剣を地面に突き立て、遠く港の方を見遣った。
釣られて、みなの目線が港の方へいく。
「あの前にある黒色のデカイ二つに分かれた扉だ」
「あれねッ!」
イーミ姫はヒョウの言葉をきくとすぐそれに向かって走り出した。
「いけません、姫様!」
テアフレナが一人で行かせてはまずいと、急いで姫様の後を追って走っていく。
その合間にも近くの建物がワイバーンの息(ブレス)で焼き尽くされていく。
炎が猛威を振るい民は逃げ狂っていた。
まるで、舞い降りた悪魔のようだった。緊張感が犇めく。
走るイーミ姫様とテアフレナに急いでヒョウは言った。
「あの扉の後ろ側にあるスイッチを押せば、防御バリアが作動し展開するはずだッ!」
答えるような素振りをみせ、イーミ姫さまは無言で魔防御扉(ガードウォール)の右手側のスイッチに向かって走る。
そのときだった。
「チッ!」
目の前に行き成り竜(ドラゴン)三匹が現れた。
それを見遣りヒョウは都合が悪いと舌打ちをした。
イーミ姫さまはそのとき、ガードウォールの近くまできてそれを瞻(み)、いき止まった。
「姫様!」
「奴(やっこ)さんのお出ましだ!」
ヒョウはスラッといい、舌打ちをする。
「ファイ、俺が冷気で竜(ドラゴン)三匹の足を止める。その間に三匹とも斬殺しろ。だが、そう長くは持たないぞ。竜(ドラゴン)の強烈な息(ブレス)を考えると、ほんの一瞬だけだ。俺は飛竜(ワイバーン)を邀撃する!」
「判った!」
ファイはヒョウの言い分に納得し緊迫しながらいった。
魔剣の段平を裏返した。
「『氷小刀(アイスナイフ)!』」
ヒョウは右手を添えて氷の力を加え、左手の自動小刀(オートナイフ)の二層目を四丁、竜(ドラゴン)三匹の通り過ぎるところに小刀(ナイフ)を四角形の支点になるように発射した!
見事に緊迫感が張りつめる中、地面に上手く突き刺さった。
竜(ドラゴン)三匹が、ヒョウの思惑通りの射程内に入った。
「(今だッ!)開け!『氷尖網(アイスネット)!』」
ヒョウは腕を引き掌を握った。
戸惑うことなく冷気が発生し、四点の氷小刀(アイスナイフ)を支点にしてアイスナイフはつららのように大きく尖り、射程内に入った竜(ドラゴン)三匹の足下を包みこむように四角形に巨大アイスネットが展開した!
氷が竜(ドラゴン)の足に這いつくばる!
技の範囲内で地面がカチカチに凍り付ついた。
ニミュエやボンもこの速い展開に息を呑んでいた。
竜(ドラゴン)三匹の動きが確実に止まった!
「ファイ!」
ヒョウは急かし、ファイが竜(ドラゴン)に向かって動いたのと同時にワイバーンがヒョウ目掛けて旋回して来た!
ファイは近くにいた竜(ドラゴン)を仕留めようと、地を蹴り、段平をギラつかせ、大振りに魔剣を一閃させた。
「でやぁぁぁっぁぁッ!」
GUCHUIIIIIIN!
次の瞬間、見事に竜(ドラゴン)の首を魔剣で斬り落としていた。
血飛沫を上げ、血が飛び散り、首が地面にドサリと落ちた。
分かれた胴体もバタリと地面にバランスを崩して倒れ込む。
ファイが斬ると同時くらいに後の竜(ドラゴン)二匹は炎の息(ブレス)を吐き狂い、ヒョウが放ったアイスネットの氷を溶かしていく。
自力で這いだし奔走しようとする。
その瞬間、同じくして、ワイバーンが旋回して近づき炎の息(ブレス)を吐いてきた!
それをヒョウは上手く紙一重で躱し、横手に飛んだ。
すぐに体勢を立て直し、左手の自動小刀(オートナイフ)をチラッと一瞥した。
「(チッ後、残り一層か!)如何に音速でも、あの翼さえ封じればッ!」
苦言を呈し、頭上に旋回してきているワイバーン目掛けて、左肩を高く上げ、ワイバーンの動きを追い、残り一層の自動小刀(オートナイフ)四丁を素早く韋駄天のように放った!
だが、二発は右翼に命中したが、後の二発は外れた。
ワイバーンの右羽に刺さった箇所から氷の塊が発生した!
「グギャァァァッ!」
ワイバーンは空中で咆哮を上げる。
「チッ! 二発はずしたか。だが、それで十分だ、氷闘気(アイスレヴィラスタ)!」
ヒョウは手を構え、魔闘気を出し、瞬間的に力を爆発させた。
「凍れ!」
ヒョウがそういうと氷小刀(アイスナイフ)が刺さった場所から冷気が発せられ、刺さっている右翼が丸ごとカチカチに凍った。
その凍った反動で急に右翼が動かせなくなったワイバーンは羽ばたけなくなりバランスを崩し、翔(と)んでいた状態から真っ逆さまに落ちだした。
瞬時にヒョウはそれを一瞥すると竜(ドラゴン)に背を向け、魔剣を突き刺していたところまで走り、地面に突き刺した魔剣アイスブレイカーを引き抜き、右手で槍投げのような持ち方をして刀身を手で挟むように握った。
次の瞬間!
「『氷殺槍(アイスランス)!』」
ヒョウが唸ると右肩を振り上げ、上空に氷の魔剣を投げた!
魔剣は冷気を帯び、馬鹿デカイ氷の槍、つららみたいな感じで魔剣から氷が発生して空を切り、それは瞬足に体勢を崩し落ちていくワイバーンの下腹部から背の方に大きく貫通してズサリと突き刺さった!
傷口から血が吹き飛んだ。
ワイバーンは最期の断末魔を上げ、地面に大きな音を立て落ち去った。
血と氷が混ざり合い濁り、冷酷な惨状を見せる。
「戻れ!」
ヒョウがそういうとアイスランスとして手元から放った魔剣アイスブレイカーがワイバーンの死体から消え、遠く離れていたヒョウの手元に姿を現した。
同時に右手の甲にある紋章が蒼白く光った。
「やったか?」
ヒョウは怪訝な面持ちでドラゴンを相手にしていたファイに訊く。
「あぁ、見ての通りだ」
ファイは魔剣イフリートを携え左手で自身の頬に掛かった竜(ドラゴン)の返り血を拭き取った。
「フン、上出来だ!」
ヒョウは見事に首で斬首された残りの竜(ドラゴン)の死体を見遣り、遅いぞと不満有り気重苦しくいった。
「ヘッ! いってくれるじゃねーか。期待通り殄戮(てんりく)だぜ!」
負けじとファイはいった。
その矢先だった。
「ファイ、急ぐぞ!」
不敵な笑みをみせると、いうなりヒョウは前に走り出した。
エリューもファイもイーミ姫さま、他の皆も釣られて同時に走り出した。
「悠長にそんなこといっている場合じゃないぞ。デカイのが港を越そうとしている。街に入られたら大変だ。あのガードウォール付近でくいとめるぞ!」
ヒョウの判断は正しかった。怪物というほどの、異色を放つ竜が少し離れたところにいたからだ。その化け物は港を越そうとしていた。可也の巨体で停留していた船などはひとたまりもなく大破させられたり、炎で焼かれたりしていた。
この化け物の侵入をどう止めるか。ファイたちに時間はなかった。
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