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第三十五章 あなたの作る世界なら
04 身体にぴったりとした黒服を着た三人の少女、アインス
しおりを挟む身体にぴったりとした黒服を着た三人の少女、アインス、ツヴァイ、ドライ、その姿を見てアサキとカズミの顔が驚きと警戒とに曇りかげった。
何故なら、三人は死んだはずだからだ。
治奈とヴァイスの戦いによる超魔法の巻き添えを受けて。焼け焦げて、生体ロボたる肉体は完全に崩れ散ったはずなのだから。
現在、三人の姿は半透明で、身体も服も透けている。
そして、ゆらゆらと揺らめいている。纏った輝きがではなく、彼女たち自身の肉体が、ゆらゆらと。
これは、幻影か?
これは、魂なのか?
いずれにせよ、このタイミングである。先ほどのシュヴァルツと同じ類の存在だろう。あのシュヴァルツがなんだったのかも、まだ分からないことだが。
分かっているのは、みな、敵であるということだ。シュヴァルツも、目の前で揺れるアインスたち三人も。
ならば、細かいことは、
「どうだっていい!」
カズミは叫びながら、斜面を駆け上がる。
先ほどのシュヴァルツとの戦いで地面が大爆発して出来たすり鉢を、砂に足を取られることもなく軽やかに。
「変身!」
駆け上がりながら左手に着けたリストフォンのスイッチを押しすと、走るポニーテールの少女の姿がデニムのミニスカートから青い魔道着へと変わっていた。
そして両手それぞれにナイフを握り締め、黒い揺らめきの中へと突っ込んでいく。
実体があるのかないのか透けて揺れている、まったく同じ顔をした黒服の少女たちへと。
同じといっても、カズミには三人の誰が誰か区別は付いている。ヴァイスが、識別子を書き込んでくれたためだ。黒服の三人に対してではなく、アサキとカズミの魔力の目に対して。
ただ、判別が出来るようになったところで、それで戦局がどうなるものでもなかったし、またカズミのやることが変わるわけでもなかったが。
ただ三人を倒すだけである。
そして道を切り開くだけである。
アサキがヴァイスを助けに行くための道を。
「うらあああああ!」
怒鳴り声を張り上げる。
斜面の一番上に立つ、アインス、ツヴァイ、ドライ、彼女たち三人の手からは、いつの間にか白い光が棒状に伸びて握られていた。
真っ白な光の剣。アサキがたまに魔力で作るそれとは、また別理論による、純然たる物理科学により生成される彼女たちの武器である。
「なにを持ってようと、何人が束になろうとも関係ねえ!」
言葉通りカズミはまったく怖じけ付くことなく、身体を飛び込ませて、三人と打ち合い始めた。
「なに見てんだ! 早く行けよ!」
斜面の途中で心配そうな顔をしているアサキへと、カズミは黒服と剣をかわしながら怒鳴り付けた。
「一人でなんて無茶だよ! わたしも、一緒に」
アサキはそういうと、腕を振り上げリストフォン側面のスイッチを押そうとするが、それはますますカズミの気持ちを爆発させるだけだった。
「んな場合かよ! お前の相手はこいつらじゃねえ! あたしもこいつら倒したら、すぐに追い掛けるから! お前は澄ました顔の白服女を早く助けてやれ!」
「……分かった。……絶対に無事でいること。約束だよ、カズミちゃん。わたしは、笑顔の報告しか受けないからね」
笑顔の報告しか受けない。
須黒先生が口癖にようにいっていた言葉だ。
それはいま、アサキの本心でもあっただろう。
高尚な心理でもなんでもない。
もう友はカズミしかいないからだ。
だけど確かに、連れ去られたヴァイスを放ってはおけない。
だからアサキは、目尻の涙を拭うと走り出した。
斜面を駆け上がるアサキへと、ツヴァイ、ドライが、カズミから離れて迫る。白い光の剣で挟撃する。
対してアサキの取った行動は単純だった。
両手それぞれに魔法障壁を作り出して叩き付けられる剣を跳ね返しながら、中央突破したのである。
跳ね返された剣の軌道を修正しつつ再び打ち掛かろうとするツヴァイたちであるが、打ち下ろすことは出来なかった。二人の足元に五芒星魔法陣、つまりは呪縛陣が張られていたのである。
く、
どちらからともなく二人は呻き、下半身、膝から下を輝かせて魔法陣を砕き消滅させた。
顔を上げると、もう赤毛の少女の姿はどこにもなかった。
黒服たちの前には、残った青い魔道着の少女が不敵な笑みを浮かべているだけだった。
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