魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

文字の大きさ
上 下
350 / 395
第三十三章 惑星の意思

07 ひたすら、上を目指して。魔力の手を伸ばして、至垂の

しおりを挟む
 ひたすら、上を目指して。
 魔力の手を伸ばして、至垂の巨体を掴んで。そんな余裕、本当はないのだけど。
 とにかく必死に、浮上し続けた。

 なんだったんだ。
 わたしは、なにを感じた?
 意思が接触を図ってきたこと。それに、恐怖した?
 精神に触れられて、舐められて、そのことによる嫌悪?
 分からない。

 気が付くと地上にいた。

 ぺたん、とおままごと座りで、両手を後ろに突いて、ちょっと涙目になって、ぜいはあと激しく呼吸をしていた。

 正確には、呼吸ではない。
 ここは真空であり、吸うべき酸素など存在しないからだ。
 体力や精神力、消耗したものを回復させる際に、以前からの動作行動が習慣として出てしまっているだけである。

 逃げてきた、惑星の中心部。そこは、そこにいるだけでも様々なものを消耗する空間であったのか。アサキが魔力の手で掴んで引っ張ってきただれとくゆうの巨体も、やはり息が荒い。激しく、消耗しているようである。ぜいはあ、息も絶え絶えだ。
 だが、呼吸の様子だけを見ると弱り方がはなはだしいが、肉体の損傷はほとんど回復しているようだ。
 自身の超魔法をアサキに跳ね返されまともに受けて、見るからに酷いダメージを受けていたはずなのに。
 惑星の地下にいた間、驚きや畏怖、他に思うところもあっただろうに、そんな中もひたすら非詠唱で自己治癒し続けていたのだろう。
 先ほどアサキが舌を巻いていた通り、タフで抜け目のない至垂である。

「いまのは……いったい」

 至垂が、ゆっくりと立ち上がった。
 正確には、至垂の上半身と繋がった巨蜘蛛が、六本の太い足でゆっくりと立ち上がった。

 アサキはまだ、おままごと座りのまま息を切らせている。
 すぐ目の前で至垂が身を起こしたのは分かったが、あまりの疲労に身体が動かなかった。
 惑星の中心へと引き込もうとする膨大な力から、逃げてきたのだ。しかも、至垂の巨体までも引っ張って。
 魔力はともかく、体力が尽きてしまっていた。

 でも、息を切らせながらも、心は冷静に状況を考えていた。
 違和感に顔を曇らせていた。

 ここは、わたしたちが落ちてしまった時と同じ場所だ。
 爆発で大きな穴が空いて、そこにわたしと至垂所長は飲み込まれた。
 そう思っていたけど、大穴なんてどこにもない。
 爆発して、地面が吹き飛んですり鉢状になっているだけだ。
 アクシデントで薄いところから落ちてしまったというより、やはり惑星の意思に呼ばれて引っ張られたということなのだろうか。

「アサキ!」

 いきなり聞こえたカズミの大声に、アサキは息を切らせながら顔を上げる。
 すり鉢斜面の上に、カズミと治奈はるな、そしてヴァイスの顔が見える。
 親友の二人は、一体なにが起きたのか気が気ではない不安顔だ。

「アサキ!」

 カズミはまた大声を張り上げて、すり鉢を転がり落ちる勢いで降り始めた。
 いや実際、柔らかくなっているところに足を取られて、転がっては起き上がりながらで、焦らずゆっくり身体を運んだ治奈とヴァイスの方が降り終えるのが早かった。

「なんでだよ!」

 必死さまるで報われず、ようやく降り終えたカズミの怒鳴り声。
 ミニスカートを摘んで揺すって砂を払い落としながら、不満げに足を踏み鳴らして、アサキの元へと近寄っていく。
 先に降り終えた治奈とヴァイスは、もう既にアサキの目の前である。

「招かれた……のですか?」

 ヴァイスが、目の前のアサキを見下ろしながら問う。

 ぺたん、とおままごと座りで、ぜいはあ息を切らせていたアサキであるが、多少回復したこともあって、よろよろふらつきながらも立ち上がった。

「おそ……らくは……」

 立ち上がったアサキは、今度は反対にヴァイスを見下ろしながら小さく頷いた。

「まだ時ではないし迂闊には会えないかな、と思って、逃げちゃったんだけど」

 立ち上がったけれど、まだぜいはあ息を切らせている。
 腰を落として膝に手を付いた。

「驚きました」

 いつも、たおやかではあるが無表情に近いヴァイスは、表情を作ってもどこか嘘くさい。それが、いまは本当に言葉通りびっくりした顔になっていた。
 あくまでも普段と比べればという程度ではあるが、その普段が普段なので格段だ。

「招きを振り払い、しかも自力で戻ってくるだなんて。その魔力の無尽蔵に、あらためてびっくりしました。さすが、救世主になるべく選ばれ転造されただけあります」
「そういわれても、まったく嬉しくないけどね」

 ようやく腰を上げたアサキは、まだ荒く息をしながら苦笑いをした。

「油断する子は死にたい子!」

 叫び声が聞こえると同時に、無数の小さな槍状の光弾がアサキの背後から刺さり突き抜けていた。
 胸から、腹から、ぶつりぶつり、ぶつりぶつりぶつり、細い光の槍が飛び出していた。
 背後から、胸や腹だけでなく、首からも、腕、足からも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

元おっさんの幼馴染育成計画

みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。 だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。 ※この作品は小説家になろうにも掲載しています。 ※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...