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第三十三章 惑星の意思
07 ひたすら、上を目指して。魔力の手を伸ばして、至垂の
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ひたすら、上を目指して。
魔力の手を伸ばして、至垂の巨体を掴んで。そんな余裕、本当はないのだけど。
とにかく必死に、浮上し続けた。
なんだったんだ。
わたしは、なにを感じた?
意思が接触を図ってきたこと。それに、恐怖した?
精神に触れられて、舐められて、そのことによる嫌悪?
分からない。
気が付くと地上にいた。
ぺたん、とおままごと座りで、両手を後ろに突いて、ちょっと涙目になって、ぜいはあと激しく呼吸をしていた。
正確には、呼吸ではない。
ここは真空であり、吸うべき酸素など存在しないからだ。
体力や精神力、消耗したものを回復させる際に、以前からの動作行動が習慣として出てしまっているだけである。
逃げてきた、惑星の中心部。そこは、そこにいるだけでも様々なものを消耗する空間であったのか。アサキが魔力の手で掴んで引っ張ってきた至垂徳柳の巨体も、やはり息が荒い。激しく、消耗しているようである。ぜいはあ、息も絶え絶えだ。
だが、呼吸の様子だけを見ると弱り方がはなはだしいが、肉体の損傷はほとんど回復しているようだ。
自身の超魔法をアサキに跳ね返されまともに受けて、見るからに酷いダメージを受けていたはずなのに。
惑星の地下にいた間、驚きや畏怖、他に思うところもあっただろうに、そんな中もひたすら非詠唱で自己治癒し続けていたのだろう。
先ほどアサキが舌を巻いていた通り、タフで抜け目のない至垂である。
「いまのは……いったい」
至垂が、ゆっくりと立ち上がった。
正確には、至垂の上半身と繋がった巨蜘蛛が、六本の太い足でゆっくりと立ち上がった。
アサキはまだ、おままごと座りのまま息を切らせている。
すぐ目の前で至垂が身を起こしたのは分かったが、あまりの疲労に身体が動かなかった。
惑星の中心へと引き込もうとする膨大な力から、逃げてきたのだ。しかも、至垂の巨体までも引っ張って。
魔力はともかく、体力が尽きてしまっていた。
でも、息を切らせながらも、心は冷静に状況を考えていた。
違和感に顔を曇らせていた。
ここは、わたしたちが落ちてしまった時と同じ場所だ。
爆発で大きな穴が空いて、そこにわたしと至垂所長は飲み込まれた。
そう思っていたけど、大穴なんてどこにもない。
爆発して、地面が吹き飛んですり鉢状になっているだけだ。
アクシデントで薄いところから落ちてしまったというより、やはり惑星の意思に呼ばれて引っ張られたということなのだろうか。
「アサキ!」
いきなり聞こえたカズミの大声に、アサキは息を切らせながら顔を上げる。
すり鉢斜面の上に、カズミと治奈、そしてヴァイスの顔が見える。
親友の二人は、一体なにが起きたのか気が気ではない不安顔だ。
「アサキ!」
カズミはまた大声を張り上げて、すり鉢を転がり落ちる勢いで降り始めた。
いや実際、柔らかくなっているところに足を取られて、転がっては起き上がりながらで、焦らずゆっくり身体を運んだ治奈とヴァイスの方が降り終えるのが早かった。
「なんでだよ!」
必死さまるで報われず、ようやく降り終えたカズミの怒鳴り声。
ミニスカートを摘んで揺すって砂を払い落としながら、不満げに足を踏み鳴らして、アサキの元へと近寄っていく。
先に降り終えた治奈とヴァイスは、もう既にアサキの目の前である。
「招かれた……のですか?」
ヴァイスが、目の前のアサキを見下ろしながら問う。
ぺたん、とおままごと座りで、ぜいはあ息を切らせていたアサキであるが、多少回復したこともあって、よろよろふらつきながらも立ち上がった。
「おそ……らくは……」
立ち上がったアサキは、今度は反対にヴァイスを見下ろしながら小さく頷いた。
「まだ時ではないし迂闊には会えないかな、と思って、逃げちゃったんだけど」
立ち上がったけれど、まだぜいはあ息を切らせている。
腰を落として膝に手を付いた。
「驚きました」
いつも、たおやかではあるが無表情に近いヴァイスは、表情を作ってもどこか嘘くさい。それが、いまは本当に言葉通りびっくりした顔になっていた。
あくまでも普段と比べればという程度ではあるが、その普段が普段なので格段だ。
「招きを振り払い、しかも自力で戻ってくるだなんて。その魔力の無尽蔵に、あらためてびっくりしました。さすが、救世主になるべく選ばれ転造されただけあります」
「そういわれても、まったく嬉しくないけどね」
ようやく腰を上げたアサキは、まだ荒く息をしながら苦笑いをした。
「油断する子は死にたい子!」
叫び声が聞こえると同時に、無数の小さな槍状の光弾がアサキの背後から刺さり突き抜けていた。
胸から、腹から、ぶつりぶつり、ぶつりぶつりぶつり、細い光の槍が飛び出していた。
背後から、胸や腹だけでなく、首からも、腕、足からも。
魔力の手を伸ばして、至垂の巨体を掴んで。そんな余裕、本当はないのだけど。
とにかく必死に、浮上し続けた。
なんだったんだ。
わたしは、なにを感じた?
意思が接触を図ってきたこと。それに、恐怖した?
精神に触れられて、舐められて、そのことによる嫌悪?
分からない。
気が付くと地上にいた。
ぺたん、とおままごと座りで、両手を後ろに突いて、ちょっと涙目になって、ぜいはあと激しく呼吸をしていた。
正確には、呼吸ではない。
ここは真空であり、吸うべき酸素など存在しないからだ。
体力や精神力、消耗したものを回復させる際に、以前からの動作行動が習慣として出てしまっているだけである。
逃げてきた、惑星の中心部。そこは、そこにいるだけでも様々なものを消耗する空間であったのか。アサキが魔力の手で掴んで引っ張ってきた至垂徳柳の巨体も、やはり息が荒い。激しく、消耗しているようである。ぜいはあ、息も絶え絶えだ。
だが、呼吸の様子だけを見ると弱り方がはなはだしいが、肉体の損傷はほとんど回復しているようだ。
自身の超魔法をアサキに跳ね返されまともに受けて、見るからに酷いダメージを受けていたはずなのに。
惑星の地下にいた間、驚きや畏怖、他に思うところもあっただろうに、そんな中もひたすら非詠唱で自己治癒し続けていたのだろう。
先ほどアサキが舌を巻いていた通り、タフで抜け目のない至垂である。
「いまのは……いったい」
至垂が、ゆっくりと立ち上がった。
正確には、至垂の上半身と繋がった巨蜘蛛が、六本の太い足でゆっくりと立ち上がった。
アサキはまだ、おままごと座りのまま息を切らせている。
すぐ目の前で至垂が身を起こしたのは分かったが、あまりの疲労に身体が動かなかった。
惑星の中心へと引き込もうとする膨大な力から、逃げてきたのだ。しかも、至垂の巨体までも引っ張って。
魔力はともかく、体力が尽きてしまっていた。
でも、息を切らせながらも、心は冷静に状況を考えていた。
違和感に顔を曇らせていた。
ここは、わたしたちが落ちてしまった時と同じ場所だ。
爆発で大きな穴が空いて、そこにわたしと至垂所長は飲み込まれた。
そう思っていたけど、大穴なんてどこにもない。
爆発して、地面が吹き飛んですり鉢状になっているだけだ。
アクシデントで薄いところから落ちてしまったというより、やはり惑星の意思に呼ばれて引っ張られたということなのだろうか。
「アサキ!」
いきなり聞こえたカズミの大声に、アサキは息を切らせながら顔を上げる。
すり鉢斜面の上に、カズミと治奈、そしてヴァイスの顔が見える。
親友の二人は、一体なにが起きたのか気が気ではない不安顔だ。
「アサキ!」
カズミはまた大声を張り上げて、すり鉢を転がり落ちる勢いで降り始めた。
いや実際、柔らかくなっているところに足を取られて、転がっては起き上がりながらで、焦らずゆっくり身体を運んだ治奈とヴァイスの方が降り終えるのが早かった。
「なんでだよ!」
必死さまるで報われず、ようやく降り終えたカズミの怒鳴り声。
ミニスカートを摘んで揺すって砂を払い落としながら、不満げに足を踏み鳴らして、アサキの元へと近寄っていく。
先に降り終えた治奈とヴァイスは、もう既にアサキの目の前である。
「招かれた……のですか?」
ヴァイスが、目の前のアサキを見下ろしながら問う。
ぺたん、とおままごと座りで、ぜいはあ息を切らせていたアサキであるが、多少回復したこともあって、よろよろふらつきながらも立ち上がった。
「おそ……らくは……」
立ち上がったアサキは、今度は反対にヴァイスを見下ろしながら小さく頷いた。
「まだ時ではないし迂闊には会えないかな、と思って、逃げちゃったんだけど」
立ち上がったけれど、まだぜいはあ息を切らせている。
腰を落として膝に手を付いた。
「驚きました」
いつも、たおやかではあるが無表情に近いヴァイスは、表情を作ってもどこか嘘くさい。それが、いまは本当に言葉通りびっくりした顔になっていた。
あくまでも普段と比べればという程度ではあるが、その普段が普段なので格段だ。
「招きを振り払い、しかも自力で戻ってくるだなんて。その魔力の無尽蔵に、あらためてびっくりしました。さすが、救世主になるべく選ばれ転造されただけあります」
「そういわれても、まったく嬉しくないけどね」
ようやく腰を上げたアサキは、まだ荒く息をしながら苦笑いをした。
「油断する子は死にたい子!」
叫び声が聞こえると同時に、無数の小さな槍状の光弾がアサキの背後から刺さり突き抜けていた。
胸から、腹から、ぶつりぶつり、ぶつりぶつりぶつり、細い光の槍が飛び出していた。
背後から、胸や腹だけでなく、首からも、腕、足からも。
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