魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

文字の大きさ
上 下
310 / 395
第二十七章 白と黒

06 「ここにいましたか」ふんわり、ウェーブの掛かったブ

しおりを挟む

「ここにいましたか」

 ふんわり、ウェーブの掛かったブロンド髪。
 同じくふんわりした、あまりにふんわり過ぎてズボンかスカートかも分からない純白の服。
 まだ小学生といっても不思議のない、小柄な、あどけない顔の、でも妙に落ち着いた雰囲気の、少女。
 その口から発せられた、言葉であった。

 ここにいましたか、とは誰に向けたものだろうか。

 アサキは、彼女の目を見る。
 視線から探ろうとしたのだが、まったく分からなかった。

 彼女、ブロンド髪の少女の顔は、ここにいる全員へと、なんとなく向けられてはいるものの、誰に対しても、はっきりとした視線が向けられていないのだ。

 だが、
 知っていたのだろうか。
 だれとくゆうは。
 この事態を。
 この出会いを。
 分かっていたということなのだろうか。

「待っていた!」

 ぞぞっ、ぞわっ
 嬉しそうに顔を歪めたと同時に、土台たる巨蜘蛛の身体が動き出していたのである。
 真っ直ぐと、ブロンド髪の少女へと。
 そして、先端の尖った巨大な前足を、斜め上から叩き落としたのである。

 確実に身を引き裂かれていたはずである。
 もしもブロンド髪の少女が、そこに留まっていたならば。
 つまり攻撃は当たらなかったわけであるが、では少女はどこに? 至垂のすぐ後ろであった。
 すぐ後ろに、なんの構えもせずただ立っていた。
 先ほどと同様に素手のまま、警戒した様子は微塵もなく。

 一体、いつ移動をしたのだろうか。
 それとも身体が透けて、巨蜘蛛の突進が通り抜けたのだろうか。

 なにを思ったのかそれとも脊髄反射か、至垂が次に取る行動は早かった。

「けえええええ!」

 驚きも焦りもなく、ただ、より愉悦に顔を歪めて、長剣を振り下ろしたのである。
 蜘蛛の巨体はそのまま、背から生える上半身だけを振り向かせて、振り向きざま少女の胸へと。

 空気を切り裂くかの一撃であったが、当たらなければなにもない。
 少女は、ほんの僅か、自らの身を引いて、切っ先をかわしていた。
 紙一重で鼻先をかすめるが、少女の顔には怯えも怒りも焦りもなにも浮かんでおらず、おだやかな涼しい表情のままである。

 ぞぞっ
 巨蜘蛛の六本足が、前へ詰めようと動き出す。
 だが、前へと進み出すよりも先に、

 少女の方が、自ら間隔を詰めていた。
 至垂へと、密着していた。

「なあーーーー」

 至垂の顔に、今度こそ驚きと焦りが浮かんでいた。
 奇妙な声を発しているその顔が、下から照らされて陰影がくっきり浮かび上がっていた。

 下から照らす、その光源とは、少女の手であった。
 巨蜘蛛へ触れようと伸ばす、幼く小さな右手が、白く輝いていたのである。

 輝く手のひらが、巨蜘蛛の胴体に、そっと触れた。

 その瞬間、竜巻に飲み込まれたかのように、回りながら高く舞い上がっていた。巨蜘蛛の巨体が、背から生える白銀の魔法使いごと。
 それは二十メートルほどの高さで、ぴたりと、止まった。
 ほんの、一瞬だけ。すぐ重力に引かれ、胴体逆さまのままで落ち始めた。
 地へと激突、爆発、ぐらぐら地面が揺れ、周囲が噴き上がった。
 凄まじい重量の激突に地面の舗装素材が砕け、石つぶてや砂と化して吹き飛んだのである。

 もうもうとした煙が晴れると、舗装路が砕け大きく陥没している中、巨大な六本足蜘蛛が埋もれている。
 腹を上にして、ぴくりとも動かず。

 衝撃にここまで地形の変わるほどの、巨大物が落ちたのだ。
 しかも背中から落ちたとなれば、その背中から生えている至垂徳柳の上半身は、おそらく無事では済まないのではないか。

 その、半ば埋没した巨蜘蛛の前に、少女は立つ。
 ふんわりしたブロンド髪の、ふんわりした白い服を着た、幼くやわらかな顔をした少女。
 目の前に展開される凄惨な光景は自分のやったこと、という自覚が、あるのか、ないのか。前髪に隠れていることもあって、どこを見ているのか視線がよく分からない。
 ただ、なにかを思ったようではある。
 その口元に、わずか笑みが浮かんでいたからだ。邪気をまるで感じない、さわやかな笑みが。

 そして、消えていた。
 笑った? と、その口元にアサキが意識を取られたのは、ほんの一瞬であるというのに、いつの間にか少女の姿は消えていた。
 まるで、風に溶けたように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

処理中です...