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第二十五章 終わりの、終わり
02 飛び交う怒号、苛立ちの声。混乱し、慌てふためく声。
しおりを挟む飛び交う怒号、苛立ちの声。
混乱し、慌てふためく声。
朝空の遥か下である地上では、大勢の人々が右往左往し逃げ惑っている。
ここはリヒトの東京支部。
行き交う多数である白衣を着た男女は、ほぼ間違いなく全員がリヒトの研究員だろう。
スーツ姿の者も、おそらくほとんどはリヒト関係の者だろう。
魔道着姿の女子たちも大勢だ。
今回の至垂捕獲作戦に参加したメンシュヴェルトの魔法使いと、阻止の命を受けたリヒトの魔法使いと、両方であろう。
リヒト所長、至垂徳柳を、捕らえるべく、守るべく、双方それぞれの行動をしていたが、施設が爆発して粉々になるという予期せぬことが起きて、現状把握も目的も分からなくなってしまっているのだ。
と、このような騒ぎの中であるからして、九人の女子がボロボロの格好で棒立ちに立ち尽くしていても、特に目立つものでもなかった。
九人の女子、
メンシュヴェルト東葛エリア、我孫子市天王台の魔法使いが六人。
昭刃和美、明木治奈、文前久子、嘉嶋祥子、天野姉妹。
それと、メンシュヴェルト広作班の三人。
ほんの数分前までは、みな建物の中にいた。
そこにはアサキも至垂もいたが、突然の大爆発に巻き込まれて、気が付けばこの九人だけが、ここに立っていた。
理性の消し飛ぶその前に、とアサキが逃してくれたのだろうか。
それとも、ただの偶然なのだろうか。
九人とも怪我だらけ。酷い見てくれである。
特に広作班リーダーの仁礼寿春など、右腕がない。
全員、防具は粉々に砕け、まともに身を覆っておらず、魔道着も至るところ切り裂かれ、燃え、焦げ、溶け、半裸同然である。
なのに肌の露出を感じさせないのは、無事なところを探すのが難しいほどに傷だらけだからだ。全身が血にまみれているからだ。
疲労感も目立っている。
立ち姿、肩、顔の色、ずっしり重い。
もしまたリヒトの魔法使いとまた戦うことになったとしても、果たして立ち向かおうと思える元気すら、残っているかどうか。
それほどの疲労困憊感が彼女たちからは漂っていた。
立ち尽くす彼女たちの目の前は、変わらず騒々しい。
パニックに逃げ惑う、白衣の者たち。
狼狽え、上層への指示を求めている魔法使いたち。
カズミたち九人は、まだ建物の中での激戦や悲劇が肌に残っているのか、違和感、消失感、ぽかんとした表情で、ただ立ち尽くしている。
そんな中、いち早く我に返ったか、明木治奈が小さくため息を吐いた。
「よかったわ。フミが、ここにおらんで」
フミとは、明木史奈のこと。治奈の妹だ。
「そういや、フミちゃん助けにここへきたんだよな」
そう、カズミのいう通り彼女たちは、誘拐されたまだ小学生の明木史奈を救出するために、ここへやってきたのだ。
その史奈は、別働隊として潜入していた天野姉妹によって救出されている。
メンシュヴェルトとしては、至垂を捕らえて盟友であるリヒトを横暴独裁から解放するという目的があったため、そのまま史奈救出のメンバーを先陣として、作戦を展開。
上層直属チームである広作班を送り込み。
その他の戦力も、続々と送り込むべくここリヒト東京支部へと向かわせた。
だが、至垂への対応をめぐって、仲間割れとも呼べる戦闘に入ってしまう。史奈だけでなく、アサキの義父母までもが人質に取られおり、どうすべきか対立が起きたのだ。
アサキは仲間たちに懇願して無抵抗を貫き、片目を失い、全身を切り刻まれ、四肢ほとんどを切断されるという、生きているのが不思議なくらいの酷たらしい姿になってしまう。
自分の生命に変えても父母や、母から生まれてくる生命を守ろうとしたのだが、その先に待っていたのは、首を切り落とされた両親の姿。
ただアサキを絶望に追い込みたいだけの至垂が、約束など守るはずもなかったのである。
そして、アサキの絶望に満ちた魔力が暴発し、気が付けば、九人はここに立っていたというわけである。
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