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第二十章 万延子と文前久子
07 康永保江と、昌房泰瑠は、床に這いつくばっている。殴
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康永保江と、昌房泰瑠は、床に這いつくばっている。
殴られたところを押さえながら、痛み、驚きに呻いている。
呆然、苦痛、驚愕、ごちゃ混ぜになった、二人の表情である。
「バカな」
舌打ちし、手を着き素早く起き上がろうとする黒いスカートの魔法使い、康永保江であるが、そこへ、弾丸を超える速度で、床を滑りながら、万延子が飛び込んでいた。
康永保江の、ガードしようする腕と腕の間に、延子の足が潜り込み、突き抜ける。
腹へと、踵が深く、めり込んでいた。
「げふっ!」
激痛に顔を歪める康永保江の、顔がさらに歪む。
顎を、延子の足が蹴り上げたのである。
延子、今度は後頭部へと、容赦のない回し蹴りだ。
黒いショートパンツから伸びる細く長い足が、ぶんと唸って、頭部へ蹴り、さらに踵落としによる追撃を見舞うと、蹴った反動で、元いたところへと跳んで戻って、床に置いてあった自分の木刀を拾った。
握り、構える。
「舐あめんなああ!」
白髪頭の魔法使い昌房泰瑠が、屈辱による怒りか激しい形相で延子へと飛び掛かった。
怒りに任せた、大袈裟な動きで。
反対に、延子の動作は小さかった。
ぎりぎりまで引きつけると、最小限の動きでかわし、短く持っておいた木刀の先端で、腹を突いたのだ。
強い力ではなかったが、カウンター気味に決まって、
「えぐっ」
腰を落とし、腹を押さえ、嘔吐感を堪える白髪頭の魔法使い、の顔面に、木刀が打ち付けられる。
右から、左から。
「くそお!」
気を持ち直した康永保江が起き上がると、持ち直しながらも沸騰し、これまた怒気満面に、なにやら喚きながら飛び掛かった。
延子は、魔力に輝く手刀を振るい、持っている自分の木刀を真っ二つにへし折った。
短くなった一本で、康永保江を横殴り、床に叩き落とし、頭部を踏み付け、
ほとんど同時に、
左手に持ったもう一本を、昌房泰瑠の胴体へと打ちに掛かった。
そうはさせぬと、白髪頭の魔法使いは、細剣を斜めに構え防御姿勢を取るが、その防御の上を遥かに通り越して、延子の長い足がぐんと伸びる。
ガツ、
と骨を打つ音。
木刀の攻撃をおとりにし、顎へのハイキックが決まったのである。
なにやら喚きながら、たたっとよろけ堪える昌房泰瑠の腹へと、延子は、今度こそ木刀の突きを浴びせると、すっと身を低くしながら、足払いで転ばせた。
後方へと跳躍して距離を取った延子は、ここで一息。まるで中国の京劇といった動作で、身を低く、片足を大きく前へ伸ばし、短い二本の木刀を構えた。
「強え……」
唖然とした顔で、戦いの様子を見ているカズミ。
ごくり、唾を飲み込んだ。
その隣にいる文前久子が、唖然より愕然とした表情で、震える唇を動かした。
「わたしとリーダーは幼馴染で、子供の頃はお互いの親の、仕事の関係で中国にいたんだけど、あれは、そこで習った拳法の、呼吸法なんだ。いわゆる爆発呼吸。絶対に戦いでは使うな、と師にいわれていたのだけど……」
唇だけでなく、声も、瞳も、震えていた。
いまにも泣き出しそうな、久子の表情であった。
「呼吸で勝てりゃあ世話ねえんだ!」
彼女らの会話を聞いていたようで、黒スカートの魔法使い康永保江がまなじり釣り上げ、剣を振り上げながら延子へと向かい床を蹴った。
延子は、冷静だった。
挟撃を食らわぬよう、自分から黒スカートへと迫ると、短い木刀を目にもとまらぬ速さで右、左、と浴びせる。
浴びせた瞬間には、背中側へと回り込んでおり、回りながらの後ろ蹴りで、白髪頭の魔法使い、昌房泰瑠の身体とぶつけ合わせたのである。
重たい衝撃にふらついている二人の身体へと、延子は、さらに木刀による連打を浴びせていく。
「木の刀なんて、そんなオモチャが効くかよ!」
強がり強気に笑む黒スカートの、康永保江の身体が、ぐらついていた。ととっと足を伸ばすが支えきれず、転び、床へと受け身も取らず無様に倒れた。
「バカな……なんだよこれ、力が、入らねえ……」
ぶるぶると身体を震わせて、なんとか踏ん張り起き上がろうとする。
信じられない。といった表情で。
「木だから、繊維に気を流しやすい。リーダーにとっては、木刀こそ最高の武器なんだ。令ちゃんみたいな非詠唱能力はないけど、リーダー、素早く呪文を唱えられるから、瞬時にエンチャントが出来る」
文前久子が、カズミを治療しながら、泣きそうな顔を正面、戦いの場へと向けている。
「そうなのか。しかしあいつ、いつもふざけているくせに、こんなに強かったのかよ」
というカズミの言葉終わり際と、久子の悲痛な声が重なった。
「だからそれは違うんだよっ。このままじゃ危険なんだ。リーダー、もうやめてえ!」
声を裏返らせ、叫ぶ久子であるが、
身構える延子の、放ち纏う金色のオーラには、いささかの変化も生じることはなかった。
ただ前を睨む、眼光の強さにも、微塵の変化もなかった。
ただ、一ついうならば。
延子の唇には、微笑が浮かんでいた。
必勝の決意であったのか。
心配する幼馴染への感謝であったのか。
「ブッ殺す!」
ふらつきながらも立ち上がった黒スカート、康永保江は、再び剣を握り、振り上げる。
延子の脳天を潰さんとばかり、叩き付けようとする。
それはただ、木刀で弾き上げられるだけだった。
ただ、大きな隙を作るのみだった。
延子は、木刀を手放しながら、空いた手のひらで、
「はいっ!」
発勁、康永保江の胸を打ったのである。
べきぼき、とあばらの何本目と何本目だかが折れる音。
打たれた身体は、マネキン人形を投げでもしたかの如く、軽々と後方へ飛ばされていた。
仲間(?)がやられている様を見ながら呆然と立ち尽くしている白髪頭の魔法使い昌房泰瑠へと、延子は、身を低くしながらすっと近寄る。
密着し、左右の手を腰に当てた。
ふっ、
延子が軽く息を吐くと、白髪頭の魔法使いの身体が、膝が、崩れた。倒れそうに、ぐらりぐらついた。
呼吸で気脈を整え、生じた爆発力を、手のひらから一気に放出したものである。
白髪の魔法使いは、驚愕の色を顔に浮かべながら、必死に、倒れまいと、踏ん張っている。
ふらふらだ。
意識はしっかりあるのに、身体のコントロールが出来ないのである。
落ちている木刀を拾った延子は、麻痺してなにも出来ずにいる白髪頭の魔法使い、昌房泰瑠の身体へと、縦に、横に、容赦なく、一撃、二撃、三撃、四撃。
このままでは殺される。という危機感や、生存本能のなせる技か、昌房泰瑠は、自分の歯を何本か、ぎゃりりがきりと噛み砕いて、呪縛を破った。
怒りや焦りであろうか、声にならない声を叫びながら、体当たりを仕掛けていた。
さすがリヒト特務隊のトップクラスといえる、気力と決断力ではあるが、それでなにがどうなるわけでもなく、
延子はその体当たりを楽々とかわし、
「貼山靠!」
かわしざま、背中を使っての体当たりをお返しして、弾き飛ばした。
と、そこへ、
「うあらあ!」
黒スカートの魔法使い康永保江が、雄叫び張り上げ剣を振り上げ、飛び込んでくる。
延子は、自分から踏み込んでタイミングをずらし、剣を持つ右腕の側面へと自分の腕を当てて攻撃を封じると、空いている左手で、再び、腹部へ発勁を打ち込んだ。
軽く手のひらを当てただけに見える、その動作のどこに、そこまでの破壊力が宿っているのか。
康永保江は、巨人に肉体を握り潰されでもしたかのような、低い悲鳴を上げると、前のめりに転びそうになった。
転び掛け、堪えようとする前に出すその足を、パシリ、延子の蹴りが払い、すくっていた。
すくわれ、軽く空中に跳ね上がった康永保江の身体を、延子はさらに蹴り上げる。
蹴り上げ高く舞い上がらせると、自分の胸のすぐ前にある黒タイツに包まれた足を、両手で掴んでいた。
掴み、そして、振り回す。
黒スカートの魔法使い、康永保江の身体を、ぶんぶん、ぶん、と、力強く、豪快に。
斜めに振って回して、ゴツリバキリ、床へと何度も頭を身体を叩き付け、
さらには、まだふらふらしている白髪頭の魔法使いへと、頭同士を叩き合わせ。
ごつんがつん、
ガチリベキリ、
凄まじい音が響く。
いつ頭蓋骨が砕けて脳漿飛び散るかも分からない、豪快かつ冷淡な攻撃である。
ヨローなどと冗談ばかりいっている普段の延子からは、とても信じられない鬼神のような姿が、そこにはあった。
二人は身をよじって、なんとか、命からがら延子から逃れた。
逃れたといっても、それはただ生存本能がなす無意識の反応であったのか。二人ともまだ、意識朦朧とふらついている。
だけど延子は、容赦ない。
追撃の手を緩めない。
二本の木刀を拾いながら、二人へと猛接近すると、
「化皆もっ、享子も、チャラすぎるけど、でも優しくて素敵な子だった!」
左右の手に握った短い木刀の鋭い振りが、それぞれ見事、二人の首へと入っていた。
いぎっ、
悲鳴を上げ、ふらり崩れそうになる二人であるが、
まだ、延子は追撃の手を緩めない。
「ちょっと落ち込んだ気持ちになった時に癒やしてくれる、最高の仲間だった!」
康永保江の鼻っ柱へと踏み込みながら肘鉄、
返す刀よろしく昌房泰瑠の脇腹へと回し蹴りを叩き込んだ。
まだ、延子は、追撃の手を緩めない。
「恥ずかしくない人生を、駆け抜けた!」
背へ突き抜けておかしくない、重たい一突きを、康永保江の腹へ、
左手の木刀を、昌房泰瑠の脇腹へ。ぐっと呻く、その顔面鼻っ柱を、ハイキックでぶち抜いた。
「引き換え、なんだきみたちは。……常識破りに強いけれども、そんなものがなんの自慢になるかあ!」
木刀中段に構えて延子、黒スカートの魔法使い康永保江へと床を蹴って距離を詰めた。
恐怖、であろうか。
康永保江は目を見開き、ひいっと情けない悲鳴を上げた。
だが、
緩まぬ追撃は、ここまでだった。
延子の動きが、足が、止まっていたのである。
康永保江へと怒りを叩き付けるはずであった木刀を、中段に構えたまま、ぶるぶると、身体を震わせている。
瞳、前への意思は感じるものの、ただ身体が進まない。
動かない。
意思のままに、動こうと、動かそうと、激しく震える、延子の身体。
不意に、頬が膨らんで、破裂した風船といった勢いで、口から大量の血を吐いた。
殴られたところを押さえながら、痛み、驚きに呻いている。
呆然、苦痛、驚愕、ごちゃ混ぜになった、二人の表情である。
「バカな」
舌打ちし、手を着き素早く起き上がろうとする黒いスカートの魔法使い、康永保江であるが、そこへ、弾丸を超える速度で、床を滑りながら、万延子が飛び込んでいた。
康永保江の、ガードしようする腕と腕の間に、延子の足が潜り込み、突き抜ける。
腹へと、踵が深く、めり込んでいた。
「げふっ!」
激痛に顔を歪める康永保江の、顔がさらに歪む。
顎を、延子の足が蹴り上げたのである。
延子、今度は後頭部へと、容赦のない回し蹴りだ。
黒いショートパンツから伸びる細く長い足が、ぶんと唸って、頭部へ蹴り、さらに踵落としによる追撃を見舞うと、蹴った反動で、元いたところへと跳んで戻って、床に置いてあった自分の木刀を拾った。
握り、構える。
「舐あめんなああ!」
白髪頭の魔法使い昌房泰瑠が、屈辱による怒りか激しい形相で延子へと飛び掛かった。
怒りに任せた、大袈裟な動きで。
反対に、延子の動作は小さかった。
ぎりぎりまで引きつけると、最小限の動きでかわし、短く持っておいた木刀の先端で、腹を突いたのだ。
強い力ではなかったが、カウンター気味に決まって、
「えぐっ」
腰を落とし、腹を押さえ、嘔吐感を堪える白髪頭の魔法使い、の顔面に、木刀が打ち付けられる。
右から、左から。
「くそお!」
気を持ち直した康永保江が起き上がると、持ち直しながらも沸騰し、これまた怒気満面に、なにやら喚きながら飛び掛かった。
延子は、魔力に輝く手刀を振るい、持っている自分の木刀を真っ二つにへし折った。
短くなった一本で、康永保江を横殴り、床に叩き落とし、頭部を踏み付け、
ほとんど同時に、
左手に持ったもう一本を、昌房泰瑠の胴体へと打ちに掛かった。
そうはさせぬと、白髪頭の魔法使いは、細剣を斜めに構え防御姿勢を取るが、その防御の上を遥かに通り越して、延子の長い足がぐんと伸びる。
ガツ、
と骨を打つ音。
木刀の攻撃をおとりにし、顎へのハイキックが決まったのである。
なにやら喚きながら、たたっとよろけ堪える昌房泰瑠の腹へと、延子は、今度こそ木刀の突きを浴びせると、すっと身を低くしながら、足払いで転ばせた。
後方へと跳躍して距離を取った延子は、ここで一息。まるで中国の京劇といった動作で、身を低く、片足を大きく前へ伸ばし、短い二本の木刀を構えた。
「強え……」
唖然とした顔で、戦いの様子を見ているカズミ。
ごくり、唾を飲み込んだ。
その隣にいる文前久子が、唖然より愕然とした表情で、震える唇を動かした。
「わたしとリーダーは幼馴染で、子供の頃はお互いの親の、仕事の関係で中国にいたんだけど、あれは、そこで習った拳法の、呼吸法なんだ。いわゆる爆発呼吸。絶対に戦いでは使うな、と師にいわれていたのだけど……」
唇だけでなく、声も、瞳も、震えていた。
いまにも泣き出しそうな、久子の表情であった。
「呼吸で勝てりゃあ世話ねえんだ!」
彼女らの会話を聞いていたようで、黒スカートの魔法使い康永保江がまなじり釣り上げ、剣を振り上げながら延子へと向かい床を蹴った。
延子は、冷静だった。
挟撃を食らわぬよう、自分から黒スカートへと迫ると、短い木刀を目にもとまらぬ速さで右、左、と浴びせる。
浴びせた瞬間には、背中側へと回り込んでおり、回りながらの後ろ蹴りで、白髪頭の魔法使い、昌房泰瑠の身体とぶつけ合わせたのである。
重たい衝撃にふらついている二人の身体へと、延子は、さらに木刀による連打を浴びせていく。
「木の刀なんて、そんなオモチャが効くかよ!」
強がり強気に笑む黒スカートの、康永保江の身体が、ぐらついていた。ととっと足を伸ばすが支えきれず、転び、床へと受け身も取らず無様に倒れた。
「バカな……なんだよこれ、力が、入らねえ……」
ぶるぶると身体を震わせて、なんとか踏ん張り起き上がろうとする。
信じられない。といった表情で。
「木だから、繊維に気を流しやすい。リーダーにとっては、木刀こそ最高の武器なんだ。令ちゃんみたいな非詠唱能力はないけど、リーダー、素早く呪文を唱えられるから、瞬時にエンチャントが出来る」
文前久子が、カズミを治療しながら、泣きそうな顔を正面、戦いの場へと向けている。
「そうなのか。しかしあいつ、いつもふざけているくせに、こんなに強かったのかよ」
というカズミの言葉終わり際と、久子の悲痛な声が重なった。
「だからそれは違うんだよっ。このままじゃ危険なんだ。リーダー、もうやめてえ!」
声を裏返らせ、叫ぶ久子であるが、
身構える延子の、放ち纏う金色のオーラには、いささかの変化も生じることはなかった。
ただ前を睨む、眼光の強さにも、微塵の変化もなかった。
ただ、一ついうならば。
延子の唇には、微笑が浮かんでいた。
必勝の決意であったのか。
心配する幼馴染への感謝であったのか。
「ブッ殺す!」
ふらつきながらも立ち上がった黒スカート、康永保江は、再び剣を握り、振り上げる。
延子の脳天を潰さんとばかり、叩き付けようとする。
それはただ、木刀で弾き上げられるだけだった。
ただ、大きな隙を作るのみだった。
延子は、木刀を手放しながら、空いた手のひらで、
「はいっ!」
発勁、康永保江の胸を打ったのである。
べきぼき、とあばらの何本目と何本目だかが折れる音。
打たれた身体は、マネキン人形を投げでもしたかの如く、軽々と後方へ飛ばされていた。
仲間(?)がやられている様を見ながら呆然と立ち尽くしている白髪頭の魔法使い昌房泰瑠へと、延子は、身を低くしながらすっと近寄る。
密着し、左右の手を腰に当てた。
ふっ、
延子が軽く息を吐くと、白髪頭の魔法使いの身体が、膝が、崩れた。倒れそうに、ぐらりぐらついた。
呼吸で気脈を整え、生じた爆発力を、手のひらから一気に放出したものである。
白髪の魔法使いは、驚愕の色を顔に浮かべながら、必死に、倒れまいと、踏ん張っている。
ふらふらだ。
意識はしっかりあるのに、身体のコントロールが出来ないのである。
落ちている木刀を拾った延子は、麻痺してなにも出来ずにいる白髪頭の魔法使い、昌房泰瑠の身体へと、縦に、横に、容赦なく、一撃、二撃、三撃、四撃。
このままでは殺される。という危機感や、生存本能のなせる技か、昌房泰瑠は、自分の歯を何本か、ぎゃりりがきりと噛み砕いて、呪縛を破った。
怒りや焦りであろうか、声にならない声を叫びながら、体当たりを仕掛けていた。
さすがリヒト特務隊のトップクラスといえる、気力と決断力ではあるが、それでなにがどうなるわけでもなく、
延子はその体当たりを楽々とかわし、
「貼山靠!」
かわしざま、背中を使っての体当たりをお返しして、弾き飛ばした。
と、そこへ、
「うあらあ!」
黒スカートの魔法使い康永保江が、雄叫び張り上げ剣を振り上げ、飛び込んでくる。
延子は、自分から踏み込んでタイミングをずらし、剣を持つ右腕の側面へと自分の腕を当てて攻撃を封じると、空いている左手で、再び、腹部へ発勁を打ち込んだ。
軽く手のひらを当てただけに見える、その動作のどこに、そこまでの破壊力が宿っているのか。
康永保江は、巨人に肉体を握り潰されでもしたかのような、低い悲鳴を上げると、前のめりに転びそうになった。
転び掛け、堪えようとする前に出すその足を、パシリ、延子の蹴りが払い、すくっていた。
すくわれ、軽く空中に跳ね上がった康永保江の身体を、延子はさらに蹴り上げる。
蹴り上げ高く舞い上がらせると、自分の胸のすぐ前にある黒タイツに包まれた足を、両手で掴んでいた。
掴み、そして、振り回す。
黒スカートの魔法使い、康永保江の身体を、ぶんぶん、ぶん、と、力強く、豪快に。
斜めに振って回して、ゴツリバキリ、床へと何度も頭を身体を叩き付け、
さらには、まだふらふらしている白髪頭の魔法使いへと、頭同士を叩き合わせ。
ごつんがつん、
ガチリベキリ、
凄まじい音が響く。
いつ頭蓋骨が砕けて脳漿飛び散るかも分からない、豪快かつ冷淡な攻撃である。
ヨローなどと冗談ばかりいっている普段の延子からは、とても信じられない鬼神のような姿が、そこにはあった。
二人は身をよじって、なんとか、命からがら延子から逃れた。
逃れたといっても、それはただ生存本能がなす無意識の反応であったのか。二人ともまだ、意識朦朧とふらついている。
だけど延子は、容赦ない。
追撃の手を緩めない。
二本の木刀を拾いながら、二人へと猛接近すると、
「化皆もっ、享子も、チャラすぎるけど、でも優しくて素敵な子だった!」
左右の手に握った短い木刀の鋭い振りが、それぞれ見事、二人の首へと入っていた。
いぎっ、
悲鳴を上げ、ふらり崩れそうになる二人であるが、
まだ、延子は追撃の手を緩めない。
「ちょっと落ち込んだ気持ちになった時に癒やしてくれる、最高の仲間だった!」
康永保江の鼻っ柱へと踏み込みながら肘鉄、
返す刀よろしく昌房泰瑠の脇腹へと回し蹴りを叩き込んだ。
まだ、延子は、追撃の手を緩めない。
「恥ずかしくない人生を、駆け抜けた!」
背へ突き抜けておかしくない、重たい一突きを、康永保江の腹へ、
左手の木刀を、昌房泰瑠の脇腹へ。ぐっと呻く、その顔面鼻っ柱を、ハイキックでぶち抜いた。
「引き換え、なんだきみたちは。……常識破りに強いけれども、そんなものがなんの自慢になるかあ!」
木刀中段に構えて延子、黒スカートの魔法使い康永保江へと床を蹴って距離を詰めた。
恐怖、であろうか。
康永保江は目を見開き、ひいっと情けない悲鳴を上げた。
だが、
緩まぬ追撃は、ここまでだった。
延子の動きが、足が、止まっていたのである。
康永保江へと怒りを叩き付けるはずであった木刀を、中段に構えたまま、ぶるぶると、身体を震わせている。
瞳、前への意思は感じるものの、ただ身体が進まない。
動かない。
意思のままに、動こうと、動かそうと、激しく震える、延子の身体。
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