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第十九章 なんのために殺し合うのか
06 ぶん 穂先が鋭く風を切り裂いた。アサキの顔面へと突
しおりを挟むぶん
穂先が鋭く風を切り裂いた。
アサキの顔面へと突き刺さり、突き抜けていた。
いや、貫かれたのは残像。
間一髪、顔を傾けてかわしていたのだ。
本能がほんの少し鈍かったら、経験がほんの僅か足りなかったら、どちらであってもアサキの生命はここに終わっていただろう。
白スカートの魔法使い、斉藤衡々菜が、槍状に伸ばした三節棍で突きを放ち、それをアサキがかわしたものであるが、
アサキにとって幸運なことに、あまりに速く力強い突きであったことで、穂先の先端が、壁に突き刺さった。
生じた一瞬を逃さず、
「いやあっ!」
気合の叫び。
赤毛の少女、アサキは、激しく飛び込みながら剣を振り上げた。
足元から斜め上へと、魂を込めた一撃が、空気を引き裂いた。
だが、空気を切り裂いただけだった。
刹那、予期せぬ方向から唸りを上げ、なにかが襲ってきたため、攻撃の遠心力で剣をそのまま自分へと引き戻し、防御をするしかなかったのである。
飛んできたのは、三節棍の反対端だ。
白スカートの魔法使い、斉藤衡々菜が、突き刺さった穂先を抜くことよりも、一本棒の状態を解除して、自由になった反対端の棍を使って攻撃することを選んだのである。
後ろへ跳んで、距離を取るアサキであるが、退いた分だけ詰め寄られていた。
先端を引き抜いた斉藤衡々菜が、三節棍を振り、蛇とくねり踊らせながら、アサキの頭部を横殴りに打つ。
耳元の唸りに、アサキは瞬時に反応し、頭を下げてかろうじて攻撃をかわした。
だがその瞬間、下げた顔面の、鼻っ柱に膝蹴りを受けていた。
すべてが想定内。といった余裕からの、破壊力満点カウンターを受け、アサキの意識は飛び掛ける。
なんとか強く意識を保ち、踏みとどまり、鼻を押さえながら顔を上げ、目の前に立つ白スカートの魔法使いを睨んだ。
と、背中に硬く冷たい感触。
壁に追い詰められていた。
そこへ、待ってましたといわんばかり、正面から空気を切り裂く槍の、突き、突き、突きが襲う。
アサキは立ったまま、壁にくっついたまま、身体をごろごろ回して、なんとか攻撃をかわす。
一突きごとに、超硬質の壁に、小さな穴が穿たれる。
もしも一回でも避け損なっていたら、その時点で勝負はついていただろう。
そんな中、チャンスが生まれた。
なかなか決まらぬことに少し焦ったか、イラだったか、斉藤衡々菜の突きが強過ぎて、また、穂先の先端が壁に深く突き刺さったのである。
自分の耳元なので見たわけではないが、音で確信したアサキは、機会逃さず、反撃の剣を振るった。
だが、それもまた想定内、というよりも、釣りであったのかも知れない。
その反撃の刃は、見るも簡単に打ち上げられていたのである。
手にびりっと電撃が走った。
ぐ、と呻いた瞬間、無防備にされた胴体へと、白タイツの長い足、後ろ回し蹴りの踵が炸裂した。
「がふ」
アサキの身体は、ひとたまりもなく飛ばされて、壁に背中を強打した。
ぐぅ、と呻いた瞬間、さらに衝撃と激痛。
強打に意識が揺らいだ一瞬を狙われ、三節棍の横殴りを、まともに受けてしまったのだ。
「うぐっ!」
赤い魔道着の、白銀の胸当てが、粉々になって床に落ちた。
間髪入れぬ攻撃が、またアサキを襲う。
斉藤衡々菜の振るう、三節棍。
かわし切れず、直撃を避けようとアサキが身をねじったため、攻撃は右肩の装甲に当たった。
砕け散った。
はあ
はあ
壁際に、まだ追い込まれたまま、アサキは、大きく肩を上下させている。
せめて気力では負けてたまるか、と睨み付けるが、
「楽しいいいねえええええ」
その態度は、むしろ斉藤衡々菜にとっては喜ばしいようである。
ずっと浮かべ続けている無邪気な笑みが、さらに少し強くなっていた。
その、強くなった笑みで、アサキへと飛び掛かった。
喜悦の表情で、三節混を振り回し、遠心力で真上からアサキの頭部へと振り下ろした。
「なにがおかしいいい!」
アサキは眉を釣り上げ、叫んだ。
千歩譲って戦いは仕方ないにせよ、相手の頭を叩き潰そうとするに、何故このように嬉しそうな笑みを浮かべていられるのか。
そう思ったら、無意識に激高してしまったのである。
そういう相手であること、それこそもう分かっているはずなのに。
でもやはり、アサキの根底には有ったのだ。
人間は分かり合える。
魔法使いは団結し、世界を守るために存在するものなのだ、と。
だからこその激高、怒りに身を任せて、剣を下から振り上げ三節棍の攻撃を払っていた。
返す剣で、思い切り叩き付けてやる!
と心の中で叫び、返そうと柄をぐっと強く握った瞬間、後頭部にガツッと衝撃を受け、頭が真っ白になった。
床に転がった衝撃で、すぐ意識が復帰した。
頭部の、輪っか状の防具が、砕かれて床に落ちた。
なにが起きたかというと、
三節棍の先端を、アサキは受け止めようとしたのだが、
斉藤衡々菜は一歩下がって、三節の真ん中を剣に当てたのだ。
それにより、先端がくっと折れ曲がって、アサキの後頭部を強打したのだ。
防具がなかったら、生命もなかったであろう。
しかし防具に生命だけは守られたとはいえ、意識を揺るがす大打撃。
だから次に襲う、床を貫かんばかりの一撃を側転でかわしたのは、気力や潜在能力の高さもさることながら、運も多分に有ったのかも知れない。あったのだろう。
斉藤衡々菜の攻撃は、間髪入れず矢継ぎ早。
なんとか隙を狙い立ち上がったアサキへ、今度は、なにか小さい物が風を切って飛んでくる。
短剣だ。
前へ飛び込み、また床に倒れるアサキの身体を、短剣がかすめる。
転がるのを追って、一本、二本、超硬質のはずの床に、短剣が簡単に突き刺さる。
どこに隠し持っているのか、斉藤衡々菜は次々と投げ続ける。
楽しげに笑いながら。
埒が明かない、とアサキは転がる勢いを利用して立ち上がりながら、顔を襲う一撃を、手の甲で払った。
「ぐっ」
アサキは苦痛の呻き声を漏らした。
払った腕に、深々と短剣が刺さっていた。
いわゆる影矢。
一本目の後ろに隠れるように、もう一本を投げていたのだ。
顔を歪め、ぎりと歯を軋させながら、刺さった短剣を引き抜こうとするが、その瞬間、
アサキの目が、大きく見開かれていた。
お互いの、動きが止まっていた。
にやり、唇を釣り上げる白スカートの魔法使い、斉藤衡々菜。
アサキは、ゆっくり、視線を落とした。
瞳が、震えた。
伸ばして槍状になった穂先付き三節混、その穂先が、腹に、突き刺さっていたのである。
深々と、
背中へと、突き抜けていたのである。
突き抜けた穂先は、壁に深く刺さっていおり、アサキの身体は、赤い魔道着ごと、串刺しになっていた。
目を見開いたまま、不意に込み上げ、頬が膨らんだ。
ごぶ
口から、大量の血が吹き出した。
しん、と部屋は静まり返っている。
アサキの腹と、口から、どろどろと、血が流れている。
決着の行方は……
アサキはの生死は……
負けて、しまったのか。
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