魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第十三章 思い出したくない!

08 なんの躊躇いも感じさせずに振り下ろされる、応芽の剣

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 なんの躊躇いも感じさせずに振り下ろされる、おうの剣を、アサキは、手にした二本のナイフを交差させ、眼前で受け止めていた。
 受け止めつつ、身体を後ろへと反らし、右足を高く上げ応芽の顎へと蹴りを放った。

 応芽は、素早く身を引いて、その攻撃をかわすのだが、

 しかし、引かれた分だけアサキが詰めていた。
 ボクシングでいうアッパーカットのように、下からナイフを突き上げたかと思うと、続いて足を高く振り上げ、踵を応芽の肩へと落とす。

 紙一重、後退してかわした応芽へと、アサキは攻撃を休めない。
 片足を軸に身体を回転させ、左右のナイフで空気を切り裂きながら、真紅の魔道着へと飛び込んだ。

 カズミがよく使う、ヴァイスタの身を何度となくズタボロに切り刻んできた、魔法と体術を複合させた技である。

 だが、カズミがナイフを持って戦うところを、何度も見てる応芽である。真横へ跳んで、その攻撃を簡単にかわした。

 アサキはすぐさま反転し、床を蹴り、着地の瞬間を狙って、ナイフで切り付けるが、応芽は舌打ちしながらも、見切り、剣で受け止めた。

「通じるか!」

 唇釣り上げる応芽の、顔に訝しげな表情が浮かんだ。

 アサキが不意に、軽く身を屈めながら、応芽へと背を向けたのである。

 ぶん、
 なにかが、唸る音。
 アサキの足。
 後ろ回し蹴りであった。

 爆音。
 床ががたがた激しく震動した。

 応芽がかろうじてかわした、アサキの回し蹴りが、研究室の機材を一つ、大破したのである。

 爆音の震動が収まるより前に、応芽が動く、反撃に出る。
 跳躍しアサキへと迫り、脳天を目掛けて、両手に握った剣を振り下ろした。

 青い魔道着、アサキは、右手のナイフでなんとか受け止めると、そのまま身体を捻って、舞踊のようにくるくる背後へと回り込み、左手に持ったナイフを、応芽の首、喉元へ押し当てた。
 小型武器であることを生かした、体術といってもいいカズミ仕込みの攻撃戦法であったが、応芽には通用しなかった。肌に押し当てたつもりのナイフは、剣によって、しっかりと遮られていたのである。

 ぐぐっ、と剣で隙間こじ開け、ナイフを押し返しながら、応芽は、余裕の表情を見せた。

「さっきは魔道着なしでも、ええ勝負してたもんやから、変身さえすれば楽勝と思ってたんやろ。残念やな。こっちも、この魔道着が馴染んできとるんや」
「関係、ない!」

 アサキは、全身に力を込め、両手に握ったナイフで、ゆっくりと応芽の剣を、身体を、押していく。

「いま生きているみんなで、笑うんだ。そのためには、元のウメちゃんに……口は悪いけど、でもとっても優しい……せいちゃんのために泣いていた、元の、ウメちゃんに……」
「元の元のって、やかましいなあ! あたしは、なんも変わってへんて! 都合よくキャラを作られるのも、いい加減うっとおしいわ!」

 まなじり釣り上げ、応芽が怒鳴った。

 その怒り、怒鳴り声を受け止めるアサキの表情は、強くもあるが、弱くもあり、そして、優しかった。

「通じ、ないよ」

 そんな、嘘は。
 だって、打ち合う刃を通して、伝わってくるもん。
 ウメちゃんの、悲しみが。
 優しさが。
 伝わって、くるんだもん。
 なにをどう考えているのか、そこまでは分からないけど。
 でも、間違いはない。
 ウメちゃんが全然変わってなんかいないことに、間違いはない。

 だからというべきか、それにというべきか、ウメちゃんは、わたしを本当に絶望させようだなどとは、思っていないはずだ。絶対に。
 だって、そうじゃないか。
 わたしの性格をよく知る、ウメちゃんだ。
 ここでわたしを倒すという、ただそれだけで、
 ここでわたしが倒されるという、ただそれだけで、それでわたしの心が、絶望するはずなんかないだろう。

 でも、さっきウメちゃんがいおうとしていたこと……
 気に掛かる。

 わたしの知らないわたしの過去を、もしもわたしが知ったならば、わたしは絶望する?

 そう考えているような、ウメちゃんの口ぶりだったけれど。

 なにを知っているというのだろう。
 一体、なにを、ウメちゃんは……

 でも……

 いまは関係ない。
 いや、いまでなくとも関係ない。

 わたしは……

「わたしは、わたしだああああああっ!」

 令堂和咲!
 わたしの名だ!
 それ以外の、何者でもない!

 非詠唱魔法によるエンチャントで、青白く輝かせた二本のナイフを、アサキは振り上げ、応芽へと身体を踊り込ませながら、乱暴に叩き落としていた。
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