魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第八章 アサキ、覚醒

09 ぐんぐんぐんぐん、重力に逆らって、猛烈な勢いで上昇

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 ぐんぐんぐんぐん、重力に逆らって、猛烈な勢いで上昇を続けるカズミ。地上にいるアサキが、既に豆粒だ。

「前より強くなってるよー!」

 泣き言をいいながら、地上へ落下していく黄色い魔道着、へいなるとすれ違った。

 相対速度的に、ほんの一瞬しか見えなかったが、成葉の魔道着は、右肩と左のももが焦げて肌が見えていた。ザーヴェラーの攻撃をまともに受けてしまい、いったん離脱ということだろう。

「しばらく治療してろ!」

 カズミは叫ぶ。
 声など届くはずもないくらいに、既に黄色い魔道着は遥か眼下であったが。

 さらに上昇を続けたカズミは、ザーヴェラーの高度を抜いて、さらに遥か高くまで達したところで、身体を丸めてくるり回転させると空気 を蹴った。

「いくぜえええっ!」

 雄叫び上げつつ急降下。
 二本のナイフで身を守りながら、まるで浮遊大陸といった、超巨大な存在であるザーヴェラーへと、突っ込んでいった。

 ぶん、
 ぶん、
 赤黒い光が、ザーヴェラーの巨大な頭部から、発射された。

「当たるか、んなもん!」

 一発目は身体をずらして避けて、続く二発目は魔力強化されたナイフで払い弾くと、再びくるり向きを変え、ついに浮遊大陸へ、いや巨大な背中へと着陸した。

 着陸といっても、隕石落下並みの速度が出ていたが、しかし大爆発をするでもなく、突き抜けるでもなく。なんの音すらもせず、拍子抜けするくらいにあっさりとした着地していた。

 皮膚の特異な弾力にそうなっただけで、別にザーヴェラーがカズミを受け入れたわけではない。
 むしろ戦意満々、撃退心燃やしているようで、海底の砂利に棲むイソギンチャクよろしく背中から無数の触手がにょろにょろ生えて伸びると、続いてはゴーゴンの髪の毛のごとく一斉に広がって、包み込み食らおうと、カズミへと襲い掛かっていた。

「そんなちゃちな攻撃に、このカズミ様がやられっかよ!」

 カズミは、足場の悪さをものともせずに、触手をかわしつつ両手のナイフを素早く振るう。
 魔法的強化エンチヤントを施しておいたことや、先日の魔道着ファームアップ効果などが相まって、三本、四本、触手をすぱりすぱり見るも簡単に切り落としていく。

「弱点どこだあ、っと、うわっ!」

 悲鳴を上げた。
 這い伸びる触手がしゅるり足首に巻き付いたことに、気付かずに、引き倒されてしまったのである。

 ザーヴェラーの背中から、にょろにょろにょろと生えているものが、それぞれ、鎌首もたげた蛇が獲物を仕留めるかのように、一斉にカズミへと襲い掛かった。

「油断した!」

 自分の迂闊を呪い、舌打ちし、ぎゅっと目を閉じるカズミであったが、次の瞬間その目が開かれていた。
 驚きに、大きく。

 どう、どう、どう、どう!
 カズミの身体へ齧り付こうとしていた触手の先端が、次々爆発して吹き飛んだのだ。

「焦り過ぎちゃうか、自分」

 騎槍ランスを手にしたみちおうである。
 苦笑しながら、腰を屈めてカズミへと右手を差し出した。

 無数の触手を一瞬にして吹き飛ばしたのは、応芽のその騎槍によるものだったのである。

 重ねて手助け受けるも恥、と思ったか、カズミは足を軽く持ち上げ、その反動でぴょんと跳ねて、起き上がった。

「別にお前の助けなんかいらなかったけど、いちおう礼はいっとくよ。ありがとうな」

 笑みを浮かべた。

「別にええわ、礼なんか。身体がかゆなるわ」
「……確かに焦ってるよ、あたし。怪我人が出るのが思ったより早すぎて、持久戦も難しいかなって。……なにせ人数が、去年の半分だしな。アサキのバカには、セオリー通り、じっくり弱点探す持久戦しか教えてねえけど、どっかで無茶しねえと、逆にやべえと思ったんだ」

 喋りながらカズミは、胸の前に構えた左腕のナイフを、目に止まらぬ速さで真横へと、切っ先を走らせた。

 背後から襲い掛ろうとしていたザーヴェラーの、触手が二本、スパンスパンと、ほとんど同時に切断されていた。
 切られた先端が、ゆっくり落ちながら、粉になって、風に溶けて、消えた。

「まあ、確かにしゃあないか。あたしもその無謀に、ちょっとだけ付き合うたるわ。感謝しいや」
「短期決戦にすんだから、ちょっとも全部も一緒だろ」
「やかましいわ。……おりゃあ!」

 応芽は頭上で、水車のように騎槍を回し、襲いくる触手をぶちぶち潰すと、その槍を逆手に持って、足元つまりザーヴェラーの背中へと、突き立てた。

 だけど、ガチと硬い音がするだけで、先端しか刺さらなかった。

「いって、くそっ痺れたっ、ここ無茶苦茶硬いとこやん! ほな、ここならどうや!」

 襲ってくる触手を、引いてかわし、屈んでかわし、手当たり次第に騎槍を突き立てて行く。

 その背中を守るように、カズミが付いており、左右のナイフで触手を切り落としている。
 本当に、応芽を守っているのだ。
 お互いの刀身の長さを考えると、確かに「探り」は応芽に任せて、自身は防御に徹した方が効率がよいからだ。

「いったあ、ああんもう! ここ無茶苦茶硬いとこじゃった!」

 さっきの応芽と、まるでおんなじ台詞が、ザーヴェラーのぼこぼこ盛り上がったコブ状の反対側から聞こえてきた。

はる?」

 カズミが呼び掛ける。

 二人がコブを回り込むと、紫色の魔道着を着たあきらはるが、大量の触手を槍で払いながら、隙を作っては足元をぐっさりと突いている。

「やっぱり明木やったか。……おおとりは、なにしとる?」

 応芽は尋ねた。

「うちを庇って、せんかいを腕に食らってしまってな。治療のために離脱したけえ、もう地上におるじゃろ」
「そうか。弱点の当たりを付けてくれること、期待していたのにな」

 カズミが苦々しそうに、唇を噛んだ。

 なお魔閃塊とは、ザーヴェラーが放つ、赤黒い光のことである。

「弱点はこの辺りといっとった。それで正香ちゃんと二人掛かりで、シラミ潰しに攻撃しとったんよ」

 また治奈は、槍を回転させて、周囲の触手を切り落として生じた隙に、柄を逆手に足元へと突き刺した。
 ガチッ、
 と固い音。外れだったようである。

「この辺がこいつの弱点? ほんとかよ」
「ほんとかどうかは知らん。にょろにょろの出方と過去データの統計が、とかなんとかいってたけえね」
「やっぱすげえな、あいつの頭脳は。ゲームと漫画ばっかで勉強しない誰かと大違いだ」
「いまいう必要ないじゃろ!」

 治奈は、荒らげた声を出しながら地面を、いやザーヴェラーの背中を踏みながらも、同時に槍を横に払い、回し、戻し、瞬時に四本の触手を切断していた。

「なあ、ひょっとして、あれやろか?」

 慶賀応芽が、騎槍で触手の頭を潰しながら、顔をくいっと上げて、ザーヴェラーの首の辺りを視線で差した。

 他の箇所と比べ、遥かにうようよ無数に、触手が生えている。
 まるで獣毛である。

「それっぽいといえば、それっぽいな。よっしゃ、あたしが邪魔なにょろにょろをぶった切るから、あとは任せた!」

 カズミは、いうが早いか左右のナイフを構えて、弱点と予想した首の裏を目掛けて、大きく跳躍した。

「無謀じゃろ、カズミちゃん!」
「んなもん承知の上だ!」

 自身を大きなコマにして、ぐるぐる回りながら、身体を突っ込ませた。
 みっちりと生えていた触手が、二本のナイフによって、ぶつりぶつりと切れて、穫られていく、空気に溶けていく。

 だが、その数があまりにも多過ぎて、気合と勢いだけでなんとか出来るものではなかった。
 一本の触手が、カズミの足にするすると巻き付いて、そして太ももへと齧り付いたのである。

「あぐっ!」

 大きな呻き声を上げながら、カズミは転倒した。

 ぶじゅっ、という不快な音と共に、食い付いていた触手がうねり、鎌首をもたげた。

 カズミの太ももが、スパッツごとごっそりと食いちぎられていた。

 切断された動脈から、勢いよく鮮血が吹き出した。

「くそったれえ!」

 なおも新たな肉を求め齧り付こうとする、触手の先端を、カズミは、歯をぎりり軋らせながら、素早く右手のナイフを振って、切り落とした。

「カズミちゃんっ、だいじょう……」

 治奈が、心配そうに、駆け寄ろうとする。

「カズミちゃんっ、じゃねえよ、なにしてんだ! 早くやれよ!」

 その悲痛な怒鳴り声に、治奈は立ち止まり、小さく頷くと、高く跳躍した。
 叫びながら、逆手に持った槍を、カズミが切り開いてくれたザーヴェラーの首へと深々突き刺した。

 さらに、

「これでとどめやあああっ!」

 応芽が、治奈と同様に、跳躍からの落下の勢いで騎槍を突き刺して、さらにぐりぐりとねじった。

 次の瞬間、応芽の目が、驚きと焦りに、はっと見開かれていた。

「ここ、弱点やない!」
「え、ほじゃけど、手応えは確かに……うあっ!」

 動揺が油断に繋がったのか、治奈は、巨体の脇からそろそろと伸びていた巨大な触手の、横殴りの一撃を受けて、たまらず宙へと弾き飛ばされていた。
 飛翔魔法を唱える余裕もなく、遥か下にある地上へと、落下を始めた。

 ザーヴェラーの背中には、応芽と、手負いのカズミだけになった。

「一時撤退するで。ええな? 昭刃、立てるか?」

 失敗と見るや、応芽の決断は早かった。

「……立てへん」

 ぜいはあ息を切らせ、弱り切った顔をしながらも、いや、だからこそだろうか、この他人をからかうようなカズミの態度は。

「んなこといっとると置いてくで。……しゃあない、肩を貸したるわ。高利息でな」

 太ももの激痛に呻くのも構わず、カズミを強引に立ち上がらせた応芽は、逃すまいと襲い掛かる巨大な触手を強く蹴って、その勢いを利用してザーヴェラーの背中の外、空中へと飛び出したのである。
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