95 / 395
第八章 アサキ、覚醒
09 ぐんぐんぐんぐん、重力に逆らって、猛烈な勢いで上昇
しおりを挟む
ぐんぐんぐんぐん、重力に逆らって、猛烈な勢いで上昇を続けるカズミ。地上にいるアサキが、既に豆粒だ。
「前より強くなってるよー!」
泣き言をいいながら、地上へ落下していく黄色い魔道着、平家成葉とすれ違った。
相対速度的に、ほんの一瞬しか見えなかったが、成葉の魔道着は、右肩と左のももが焦げて肌が見えていた。ザーヴェラーの攻撃をまともに受けてしまい、いったん離脱ということだろう。
「しばらく治療してろ!」
カズミは叫ぶ。
声など届くはずもないくらいに、既に黄色い魔道着は遥か眼下であったが。
さらに上昇を続けたカズミは、ザーヴェラーの高度を抜いて、さらに遥か高くまで達したところで、身体を丸めてくるり回転させると空気 を蹴った。
「いくぜえええっ!」
雄叫び上げつつ急降下。
二本のナイフで身を守りながら、まるで浮遊大陸といった、超巨大な存在であるザーヴェラーへと、突っ込んでいった。
ぶん、
ぶん、
赤黒い光が、ザーヴェラーの巨大な頭部から、発射された。
「当たるか、んなもん!」
一発目は身体をずらして避けて、続く二発目は魔力強化されたナイフで払い弾くと、再びくるり向きを変え、ついに浮遊大陸へ、いや巨大な背中へと着陸した。
着陸といっても、隕石落下並みの速度が出ていたが、しかし大爆発をするでもなく、突き抜けるでもなく。なんの音すらもせず、拍子抜けするくらいにあっさりとした着地していた。
皮膚の特異な弾力にそうなっただけで、別にザーヴェラーがカズミを受け入れたわけではない。
むしろ戦意満々、撃退心燃やしているようで、海底の砂利に棲むイソギンチャクよろしく背中から無数の触手がにょろにょろ生えて伸びると、続いてはゴーゴンの髪の毛のごとく一斉に広がって、包み込み食らおうと、カズミへと襲い掛かっていた。
「そんなちゃちな攻撃に、このカズミ様がやられっかよ!」
カズミは、足場の悪さをものともせずに、触手をかわしつつ両手のナイフを素早く振るう。
魔法的強化を施しておいたことや、先日の魔道着ファームアップ効果などが相まって、三本、四本、触手をすぱりすぱり見るも簡単に切り落としていく。
「弱点どこだあ、っと、うわっ!」
悲鳴を上げた。
這い伸びる触手がしゅるり足首に巻き付いたことに、気付かずに、引き倒されてしまったのである。
ザーヴェラーの背中から、にょろにょろにょろと生えているものが、それぞれ、鎌首もたげた蛇が獲物を仕留めるかのように、一斉にカズミへと襲い掛かった。
「油断した!」
自分の迂闊を呪い、舌打ちし、ぎゅっと目を閉じるカズミであったが、次の瞬間その目が開かれていた。
驚きに、大きく。
どう、どう、どう、どう!
カズミの身体へ齧り付こうとしていた触手の先端が、次々爆発して吹き飛んだのだ。
「焦り過ぎちゃうか、自分」
騎槍を手にした慶賀応芽である。
苦笑しながら、腰を屈めてカズミへと右手を差し出した。
無数の触手を一瞬にして吹き飛ばしたのは、応芽のその騎槍によるものだったのである。
重ねて手助け受けるも恥、と思ったか、カズミは足を軽く持ち上げ、その反動でぴょんと跳ねて、起き上がった。
「別にお前の助けなんかいらなかったけど、いちおう礼はいっとくよ。ありがとうな」
笑みを浮かべた。
「別にええわ、礼なんか。身体がかゆなるわ」
「……確かに焦ってるよ、あたし。怪我人が出るのが思ったより早すぎて、持久戦も難しいかなって。……なにせ人数が、去年の半分だしな。アサキのバカには、セオリー通り、じっくり弱点探す持久戦しか教えてねえけど、どっかで無茶しねえと、逆にやべえと思ったんだ」
喋りながらカズミは、胸の前に構えた左腕のナイフを、目に止まらぬ速さで真横へと、切っ先を走らせた。
背後から襲い掛ろうとしていたザーヴェラーの、触手が二本、スパンスパンと、ほとんど同時に切断されていた。
切られた先端が、ゆっくり落ちながら、粉になって、風に溶けて、消えた。
「まあ、確かにしゃあないか。あたしもその無謀に、ちょっとだけ付き合うたるわ。感謝しいや」
「短期決戦にすんだから、ちょっとも全部も一緒だろ」
「やかましいわ。……おりゃあ!」
応芽は頭上で、水車のように騎槍を回し、襲いくる触手をぶちぶち潰すと、その槍を逆手に持って、足元つまりザーヴェラーの背中へと、突き立てた。
だけど、ガチと硬い音がするだけで、先端しか刺さらなかった。
「いって、くそっ痺れたっ、ここ無茶苦茶硬いとこやん! ほな、ここならどうや!」
襲ってくる触手を、引いてかわし、屈んでかわし、手当たり次第に騎槍を突き立てて行く。
その背中を守るように、カズミが付いており、左右のナイフで触手を切り落としている。
本当に、応芽を守っているのだ。
お互いの刀身の長さを考えると、確かに「探り」は応芽に任せて、自身は防御に徹した方が効率がよいからだ。
「いったあ、ああんもう! ここ無茶苦茶硬いとこじゃった!」
さっきの応芽と、まるでおんなじ台詞が、ザーヴェラーのぼこぼこ盛り上がったコブ状の反対側から聞こえてきた。
「治奈?」
カズミが呼び掛ける。
二人がコブを回り込むと、紫色の魔道着を着た明木治奈が、大量の触手を槍で払いながら、隙を作っては足元をぐっさりと突いている。
「やっぱり明木やったか。……大鳥は、なにしとる?」
応芽は尋ねた。
「うちを庇って、魔閃塊を腕に食らってしまってな。治療のために離脱したけえ、もう地上におるじゃろ」
「そうか。弱点の当たりを付けてくれること、期待していたのにな」
カズミが苦々しそうに、唇を噛んだ。
なお魔閃塊とは、ザーヴェラーが放つ、赤黒い光のことである。
「弱点はこの辺りといっとった。それで正香ちゃんと二人掛かりで、シラミ潰しに攻撃しとったんよ」
また治奈は、槍を回転させて、周囲の触手を切り落として生じた隙に、柄を逆手に足元へと突き刺した。
ガチッ、
と固い音。外れだったようである。
「この辺がこいつの弱点? ほんとかよ」
「ほんとかどうかは知らん。にょろにょろの出方と過去データの統計が、とかなんとかいってたけえね」
「やっぱすげえな、あいつの頭脳は。ゲームと漫画ばっかで勉強しない誰かと大違いだ」
「いまいう必要ないじゃろ!」
治奈は、荒らげた声を出しながら地面を、いやザーヴェラーの背中を踏みながらも、同時に槍を横に払い、回し、戻し、瞬時に四本の触手を切断していた。
「なあ、ひょっとして、あれやろか?」
慶賀応芽が、騎槍で触手の頭を潰しながら、顔をくいっと上げて、ザーヴェラーの首の辺りを視線で差した。
他の箇所と比べ、遥かにうようよ無数に、触手が生えている。
まるで獣毛である。
「それっぽいといえば、それっぽいな。よっしゃ、あたしが邪魔なにょろにょろをぶった切るから、あとは任せた!」
カズミは、いうが早いか左右のナイフを構えて、弱点と予想した首の裏を目掛けて、大きく跳躍した。
「無謀じゃろ、カズミちゃん!」
「んなもん承知の上だ!」
自身を大きなコマにして、ぐるぐる回りながら、身体を突っ込ませた。
みっちりと生えていた触手が、二本のナイフによって、ぶつりぶつりと切れて、穫られていく、空気に溶けていく。
だが、その数があまりにも多過ぎて、気合と勢いだけでなんとか出来るものではなかった。
一本の触手が、カズミの足にするすると巻き付いて、そして太ももへと齧り付いたのである。
「あぐっ!」
大きな呻き声を上げながら、カズミは転倒した。
ぶじゅっ、という不快な音と共に、食い付いていた触手がうねり、鎌首をもたげた。
カズミの太ももが、スパッツごとごっそりと食いちぎられていた。
切断された動脈から、勢いよく鮮血が吹き出した。
「くそったれえ!」
なおも新たな肉を求め齧り付こうとする、触手の先端を、カズミは、歯をぎりり軋らせながら、素早く右手のナイフを振って、切り落とした。
「カズミちゃんっ、だいじょう……」
治奈が、心配そうに、駆け寄ろうとする。
「カズミちゃんっ、じゃねえよ、なにしてんだ! 早くやれよ!」
その悲痛な怒鳴り声に、治奈は立ち止まり、小さく頷くと、高く跳躍した。
叫びながら、逆手に持った槍を、カズミが切り開いてくれたザーヴェラーの首へと深々突き刺した。
さらに、
「これでとどめやあああっ!」
応芽が、治奈と同様に、跳躍からの落下の勢いで騎槍を突き刺して、さらにぐりぐりとねじった。
次の瞬間、応芽の目が、驚きと焦りに、はっと見開かれていた。
「ここ、弱点やない!」
「え、ほじゃけど、手応えは確かに……うあっ!」
動揺が油断に繋がったのか、治奈は、巨体の脇からそろそろと伸びていた巨大な触手の、横殴りの一撃を受けて、たまらず宙へと弾き飛ばされていた。
飛翔魔法を唱える余裕もなく、遥か下にある地上へと、落下を始めた。
ザーヴェラーの背中には、応芽と、手負いのカズミだけになった。
「一時撤退するで。ええな? 昭刃、立てるか?」
失敗と見るや、応芽の決断は早かった。
「……立てへん」
ぜいはあ息を切らせ、弱り切った顔をしながらも、いや、だからこそだろうか、この他人をからかうようなカズミの態度は。
「んなこといっとると置いてくで。……しゃあない、肩を貸したるわ。高利息でな」
太ももの激痛に呻くのも構わず、カズミを強引に立ち上がらせた応芽は、逃すまいと襲い掛かる巨大な触手を強く蹴って、その勢いを利用してザーヴェラーの背中の外、空中へと飛び出したのである。
「前より強くなってるよー!」
泣き言をいいながら、地上へ落下していく黄色い魔道着、平家成葉とすれ違った。
相対速度的に、ほんの一瞬しか見えなかったが、成葉の魔道着は、右肩と左のももが焦げて肌が見えていた。ザーヴェラーの攻撃をまともに受けてしまい、いったん離脱ということだろう。
「しばらく治療してろ!」
カズミは叫ぶ。
声など届くはずもないくらいに、既に黄色い魔道着は遥か眼下であったが。
さらに上昇を続けたカズミは、ザーヴェラーの高度を抜いて、さらに遥か高くまで達したところで、身体を丸めてくるり回転させると空気 を蹴った。
「いくぜえええっ!」
雄叫び上げつつ急降下。
二本のナイフで身を守りながら、まるで浮遊大陸といった、超巨大な存在であるザーヴェラーへと、突っ込んでいった。
ぶん、
ぶん、
赤黒い光が、ザーヴェラーの巨大な頭部から、発射された。
「当たるか、んなもん!」
一発目は身体をずらして避けて、続く二発目は魔力強化されたナイフで払い弾くと、再びくるり向きを変え、ついに浮遊大陸へ、いや巨大な背中へと着陸した。
着陸といっても、隕石落下並みの速度が出ていたが、しかし大爆発をするでもなく、突き抜けるでもなく。なんの音すらもせず、拍子抜けするくらいにあっさりとした着地していた。
皮膚の特異な弾力にそうなっただけで、別にザーヴェラーがカズミを受け入れたわけではない。
むしろ戦意満々、撃退心燃やしているようで、海底の砂利に棲むイソギンチャクよろしく背中から無数の触手がにょろにょろ生えて伸びると、続いてはゴーゴンの髪の毛のごとく一斉に広がって、包み込み食らおうと、カズミへと襲い掛かっていた。
「そんなちゃちな攻撃に、このカズミ様がやられっかよ!」
カズミは、足場の悪さをものともせずに、触手をかわしつつ両手のナイフを素早く振るう。
魔法的強化を施しておいたことや、先日の魔道着ファームアップ効果などが相まって、三本、四本、触手をすぱりすぱり見るも簡単に切り落としていく。
「弱点どこだあ、っと、うわっ!」
悲鳴を上げた。
這い伸びる触手がしゅるり足首に巻き付いたことに、気付かずに、引き倒されてしまったのである。
ザーヴェラーの背中から、にょろにょろにょろと生えているものが、それぞれ、鎌首もたげた蛇が獲物を仕留めるかのように、一斉にカズミへと襲い掛かった。
「油断した!」
自分の迂闊を呪い、舌打ちし、ぎゅっと目を閉じるカズミであったが、次の瞬間その目が開かれていた。
驚きに、大きく。
どう、どう、どう、どう!
カズミの身体へ齧り付こうとしていた触手の先端が、次々爆発して吹き飛んだのだ。
「焦り過ぎちゃうか、自分」
騎槍を手にした慶賀応芽である。
苦笑しながら、腰を屈めてカズミへと右手を差し出した。
無数の触手を一瞬にして吹き飛ばしたのは、応芽のその騎槍によるものだったのである。
重ねて手助け受けるも恥、と思ったか、カズミは足を軽く持ち上げ、その反動でぴょんと跳ねて、起き上がった。
「別にお前の助けなんかいらなかったけど、いちおう礼はいっとくよ。ありがとうな」
笑みを浮かべた。
「別にええわ、礼なんか。身体がかゆなるわ」
「……確かに焦ってるよ、あたし。怪我人が出るのが思ったより早すぎて、持久戦も難しいかなって。……なにせ人数が、去年の半分だしな。アサキのバカには、セオリー通り、じっくり弱点探す持久戦しか教えてねえけど、どっかで無茶しねえと、逆にやべえと思ったんだ」
喋りながらカズミは、胸の前に構えた左腕のナイフを、目に止まらぬ速さで真横へと、切っ先を走らせた。
背後から襲い掛ろうとしていたザーヴェラーの、触手が二本、スパンスパンと、ほとんど同時に切断されていた。
切られた先端が、ゆっくり落ちながら、粉になって、風に溶けて、消えた。
「まあ、確かにしゃあないか。あたしもその無謀に、ちょっとだけ付き合うたるわ。感謝しいや」
「短期決戦にすんだから、ちょっとも全部も一緒だろ」
「やかましいわ。……おりゃあ!」
応芽は頭上で、水車のように騎槍を回し、襲いくる触手をぶちぶち潰すと、その槍を逆手に持って、足元つまりザーヴェラーの背中へと、突き立てた。
だけど、ガチと硬い音がするだけで、先端しか刺さらなかった。
「いって、くそっ痺れたっ、ここ無茶苦茶硬いとこやん! ほな、ここならどうや!」
襲ってくる触手を、引いてかわし、屈んでかわし、手当たり次第に騎槍を突き立てて行く。
その背中を守るように、カズミが付いており、左右のナイフで触手を切り落としている。
本当に、応芽を守っているのだ。
お互いの刀身の長さを考えると、確かに「探り」は応芽に任せて、自身は防御に徹した方が効率がよいからだ。
「いったあ、ああんもう! ここ無茶苦茶硬いとこじゃった!」
さっきの応芽と、まるでおんなじ台詞が、ザーヴェラーのぼこぼこ盛り上がったコブ状の反対側から聞こえてきた。
「治奈?」
カズミが呼び掛ける。
二人がコブを回り込むと、紫色の魔道着を着た明木治奈が、大量の触手を槍で払いながら、隙を作っては足元をぐっさりと突いている。
「やっぱり明木やったか。……大鳥は、なにしとる?」
応芽は尋ねた。
「うちを庇って、魔閃塊を腕に食らってしまってな。治療のために離脱したけえ、もう地上におるじゃろ」
「そうか。弱点の当たりを付けてくれること、期待していたのにな」
カズミが苦々しそうに、唇を噛んだ。
なお魔閃塊とは、ザーヴェラーが放つ、赤黒い光のことである。
「弱点はこの辺りといっとった。それで正香ちゃんと二人掛かりで、シラミ潰しに攻撃しとったんよ」
また治奈は、槍を回転させて、周囲の触手を切り落として生じた隙に、柄を逆手に足元へと突き刺した。
ガチッ、
と固い音。外れだったようである。
「この辺がこいつの弱点? ほんとかよ」
「ほんとかどうかは知らん。にょろにょろの出方と過去データの統計が、とかなんとかいってたけえね」
「やっぱすげえな、あいつの頭脳は。ゲームと漫画ばっかで勉強しない誰かと大違いだ」
「いまいう必要ないじゃろ!」
治奈は、荒らげた声を出しながら地面を、いやザーヴェラーの背中を踏みながらも、同時に槍を横に払い、回し、戻し、瞬時に四本の触手を切断していた。
「なあ、ひょっとして、あれやろか?」
慶賀応芽が、騎槍で触手の頭を潰しながら、顔をくいっと上げて、ザーヴェラーの首の辺りを視線で差した。
他の箇所と比べ、遥かにうようよ無数に、触手が生えている。
まるで獣毛である。
「それっぽいといえば、それっぽいな。よっしゃ、あたしが邪魔なにょろにょろをぶった切るから、あとは任せた!」
カズミは、いうが早いか左右のナイフを構えて、弱点と予想した首の裏を目掛けて、大きく跳躍した。
「無謀じゃろ、カズミちゃん!」
「んなもん承知の上だ!」
自身を大きなコマにして、ぐるぐる回りながら、身体を突っ込ませた。
みっちりと生えていた触手が、二本のナイフによって、ぶつりぶつりと切れて、穫られていく、空気に溶けていく。
だが、その数があまりにも多過ぎて、気合と勢いだけでなんとか出来るものではなかった。
一本の触手が、カズミの足にするすると巻き付いて、そして太ももへと齧り付いたのである。
「あぐっ!」
大きな呻き声を上げながら、カズミは転倒した。
ぶじゅっ、という不快な音と共に、食い付いていた触手がうねり、鎌首をもたげた。
カズミの太ももが、スパッツごとごっそりと食いちぎられていた。
切断された動脈から、勢いよく鮮血が吹き出した。
「くそったれえ!」
なおも新たな肉を求め齧り付こうとする、触手の先端を、カズミは、歯をぎりり軋らせながら、素早く右手のナイフを振って、切り落とした。
「カズミちゃんっ、だいじょう……」
治奈が、心配そうに、駆け寄ろうとする。
「カズミちゃんっ、じゃねえよ、なにしてんだ! 早くやれよ!」
その悲痛な怒鳴り声に、治奈は立ち止まり、小さく頷くと、高く跳躍した。
叫びながら、逆手に持った槍を、カズミが切り開いてくれたザーヴェラーの首へと深々突き刺した。
さらに、
「これでとどめやあああっ!」
応芽が、治奈と同様に、跳躍からの落下の勢いで騎槍を突き刺して、さらにぐりぐりとねじった。
次の瞬間、応芽の目が、驚きと焦りに、はっと見開かれていた。
「ここ、弱点やない!」
「え、ほじゃけど、手応えは確かに……うあっ!」
動揺が油断に繋がったのか、治奈は、巨体の脇からそろそろと伸びていた巨大な触手の、横殴りの一撃を受けて、たまらず宙へと弾き飛ばされていた。
飛翔魔法を唱える余裕もなく、遥か下にある地上へと、落下を始めた。
ザーヴェラーの背中には、応芽と、手負いのカズミだけになった。
「一時撤退するで。ええな? 昭刃、立てるか?」
失敗と見るや、応芽の決断は早かった。
「……立てへん」
ぜいはあ息を切らせ、弱り切った顔をしながらも、いや、だからこそだろうか、この他人をからかうようなカズミの態度は。
「んなこといっとると置いてくで。……しゃあない、肩を貸したるわ。高利息でな」
太ももの激痛に呻くのも構わず、カズミを強引に立ち上がらせた応芽は、逃すまいと襲い掛かる巨大な触手を強く蹴って、その勢いを利用してザーヴェラーの背中の外、空中へと飛び出したのである。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
元おっさんの幼馴染育成計画
みずがめ
恋愛
独身貴族のおっさんが逆行転生してしまった。結婚願望がなかったわけじゃない、むしろ強く思っていた。今度こそ人並みのささやかな夢を叶えるために彼女を作るのだ。
だけど結婚どころか彼女すらできたことのないような日陰ものの自分にそんなことができるのだろうか? 軟派なことをできる自信がない。ならば幼馴染の女の子を作ってそのままゴールインすればいい。という考えのもと始まる元おっさんの幼馴染育成計画。
※この作品は小説家になろうにも掲載しています。
※【挿絵あり】の話にはいただいたイラストを載せています。表紙はチャーコさんが依頼して、まるぶち銀河さんに描いていただきました。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる