魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第七章 決戦 広島対大阪

03 「うっひゃあああ、こんなムキになってるハルにゃん珍

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「うっひゃあああ、こんなムキになってるハルにゃん珍しいよお」
「ああ、いっつも飄々颯爽としてるくせにな。……去年あたしがスカートめくって男子の前で豪快にパンツさらした時にゃあ、さすがに泣いちゃったけどさ」

 料理バトルを見ながら、気分わくわく楽しそうに軽口を叩いている、なるとカズミ。

「そそっ、そがいなこと今いう必要ないじゃろ! 戦意が萎えるじゃろが!」

 その時のことを思い出したかはる、顔が真っ赤である。

「そうだぞ成葉あ! いっていいこと悪いことくらいわきまえろよな! 大事な勝負なんだから。……治奈、絶対にウメッチョなんかに負けんじゃねえぞ。あたしのアサキは、こないだバスケ勝負にちゃんと勝ったぞお」
「おう、必ず勝って二連勝じゃけえね」

 治奈は、ぎゅっと握った拳を力強くカズミへと突き出すと、手元の卵を手慣れた手付きで割り始めた。

「カズミちゃん、『あたしのアサキ』ってなんですかあ?」

 勝手に所有物扱いされていることに、それとなく突っ込みを入れるアサキ。
 数秒後に、余計なことを聞かなければと自分の迂闊さを後悔することになるのだが。

「ん? ほらあれと同じだよ、あたしの物はああたしの物お、アサキの物もおアサキの物お」
「それじゃ普通だよお」
「あ、あ、そうだな。えっと、あたしの物はアサキの物、じゃなくて……」
「それだと単なるお人好しで、横暴な暴君であるカズミちゃんらしくないよお」
「おお。ってか、なんだよ暴君って! あたしがいつ横暴なことしたよ!」

 ズガーーン! 燃えるバーニングファイヤーな炎の鉄拳がアサキの頬にめり込んだ。

「あいたああっ!」
「さらに、ネックハンギングツリーーッ!」

 両手でアサキの首をぎりぎりと締め上げる。

「ぐぐぐるじいいい。やめてええええ」
「さらにさらに、フリッツフォンエリックとくればそう、アイアンックローーーーーッ!」

 ぱっと首締め解除したかと思うと、まだ青冷めたままのアサキの顔を、ガシーッとわし掴んで爆熱シャイニング!

「ぎゃーーー! 顔痛い顔痛い! 爪! 爪食い込んでる痕になる爪痛い! やめて痛いやめて痛いやめてえええ!」
「どうだっ、ギブアップかあ?」
「ギブ、ギブアップ! ギブアップするよお! ごめんなさあい! ってなんでわたしが謝らないといけないのお?」
「おーっと、アサキ選手がギブアップ宣言するも、ジョー樋口レフェリーまた今日もブロディに殴られて伸びているう!」
「痛い痛い痛い! ギブアップうううさああせえええてえええええ!」
「勘弁してやっか。感謝しろよ」

 ようやく鉄の爪を解除するフリッツフォンエリック。

「ありがとおおおお!」

 などと、カズアサコンビが、相変わらずのバカなことをしている間に、広島大阪お好み焼き対決は、激烈な火花を散らし続けている。
 激烈といっても、治奈からの一方的な火花であるが。

 治奈と応芽の二人は現在、鉄板の端と端とで、焼きに入っているところ。
 もう仕上がりそうだ。

「完成じゃ!」
「出来たでえ!」

 声が上がったのは同時だった。

「おーーーっ!」

 成葉が首を振り、双方のお好み焼きを見比べながら、びっくり驚きな声を上げた。
 焼いているところはずーっと見ていたわけで、別に本当に仕上がりに驚いたわけではないのだろうが。

 一枚の円盤状に焼き上げられて、上にはたっぷりのソースが塗られ、格子状にマヨネーズが掛かり、うっすら青のりが覆っている。
 これが、応芽の焼いた物。

 同様にソースやマヨネーズは掛かっているが、生地は薄く、下に敷かれたソースの絡んだそばがはみ出ているのが、治奈の焼いた広島風だ。

 二人とも、それぞれ自分の焼いた物を、手早くヘラを突き立て切り分けていく。

 成葉が、鉄板の端と端を行ったりきたり、ぐぐっと料理へ顔を寄せて覗き込んだりしながら、

「これは、どちらもなかなか。見た目では甲乙つけがたいですのお、アサ爺さんや」

 しゃがれた変な声で、変なこといっている。

「そうでしゅなあ、ナル婆しゃん」

 振られたアサキも真似をして、かすれた声を喉から絞り出した。
 こめかみにアイアンクローの爪痕くっきりなのが、なんであるが。

「バカなことやってんじゃねえよ! 真剣な勝負なんだぞ!」

 さっきまで一番バカなことやっていたのを棚に上げながら、カズミが二つの皿をテーブルへと運んだ。

「よし、さっそく食ってみようぜ。まずは治奈のからな」

 カズミは、割り箸を取って割ると、皿の上のまだ湯気を立てている焼き立ての一切れをつまんだ。

 アサキたちも続く。

「あたしもおっ」

 と、治奈の妹であるふみも、なにが起きているのか分かっているのかいないのか、楽しそうに箸を取る。

 そして、

「いっただきまーす」

 それぞれ、切り分けた物を小皿に取り、口へと運んだ。

 咀嚼数秒。
 最初に口を開いたのは、せいである。

「美味しいものですね、お好み焼きって。層になっているから見た目はばらけているようで、でも以外にしっかり融合もしていて、味だって、しっかり調和が取れて馴染んでいますよ。ソースの焦げ加減や絡み具合も絶妙です」
「ほうじゃろ? ほうじゃろ? 誰かさんが、食うたこともないのに、味がバラけとるゆうとったなあ」

 お好み焼き初体験の正香に褒められて、治奈は両手の拳を握りしめ嬉しそう。そして、いわゆるドヤ顔を応芽へと向けた。

「治奈が焼いたのって初めて食ったけど、いいじゃんこれ! いつか親父さんを抜けるぜ!」
「ま、まあ継ぐ気はないんじゃけどね」

 カズミにも褒められて治奈、頭を掻いて照れ笑い。

「ほんとだあ。すっごく美味しいよ! これなら、どこかでお店出せるよ!」

 アサキもベタ褒め。出すなら店名は「はっちゃん」だろうか。

「いやいや、どこかで出すくらいならここ継ぐわ」

 身も蓋もない治奈のリアクションである。

「さて……」

 カズミは、隣の皿へと視線を向けた。

「変なもん食わせやがったら、ここで七百年間タダ働きな」
「別に構へんで」

 奴隷人事を勝手に決めつつ箸を伸ばすカズミに、応芽は強気な笑みを見せた。

 アサキ、成葉、史奈、正香、治奈、も箸を伸ばしつまんで、

「いっただきまあす!」

 今度は応芽のお好み焼きを口に入れたのであるが、口に入れたその瞬間、みなの顔にびりっとした変化が生じていた。
 一文字で表すならば「!」といったような。

 驚きつつも、みな無言で咀嚼を続けている。

 一番表情の変化というか動きというかが激しいのが、治奈である。
 力なく顎を動かしながら、信じられない、というように目を見開いている。
 手がぷるぷる震えている。
 ゆっくりと、箸を置いた。
 そのままテーブルに置かれている手が、まだ震えている。

 治奈の心情を察しているのだろう。
 カズミたちも、心配そうな顔になって黙ってしまっている。

 どないや。
 そういいたげな、応芽のニヤニヤ顔。

 なんともいえない、緊迫空気、
 を、ズバッと切り裂いたのは、史奈の一言であった。

「どっちも美味しいけど、どっちか決めるなら方言のお姉ちゃんの作った方だなあ」

 史奈の無邪気な顔から発せられた無邪気な言葉に、治奈の目が見開かれた。

 明木家で一人標準語を喋る史奈ではあるが、自身は使わずとも、家族の話す耳慣れた言葉も彼女にとっては標準語のようなもの。
 つまり、「方言のお姉ちゃん」といえば応芽のことに他ならない。

 治奈は、身内から発せられた無垢かつ残酷な言葉に、まるでカズミにブレーンバスターをかけられ床に叩き付けられた後のアサキのようにすっかり涙目になって、

「ほうじゃろ。フミもそう思うじゃろ。……負けじゃ。うち、もうこの家の娘じゃないわ」

 肩を小さくして、立ち尽くしてしまっていた。
 ぐずっ、と鼻をすすった。

「いや、待て治奈。明木の名を捨てるのは早い。……ウメ子ちゃんとかいうたのお、あっ、今度はわしと、いざ尋常にっ、勝負じゃあああああ!」

 調理場の奥で秀雄が、腰落とし手を突き出し首を回して、歌舞いている。
 みんなから離れたところに立っているので、引きの構図でポツンと一人ちっちゃくなのが、なんだか間抜けであるが。

「おーーっ、父娘おやこあい!」
「真打ち登場だああ!」

 治奈の心情察してはどこへやら、カズミと成葉が、なんだかんだと盛り上がって、楽しそうに腕を振り上げた。

「構わへんよ、おっちゃん。受けたるわ」

 応芽は、腕を組みふふんと鼻で笑った。

「よし、勝負開始じゃあ! 広島の名誉はわしが守るけえ!」

 かくして再び、鉄板の前に戦士が立った。

 今度は、慶賀応芽と、明木秀雄。

 第二戦の火蓋が、切って落とされたのである。
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