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第六章 六番目の魔法使い
02 わははははは、うへへへへ、品なく大爆笑をしながら、
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わははははは、
うへへへへ、
品なく大爆笑をしながら、叩き合いながら、平家成葉と令堂和咲が肩を並べて教室へと入ってきた。
「えー、誰でもそう思ったことあるんじゃないのお?」
アサキが、へらへら笑いながらも、納得いかないといった感じに成葉の脇腹を肘で小突いた。
「あるわけないじゃあん」
成葉が小突き返す。
ぎゃははははは、と更にテンション高まった笑いをしながら二人は苦しそうに机をバンバン叩き始めた。
「なんじゃの、一体」
机の上に座って、椅子の昭刃和美と談笑していた明木治奈が、きょとんとした顔で小首を傾げた。
「聞いてよおハルにゃん。アサにゃんったらさあ、一発芸のことをこれまでずっと『一泊ゲー』、酔って帰れず駅前とかで吐きまくることだと本気で思ってたんだってえ」
ぶーーーーーっ、
と治奈が吹いた。
わははは、と笑い出したはずみにお尻が滑って机の重心を崩してしまい、机を倒しつ自身も床へと落ちた。
尻と頭を床に強打した激痛に、呻き、顔を歪ませるが、
「い、痛いっ! おかしいっ!」
苦痛に歪んだ顔で身体を痙攣させながら、まだ笑っている。
「おいっ、大丈夫か治奈あ? パンツ見えてるぞお。ほらあアサキ、お前の究極バカのせいで治奈がケツの骨を砕いたぞお」
などと責めつつも、笑いを必死にこらえているようでもあるカズミの顔。
スカートが完全にめくれて下着丸出しのまま、激痛に顔を歪めている、という治奈の姿が、あまりに痛々しくてみっともなくて、笑うに笑えないというところであろうか。
「わたしのせいじゃないよお。それに、一泊ゲーってみんな思わなかったあ?」
笑いが収まると、今度は小馬鹿にされていることにカチンときたかアサキ、ちょっと口を尖らせて反論をする。
「思わねえよ! それじゃあたしも一発芸を披露、アサキチくんのスカートをめくりまーす」
いうが早いか腰を屈めて、アサキのスカートの裾を掴んだ。
「いやそれ芸じゃな、ぎゃーーーーーっ! カズミちゃんのエロオヤジ! 最低!」
両手でスカートを押さえ付けてぎりぎりのところで死守すると、素早くカズミの腕を掴んだ。
カズミが掴み返そうとして、二人はがっぷり四つの体制になった。
「くそ、力つけたなアサキ」
ニヤリと笑みを浮かべるカズミ。
「横暴な変人に心身鍛えられましたからあ」
力比べでちょっと劣勢ながらも、アサキは強気な笑みを返した。
「誰のことかなあ、変人ってえ」
「自分で自分は見えませんからねえ」
「横暴は認めるがお前ほど変人では、ない」
ぐぐーっとカズミの腕により力が入る。
「そっくりそのまま、返す」
負けじと踏ん張るアサキ。
ぎりぎり、
ぎりぎりぎり、
あとちょっとでどちらかの腕が折れていたかも知れない(そうなったら間違いなくアサキだろうが)、と、そんな時であった。
ガラリ、
教壇側のドアが勢いよく開いたのは。
「はいはい、席に着くようにな! 静かにする静かに!」
ぱんぱん手を叩きながら、フロックコートに似た他校の制服を着た、ショートカットの女子生徒が入って来た。
少し長目の前髪を横に流しておでこを出しているのが特徴的といえば特徴的な、とても可愛らしい顔立ちの女子生徒だ。
ここ天王台第三中学とは異なる女子制服が、いきなり入ってきて、そんなことやっているものだから、いわれずともみな唖然呆然で静かになってしまっていた。
そんな、しーんと静まり返った中、
「ちょ、慶賀さんっ! なにしてんのっ!」
大慌てでクラス担任の須黒美里先生が入ってきた。
「冗談、冗談やて」
慶賀と呼ばれた女子生徒は、笑いながら手首ぱたぱた上下に振った。
なんだかよく分からないながらも、それぞれ自席へと着く男女生徒たち。
「なんだあいつは」
カズミも、訝しげな顔をしつつも大人しく自席に座った。
「転校生? まさかなあ」
アサキが自席で、胸の前で手を組みながら小さな声を出した。
まさかと思うのは当然だろう。
自分がこのクラスに転入してからまだ二ヶ月しか経っておらず、他のクラスでも転校生の話は聞かない。
それなのに、このクラスだけさらに一人増えるなど、理屈で考えておかしいからだ。
慶賀と呼ばれた、フロックコートっぽい制服を着た女子生徒は、先生にいわれるよりも早く、白墨を左手に取ると黒板に名前を書き始めた。
端から端まで大きく四文字、いや丁寧にルビまで振っている。
慶 賀 応 芽。
「今日からここで世話んなる慶賀応芽や! 使うとる言葉ん通り大阪の中学からきた。どうか仲良うしたってな!」
よく通る大きな声でいうと、にんまりとした邪気のない笑みを満面に浮かべた。
その言葉に、一瞬にして教室がざわついていた。
「なんでこのクラスだけ?」
「転校生が二人なんて」
「ねーーっ」
みな、アサキと同じようなことを考えていたのである。
治奈と正香も、これはなんなのだろうか、といいたげに顔を見合わせている。
彼ら彼女らのぼそぼそ声に、片方の眉をぴくんと上げた慶賀応芽は、
「その、一人めの転校生ってのは誰や?」
と、尋ねた。
まったく邪気はないのかも知れないが、なんだか偉そうに。
「わ、わたし……です」
アサキが、前の席である治奈の背中に隠れるように、そおーっと右手を上げた。
さっきの、うへへへ一泊ゲーとは、打って変わって急降下というか墜落したようなテンションである。
つかつか近寄って来る慶賀応芽に、ひいっと悲鳴を上げると余計に小さくなってしまった。
治奈たちのおかげもあって、今回の学校では、もうすっかりクラスメイトと馴染んでいるアサキであるが、性格の根本が変わったわけではないので、初対面の相手は苦手なのである。
「なにびくついとんねん。……転校の先輩、よろしゅうな。慶賀応芽や」
慶賀応芽は、すっと右手を差し出した。
アサキも、おどおどしながらも立ち上がると、
「令堂和咲です。どうも、よろしくね」
こわばった笑みを浮かべながら、右手を出した。
と、突然顔を苦痛に歪めた。
ぎゅうううううう!
慶賀応芽がアサキの手を掴んで、絞り上げるように全力で握ったのである。
「いたたたたた! なっ、なにするんですかあ!」
「これが大阪の、仲良うしたってやあの握手なんやあああ!」
多分、嘘八百である。
「骨が砕けるう! やめてえええ!」
ぎゅぎゅぎゅぎゅう!
「ひゃあああ、カズにゃんより酷いのが入ってきたあ……」
成葉が、口に手の先を入れておどおどしている。ちょっとわくわくしているような気も、しなくもないが。
「そうだなあ。……ん?」
うんうん頷くカズミであったが、あれ、と気付いて成葉の顔を睨み付けるのだった。
うへへへへ、
品なく大爆笑をしながら、叩き合いながら、平家成葉と令堂和咲が肩を並べて教室へと入ってきた。
「えー、誰でもそう思ったことあるんじゃないのお?」
アサキが、へらへら笑いながらも、納得いかないといった感じに成葉の脇腹を肘で小突いた。
「あるわけないじゃあん」
成葉が小突き返す。
ぎゃははははは、と更にテンション高まった笑いをしながら二人は苦しそうに机をバンバン叩き始めた。
「なんじゃの、一体」
机の上に座って、椅子の昭刃和美と談笑していた明木治奈が、きょとんとした顔で小首を傾げた。
「聞いてよおハルにゃん。アサにゃんったらさあ、一発芸のことをこれまでずっと『一泊ゲー』、酔って帰れず駅前とかで吐きまくることだと本気で思ってたんだってえ」
ぶーーーーーっ、
と治奈が吹いた。
わははは、と笑い出したはずみにお尻が滑って机の重心を崩してしまい、机を倒しつ自身も床へと落ちた。
尻と頭を床に強打した激痛に、呻き、顔を歪ませるが、
「い、痛いっ! おかしいっ!」
苦痛に歪んだ顔で身体を痙攣させながら、まだ笑っている。
「おいっ、大丈夫か治奈あ? パンツ見えてるぞお。ほらあアサキ、お前の究極バカのせいで治奈がケツの骨を砕いたぞお」
などと責めつつも、笑いを必死にこらえているようでもあるカズミの顔。
スカートが完全にめくれて下着丸出しのまま、激痛に顔を歪めている、という治奈の姿が、あまりに痛々しくてみっともなくて、笑うに笑えないというところであろうか。
「わたしのせいじゃないよお。それに、一泊ゲーってみんな思わなかったあ?」
笑いが収まると、今度は小馬鹿にされていることにカチンときたかアサキ、ちょっと口を尖らせて反論をする。
「思わねえよ! それじゃあたしも一発芸を披露、アサキチくんのスカートをめくりまーす」
いうが早いか腰を屈めて、アサキのスカートの裾を掴んだ。
「いやそれ芸じゃな、ぎゃーーーーーっ! カズミちゃんのエロオヤジ! 最低!」
両手でスカートを押さえ付けてぎりぎりのところで死守すると、素早くカズミの腕を掴んだ。
カズミが掴み返そうとして、二人はがっぷり四つの体制になった。
「くそ、力つけたなアサキ」
ニヤリと笑みを浮かべるカズミ。
「横暴な変人に心身鍛えられましたからあ」
力比べでちょっと劣勢ながらも、アサキは強気な笑みを返した。
「誰のことかなあ、変人ってえ」
「自分で自分は見えませんからねえ」
「横暴は認めるがお前ほど変人では、ない」
ぐぐーっとカズミの腕により力が入る。
「そっくりそのまま、返す」
負けじと踏ん張るアサキ。
ぎりぎり、
ぎりぎりぎり、
あとちょっとでどちらかの腕が折れていたかも知れない(そうなったら間違いなくアサキだろうが)、と、そんな時であった。
ガラリ、
教壇側のドアが勢いよく開いたのは。
「はいはい、席に着くようにな! 静かにする静かに!」
ぱんぱん手を叩きながら、フロックコートに似た他校の制服を着た、ショートカットの女子生徒が入って来た。
少し長目の前髪を横に流しておでこを出しているのが特徴的といえば特徴的な、とても可愛らしい顔立ちの女子生徒だ。
ここ天王台第三中学とは異なる女子制服が、いきなり入ってきて、そんなことやっているものだから、いわれずともみな唖然呆然で静かになってしまっていた。
そんな、しーんと静まり返った中、
「ちょ、慶賀さんっ! なにしてんのっ!」
大慌てでクラス担任の須黒美里先生が入ってきた。
「冗談、冗談やて」
慶賀と呼ばれた女子生徒は、笑いながら手首ぱたぱた上下に振った。
なんだかよく分からないながらも、それぞれ自席へと着く男女生徒たち。
「なんだあいつは」
カズミも、訝しげな顔をしつつも大人しく自席に座った。
「転校生? まさかなあ」
アサキが自席で、胸の前で手を組みながら小さな声を出した。
まさかと思うのは当然だろう。
自分がこのクラスに転入してからまだ二ヶ月しか経っておらず、他のクラスでも転校生の話は聞かない。
それなのに、このクラスだけさらに一人増えるなど、理屈で考えておかしいからだ。
慶賀と呼ばれた、フロックコートっぽい制服を着た女子生徒は、先生にいわれるよりも早く、白墨を左手に取ると黒板に名前を書き始めた。
端から端まで大きく四文字、いや丁寧にルビまで振っている。
慶 賀 応 芽。
「今日からここで世話んなる慶賀応芽や! 使うとる言葉ん通り大阪の中学からきた。どうか仲良うしたってな!」
よく通る大きな声でいうと、にんまりとした邪気のない笑みを満面に浮かべた。
その言葉に、一瞬にして教室がざわついていた。
「なんでこのクラスだけ?」
「転校生が二人なんて」
「ねーーっ」
みな、アサキと同じようなことを考えていたのである。
治奈と正香も、これはなんなのだろうか、といいたげに顔を見合わせている。
彼ら彼女らのぼそぼそ声に、片方の眉をぴくんと上げた慶賀応芽は、
「その、一人めの転校生ってのは誰や?」
と、尋ねた。
まったく邪気はないのかも知れないが、なんだか偉そうに。
「わ、わたし……です」
アサキが、前の席である治奈の背中に隠れるように、そおーっと右手を上げた。
さっきの、うへへへ一泊ゲーとは、打って変わって急降下というか墜落したようなテンションである。
つかつか近寄って来る慶賀応芽に、ひいっと悲鳴を上げると余計に小さくなってしまった。
治奈たちのおかげもあって、今回の学校では、もうすっかりクラスメイトと馴染んでいるアサキであるが、性格の根本が変わったわけではないので、初対面の相手は苦手なのである。
「なにびくついとんねん。……転校の先輩、よろしゅうな。慶賀応芽や」
慶賀応芽は、すっと右手を差し出した。
アサキも、おどおどしながらも立ち上がると、
「令堂和咲です。どうも、よろしくね」
こわばった笑みを浮かべながら、右手を出した。
と、突然顔を苦痛に歪めた。
ぎゅうううううう!
慶賀応芽がアサキの手を掴んで、絞り上げるように全力で握ったのである。
「いたたたたた! なっ、なにするんですかあ!」
「これが大阪の、仲良うしたってやあの握手なんやあああ!」
多分、嘘八百である。
「骨が砕けるう! やめてえええ!」
ぎゅぎゅぎゅぎゅう!
「ひゃあああ、カズにゃんより酷いのが入ってきたあ……」
成葉が、口に手の先を入れておどおどしている。ちょっとわくわくしているような気も、しなくもないが。
「そうだなあ。……ん?」
うんうん頷くカズミであったが、あれ、と気付いて成葉の顔を睨み付けるのだった。
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