魔法使い×あさき☆彡

かつたけい

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第三章 強化合宿

16 「おりゃあ!」昭刃和美は、右足を大きく前へ踏み出し

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「おりゃあ!」

 あきかずは、右足を大きく前へ踏み出しながら、右拳を真っ直ぐ突き出した。

 向かい合うあきらはるも軽く踏み出して、立てた左腕で突きを払いながら、同時にカズミの胸へと拳を叩き込んだ。
 いや、寸止めだ。胸に触れるか触れないかのところで、拳が止まっている。

「いい感じじゃんか、治奈。久々だけどキレ全然鈍ってねえじゃん」

 カズミはニヤリ笑った。

「そう? とにかく……ありがとうございました!」

 治奈は、胸の前で交差させた両手を下ろしながら、深く頭を下げた。

「押忍! 次ッ!」

 叫ぶカズミの前に、赤毛の少女、りようどうさきが立った。

「お、お願いします」

 頭を下げ、二人は向き合った。

 なお、先ほど急斜面を遥か下まで転がり落ちたことで、アサキの顔や腕は擦り傷だらけでボロボロ、絆創膏が何枚も張ってある。

 二人一緒に絡み合って、急斜面の下まで落ちたのだ。
 カズミは完全に自業自得であるが、何故かアサキばかりが擦り傷打撲という世の理不尽。

 それはさておき、現在なにをしているのかというと、青空の下で空手の組手だ。
 山の中腹、湖を見下ろせる景観綺麗な場所があり、そこに生えている巨木の下で。

 カズミには幼少より空手の心得があって、みなでその指導を受けているのだ。
 心得、といっても、かなり我流の混じったものではあるが。

 なおこの場所で、昨日は、魔道着姿で魔法の特訓をしている。

 昨日は平年通りの極寒であったため、変身もして魔法で寒さを対策しながらの特訓であったのだが、今日は打って変わっての暖かさ。

 みな飛翔の魔法を使った疲労が回復しきっていないため、魔法力を使わない特訓をしようということになり、それで選ばれたのが空手というわけだ。

 だからみな変身はしておらず、先ほどのジョギングと同じ、中学校の紺色ジャージ姿だ。

 さて、拳を構えて向き合う、アサキとカズミであるが、

「じゃ、さっきやった時と同じ流れでな。いくぞ!」

 カズミはそういうと、すすっと滑るかの軽さで前へと出て、瞬時に距離を詰めると、

「せやっ!」

 前蹴りを放っていた。

「いたっ!」

 アサキの悲鳴。
 横へ動こうとして、お腹にカカトを食らったのだ。

 うずくまり、げほごほむせるアサキを見ながら、カズミは呆れ顔だ。

「センスないなあ、お前は。近い距離で正面向き合ってんだから、真横に避けようとして間に合うわけないだろ。だったらせめて……」

 右の踵を引きつつ、くるりと身体の左側面をアサキへと向ける。

「こうやって身体を反転させるか、距離によっては単に一歩後退すればいい。常に間合いを意識して、どっちにも動けるように気持ちつま先重心で立つこと。分かった?」
「はい!」
「つか、さっきとまったく同じこといわせんなよ」
「ごめん。次はしっかりやる」
「じゃあ次は攻撃な。いまあたしがやったような前蹴りを、防御のことは考えなくていいから思い切りやってみな」
「押忍っ! 遠慮なくいきますよっ!」

 アサキはなんだか必殺技でも繰り出すかのように、腕をすーっと動かしてなにかの軌跡を描くと、

「えいっ!」

 前へ踏み込み、つま先をぶんと蹴り上げた。

「こういう手もある!」

 カズミは一歩身を引きながら、アサキの蹴り上がってくる足の脛へと、引っぱたくように手のひらを打ち下ろした。

「あいたっ! カズミちゃんが本気で殴ったあ!」
「はあ? 本気っつーのはだなあ……」
「いや本気じゃない、全然痛くなかったっ。だから、もう殴らないでええ。これ以上傷がついたら治らないよお」

 情けない声を出すアサキ。

「大丈夫だよ、そんな傷くらい。じゃあ次は、正拳突き、やってみな。さっきあたしや治奈がやってたように」
「押忍! ……えいっ」

 アサキは両足を開いて立つと、叫びながら右拳を突き出した。

「なんか、へっぴりだなあ。こうだよ、こう」

 カズミも両足を開いて立つと、せいやっと叫びながら空気も焦がしそうな鋭い正拳突きを見せた。

「こんくらい出来ないとヴァイスタとの戦いで生き残れないぞ。突きは格闘の基本。魔法少女といえば格闘。笑顔でステッキ振るって呪文唱えてりゃいい時代は、とっくの昔に終わってんだ!」
「え、そ、そうなの?」
「お前は十年前に流行ってた、魔法天使プリムラビーンを観たことが……正拳突き! と見せて後ろ回し蹴りい!」
「うわ!」

 唸りを上げて襲い掛かる拳の一撃を、アサキは情けない声を出しながらも腕をバタつかせてみっともなくかわし、続いて低い位置からぶうんと飛んで来る踵を、なんか変な仕草だがとにかく紙一重で後ろへ、高く大きく跳んで、かわしていた。

「おおーっ!」
「やるーーっ!」

 治奈たちギャラリーの歓声が上がった。

 華麗に着地を決めるアサキ。
 いや、何故かバナナの皮が落ちており、ハイお約束、滑って転んで、後頭部を強打した。

「うぎゅうううううう」

 両腕で頭を抱え込みながら、激痛をこらえて、ばったんばったん、打ち上がったばかりの魚さながらに転がっているアサキ。

 そのあまりのみっともなさに、さすがに同情を禁じ得ないといった表情のカズミは、のたうち回るアサキを見下ろしながら、ぼそり呟いた。

「運ねえな、お前。……当たり付き自販機、一生当たらなさそうだな」
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