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第八章 ダンス
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1
最低だ。
本当に。どう弁明しようもないくらいに。
ボスは、自身のことを色々と秘密にしていたけれど、わたしだって自分がこんななんだということ、ボスに絶対いえないよ。ボスだけじゃなく、他のみんなにも。
わたしは今、真っ暗で、平行感覚もまるでない中を、延々と落ち続けていた。
いや、それが落下なのか分からない。
天に吸い上げられているのかも知れないし、横へと激しく吹き飛ばされているのかも知れない。
どうでもいい。
このままどこかにぶつかって、木っ端微塵に砕けてなくなるのならそれでも構わない。
罰が当たったんだ。
善人の振りをして他人の不幸を笑っていたからだ。
罰が、当たったんだ。
だから、もう……
2
「コオロギ、ねえ、コオロギってば!」
「お姉ちゃん!」
ゆさゆさと肩を揺り動かされて、はっと目が覚めた。
目の前には、チームのユニフォーム姿で屈んでいるガソリンとフミ。
ここ、どこ?
「会議中に寝るとは、なかなか度胸がついてきたじゃねえか」
ボスが、やはりユニフォーム姿で腕を組んで、怒りを堪えているような表情でわたしを見下ろしていた。
わたしは慌てたように自身の服装を確かめた。みんなと同じ、ユニフォーム姿だ。
思い出した。ジョギング中に寄った児童公園での秘密会議の最中に、ふっと意識が落ちてしまったのだ。
我ながら器用に思うのだけど、片膝ついて屈んだ姿勢のまま眠ってしまったらしい。
「お前なあ、夜ちゃんと寝てんのかあ」
ボスが苦笑しながら頭を掻いた。
状況の理解が出来、先ほどまでのが夢であったことが理解出来た瞬間、
「あ……」
わたしはボスを見上げたまま、硬直してしまっていた。口を開くがまるで言葉にならず。気が付けばすっかり血が抜けたように全身が寒くなり、ぶるぶると震えていた。
見ていた夢が、あまりに恐ろしくて……
正確には、夢が恐ろしいというよりも、夢の中の自分が恐ろしくて。
楽しそうに笑っていたわたしが、恐ろしくて。
でも、あれは違う。
笑っていない。
わたしは他人の不幸を決して笑ってなんかいない!
絶対だ。
絶対、絶対、絶対。
ただし、ボスの秘密に興味があったのは事実で、その気持ちさえなければおそらくは家を訪問することもなかったわけで、つまりはあのようなところに遭遇してしまうことなどはなかったわけで……と考えると、確かにどう責められようとも弁解の言葉はない。
そうした自己嫌悪によって、昨晩はほとんど眠ることが出来なかったのだ。
また、そうした自己嫌悪によって、先ほどもあんな夢を見てしまったのだろう。
生まれてたかだか十一年の人生だけど、これまで何度も自分が嫌になることはあった。でもそれは、「なんで自分はこんなに声が小さいんだ」とか「もっとはっきり、ものをいえればいいのに」「また先回りしてクラス委員の立候補しちゃったよ」とか、そんなレベルのことばかりだった。要は、うじうじした性格から自分自身が窮屈でそれが辛い、という自分勝手な不満ばかり。
他人自身のことでここまで自己嫌悪になるだなんて、生まれて初めての経験だった。
こんなに眠れなかったことも、
授業中の居眠りだって、人生初だ。
先生にチョークを投げ付けられるという漫画みたいな経験をしたことだって。しかもそれが隣の松枝君に当たってしまうだなんて。わたし絶対、明日から松枝君にいじめられる。
「済みませんでした。昨日は、ちょっと眠れなくて」
わたしがそう謝ると、ボスの頬がほんの少しぴくり痙攣した。
何故眠れなかったのか、ということからみんなに怪しまれるような話になるのを恐れたのか、ただ単に昨日のことを思い出してしまったということなのかはわたしには分からない。
ボスの表情の変化にはっと気付いたわたしは、慌て、先回りして、
「あ、あ、いや、その、夜遅くにやってたドキュメンタリーが面白くって」
まったく適当なことをいった。「どんなの?」などと誰かに聞かれたらどうしよう、などと一人あたふたしてしまう。
「そんなんで寝不足になってりゃしょうがねえだろ。アスリートの端くれの端くれなんだぞ、自覚持てよ。いつかオリンピックに出て金メダルとるんだから」
「はい。気をつけます」
なんとかこの場をやり過ごすことが出来て、心の中で安堵のため息。
しかし、この野球チームをどこまでのものにしようと思っているのだろうか、ボスは。
オリンピック優勝とか、宇宙で一番とか、三次元空間最強とか、大袈裟な言葉がぽんぽん飛び出すからな。
それがボスらしくもあるのだけど。
本当に、いつも通りのボスだ。
いつ雄叫び上げて飛びつき関節技を仕掛けてくるか分からない、いつも通りの、ボスだ。
でも……
その、ユニフォームの下は……
あの時の記憶に併せて甦る、昨日のあの光景。
全部が全部、すべてが夢ならいいのに。
ボスは単なる恥ずかしがり屋。だから着替えを見られるのが嫌。
ただそれだけというのならば、本当に、良かったのに。
でも、あれは現実。
夢でも、幻でもない。
ガソリンやフミ、ノッポのなんとも気まずそうな態度からもうかがえるというものだ。
「そもそも、なんでまた公園?」
サテツが、ちょっと窮屈そうな表情で尋ねた。
だいぶしぼれてきたとはいえ、まだまだお腹にはたっぷりと脂肪がついているから、あまり伸縮性のないユニフォームのウエストがしゃがんだ体勢にはきついのだろう。
というだけの理由で辛そうにしていられるサテツが、ちょっと羨ましかった。
なにも知らないということは、どれだけ幸せなことか。わたしも可能なら、その時に戻りたい。タイムマシンがあるならば、過去のバカな自分を殴りに行きたい。
「盛り上がるからだよ」
ボスは、間髪入れず答えた。
以前にここで秘密会議を行なった時とまったく同じ答え。
違うのは、誰も「盛り上がってないじゃん」などとはいわなかったこと。
じゃあお前が歌い踊って盛り上げろ、などといわれてしまうから。
でも……
あえてわたしは、口を開き、みながいわないその言葉を、呪文のようにとなえてみた。
「盛り上がって、ないじゃないですか」
横暴で、元気なボスであって欲しくて。
人のいうことに過剰反応して激怒する、自分勝手なボスであって欲しくて。
わたしの期待するような反応は、なにも起こらなかった。
「まあな」
ボスはそういったのみだった。
無茶振りをされると思っていたのに。
裸になるとかは無理だけど、それ以外なら応じようと思っていたのに。
やっぱり、すこし丸くなっている?
丸くなったというのか、畏縮しているというのか、どういう言葉が適切かよく分からないけど。
昨日わたしが、本当のボスを見てしまったから、だからそう思うだけ?
それとも、今たまたま優しい気分のボスにになっているだけ?
「それで、今日の会議の内容はなあに?」
ドンが尋ねた。
「え? まだその段階?」
わたしは驚いた。
「お前がここに座るなり居眠りすっからだろ! ふざけたこといってっと腕へし折るぞ!」
ボスが怒鳴った。
折られるのは嫌だけど、でも腕に飛び付かれてうおおなどと絶叫されたりしたら、わたし少し安心しただろうな。
「実は昨日さあ、コタローからの頼み事をコオロギが預かって来たんだよ」
ああ、そのことか……
わたしはちょっとした罪悪感に、心臓がチクリ痛んだ。
別に緊急でもない用事だったというのに、つい興味本意でボスの家にまで訪れてしまったものだから、知らなくても良いことを知ってしまい、あのようなことになってしまったわけで……
「偉い人が学校に視察に来るからええかっこしたくて、とかそんな理由で練習に校庭を使わせてもらえるようになったってこと知っているよな?」
ボスの問いに、みな頷いた。
「なのにそのようなチームがあるというのを生徒の誰も知らないってわけにいかないから、いなほ祭りの時に体育館で自己紹介してもらうから考えとけ、だって」
その言葉に、突然ざわついた。
わたしたちはみな気弱で自己をアピールすることになれていないから、こうしたことをいわれると一気に不安になるのだ。変顔絶叫メンタルトレーニングを、ボスに何度もさせられているというのに。
「紹介文を檀上で読み上げるってこと?」
「誰が? ボスがっスか?」
「一人よりも少しずつ順繰りに読んだ方が、アピールになるよね」
「読み上げる後ろで、ずっとキャッチボールしているとか」
「上手く団員募集に利用しちゃってもいいのかな?」
「そうそう。それによって変わるよね」
「でも、あからさまに募集してますとかいうのもなんだよね」
「楽しいんだよってことを、どうさりげなくアピールするか、か」
みな顔を見合わせ口々に思い思いを語っている。
段々と方向性がズレている気もするけれど。
やっぱり、メンタルトレーニングの効果が出ているのかな。みな、思っていたより遥かに積極的だ。
「まず話の根っこの部分を確認するけど、主旨としては単にこのチームの紹介をするってことだよね? ということなら、つまりはいまみんなから出た、スピーチとか、キャッチボールとか、そういうのに絞れてくるんじゃない? あれこれ考えるまでもないと思うけどなあ」
というガソリンの問いを、ボスはあっさり否定した。
「いーや、確かに選手募集にも繋げたいとも思うし、どうせなら目立ちたいし、だったらいっそ野球と全然関係ないことやった方がインパクト強い」
「えー、詩吟とかあ?」
全然関係ないからって、なんだって詩吟が思いつくのか、ガソリンのセンスが分からないんだけど。
「コント」
「歌は?」
「獅子舞」
「バーベル上げ選手権」
「女子プロレス」
「甲高い声コンテスト」
「じゃあ、あたしたちの得意種目である変顔絶叫大会」
「別に得意種目じゃないよ!」
ガソリンに続いて、まあみんなアイディアが出ること出ること。最近みんな、こうした雑談に熱が入るようになってきているよな。
野球に声出しは大切だから、つまらないことまで喋れる仲になっているのは悪いことではないけれど。
「クイズ大会」
「カラオケ」
「エアロビ」
「料理教室」
しかし本当に、野球とまったく関係のない話になってきたな。みんなふざけ過ぎだよ。咄嗟に言葉が出なくて、獅子舞などといってしまったわたしもわたしだけど。
「じゃあ、ダンス踊っちゃう!」
フミが、身体を左右にくねらすようにしながら大声を出した。
「ダンスか。いいな、それ! 決定!」
ボスはぱちんと指を鳴らすと、その指をぴっとフミへ向けた。
「えーーーっ!」
「ダンス?」
「それはちょっと恥ずかしい」
「ちょっとどころじゃない……」
一斉に不満の声が上がった。
まあ当然といえば当然であるが、しかしよくよく考えるとコントとかバーベル上げとかプロレスとか高い声選手権とかエアロビとか、そっちの方がよっぽど恥ずかしくないか?
「お、恥ずかしいのか? 恥ずかしいならますます採用だあ!」
というボスの声に、わたしはどきっとして軽く肩をすくませた。
恥ずかしい、という言葉に。
現在わたしとフミ、ガソリン、ノッポに暗い影を落としている例の件も、「恥ずかしい」から来るガソリンの冗談が発端だったから。
だからボスは、強がってあえてその言葉に反応している気がして。
「よおし、見る奴らの度肝抜くぞお。大事な場でアホなことすんなってストップがかかるかも知れないから、コタローには絶対に内緒な。みんなで代わりばんこに紹介文を読み上げるだけって嘘ついとくから。ダンスの振りは、全部あたしが考えといてやるよ。今日か明日中にはアイディアまとめちゃうから、明後日のチーム練習の時から、早速練習前のウォーミングアップでやるぞ!」
ダンスと決まってから、妙にノリノリだな、ボス。踊るの好きなのかな。
しかし全部ボスが考える……って、一体全体どんなものが出来上がるのだろう。
なんといってもわたしたちのチーム名、ブラックデスデビルズだからな。それ考えたの、ボスだからな。
激しく、不安だ。
3
公園の敷地端にある茂みには、ボス、わたし、フミ、ガソリン、ノッポ、の五人がまだ残っている。
あとの五人は、ジョギングで学校へと戻っているところだろう。
ここにわたしたちを残らせたのは、ボスだ。幹部会議があるから、などと適当なことをいってサテツたちを先に戻らせたのだ。
「これからもこれまで通りだから」そういっていたボスだから、こうして秘密を知る者をわざわざ集めて話をしようというのは意外だった。「これからもこれまで通り」にしたいからこそ、秘密が秘密であるかを確認したいということかも知れないけれど。
ボスは、念のため周囲に視線を走らせて誰も人のいないことを確認すると、その視線をわたしたちへと向けた。
「みんな、あのこと……誰にも、話してないよな?」
更衣室で見てしまった、ボスの全身にある傷や痣のこと。さらにわたしに関しては、ボスの家でボスのお父さんとのやりとりや、殴り叩きつけるような音を聞いてしまったこと。ボスは、それらについて他言されていないか確認しているのだ。
わたしたちが真顔で頷くと、ボスの目から殺気走ったようなものがすうっと消えた。
「ありがと。黙っていてくれて」
ボスは、ボスらしくない口調、表情で、小さく頭を下げた。なんだかすべてが柔らかい、本当に、ボスらしくない感じで。わたしたちの知る、というだけのことであり、これこそが本当のボスなのかも知れないけど。
「黙っててくれてもなにも、まだまだ伝えていないことあるんだけどね……コオロギだけは知っていることなんだけど、要するに、家庭の問題なんだ。……いつか、その問題が解決しないまでも、あたしの中に些細でも納得が生まれたなら、その時はみんなに本当のことをいうよ。チームの、全員に。だから、だから、それまでは……」
ボスは言葉つまって、俯いてしまう。
「全力で野球をやるだけ、だね」
ガソリンが、唇の端を吊り上げてにいっと笑みを浮かべた。
ボスは、まさか天敵であるガソリンからそんな助け船が出るとは思っていなかったのか、ぽかんとした表情になっていた。
やがて、いつしか目に涙が滲んでいるのに気がつくと、指先で拭い、ずっと鼻をすすった。
ガソリンにつられて、フミの口元にも笑みが浮かんでいた。
ノッポは生来の仏頂面だから分からないけど、やはり微妙に口元が緩んでいるようだった。
こんな些細なやりとりではあるけれども、わたしは、結束の高まり、というのかな、そんな一体感を覚えていた。
そして、ボスの態度に戸惑いながらもほっと一安心。
決して自暴自棄になどなっておらず、むしろ前向きであることが分かったからだ。
大丈夫だ。
この先になにが待っているのかなど誰にも分からないけれど、でも、わたしは信じる。
すべては良い方向へ進んで行く、と。
ならば、わたしはボスに余計な心配をかけないですむように、ボスがボスの戦いを耐え抜くことが出来るように、せめてチームでのことや学校でのことを頑張ってフォローしよう。
となると、まずはチーム紹介のダンスか……
ちょっと、いや、かなり恥ずかしいのだけれど、どうなるんだろう。
本当にやらないとダメなのかな。
フミめ、まったく余計なことを提案するんだからなあ。
でもコントや高い声選手権よりはいいか。
あと、エアロビよりも。
4
「あいたっ!」
わたしは小さく悲鳴を上げて、床に崩折れお尻をついた。
フミのぶるんぶるんと激しく振る腰に、身体を突き飛ばされたのだ。
「お姉ちゃん、野球だけだなあ」
年下に押されてあっけなく倒れ込んで、その貧弱さに落ち込むわたしの貧弱なハートを、ぐさりダメ押しに突き刺す言葉。
確かにわたしは運動神経が優れている方ではない。野球だけは、これまでの経験のおかげでなんとかなっているというだけで。
でも、いまの台詞はちょっと酷いよなあ。
そもそもフミが、講師が指示しているのと反対方向に腰を振るから、腰と腰がぶつかったんじゃないか。
ダンスを提案したのフミのくせに、そっちこそなっちゃいないじゃないか。
まあいいけど。野球だけでもなにもないよりましだ。
居間のテレビを前にして、わたしたち二人がなにをしているのか、説明しておこう。
国営放送の、子供向けダンスレッスン番組を見ていたのだ。先ほど偶然、やっているのを知って。
なんとはなしに見ているうちに、どちらからともなく講師や生徒たちの真似をして踊り始めていたというわけだ。
自分から踊り始めたとはいえ、わたしは別に好きで楽しんでやっているわけではない。フミはどうだか分からないけれど。
学校で毎年秋に行われるいなほ祭りの時に、体育館で行われるチーム紹介で、インパクト狙いでダンスを披露することになったことは前述した。
みんなの前で踊るだなんて恥ずかしくてたまらないけど、だからってろくに練習せずまともに踊れない方がよっぽど恥ずかしい。だからこうして、ダンスとはなんぞやを仕方なくではあるが学んでいるのだ。
まだボスからどんなダンスになるのかなにも教えてもらっていないけれど、なんであれ事前にダンスに触れておくことは無駄にはならないだろう。「やっぱりダンスやーめた」などといわれない限りは。ボスって意外に気まぐれがないから、大丈夫だとは思うけど。
野球だけだなどとぐっさりハートを突き刺されたダメージからなんとか立ち直り、立ち上がったわたしであるが、テレビを前に一心不乱に踊るフミの姿に、なんだか加わるに加われず、ぽけーっと見てしまっていた。
フミは全然恥ずかしがることなく、まるで自分の方こそが講師であるかのように偉そうに踊っているけど、でもなんだかギクシャクしていて……変だ。
見ているうちに、思わずぷっと吹き出してしまった。
「あー、笑ったな」
「ごめん。でも、いいだしっぺのくせに、なんか動きがおかしいんだもの」
「お姉ちゃんだって人のこといえないじゃないかあ。……でも、お姉ちゃんは下手というよりただ恥ずかしがって踊らないって感じだけど」
「それは、恥ずかしいに決まってるでしょ。でもね、だから上手に出来ないというわけじゃないよ。わたし、野球以外の運動は苦手だからね。運動神経、フミよりないかも知れない」
「嘘だあ。お姉ちゃん、凄い運動出来るってえ」
なんだよ、さっきは野球だけだとか心臓ぐっさり突き刺して来たくせに。
「そんなことな……」
「ああ、やられたくそっ!」
隅のソファに寝そべっている、弟の俊太。ポータブルゲーム機で、最近買って貰ったソフトで遊んでいるのだ。
「ああ、そうだ俊太さあ、お楽しみ会でやる漫才はどうなったの?」
さして興味はなかったけど、なんとなく話し掛け尋ねてみた。いつまでもフミと、わたしの運動神経の話なんかしていても仕方ないから。
「教えな~い」
にべない回答が一瞬で戻って来た。
「おい君江、それ聞くのやめといてやった方がいいぞ」
と、割って入ったのは台所で晩御飯を料理中のお父さんだ。
今週はお父さんの担当。今日は珍しくお母さんが早く帰って来て、家にいるのだけど、先日料理に大失敗してしまったこともあり大人しくしている。
お父さんは続ける。
「なんでもな、相方である友達と大喧嘩して全部お流れになったらしい。なぞなぞを出す別の班に入れて貰ったらしいけど、班ごとの演じる時間の関係でなぞなぞ問題を増やすことも出来ず、他の子の出題に合わせて裏でハモるだけだって。友達と喧嘩別れになるわ、みっともない役どころ押し付けられるわ、本人相当に傷心状態だろうから、ほっといてやれ。あまり根掘り葉掘り聞くんじゃないぞ」
「それは……」
わたしは口ごもった。なんと、返せばいいのか分からなくて。
確かにそういうのって、些細なことではあるけども小さな子供の傷つくところだよな。場や空気を、上手にごまかす手法を知らないからな。
しかし、聞くのやめといた方がいいとか、根掘り葉掘り聞くなとかいっといて、お父さんが一人でぺらぺら全部いっちゃってるじゃないか。まったくもう、俊太を一番傷つけているのはむしろお父さ……
ぎゃっ! とわたしは絶叫していた。
背後から、Tシャツをぐわっと思い切りまくり上げられたのだ。
正面に誰も立っていないからまだ良かったけど、上半身をほぼ裸にされてしまった恥ずかしさに、わたしは顔をぼっと熱くしながら、慌ててTシャツの裾を掴んで下ろした。伸びて切れるくらい、ぐーーっと膝まで。
そおっと振り返ると、そこには俊太の姿。
ソファに寝そべってゲームしていたのに、いつの間に背後に回り込んだんだ。
それよりなにより、なんで攻撃対象がわたしなんだよ。なにをどう考えても、悪いのはお父さんだろう?
俊太は、あかんべえをすると、くるり踵を返し走り出した。
「待てえ!」
わたしも後を追って走り出す。
まあ、こうやってムキになって追い掛けたりするから、わたしを狙うのだろう。
居間を飛び出し、俊太の背中を追った。
俊太は廊下途中にある階段を上らず、真っ直ぐ玄関へ。いつも二階に自らを追い込んで捕まってしまうことを、ようやく学習したようだ。
玄関に、お母さんが立っている。
お客さんだか誰だかと向かい合っている。
俊太は裸足のまま玄関へと飛び降り、人と物の間をすっと抜けて外へと飛び出してしまう。
「こらっ! 靴履きな!」
お母さんの雷が落ちるが、俊太は聞く耳もたず。ただわたしをびくりとさせただけだった。
わたしは猛スピードでフル回転させていた足に急ブレーキをかけ、静止した。
誰かが玄関にいるというのに、みっともない姿を見せてしまった。回覧板を持って来た吉岡さんだったりしたら、また変なこといい触らされちゃうな。娘がガサツだとかなんとか。
だってあの人、そういうタイミングでばっかり来るんだもの。
吉岡さんの中では、わたしが一番の暴れん坊ってことになっているんだよな。
「え、ガソリン?」
わたしは驚き、ぽかんと口を開けた。
お母さんの向こう側、玄関に立っているのは、吉岡さんではなくガソリンだったのである。
「こんにちは……って時間には、ちょっと遅いかな」
ガソリンは恥ずかしそうな上目遣いで微笑みながら、軽く片手を上げた。
「ああ、なんだ。キミも知ってる子なんだ。フミのお友達だっていうから。フミ! フミ! お友達! 木ノ内さんて子が来たよ!」
5
「へーえ、姉妹二人部屋なんだあ」
ガソリンは、床に敷いたクッションに腰を下ろし両足をぴーんと真っ直ぐ伸ばして座りながら、きょろきょろ部屋中を見回した。
「別に珍しくもないでしょ」
兄弟がいるのなら、子供の頃の相部屋などは普通だろう。ましてや同性ともなれば、なおのことだ。
「そうなの? あたし一人っ子だからよく分からなくてさあ」
「友達の家に遊びに行ったことあるでしょ?」
「ない。友達いないもん」
自虐的なことをいいながら、はははっと明るく笑った。
そういえば、チームに加わる前のことはよく知らないけど、毒舌家だから友達がおらず一人でいつもハンドボールを投げている、などと周囲からいわれていたよな。確かに一人でボールを投げているのは、わたしもよく学校で見かけていた。
でもいざ仲間付き合いを始めてみたら、口は確かに悪いけど、優しくて気がきくしとっても良い子だった。
噂が噂を呼んでしまって、誰も寄り付かなくなったということなのかな。火のないところに煙は立たないというから、つまり口は災いの元、ということかも知れないけど。
「それにしても、フミの友達だとかいうから、びっくりしちゃったよ」
わたしは小さく笑みを浮かべた。
「ああ、そうね。同学年のコオロギの方を呼ぶのが普通だろうからね。いや玄関でさ、あれえコオロギの本名なんだっけ、って慌てて、咄嗟にフミの名前が出ちゃったんだ。そしたら、あらあフミのクラスのお友達? とかいわれて、はい、まあ、って。ごめんね、迷惑だよねえ、勝手に友達とかなんとかさあ。単なる野球仲間でしかないのにねえ」
ガソリンはなんだかわたわた慌てたように、俯きながら頭を掻いた。
「なにいってるの? もう、友達でしょ。わたしとも、フミとも」
大人の付き合いじゃないんだ。チームメイト=仲間=友達だ。
「え、え、そそ、そ、そ」
何故だか妙にあたふたして、意味不明の言葉を発するガソリンの姿に、わたしとフミはぷっと吹き出した。
「めめ迷惑でしょっ。……いいの?」
ガソリンは、床に両手をついたまま、身を乗り出すようにわたしたちへ顔を近付けてきた。
「いいもなにも、友達なんて自然になるものでしょう? というよりも、もうとっくになっているじゃない」
「あ、ああ、そうか。……そうかあ。友達かあ」
ははは、とガソリンはわざとらしい感じに笑った。それはなんだか、気恥ずかしさをごまかしているように思えた。
「姉ちゃん、遊ぼう」
俊太が、突然ドアを開けて顔を覗かせた。
「ごめん、いまお友達が来ているから」
「あたしが遊んであげるよ。じゃ、ガソリンさん、ごゆっくりい」
フミが、生意気に社交辞令などを述べ、部屋を出てて俊太とともに一階へ降りて行った。
部屋には、わたしとガソリンの二人きりになった。
多分、フミは気を使ってくれたのだろう。
ガソリンが、世間話をするためにここへ来たはずはないから。
これまで友達だと思っていなかった者の家に、ふらりと遊びに来るはずがないから。
だからきっと、あのことに関する話に決まっている。
フミも知ることであるとはいえ、わたしとガソリンの二人だけの方が話しやすい。
そう思ったのだろう。
「それで、なにか用事あって来たんでしょ?」
わたしは、話を切り出した。
わたしとしては別にこのまま世間話をしていてもいいのだけど、ガソリンはそうじゃないだろうから。
「あ、そうそう。そうなんだよ。悪いね、ご飯時に」
「ご飯の時間はまだまだだから、大丈夫だよ。なんなら、一緒に食べてく?」
「いや、それ悪いよ。それまでに帰るから」
「別に遠慮しなくてもいいのに」
「遠慮じゃないよ。あんまり、食欲がないんだ。……あたしね、ボスのあのこと……なんだか現実ではない気がしてしまってね。でも間違いなく現実なんだってことは、よく分かっていてね。考えても仕方ないことなのに、ふとどうしようもない気分になるんだ。野球を頑張るだけだ、なんて、ボスにはあんなかっこつけたこといったくせに」
「分かるよ、その気持ち」
わたしも、似たようなものだから。
「ボスがまだ黙っていてくれという以上は、自分の胸に納めておくしかなくて。でもあのことは、決して忘れてはいけないことで。……だから、迷惑かなと思ったけど、ここに来たんだ」
「あの……意味が分からないよ」
「ごめん、言葉が全然まとまっていなくて」
「……現実の出来事であるとはっきり再認識をするために、秘密を知る者同士での話をしたくて来た、ってこと?」
「そう。賢いねえ、キミい。……そういうこと。あたしの中でぐらつきかけている覚悟を、固めるためにね」
「大袈裟だなあ」
いつも軽口悪口ばかりいっているガソリンだけど、胸の奥は誰よりも純情なんだだな。仲間という存在に飢えていたから彼女であるからこそ、仲間のために尽くしたいのだろう。
別になにをするわけでないとはいえ、仲間を思うということ自体が彼女にとって尽くすことの一つなのだろう。
「そんなに大袈裟かな?」
「大袈裟だよ。でもね、わたしも似たようなことは思っていたんだ。大人に話してしまえば楽になるけど、ボスが望んでいない以上、自分らで抱えるしかないわけで。そういうことを選択した以上は、覚悟も必要になってくるのかな、って。子供の身で、責任なんか取れないかも知れないけど、でも、自分の気持ちに対しては、すべての責任を取るというか、取らなきゃいけないというか……。わたしも、考えが言葉にならず、わけ分からなくなっちゃっているね……」
「いや、分かるよ。……おんなじだ。コオロギの考えていることと、あたしの考えていること、まったくおんなじだ」
ちょっと嬉しそうなガソリンの表情。自分一人だけではないのだと、ほっとしたようだ。
わたしたちに共通のこの悩み迷いは、更衣室でボスの傷だらけの身体を見てしまったことから始まっていて、その発端はガソリンの悪戯から。だからこそガソリンは、誰よりボスのことを気にしているんだ。ぺちゃんこに押し潰されそうな重圧から、逃れたいと思っているんだ。
ガソリン、本当に良い子なんだな。
それだけに、今回の問題は色々と辛かっただろうな。
実の父親から虐待を受けていることは、わたししか知らないボスの秘密。まだみんなには話せないけど、特にガソリンには絶対だな。
だって、もしも知られてしまったら、ますます自分を責めてしまうだろうから。そんな深い心と肉体の傷を、自分が冗談半分で暴いてしまったのだ、って。
わたしも、虐待という事実を、自身の好奇心からボスの家を訪問し、結果的にではあるが暴いてしまっている。従って罪悪感は常に抱えている。
もしここですべて打ち明けてしまえば、罪悪感の共有という面では楽になるかも知れないが、まだ黙っているというボスとの約束を破ったという別の罪悪感に悩むことになるだろう。
だからこれだけは、まだ話すわけにはいかない。
でも……
ガソリンには、すべてお見通しのようだった。
「ボスは確か、家庭の問題だっていっていたよね。コオロギだけは詳しいこと知ってるみたいなことをいってたけど、聞かなくてももう答えいっちゃってるよね。……親から、暴力を受けているってことだよね」
知らない方がいいことなのに!
と、わたしは心の中で叫んでいた。
……なんで、探ろうとするかな。
なんで、そうやって首を突っ込もうとするかな。
暴いてしまったことによる苦悩、もう充分に味わったでしょう。
なんで、また繰り返そうとするの?
なんで……
そう思いながらも、
わたしは、静かに頷いた。
頷くしか、なかった。
「なんでまだ隠そうとしてることを知りたがるの、って思ったでしょ? もちろん、ボスがいいっていうまでは黙ってはいるよ。いまの話も、あたしなんにも聞いていない」
「ああ……えっと」
わたしが、なんと言葉を返せばよいものか困っていると、ガソリンはもっと返答に困るような言葉を続けた。
「あたしねえ、なにかにつけて思うんだよね。お母さんに、なれるのかなあ、って」
「ええっ?」
突然の言葉に、わたしは目をぱちぱちさせた。
唐突に話が変わったことに対してか、その内容に対してか、どちらにびっくりしたのかは自分でもよく分からなかった。分かっているのは、お母さんになるという言葉に対し勝手に想像をめぐらせて、わたしの顔がぽおっと熱くなっているということくらいだった。
「コオロギもさ、いつかお母さんになるんだよね」
赤面に追い撃ちをかけるようなガソリンの問いに、
「あ、あ、あの、あの、あの」
しばらく、あのしかいえないわたしだった。
それはわたしだって、いつかは結婚するんだろうなとは思う。わたしがどうこうというよりも、世間一般的に考えて。
もしそうなったならば、やはり世間一般的に考えて自分にも子供が出来るわけであり。
つまりそれは、わたしがお母さんになることに他ならないわけで。
いつも、お母さんといえばわたしのお母さんなのに、それがお母さんといえばわたし自身がお母さんになってしまうわけでそしたらわたしのお母さんはお母さんの、ああもう頭がこんがらがる!
でもやっぱり……
「想像、つかないや」
そうなっている未来が、映像が、まったく脳裏に浮かばない。そもそも、大人になっている自分というもの自体がまるで想像出来ないからな。
「そう? あたしはいつも考えているから。でね、未来に存在しているそのわたしの子供にさあ、昔お母さんはね、って色々な自慢話を聞かせられるように、大人になった時に昔の自分を誇れるように、そんなふうに生きたいんだ」
それは、素敵なことだ。と思ったけど、あまりに突拍子のない会話に、わたしはなにも言葉を返せずにいた。
こういおうかな、と、ようやくなにか返せる無難な言葉が浮かびそうになったところで、また状況が変わった。
「なのに……なのに、ボスに……あたし、ボスにっ」
ガソリンは不意に、ひぐっとしゃくり上げると、泣き出してしまったのだ。
ずっと止まっていたなにかを、自分が動かしてしまった。その責任に、どうしたら良いのか分からなくなってしまっているんだ。
いや、分かってはいても、どのように自分の気持ちを持てば良いのか分からないんだ。そこを割り切れるくらいなら、そもそもこうしてわたしの家になんか来ない。
他人のためにそこまで思うことが出来るだなんて、なんだか凄いな。
わたしはそんなことを考えていた。
そんな心の余裕のあることに、少なからずの申し訳なさを感じながら。
「優しいね、ガソリンは。……大丈夫だよ、ボスは別に怒ってなんかいないから」
むしろあれは、事が前へと進むきっかけになったのだから。とまでは、さすがにいえなかったけど。ボスが自分で話し、許すのならともかく、わたしがそれをいうのは違う気がして。
「優しいね」
わたしはもう一回いうと、えくえくと嗚咽するガソリンの身体を抱き寄せ、背中をさするように叩いてやった。
6
不意をつく猛烈な打球であったが、焦りを覚えるよりも先に身体が自然に反応していた。
ジャンプし、グローブをはめた左腕を精一杯伸ばす。
ばずっ、と左手に心地好い重みを感じた。軟球をキャッチした瞬間だ。
「ずえーったいにヒットだと思ったのにい! さすがコオロギさんだなあ」
アキレスは残念そうにバットを投げ捨てると、足元に置いてあるグローブを拾った。
わたしなんかをそんなに褒めても、なにも出ないのに。
ここは小学校の校庭。
いつも通りに、チーム練習をしているところだ。
アキレスはグローブをはめながら、走者ではなく野手としてファーストへ向かった。
入れ代わるように、ファーストを守っていたサテツがバッターボックスへと向かい、バットを拾い、握り、振り、構えた。
そしてわたしとフロッグがポジション交代。フロッグはセカンドに、わたしはピッチャーに。
現在、守備とバッティングの練習をしているところだ。
守備は、基本的には自分のポジションを担当するのだけど、いまはまだボスが来ていないので、外野が一人抜けてボスのポジションであるショートを埋めている。
バッティングに関してはオーバースローを打つ練習をした方がいいという理由から、これまではフロッグでなくわたしが投げることが多かったのだけど、内野の守備連係練習もしっかりやりたいということから、最近は半分半分であることが多い。
というわけで、これからわたしはピッチャー役をやるというわけである。マウンドって、ど真ん中に一人ぽつんだから、一向に慣れないんだけどね。でもそんなこともいっていられない。これは大切な練習だ。しっかりやらないと。
「行くよ」
わたしはグローブにそっと手を入れボールを取り出すと、ゆっくりと振りかぶり、上手で投げた。
バッターのサテツはまず様子を見るかなと思ってど真ん中に投げたのだけど、いきなり振って来た。
しっかりバットの真芯でボールを叩いて、思いのほか痛烈な当たりになった。
わたしの二メートルほど右を、ばしっと音を立てバウンドする。
振り向くと、ガソリンが腕を伸ばして横っ飛び。ぎりぎり届くかにも思えたけど、打球はグローブの先をかすめて、抜けた。
レフトであるバースが走り寄り、ボールを拾うが、一塁への送球はもう間に合わない。
サテツは悠々一塁へ。
「ああんもう! サテツがこんなバッティング上手になってると思わなかったあ!」
ガソリンは立ち上がって、土埃を払いながら悔しがり、地面を踏みつけた。
いつも通りのガソリンだ。
いや、昨日わたしの前で激しく泣いて、思い切り流した涙の分だけ、心身ともに軽くなっているようにも感じられた。
胸の中には、まだまだたくさんの苦い思いを抱えているんだろうけど。
それは、わたしだって同じだ。
でも、そう思えばこそ、いまを全力でやるしかないんだ。
いつかみんなで過去を笑うためにも。
「おーい! みんな集まれえ!」
ボスの大声。
校舎の方から、怒り肩でずんずんと歩いて来た。
仏頂面を作ろうとしているのかも知れないが、顔からなんともいえない嬉しさが滲み出ている。
ああ、そういうことか。
そのなんともいえない表情に、わたしはすぐピンときた。
きっとあれが……出来上がったんだ。
「完成したぜええ!」
みんなに囲まれながら、ボスは右手を高く掲げた。
右手に持っているのは、破り取ったノートの束のようであった。
「一人一枚!」
と、ボスはノートの紙片を一枚ずつわたしたちに配っていく。
手にした紙片を見ると、それは予想していた通りダンスの説明だった。
この時代、コピーという便利なものがあるのに、鉛筆で同じ内容を人数分書いたようだ。結構アナログなんだよな、ボスって。練習も根性論だし。
「なんかこれ、可愛いなあ」
ノッポは早速手にしたものを読みながら、生来のぶすっとした顔を少しだけにやけさせていた。
そのなんとも嬉しそうな様子に、わたしも慌てて内容に目を通した。
数十秒後、わたしの口から漏れたのは、なんともほんわか気の抜けたような間抜けなため息だった。
ノッポのいう通り、ダンスの内容があまりに可愛らしかったのである。
最低だ。
本当に。どう弁明しようもないくらいに。
ボスは、自身のことを色々と秘密にしていたけれど、わたしだって自分がこんななんだということ、ボスに絶対いえないよ。ボスだけじゃなく、他のみんなにも。
わたしは今、真っ暗で、平行感覚もまるでない中を、延々と落ち続けていた。
いや、それが落下なのか分からない。
天に吸い上げられているのかも知れないし、横へと激しく吹き飛ばされているのかも知れない。
どうでもいい。
このままどこかにぶつかって、木っ端微塵に砕けてなくなるのならそれでも構わない。
罰が当たったんだ。
善人の振りをして他人の不幸を笑っていたからだ。
罰が、当たったんだ。
だから、もう……
2
「コオロギ、ねえ、コオロギってば!」
「お姉ちゃん!」
ゆさゆさと肩を揺り動かされて、はっと目が覚めた。
目の前には、チームのユニフォーム姿で屈んでいるガソリンとフミ。
ここ、どこ?
「会議中に寝るとは、なかなか度胸がついてきたじゃねえか」
ボスが、やはりユニフォーム姿で腕を組んで、怒りを堪えているような表情でわたしを見下ろしていた。
わたしは慌てたように自身の服装を確かめた。みんなと同じ、ユニフォーム姿だ。
思い出した。ジョギング中に寄った児童公園での秘密会議の最中に、ふっと意識が落ちてしまったのだ。
我ながら器用に思うのだけど、片膝ついて屈んだ姿勢のまま眠ってしまったらしい。
「お前なあ、夜ちゃんと寝てんのかあ」
ボスが苦笑しながら頭を掻いた。
状況の理解が出来、先ほどまでのが夢であったことが理解出来た瞬間、
「あ……」
わたしはボスを見上げたまま、硬直してしまっていた。口を開くがまるで言葉にならず。気が付けばすっかり血が抜けたように全身が寒くなり、ぶるぶると震えていた。
見ていた夢が、あまりに恐ろしくて……
正確には、夢が恐ろしいというよりも、夢の中の自分が恐ろしくて。
楽しそうに笑っていたわたしが、恐ろしくて。
でも、あれは違う。
笑っていない。
わたしは他人の不幸を決して笑ってなんかいない!
絶対だ。
絶対、絶対、絶対。
ただし、ボスの秘密に興味があったのは事実で、その気持ちさえなければおそらくは家を訪問することもなかったわけで、つまりはあのようなところに遭遇してしまうことなどはなかったわけで……と考えると、確かにどう責められようとも弁解の言葉はない。
そうした自己嫌悪によって、昨晩はほとんど眠ることが出来なかったのだ。
また、そうした自己嫌悪によって、先ほどもあんな夢を見てしまったのだろう。
生まれてたかだか十一年の人生だけど、これまで何度も自分が嫌になることはあった。でもそれは、「なんで自分はこんなに声が小さいんだ」とか「もっとはっきり、ものをいえればいいのに」「また先回りしてクラス委員の立候補しちゃったよ」とか、そんなレベルのことばかりだった。要は、うじうじした性格から自分自身が窮屈でそれが辛い、という自分勝手な不満ばかり。
他人自身のことでここまで自己嫌悪になるだなんて、生まれて初めての経験だった。
こんなに眠れなかったことも、
授業中の居眠りだって、人生初だ。
先生にチョークを投げ付けられるという漫画みたいな経験をしたことだって。しかもそれが隣の松枝君に当たってしまうだなんて。わたし絶対、明日から松枝君にいじめられる。
「済みませんでした。昨日は、ちょっと眠れなくて」
わたしがそう謝ると、ボスの頬がほんの少しぴくり痙攣した。
何故眠れなかったのか、ということからみんなに怪しまれるような話になるのを恐れたのか、ただ単に昨日のことを思い出してしまったということなのかはわたしには分からない。
ボスの表情の変化にはっと気付いたわたしは、慌て、先回りして、
「あ、あ、いや、その、夜遅くにやってたドキュメンタリーが面白くって」
まったく適当なことをいった。「どんなの?」などと誰かに聞かれたらどうしよう、などと一人あたふたしてしまう。
「そんなんで寝不足になってりゃしょうがねえだろ。アスリートの端くれの端くれなんだぞ、自覚持てよ。いつかオリンピックに出て金メダルとるんだから」
「はい。気をつけます」
なんとかこの場をやり過ごすことが出来て、心の中で安堵のため息。
しかし、この野球チームをどこまでのものにしようと思っているのだろうか、ボスは。
オリンピック優勝とか、宇宙で一番とか、三次元空間最強とか、大袈裟な言葉がぽんぽん飛び出すからな。
それがボスらしくもあるのだけど。
本当に、いつも通りのボスだ。
いつ雄叫び上げて飛びつき関節技を仕掛けてくるか分からない、いつも通りの、ボスだ。
でも……
その、ユニフォームの下は……
あの時の記憶に併せて甦る、昨日のあの光景。
全部が全部、すべてが夢ならいいのに。
ボスは単なる恥ずかしがり屋。だから着替えを見られるのが嫌。
ただそれだけというのならば、本当に、良かったのに。
でも、あれは現実。
夢でも、幻でもない。
ガソリンやフミ、ノッポのなんとも気まずそうな態度からもうかがえるというものだ。
「そもそも、なんでまた公園?」
サテツが、ちょっと窮屈そうな表情で尋ねた。
だいぶしぼれてきたとはいえ、まだまだお腹にはたっぷりと脂肪がついているから、あまり伸縮性のないユニフォームのウエストがしゃがんだ体勢にはきついのだろう。
というだけの理由で辛そうにしていられるサテツが、ちょっと羨ましかった。
なにも知らないということは、どれだけ幸せなことか。わたしも可能なら、その時に戻りたい。タイムマシンがあるならば、過去のバカな自分を殴りに行きたい。
「盛り上がるからだよ」
ボスは、間髪入れず答えた。
以前にここで秘密会議を行なった時とまったく同じ答え。
違うのは、誰も「盛り上がってないじゃん」などとはいわなかったこと。
じゃあお前が歌い踊って盛り上げろ、などといわれてしまうから。
でも……
あえてわたしは、口を開き、みながいわないその言葉を、呪文のようにとなえてみた。
「盛り上がって、ないじゃないですか」
横暴で、元気なボスであって欲しくて。
人のいうことに過剰反応して激怒する、自分勝手なボスであって欲しくて。
わたしの期待するような反応は、なにも起こらなかった。
「まあな」
ボスはそういったのみだった。
無茶振りをされると思っていたのに。
裸になるとかは無理だけど、それ以外なら応じようと思っていたのに。
やっぱり、すこし丸くなっている?
丸くなったというのか、畏縮しているというのか、どういう言葉が適切かよく分からないけど。
昨日わたしが、本当のボスを見てしまったから、だからそう思うだけ?
それとも、今たまたま優しい気分のボスにになっているだけ?
「それで、今日の会議の内容はなあに?」
ドンが尋ねた。
「え? まだその段階?」
わたしは驚いた。
「お前がここに座るなり居眠りすっからだろ! ふざけたこといってっと腕へし折るぞ!」
ボスが怒鳴った。
折られるのは嫌だけど、でも腕に飛び付かれてうおおなどと絶叫されたりしたら、わたし少し安心しただろうな。
「実は昨日さあ、コタローからの頼み事をコオロギが預かって来たんだよ」
ああ、そのことか……
わたしはちょっとした罪悪感に、心臓がチクリ痛んだ。
別に緊急でもない用事だったというのに、つい興味本意でボスの家にまで訪れてしまったものだから、知らなくても良いことを知ってしまい、あのようなことになってしまったわけで……
「偉い人が学校に視察に来るからええかっこしたくて、とかそんな理由で練習に校庭を使わせてもらえるようになったってこと知っているよな?」
ボスの問いに、みな頷いた。
「なのにそのようなチームがあるというのを生徒の誰も知らないってわけにいかないから、いなほ祭りの時に体育館で自己紹介してもらうから考えとけ、だって」
その言葉に、突然ざわついた。
わたしたちはみな気弱で自己をアピールすることになれていないから、こうしたことをいわれると一気に不安になるのだ。変顔絶叫メンタルトレーニングを、ボスに何度もさせられているというのに。
「紹介文を檀上で読み上げるってこと?」
「誰が? ボスがっスか?」
「一人よりも少しずつ順繰りに読んだ方が、アピールになるよね」
「読み上げる後ろで、ずっとキャッチボールしているとか」
「上手く団員募集に利用しちゃってもいいのかな?」
「そうそう。それによって変わるよね」
「でも、あからさまに募集してますとかいうのもなんだよね」
「楽しいんだよってことを、どうさりげなくアピールするか、か」
みな顔を見合わせ口々に思い思いを語っている。
段々と方向性がズレている気もするけれど。
やっぱり、メンタルトレーニングの効果が出ているのかな。みな、思っていたより遥かに積極的だ。
「まず話の根っこの部分を確認するけど、主旨としては単にこのチームの紹介をするってことだよね? ということなら、つまりはいまみんなから出た、スピーチとか、キャッチボールとか、そういうのに絞れてくるんじゃない? あれこれ考えるまでもないと思うけどなあ」
というガソリンの問いを、ボスはあっさり否定した。
「いーや、確かに選手募集にも繋げたいとも思うし、どうせなら目立ちたいし、だったらいっそ野球と全然関係ないことやった方がインパクト強い」
「えー、詩吟とかあ?」
全然関係ないからって、なんだって詩吟が思いつくのか、ガソリンのセンスが分からないんだけど。
「コント」
「歌は?」
「獅子舞」
「バーベル上げ選手権」
「女子プロレス」
「甲高い声コンテスト」
「じゃあ、あたしたちの得意種目である変顔絶叫大会」
「別に得意種目じゃないよ!」
ガソリンに続いて、まあみんなアイディアが出ること出ること。最近みんな、こうした雑談に熱が入るようになってきているよな。
野球に声出しは大切だから、つまらないことまで喋れる仲になっているのは悪いことではないけれど。
「クイズ大会」
「カラオケ」
「エアロビ」
「料理教室」
しかし本当に、野球とまったく関係のない話になってきたな。みんなふざけ過ぎだよ。咄嗟に言葉が出なくて、獅子舞などといってしまったわたしもわたしだけど。
「じゃあ、ダンス踊っちゃう!」
フミが、身体を左右にくねらすようにしながら大声を出した。
「ダンスか。いいな、それ! 決定!」
ボスはぱちんと指を鳴らすと、その指をぴっとフミへ向けた。
「えーーーっ!」
「ダンス?」
「それはちょっと恥ずかしい」
「ちょっとどころじゃない……」
一斉に不満の声が上がった。
まあ当然といえば当然であるが、しかしよくよく考えるとコントとかバーベル上げとかプロレスとか高い声選手権とかエアロビとか、そっちの方がよっぽど恥ずかしくないか?
「お、恥ずかしいのか? 恥ずかしいならますます採用だあ!」
というボスの声に、わたしはどきっとして軽く肩をすくませた。
恥ずかしい、という言葉に。
現在わたしとフミ、ガソリン、ノッポに暗い影を落としている例の件も、「恥ずかしい」から来るガソリンの冗談が発端だったから。
だからボスは、強がってあえてその言葉に反応している気がして。
「よおし、見る奴らの度肝抜くぞお。大事な場でアホなことすんなってストップがかかるかも知れないから、コタローには絶対に内緒な。みんなで代わりばんこに紹介文を読み上げるだけって嘘ついとくから。ダンスの振りは、全部あたしが考えといてやるよ。今日か明日中にはアイディアまとめちゃうから、明後日のチーム練習の時から、早速練習前のウォーミングアップでやるぞ!」
ダンスと決まってから、妙にノリノリだな、ボス。踊るの好きなのかな。
しかし全部ボスが考える……って、一体全体どんなものが出来上がるのだろう。
なんといってもわたしたちのチーム名、ブラックデスデビルズだからな。それ考えたの、ボスだからな。
激しく、不安だ。
3
公園の敷地端にある茂みには、ボス、わたし、フミ、ガソリン、ノッポ、の五人がまだ残っている。
あとの五人は、ジョギングで学校へと戻っているところだろう。
ここにわたしたちを残らせたのは、ボスだ。幹部会議があるから、などと適当なことをいってサテツたちを先に戻らせたのだ。
「これからもこれまで通りだから」そういっていたボスだから、こうして秘密を知る者をわざわざ集めて話をしようというのは意外だった。「これからもこれまで通り」にしたいからこそ、秘密が秘密であるかを確認したいということかも知れないけれど。
ボスは、念のため周囲に視線を走らせて誰も人のいないことを確認すると、その視線をわたしたちへと向けた。
「みんな、あのこと……誰にも、話してないよな?」
更衣室で見てしまった、ボスの全身にある傷や痣のこと。さらにわたしに関しては、ボスの家でボスのお父さんとのやりとりや、殴り叩きつけるような音を聞いてしまったこと。ボスは、それらについて他言されていないか確認しているのだ。
わたしたちが真顔で頷くと、ボスの目から殺気走ったようなものがすうっと消えた。
「ありがと。黙っていてくれて」
ボスは、ボスらしくない口調、表情で、小さく頭を下げた。なんだかすべてが柔らかい、本当に、ボスらしくない感じで。わたしたちの知る、というだけのことであり、これこそが本当のボスなのかも知れないけど。
「黙っててくれてもなにも、まだまだ伝えていないことあるんだけどね……コオロギだけは知っていることなんだけど、要するに、家庭の問題なんだ。……いつか、その問題が解決しないまでも、あたしの中に些細でも納得が生まれたなら、その時はみんなに本当のことをいうよ。チームの、全員に。だから、だから、それまでは……」
ボスは言葉つまって、俯いてしまう。
「全力で野球をやるだけ、だね」
ガソリンが、唇の端を吊り上げてにいっと笑みを浮かべた。
ボスは、まさか天敵であるガソリンからそんな助け船が出るとは思っていなかったのか、ぽかんとした表情になっていた。
やがて、いつしか目に涙が滲んでいるのに気がつくと、指先で拭い、ずっと鼻をすすった。
ガソリンにつられて、フミの口元にも笑みが浮かんでいた。
ノッポは生来の仏頂面だから分からないけど、やはり微妙に口元が緩んでいるようだった。
こんな些細なやりとりではあるけれども、わたしは、結束の高まり、というのかな、そんな一体感を覚えていた。
そして、ボスの態度に戸惑いながらもほっと一安心。
決して自暴自棄になどなっておらず、むしろ前向きであることが分かったからだ。
大丈夫だ。
この先になにが待っているのかなど誰にも分からないけれど、でも、わたしは信じる。
すべては良い方向へ進んで行く、と。
ならば、わたしはボスに余計な心配をかけないですむように、ボスがボスの戦いを耐え抜くことが出来るように、せめてチームでのことや学校でのことを頑張ってフォローしよう。
となると、まずはチーム紹介のダンスか……
ちょっと、いや、かなり恥ずかしいのだけれど、どうなるんだろう。
本当にやらないとダメなのかな。
フミめ、まったく余計なことを提案するんだからなあ。
でもコントや高い声選手権よりはいいか。
あと、エアロビよりも。
4
「あいたっ!」
わたしは小さく悲鳴を上げて、床に崩折れお尻をついた。
フミのぶるんぶるんと激しく振る腰に、身体を突き飛ばされたのだ。
「お姉ちゃん、野球だけだなあ」
年下に押されてあっけなく倒れ込んで、その貧弱さに落ち込むわたしの貧弱なハートを、ぐさりダメ押しに突き刺す言葉。
確かにわたしは運動神経が優れている方ではない。野球だけは、これまでの経験のおかげでなんとかなっているというだけで。
でも、いまの台詞はちょっと酷いよなあ。
そもそもフミが、講師が指示しているのと反対方向に腰を振るから、腰と腰がぶつかったんじゃないか。
ダンスを提案したのフミのくせに、そっちこそなっちゃいないじゃないか。
まあいいけど。野球だけでもなにもないよりましだ。
居間のテレビを前にして、わたしたち二人がなにをしているのか、説明しておこう。
国営放送の、子供向けダンスレッスン番組を見ていたのだ。先ほど偶然、やっているのを知って。
なんとはなしに見ているうちに、どちらからともなく講師や生徒たちの真似をして踊り始めていたというわけだ。
自分から踊り始めたとはいえ、わたしは別に好きで楽しんでやっているわけではない。フミはどうだか分からないけれど。
学校で毎年秋に行われるいなほ祭りの時に、体育館で行われるチーム紹介で、インパクト狙いでダンスを披露することになったことは前述した。
みんなの前で踊るだなんて恥ずかしくてたまらないけど、だからってろくに練習せずまともに踊れない方がよっぽど恥ずかしい。だからこうして、ダンスとはなんぞやを仕方なくではあるが学んでいるのだ。
まだボスからどんなダンスになるのかなにも教えてもらっていないけれど、なんであれ事前にダンスに触れておくことは無駄にはならないだろう。「やっぱりダンスやーめた」などといわれない限りは。ボスって意外に気まぐれがないから、大丈夫だとは思うけど。
野球だけだなどとぐっさりハートを突き刺されたダメージからなんとか立ち直り、立ち上がったわたしであるが、テレビを前に一心不乱に踊るフミの姿に、なんだか加わるに加われず、ぽけーっと見てしまっていた。
フミは全然恥ずかしがることなく、まるで自分の方こそが講師であるかのように偉そうに踊っているけど、でもなんだかギクシャクしていて……変だ。
見ているうちに、思わずぷっと吹き出してしまった。
「あー、笑ったな」
「ごめん。でも、いいだしっぺのくせに、なんか動きがおかしいんだもの」
「お姉ちゃんだって人のこといえないじゃないかあ。……でも、お姉ちゃんは下手というよりただ恥ずかしがって踊らないって感じだけど」
「それは、恥ずかしいに決まってるでしょ。でもね、だから上手に出来ないというわけじゃないよ。わたし、野球以外の運動は苦手だからね。運動神経、フミよりないかも知れない」
「嘘だあ。お姉ちゃん、凄い運動出来るってえ」
なんだよ、さっきは野球だけだとか心臓ぐっさり突き刺して来たくせに。
「そんなことな……」
「ああ、やられたくそっ!」
隅のソファに寝そべっている、弟の俊太。ポータブルゲーム機で、最近買って貰ったソフトで遊んでいるのだ。
「ああ、そうだ俊太さあ、お楽しみ会でやる漫才はどうなったの?」
さして興味はなかったけど、なんとなく話し掛け尋ねてみた。いつまでもフミと、わたしの運動神経の話なんかしていても仕方ないから。
「教えな~い」
にべない回答が一瞬で戻って来た。
「おい君江、それ聞くのやめといてやった方がいいぞ」
と、割って入ったのは台所で晩御飯を料理中のお父さんだ。
今週はお父さんの担当。今日は珍しくお母さんが早く帰って来て、家にいるのだけど、先日料理に大失敗してしまったこともあり大人しくしている。
お父さんは続ける。
「なんでもな、相方である友達と大喧嘩して全部お流れになったらしい。なぞなぞを出す別の班に入れて貰ったらしいけど、班ごとの演じる時間の関係でなぞなぞ問題を増やすことも出来ず、他の子の出題に合わせて裏でハモるだけだって。友達と喧嘩別れになるわ、みっともない役どころ押し付けられるわ、本人相当に傷心状態だろうから、ほっといてやれ。あまり根掘り葉掘り聞くんじゃないぞ」
「それは……」
わたしは口ごもった。なんと、返せばいいのか分からなくて。
確かにそういうのって、些細なことではあるけども小さな子供の傷つくところだよな。場や空気を、上手にごまかす手法を知らないからな。
しかし、聞くのやめといた方がいいとか、根掘り葉掘り聞くなとかいっといて、お父さんが一人でぺらぺら全部いっちゃってるじゃないか。まったくもう、俊太を一番傷つけているのはむしろお父さ……
ぎゃっ! とわたしは絶叫していた。
背後から、Tシャツをぐわっと思い切りまくり上げられたのだ。
正面に誰も立っていないからまだ良かったけど、上半身をほぼ裸にされてしまった恥ずかしさに、わたしは顔をぼっと熱くしながら、慌ててTシャツの裾を掴んで下ろした。伸びて切れるくらい、ぐーーっと膝まで。
そおっと振り返ると、そこには俊太の姿。
ソファに寝そべってゲームしていたのに、いつの間に背後に回り込んだんだ。
それよりなにより、なんで攻撃対象がわたしなんだよ。なにをどう考えても、悪いのはお父さんだろう?
俊太は、あかんべえをすると、くるり踵を返し走り出した。
「待てえ!」
わたしも後を追って走り出す。
まあ、こうやってムキになって追い掛けたりするから、わたしを狙うのだろう。
居間を飛び出し、俊太の背中を追った。
俊太は廊下途中にある階段を上らず、真っ直ぐ玄関へ。いつも二階に自らを追い込んで捕まってしまうことを、ようやく学習したようだ。
玄関に、お母さんが立っている。
お客さんだか誰だかと向かい合っている。
俊太は裸足のまま玄関へと飛び降り、人と物の間をすっと抜けて外へと飛び出してしまう。
「こらっ! 靴履きな!」
お母さんの雷が落ちるが、俊太は聞く耳もたず。ただわたしをびくりとさせただけだった。
わたしは猛スピードでフル回転させていた足に急ブレーキをかけ、静止した。
誰かが玄関にいるというのに、みっともない姿を見せてしまった。回覧板を持って来た吉岡さんだったりしたら、また変なこといい触らされちゃうな。娘がガサツだとかなんとか。
だってあの人、そういうタイミングでばっかり来るんだもの。
吉岡さんの中では、わたしが一番の暴れん坊ってことになっているんだよな。
「え、ガソリン?」
わたしは驚き、ぽかんと口を開けた。
お母さんの向こう側、玄関に立っているのは、吉岡さんではなくガソリンだったのである。
「こんにちは……って時間には、ちょっと遅いかな」
ガソリンは恥ずかしそうな上目遣いで微笑みながら、軽く片手を上げた。
「ああ、なんだ。キミも知ってる子なんだ。フミのお友達だっていうから。フミ! フミ! お友達! 木ノ内さんて子が来たよ!」
5
「へーえ、姉妹二人部屋なんだあ」
ガソリンは、床に敷いたクッションに腰を下ろし両足をぴーんと真っ直ぐ伸ばして座りながら、きょろきょろ部屋中を見回した。
「別に珍しくもないでしょ」
兄弟がいるのなら、子供の頃の相部屋などは普通だろう。ましてや同性ともなれば、なおのことだ。
「そうなの? あたし一人っ子だからよく分からなくてさあ」
「友達の家に遊びに行ったことあるでしょ?」
「ない。友達いないもん」
自虐的なことをいいながら、はははっと明るく笑った。
そういえば、チームに加わる前のことはよく知らないけど、毒舌家だから友達がおらず一人でいつもハンドボールを投げている、などと周囲からいわれていたよな。確かに一人でボールを投げているのは、わたしもよく学校で見かけていた。
でもいざ仲間付き合いを始めてみたら、口は確かに悪いけど、優しくて気がきくしとっても良い子だった。
噂が噂を呼んでしまって、誰も寄り付かなくなったということなのかな。火のないところに煙は立たないというから、つまり口は災いの元、ということかも知れないけど。
「それにしても、フミの友達だとかいうから、びっくりしちゃったよ」
わたしは小さく笑みを浮かべた。
「ああ、そうね。同学年のコオロギの方を呼ぶのが普通だろうからね。いや玄関でさ、あれえコオロギの本名なんだっけ、って慌てて、咄嗟にフミの名前が出ちゃったんだ。そしたら、あらあフミのクラスのお友達? とかいわれて、はい、まあ、って。ごめんね、迷惑だよねえ、勝手に友達とかなんとかさあ。単なる野球仲間でしかないのにねえ」
ガソリンはなんだかわたわた慌てたように、俯きながら頭を掻いた。
「なにいってるの? もう、友達でしょ。わたしとも、フミとも」
大人の付き合いじゃないんだ。チームメイト=仲間=友達だ。
「え、え、そそ、そ、そ」
何故だか妙にあたふたして、意味不明の言葉を発するガソリンの姿に、わたしとフミはぷっと吹き出した。
「めめ迷惑でしょっ。……いいの?」
ガソリンは、床に両手をついたまま、身を乗り出すようにわたしたちへ顔を近付けてきた。
「いいもなにも、友達なんて自然になるものでしょう? というよりも、もうとっくになっているじゃない」
「あ、ああ、そうか。……そうかあ。友達かあ」
ははは、とガソリンはわざとらしい感じに笑った。それはなんだか、気恥ずかしさをごまかしているように思えた。
「姉ちゃん、遊ぼう」
俊太が、突然ドアを開けて顔を覗かせた。
「ごめん、いまお友達が来ているから」
「あたしが遊んであげるよ。じゃ、ガソリンさん、ごゆっくりい」
フミが、生意気に社交辞令などを述べ、部屋を出てて俊太とともに一階へ降りて行った。
部屋には、わたしとガソリンの二人きりになった。
多分、フミは気を使ってくれたのだろう。
ガソリンが、世間話をするためにここへ来たはずはないから。
これまで友達だと思っていなかった者の家に、ふらりと遊びに来るはずがないから。
だからきっと、あのことに関する話に決まっている。
フミも知ることであるとはいえ、わたしとガソリンの二人だけの方が話しやすい。
そう思ったのだろう。
「それで、なにか用事あって来たんでしょ?」
わたしは、話を切り出した。
わたしとしては別にこのまま世間話をしていてもいいのだけど、ガソリンはそうじゃないだろうから。
「あ、そうそう。そうなんだよ。悪いね、ご飯時に」
「ご飯の時間はまだまだだから、大丈夫だよ。なんなら、一緒に食べてく?」
「いや、それ悪いよ。それまでに帰るから」
「別に遠慮しなくてもいいのに」
「遠慮じゃないよ。あんまり、食欲がないんだ。……あたしね、ボスのあのこと……なんだか現実ではない気がしてしまってね。でも間違いなく現実なんだってことは、よく分かっていてね。考えても仕方ないことなのに、ふとどうしようもない気分になるんだ。野球を頑張るだけだ、なんて、ボスにはあんなかっこつけたこといったくせに」
「分かるよ、その気持ち」
わたしも、似たようなものだから。
「ボスがまだ黙っていてくれという以上は、自分の胸に納めておくしかなくて。でもあのことは、決して忘れてはいけないことで。……だから、迷惑かなと思ったけど、ここに来たんだ」
「あの……意味が分からないよ」
「ごめん、言葉が全然まとまっていなくて」
「……現実の出来事であるとはっきり再認識をするために、秘密を知る者同士での話をしたくて来た、ってこと?」
「そう。賢いねえ、キミい。……そういうこと。あたしの中でぐらつきかけている覚悟を、固めるためにね」
「大袈裟だなあ」
いつも軽口悪口ばかりいっているガソリンだけど、胸の奥は誰よりも純情なんだだな。仲間という存在に飢えていたから彼女であるからこそ、仲間のために尽くしたいのだろう。
別になにをするわけでないとはいえ、仲間を思うということ自体が彼女にとって尽くすことの一つなのだろう。
「そんなに大袈裟かな?」
「大袈裟だよ。でもね、わたしも似たようなことは思っていたんだ。大人に話してしまえば楽になるけど、ボスが望んでいない以上、自分らで抱えるしかないわけで。そういうことを選択した以上は、覚悟も必要になってくるのかな、って。子供の身で、責任なんか取れないかも知れないけど、でも、自分の気持ちに対しては、すべての責任を取るというか、取らなきゃいけないというか……。わたしも、考えが言葉にならず、わけ分からなくなっちゃっているね……」
「いや、分かるよ。……おんなじだ。コオロギの考えていることと、あたしの考えていること、まったくおんなじだ」
ちょっと嬉しそうなガソリンの表情。自分一人だけではないのだと、ほっとしたようだ。
わたしたちに共通のこの悩み迷いは、更衣室でボスの傷だらけの身体を見てしまったことから始まっていて、その発端はガソリンの悪戯から。だからこそガソリンは、誰よりボスのことを気にしているんだ。ぺちゃんこに押し潰されそうな重圧から、逃れたいと思っているんだ。
ガソリン、本当に良い子なんだな。
それだけに、今回の問題は色々と辛かっただろうな。
実の父親から虐待を受けていることは、わたししか知らないボスの秘密。まだみんなには話せないけど、特にガソリンには絶対だな。
だって、もしも知られてしまったら、ますます自分を責めてしまうだろうから。そんな深い心と肉体の傷を、自分が冗談半分で暴いてしまったのだ、って。
わたしも、虐待という事実を、自身の好奇心からボスの家を訪問し、結果的にではあるが暴いてしまっている。従って罪悪感は常に抱えている。
もしここですべて打ち明けてしまえば、罪悪感の共有という面では楽になるかも知れないが、まだ黙っているというボスとの約束を破ったという別の罪悪感に悩むことになるだろう。
だからこれだけは、まだ話すわけにはいかない。
でも……
ガソリンには、すべてお見通しのようだった。
「ボスは確か、家庭の問題だっていっていたよね。コオロギだけは詳しいこと知ってるみたいなことをいってたけど、聞かなくてももう答えいっちゃってるよね。……親から、暴力を受けているってことだよね」
知らない方がいいことなのに!
と、わたしは心の中で叫んでいた。
……なんで、探ろうとするかな。
なんで、そうやって首を突っ込もうとするかな。
暴いてしまったことによる苦悩、もう充分に味わったでしょう。
なんで、また繰り返そうとするの?
なんで……
そう思いながらも、
わたしは、静かに頷いた。
頷くしか、なかった。
「なんでまだ隠そうとしてることを知りたがるの、って思ったでしょ? もちろん、ボスがいいっていうまでは黙ってはいるよ。いまの話も、あたしなんにも聞いていない」
「ああ……えっと」
わたしが、なんと言葉を返せばよいものか困っていると、ガソリンはもっと返答に困るような言葉を続けた。
「あたしねえ、なにかにつけて思うんだよね。お母さんに、なれるのかなあ、って」
「ええっ?」
突然の言葉に、わたしは目をぱちぱちさせた。
唐突に話が変わったことに対してか、その内容に対してか、どちらにびっくりしたのかは自分でもよく分からなかった。分かっているのは、お母さんになるという言葉に対し勝手に想像をめぐらせて、わたしの顔がぽおっと熱くなっているということくらいだった。
「コオロギもさ、いつかお母さんになるんだよね」
赤面に追い撃ちをかけるようなガソリンの問いに、
「あ、あ、あの、あの、あの」
しばらく、あのしかいえないわたしだった。
それはわたしだって、いつかは結婚するんだろうなとは思う。わたしがどうこうというよりも、世間一般的に考えて。
もしそうなったならば、やはり世間一般的に考えて自分にも子供が出来るわけであり。
つまりそれは、わたしがお母さんになることに他ならないわけで。
いつも、お母さんといえばわたしのお母さんなのに、それがお母さんといえばわたし自身がお母さんになってしまうわけでそしたらわたしのお母さんはお母さんの、ああもう頭がこんがらがる!
でもやっぱり……
「想像、つかないや」
そうなっている未来が、映像が、まったく脳裏に浮かばない。そもそも、大人になっている自分というもの自体がまるで想像出来ないからな。
「そう? あたしはいつも考えているから。でね、未来に存在しているそのわたしの子供にさあ、昔お母さんはね、って色々な自慢話を聞かせられるように、大人になった時に昔の自分を誇れるように、そんなふうに生きたいんだ」
それは、素敵なことだ。と思ったけど、あまりに突拍子のない会話に、わたしはなにも言葉を返せずにいた。
こういおうかな、と、ようやくなにか返せる無難な言葉が浮かびそうになったところで、また状況が変わった。
「なのに……なのに、ボスに……あたし、ボスにっ」
ガソリンは不意に、ひぐっとしゃくり上げると、泣き出してしまったのだ。
ずっと止まっていたなにかを、自分が動かしてしまった。その責任に、どうしたら良いのか分からなくなってしまっているんだ。
いや、分かってはいても、どのように自分の気持ちを持てば良いのか分からないんだ。そこを割り切れるくらいなら、そもそもこうしてわたしの家になんか来ない。
他人のためにそこまで思うことが出来るだなんて、なんだか凄いな。
わたしはそんなことを考えていた。
そんな心の余裕のあることに、少なからずの申し訳なさを感じながら。
「優しいね、ガソリンは。……大丈夫だよ、ボスは別に怒ってなんかいないから」
むしろあれは、事が前へと進むきっかけになったのだから。とまでは、さすがにいえなかったけど。ボスが自分で話し、許すのならともかく、わたしがそれをいうのは違う気がして。
「優しいね」
わたしはもう一回いうと、えくえくと嗚咽するガソリンの身体を抱き寄せ、背中をさするように叩いてやった。
6
不意をつく猛烈な打球であったが、焦りを覚えるよりも先に身体が自然に反応していた。
ジャンプし、グローブをはめた左腕を精一杯伸ばす。
ばずっ、と左手に心地好い重みを感じた。軟球をキャッチした瞬間だ。
「ずえーったいにヒットだと思ったのにい! さすがコオロギさんだなあ」
アキレスは残念そうにバットを投げ捨てると、足元に置いてあるグローブを拾った。
わたしなんかをそんなに褒めても、なにも出ないのに。
ここは小学校の校庭。
いつも通りに、チーム練習をしているところだ。
アキレスはグローブをはめながら、走者ではなく野手としてファーストへ向かった。
入れ代わるように、ファーストを守っていたサテツがバッターボックスへと向かい、バットを拾い、握り、振り、構えた。
そしてわたしとフロッグがポジション交代。フロッグはセカンドに、わたしはピッチャーに。
現在、守備とバッティングの練習をしているところだ。
守備は、基本的には自分のポジションを担当するのだけど、いまはまだボスが来ていないので、外野が一人抜けてボスのポジションであるショートを埋めている。
バッティングに関してはオーバースローを打つ練習をした方がいいという理由から、これまではフロッグでなくわたしが投げることが多かったのだけど、内野の守備連係練習もしっかりやりたいということから、最近は半分半分であることが多い。
というわけで、これからわたしはピッチャー役をやるというわけである。マウンドって、ど真ん中に一人ぽつんだから、一向に慣れないんだけどね。でもそんなこともいっていられない。これは大切な練習だ。しっかりやらないと。
「行くよ」
わたしはグローブにそっと手を入れボールを取り出すと、ゆっくりと振りかぶり、上手で投げた。
バッターのサテツはまず様子を見るかなと思ってど真ん中に投げたのだけど、いきなり振って来た。
しっかりバットの真芯でボールを叩いて、思いのほか痛烈な当たりになった。
わたしの二メートルほど右を、ばしっと音を立てバウンドする。
振り向くと、ガソリンが腕を伸ばして横っ飛び。ぎりぎり届くかにも思えたけど、打球はグローブの先をかすめて、抜けた。
レフトであるバースが走り寄り、ボールを拾うが、一塁への送球はもう間に合わない。
サテツは悠々一塁へ。
「ああんもう! サテツがこんなバッティング上手になってると思わなかったあ!」
ガソリンは立ち上がって、土埃を払いながら悔しがり、地面を踏みつけた。
いつも通りのガソリンだ。
いや、昨日わたしの前で激しく泣いて、思い切り流した涙の分だけ、心身ともに軽くなっているようにも感じられた。
胸の中には、まだまだたくさんの苦い思いを抱えているんだろうけど。
それは、わたしだって同じだ。
でも、そう思えばこそ、いまを全力でやるしかないんだ。
いつかみんなで過去を笑うためにも。
「おーい! みんな集まれえ!」
ボスの大声。
校舎の方から、怒り肩でずんずんと歩いて来た。
仏頂面を作ろうとしているのかも知れないが、顔からなんともいえない嬉しさが滲み出ている。
ああ、そういうことか。
そのなんともいえない表情に、わたしはすぐピンときた。
きっとあれが……出来上がったんだ。
「完成したぜええ!」
みんなに囲まれながら、ボスは右手を高く掲げた。
右手に持っているのは、破り取ったノートの束のようであった。
「一人一枚!」
と、ボスはノートの紙片を一枚ずつわたしたちに配っていく。
手にした紙片を見ると、それは予想していた通りダンスの説明だった。
この時代、コピーという便利なものがあるのに、鉛筆で同じ内容を人数分書いたようだ。結構アナログなんだよな、ボスって。練習も根性論だし。
「なんかこれ、可愛いなあ」
ノッポは早速手にしたものを読みながら、生来のぶすっとした顔を少しだけにやけさせていた。
そのなんとも嬉しそうな様子に、わたしも慌てて内容に目を通した。
数十秒後、わたしの口から漏れたのは、なんともほんわか気の抜けたような間抜けなため息だった。
ノッポのいう通り、ダンスの内容があまりに可愛らしかったのである。
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