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「幸多!?ちょっと、どうしたの!?」
「お母さん!お母さんは?」
非常階段を駆け上がる幸多を必死に追いかける。
「お母さん!お母さん!!」
やっと追いついた時には、幸多は涙を流しながら卵に縋り付いていた。
全速力で走った足ががくがくと震える。
酸素を求めて早くなった鼓動がなかなか戻らない。
落ち着いて。
そう、手を伸ばしかけた、その時、室内にビシッという破裂音が響いた。
卵の中心に大きくヒビが入り、それが徐々に大きくなる。
泣くことも忘れた幸多が、それをぼんやり見ていると、卵の上部が蓋のようにずるりと落ちた。
「幸多?」
ぼんやりと眠そうな目をした母親が、不思議そうな顔で幸多を見つめている。
「お…かあさん」
「どうしたの?そんなに泣いて。何か悲しい事でもあったの?」
頬を優しくなでる母親に、幸多は声をあげて泣いた。
そっと部屋を出ると、ナオは幸多の家を後にした。
玄関を開けると、いつもと変わらない彼の卵がそこにあった。
手のひらを卵にあてると、わずかに温かい。
ずっと不思議だった。
私はこの人の名前も姿も知らない。
思い出せない。
「ねえ、あなたは誰?」
ずっと不思議だった。
なぜ、私は自分の事を何も覚えてないのか。
「ねえ、私は誰?」
窓を大きく開ける。
少し重い卵を抱えると、それをベランダから外に投げた。
綺麗な放物線を描き、白く光る卵はゆっくりと視界から消える。
何かが割れるような、鈍い音がしたような気がしたが、それを見届ける事無く部屋を出た。
こんな風に抱き着いて泣くなんて、いつぶりだろうか。
大きくなった頭を撫でると、懐かしさに胸が満たされる。
「本当にどうしたの?まるで赤ちゃんに戻ったみたいだわ。ほら、落ち着いて」
「お母さん。お母さん。良かった。帰ってきてくれて…。お父さんが居なくなってから、お母さんおかしくなってたんだよ」
「いやね。ずっと、一緒に居たじゃない」
離さないというように、腕に力を込める幸多が愛しくて抱きしめ返す。
「幸多。お父さんって…なぁに?」
「お母さん!お母さんは?」
非常階段を駆け上がる幸多を必死に追いかける。
「お母さん!お母さん!!」
やっと追いついた時には、幸多は涙を流しながら卵に縋り付いていた。
全速力で走った足ががくがくと震える。
酸素を求めて早くなった鼓動がなかなか戻らない。
落ち着いて。
そう、手を伸ばしかけた、その時、室内にビシッという破裂音が響いた。
卵の中心に大きくヒビが入り、それが徐々に大きくなる。
泣くことも忘れた幸多が、それをぼんやり見ていると、卵の上部が蓋のようにずるりと落ちた。
「幸多?」
ぼんやりと眠そうな目をした母親が、不思議そうな顔で幸多を見つめている。
「お…かあさん」
「どうしたの?そんなに泣いて。何か悲しい事でもあったの?」
頬を優しくなでる母親に、幸多は声をあげて泣いた。
そっと部屋を出ると、ナオは幸多の家を後にした。
玄関を開けると、いつもと変わらない彼の卵がそこにあった。
手のひらを卵にあてると、わずかに温かい。
ずっと不思議だった。
私はこの人の名前も姿も知らない。
思い出せない。
「ねえ、あなたは誰?」
ずっと不思議だった。
なぜ、私は自分の事を何も覚えてないのか。
「ねえ、私は誰?」
窓を大きく開ける。
少し重い卵を抱えると、それをベランダから外に投げた。
綺麗な放物線を描き、白く光る卵はゆっくりと視界から消える。
何かが割れるような、鈍い音がしたような気がしたが、それを見届ける事無く部屋を出た。
こんな風に抱き着いて泣くなんて、いつぶりだろうか。
大きくなった頭を撫でると、懐かしさに胸が満たされる。
「本当にどうしたの?まるで赤ちゃんに戻ったみたいだわ。ほら、落ち着いて」
「お母さん。お母さん。良かった。帰ってきてくれて…。お父さんが居なくなってから、お母さんおかしくなってたんだよ」
「いやね。ずっと、一緒に居たじゃない」
離さないというように、腕に力を込める幸多が愛しくて抱きしめ返す。
「幸多。お父さんって…なぁに?」
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