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『滅亡して男があんただけでも、絶対にあんたとはないわ』


 そうヒロインが言い切った漫画は、なんだったか。



 麗華は俺にとって、世界で唯一の人だった。


 
 そう。唯一の人だったんだ。



 なのに、俺は…。俺は。




 美香に迫られたとき、確かに欲情した。
 麗華に見惚れる事なんてなかった。



 触りたい。
 抱きたい。
 自分の下であえぐ顔が見たい。




『滅亡して男があんただけでも、絶対にあんたとはないわ』


 そう言っていたヒロインは、なんだかんだありながら結局結ばれていた。




 
 じゃあ、滅亡していなかったら?
 男の選択肢が複数あったら?



 ヒロインは男を選んだんだろうか。




 俺が麗華を愛しいと思っていた気持ちも、本物だったのだろうか。
 ほかの女に迫られて簡単に揺らいでしまうこんな気持ちが。




 麗華は可愛らしいと今でも思う。
 じゃあ、美人かって言われたら。そうじゃない。




 こんな事、考えもしなかったのに…。



 人の顔が見えるようになってから、麗華と周りを比べている自分が嫌になる。
 


 散々、見た目で嫌な思いをしたくせに、自分が見た目で人を判断している事に吐き気がする。



 こんな、自分が麗華の隣にいていいはずない。
 居る事なんてできない。



 もう、前のように愛せないかもしれない。
 それを実感として受け止めるのが、怖い。



 美香が「二人だけの世界」と言った時に、それもいいかも知れないなんて思ってしまっていた。


 きらきらした目で、つやつやした肌で、艶めかしい唇で。
 毎日のように紡がれる好意の言葉は、まるで麻薬のようにありえないほどの幸福感を満たしてくれた。




 きっと、比べてしまう。



 あの熱に浮かれたような執着の塊のような瞳と。
 しっとりとして、透き通ったすべすべの肌と。
 赤く熟れた果実が唇の間から誘うようにちらちら見える唇と。





 戻りたい。



  

 けど。
 もう、戻れない。




 娘の名前が美華だと知った。




 どおりで母親が言い辛そうにしている訳だ。
 二人で考えた名前になっていると思っていた俺は、まさか麗華が名前を変えたとは想像もしていなかった。




 美香と美華。




 美香を思い出せば、美華を思い出し。
 美華の事を考えれば、美香が出てくる。



 その日、離婚届にサインする決意をした。

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