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ひょんな事から魔王になりました。誰かかわってくれませんか?

2.そんなこんなで、魔王になったらしいです。

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 朝、目が覚めるとやっぱり左手に魔王の紋章が浮かんでいるし、左目は紫のまま。

 えっ?どうするのこれ。

 とりあえず、いつも指先に穴が開いている手袋しているから、左手はそのままでOK。
 左目は、眼帯して。

 …なんとかなるだろう。多分。
 楽観的に物事を考えられるのは、僕の良い所だよね。

 いつものように食堂に下りて行く。
 一番下っ端な僕は、どこに行くにも不便な北棟の最上階に部屋を設けている。階段は健康の為の運動不足解消とでも思わないとやってらんないよね。

 と、勇者様ご一行が利用する時間にぶつかってしまった。

 くそ。
 いつもならご飯終わっている時間なのに、朝の準備に手間取ってしまった。

 勇者様は左に聖女、右に賢者と聖剣士をつれ、さらにその後ろをぞろぞろと子猫ちゃんを引き連れて歩いている。

「コリー!どうしたんだ、その眼?」

 勇者様が目ざとく見つけると、駆け寄るようにこちらにやってくる。
 なんで、こっちに来るんだよ!

 勇者ネイト。
 金色のキラキラした髪に、青い瞳。勇者より、どこかの王子の方がしっくり来るんじゃないかというような甘いマスクをした男だ。鈍感なのか、天然なのか、計算なのか。
 とりあえず、どこかの貴族の生まれだという事までは知っているが、それ以上の情報は正直興味が無いから知らない。

 ネイトが心配そうに、コリーの顔を覗きこむ。

 覗きこまれる=僕が小さい。

 やっぱり、こいつ嫌いだ。

「なあ、ディア。コリーの眼を治してくれないか?」

 そう話を振られた聖女ディアは少し困ったように、首を傾げた。

 聖なる力が宿るという銀色の髪に、神秘的な緑の瞳。全体的に色素が薄いのか、その肌は透き通るように薄い。
 少し垂れな目は、いつも慈愛に満ちた眼をしている。

 が、世間の評価です。

 僕としては、肌の色と同じくらい薄い白い生地の服に、何で胸元だけそんなに強調してるのっていう特注の服を着ている時点で。あざとさしか感じないんだけど。
 信者も教会関係者も女神様の再来とかいって、かなり信仰しているらしいし。

 心の中で、アザージョと呼んでいるのは秘密だ。

 はいはい。そうですよ。僕がひねくれているだけですよ。
 
 でも、ここで治療されるのはまずい。

 僕は腰を少し掲げると、聖女にかしずく様に頭を下げた。

「普通にものもらいなので、聖女様の力を使うまでもありません。その聖なる力は尊きものたちの為にお使いください」

 ディアは、コリーのその言葉を聞くと、にっこりと笑った。

「それもそうね」

 「それもそうね」と返された。
 自分から言ったけど、僕は尊くないんかい!と心の中で突っ込んでみる。

 だめだ。メンタルが削られる。
 その場を立ち去ろうと席を見回すが、子猫ちゃんたちがお行儀よく席についてしまっていて、勇者一行の側しか空いていなかった。

 ネイトが「ここ、ここ」っと何故か隣の席を指差している。

 子猫ちゃんたちー。勇者様の隣空いてますよ~。

 ため息を飲み込んで、席につく。

 今日のランチは、分厚い肉をカリカリに焼き上げたバンズに挟んだバーガーに、季節の野菜、それに野菜のポタージュだった。
 すごく美味しそう。なんだけど…。
 僕、肉苦手なんだよね。
 あごが疲れるから。

 野菜をぽりぽり食べていると、隣に座るネイトが話しかけてくる。

「コリー!また、そんな野菜ばかり食べて。もっと、肉を食べないと大きくなれないぞ」
「いや、…肉も食べてるけど」
「食べてるって。いつもつまむ位で、野菜ばかり食べてるじゃないか」
「時間は掛かるけど、残しては居ない」

 何食かに分けているだけだ。

「いいかい、コリー。この量は一食なんだ。これを何回かに分けて食べたからって、栄養が足りている訳ではないんだ」
「はぁ」
「栄養学は学んだ事があるか?人間に必要な栄養素を学ぶ事、まずはそこから始めてみるのはどうだろうか?勉強だったら俺も付き合えるし」
「いや、めいわ…結構です。間に合ってます」
「間に合ってるというのは、栄養学は学んだ事があるんだね。よし、じゃあ、実践がだめなのか」

 話聞け。
 迷惑だ!って言ったら、全方向から攻撃される事が分かっているから、破けたオブラートに包んで言ってるんだろって。
 この伝わらない感。本当、やだ。

 なんだ、こういうの。熱血馬鹿?
 勇者の固有スキルの弊害なのか?

「あの、ネイト様」

 ぶつぶつ、食べ易いご飯について呟いているネイトに、ディアが祈るような眼を向けながら話しかける。

「どうしたの?ディア」

 ディアは、両手を前に祈るように組みながら、深く息をすると、意を決したように声を出した。

「不安なのです」
「不安?」
「はい。昨日から、何か大きな黒きものが近くに居るような…。そんな気がするのです…」

 おおっ、正解!
 昨日から、(たぶん)魔王になった僕がここにいまーす!

 なんて、声に出せないけど。

 そんな事を心の中で考えていたら、聖女様と目が合った。

「あなた…。その眼、本当にものもらいなの?」

 それは疑惑の眼。

 聖女様の力は伊達じゃないって事か。

 どうしたもんかと考える間もなく、聖剣士のラデイが鼻で笑った。

 聖剣士のラデイ。燃える様な赤い髪は腰よりも長く、それを頭頂部で一つに縛っている。瞳の色も髪と同じく燃えるように赤い。南の方にある民族の族長の娘らしく、本来は村から出る事もなかったが、聖剣士のスキルと勇者ネイトの隣に立ちたいという希望からここに席を置くようになった。
 
 髪と瞳と同じ、赤く輝くアーマー。なんでも、赤は命の色といわれているらしい。

「それ以上、言わないであげなさいよ。何でも、東の国では『中二病』って病があって、自分が特別な力を得たとか、人とは違うんだなんて妄想に取り付かれる病気があるらしいし」

 ですよねー。
 そちらは露出狂って病をわずらってらっしゃるようですし。

 ほら、聖女様治してあげてくだいよ。
 聖剣士なのに、何で素肌そんなに出しているですか?
 怪我しますよ?
 見られると興奮して、戦闘力でもあがるんですか?
 聖剣士の聖の字って、もしかして性の方?あらやだ。
 アーマーって名ばかりの、それビキニじゃないんですか?
 始めてみた時に本当、「あ、いまから海水浴に行くんですか?」って本当に言いそうになりましたよ。
 
 心の中で、東の国の言葉でふんどしというものがあるらしい。
 うん。名前、アカフンにしなよ。似合っているよ。

 アカフ…もとい聖剣士ラデイ様は、そりゃ、並み居る剣士も戦士も兵士も全部押しのけてここに立っている訳で。戦闘の能力値は勇者と互角と言われている位の実力の持ち主だったります。
 露出狂って所も、快活で素晴らしいという評価もされている立派な方です。

 何度もいうけど、僕がひねくれているだけだから。

「茶化さないで、本当に感じるのよ」
「感じるって、どんな風なのよ。なんか、あなたの言い方、抽象的で分かり辛いのよね。もっと、これって言う明確な言葉で表現してよ」
「ディア。どう?出来そう?その不安の、具現化っていうのかな」

 ネイトに励まされて、ディアは覚悟を決めたように頷くと、眼を閉じ集中し始めた。

「小さい…。何か…黒くて、うごめくような…」
「あー、それはそこにゴ○ブリが居るからじゃないですか?」

 テーブルの上を指差すと、やっべ見つかった!的に奴は全力で逃げ出した。

 ぎゃーっと響く悲鳴の中、僕はのんびり野菜のポタージュをすすった。

 うん。今日も飯がうまい。

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