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第四章 魔法学校編

96 パートナー枠

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「何でそんなに浮かない顔なんだ?」
「うーん、これから行く場所がとってもやばい場所だから」
「やばい場所なんてあるのか?」

 部屋を出た俺とレオは入学準備のため次なる場所へと向かっていた。やばい場所と言うのはどういった意味でのやばい場所なのかよくわからない。戦場でも行くわけじゃあるまいし、本部内にそんな場所が存在するというのだろうか。レオの曖昧な返答に俺は首を傾げた。

「着いたら分かるって、天才で変態な男がいる場所だから。魔法の杖もあの人ならきっと簡単に作っちゃうぜ」
「天才で変態……」

 どうやら俺の為の杖を貰いに行く場所にいる人物が変な人物らしい。変態ならこの世界に来て数人出会っている。かくいう目の前で怠そうに歩いているレオだって変態のうちの一人である。それに若くして大勢の兵士たちをまとめ上げる隊長をしており天才だ。そんな彼が言うぐらいなのだから、相当変わった人物であることが予想できる。
 城の中は無駄に広く外に出るだけでも時間がかかる。今のうちにレオが知っている潜入調査の内容について聞き出しておこうと色々と彼に質問することにした。

「なあ、俺はどう言う立ち位置で入学することになっているんだ? ヘスティア魔法学校ってお坊ちゃま学校なんだろ?」

 リズは俺を潜入させるために婚約者のフリをさせたと言っていたが、それだけで潜入できることになるのだろうか。それにレオも一緒に潜入するが同時に二人が編入って、怪しがられそうだ。

「サタローはクロノス王国にある片田舎の公爵家の跡取り息子でリズに一目惚れして、猛アタックの末、その粘り強さに惚れたリズが婚約をオッケーしたって設定だってリズが言ってたぞ」

 なんだその設定初耳なんですけど……いらない設定がてんこ盛りな気がする。公爵家の跡取り息子だけで十分だろ。まぁ設定など、目に見えるものでは無いのでリズの勝手な妄想にすぎ無いのだが、彼女とソフィさんがその設定を二人で考えていた場面が目に浮かんで胸焼けしそうだ。

「因みに俺はサタローのパートナー枠で入ることになってるから、よろしくねー」
「パートナー枠?」

 俺のもう一つの質問にレオは得意そうに答えた。
 一般入試とか推薦入試、AO入試やら入学の方法は様々存在するがパートナー枠は聞いたことがない。最近では様々な受験の方法がありややこしいと思っていた矢先に召喚されてしまった男子高校生のため、もしかしたら自分が知らないだけで、前の世界にも存在していた入学方法なのかもしれない。多分ないと思うけどね。

 レオによるとパートナー枠というのは、お坊ちゃま学校によくある特殊な入学方法なのだとか。簡単に言えば自分の相棒を一緒に入学させようという制度らしい。相棒といえば聞こえはいいが、要は側近、召使いと言ったところである。
 レオ曰く「中流、下流貴族が上流貴族にペコペコして金魚のフンみたいに引っ付いて入学する制度だよ。ウッエー、くだんねー」とのこと。貴族に生まれたからといって皆が皆裕福な暮らしをしているわけではなく、色々と事情を抱えている。そんな奴らがいる学校の雰囲気がいいとは思えないので、気になるような気が引けるような思いになってしまった。

「でもサタローは公爵家のご子息設定で、おまけに女王の婚約者だぜ。誰もは向かってきたりしないから大丈夫だよ」
「……ならいいけど」

 ヘスティア魔法学校はクロノス王国にある学校だ。その国の王女の後ろ盾がある男を虐めるような無謀な人間が現れる訳がないと言うことらしい。ただ、そういうのを気にせずにところ構わず嫌がらせをする連中は何処にでもいるらしい。他国の連中は特にそうだとか。クロノス王国は豊かな国ではあるものの、ここ数十年の間で栄えた国であり、他国に比べると歴史はまだ浅いそうだ。歴史の長い国からは舐められることもあるらしい。
 それにリズは虐められる様なやわな男を許さないタイプであり、やられたら倍返ししてこいというだろうとレオに言われた。そうなると俺は虐められるかもしれないし、それをリズにチクったところで意味がないのかと少し絶望した。しかし、婚約者(仮)に虐められたとチクってやり返してもらうとか男として余りにもダサすぎる行動はひ弱な俺でもできないので、そこは気にせずいじめられませんようにと祈ることにしよう。

 何かあったらレオに相談すればいい。とにかく今は入学の為の準備に集中することにした。

「お! ルディじゃねーの、お前も来るかー」
「なんだよレオ……どこ行くんだよ」

 ここで、一人歩いている第一連隊に所属する、つまりレオの部下にあたるルディに出会った。上司である筈の彼の声を聞き、面倒くさいという表情を隠すことなく顔に出している。それでいいのかと突っ込みを入れたくなる所だが、彼らの関係は上司と部下というよりは、兄弟という感覚に近いのだとある程度関わり合うことで分かってきた。そんな嫌そうな顔をしているルディを気にすることなくレオが笑顔で応える。

「お兄ちゃんがいるところ~」
「!! …………い、行かない!」

 レオの言葉に一瞬驚いた顔をした後に険しい顔をしたルディが少し声を荒げてそう答えた。なんだかいつものルディとは様子が違うようだが、レオはそんなルディを見ても驚く事はなく、

「あぁ、そう」

と言うだけだった。

 ルディはその後、浮かない顔のまま足早に俺たちの前から立ち去っていった。
 何のことだか分からない俺だが、今の状況を見て気になることを一つ聞く。

「お前って兄貴いたの?」
「え? いる訳ないじゃーん、何言ってんの?」

 お前が言ったんだろとツッコミたくなったが、面倒くさいのでやめておいた。
 



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