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第四章 魔法学校編

95 魔法の杖

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「えーっと、俺はこれからどうすればいいのでしょうか……」

 「後はよろしくね~」と、言われたはいいもののその学校が何処にあるのかもどうやって行くのかもいつ行くのかも、俺は何も知らない。そもそも魔法学校へ行くのに魔法が使えないなんてあって良いのだろうか。静寂が続く中で俺が口を開く、応えたのは俺をこの場へ連れてきた張本人のパスカルだった。

「潜入するのは一週間だ。それまでに色々と準備をしないとな」
「準備って……入学手続きとかか?」

 学校に入るのに必要なことといえば、いろんな手続きが必要だろう。書類を書いたり、教科書を揃えたり、制服の採寸したりやることは多い。残り一週間で準備できるのか不安に思っていると意外な言葉がパスカルから返ってきた。

「魔法の杖を作ることだ」
「魔法の……杖」

 魔法使いといえば魔法の杖というのは定番である。研究所のティータイムの時にロキとラケルさんに聞いたことを思い出す。この世界では魔法が当たり前のように使え、簡単な魔法は杖が無くとも扱うことができる。物を浮かせて引き寄せたり、電気をつけたり、カーテンを開けたりそういう簡単な魔法ならその人が思うだけで杖がなくとも扱うことができる。ただ、火を起こしたり水を生み出したり、シールドを出したりするような、ない物を生み出す事は杖などの魔導具がないと難しいと言っていた。できない訳ではないが、人間の寿命期間の中ではとてもではないが習得はできないらしい。

 ついでにこんな噂話があることも教えてくれた。パスカルは世界最強の魔法使いであるとかないとか……。という噂話が俺がこの世界に来る前に出回ったらしい。ロキが本人に直接聞いたところ「わしが? ないない、ただ少し長生きしているだけの可愛い少年じゃ」と、返されたとか。まず、パスカルが魔法使いなことを初めて知った。髪を乾かしてくれたりはしたが、まともな魔法を使っているところを見た事がない。それに最強の魔法使いなら、医療班などには回らずもっと戦闘向きな隊に所属しているはずだ。本人に直接聞けばいいのだが、はぐらかされるのが関の山だし、今は関係ないので置いておこう。

 話を戻し、杖が必要ということはヘスティア魔法学校では、高度な魔法を習う学校という事になるだろう。そんな学校に俺みたいなのが潜入してやっていける訳がない。リズには魔力を貰っている事は言ったが、全く作れない事は言っていないから仕方がないのだが、それを知っているはずの4人がなぜ止めなかったのかが不思議でたまらない。まぁ、王女様のお願い……命令なら逆らえないというのが本当のところだろう。

「魔力使ったら俺の寿命が縮むのですが……そこのところは大丈夫なのでしょうか……」
「そこのところは、何とかなるからノープログラム! な、パスカル! だからサタロー、一緒に頑張ろうね~」

 何か作があるようで、レオが笑顔でパスカルに目配せをしている。調子の良いレオに若干引いているパスカルと何だか納得していないという雰囲気のアルとギルがいるが、二人を他所に楽しそうにしているレオ。一人よりかはマシだが、レオというのは少々不安が残るところだ。でも、学校なのだからアルやギルの年齢で学生はさすがに厳しいところがある。教師の立ち位置ならいけるだろう。二人の教師姿、ちょっと見てみたい気もする。

「お二人さんご不満そうな顔をして、どうしたんですか~。流石に学生って年齢は厳しいですから、ここは俺らに任せてくださーい。ねぇ、サタロー」
「ちょ、お前、まぁ、頑張るけど……」

 レオは憎たらしくいらないことを言い二人にちょっかいをかける。確実に二人の表情が変わっていく。ギルはレオをギロリと睨む。新入りの兵士なら気絶しているレベルで怖い。ギルとは異なり笑顔のアル。逆に怖い。

「そうだね、我々は学生というのは無理があるから今回ばかりはレオに頼むしかない。報告は逐一するように頼んだよ」
「あ、うん。わかってるよアル」

 レオの嫌味ったらしい言い回しも何のそので笑顔で対応するアルにつまらなそうな顔をしたレオ。

「報告などろくにしないお前だからな。レオの面倒ちゃんと見とけよサタロー」
「えっ、俺?!」
「ちょっと! 俺がサタローの護衛なんですけど!」

 こんな感じでギルも表情とは違い済ました顔で軽口を叩く余裕を見せている。冗談なのかは正直微妙なところだけど。レオの反応に二人は調子が良くなった様子であり、レオは何だか不満そうな顔になっている。二人の手にかかれば、調子に乗るレオもあっという間に鎮められるのだ。見習いたいところである。

「まあ、そういうことだからあとはレオに任せるとするか。杖の依頼はしてあるから取りに行ってくれ」
「え"ぇ、まじ、それは無いって! あそこだけには行きたくないんだけど!」
 
 不満そうな顔をしていたレオの顔が一気に真っ青になる。さっきまでのあの満面の笑みは何処へいってしまったのだろうと思うほどにだ。このあと杖を取りに何処かに行くことになっていたようだ。その場所にどうにもレオは行きたく無いらしい。

「お前が一緒に潜入するんだから、責任を持って付き合ってやれ。サタローも頑張れよ」
「あ、うん! 頑張るよギル!」

 レオに一言物申すとギルは俺の頭にポンッと手を置き激励の言葉を掛けると応接間を出る。

「サタロー頑張ってね。何かあれば必ず駆けつけるからね。嫌、何もなくとも必ず駆けつけるからね!」
「うおっ! う、うん、頑張るから、アルも仕事忙しいから無理しないようにね!」
「あぁ、優しいねサタローは」

 アルは俺に抱き付く。少し苦しいぐらいに強く抱きしめられながら、心配そうに俺に声をかける。俺から離れ応接間を出て行こうと踵を返すが一度立ち止まり、またこちらに戻ってくる。

「頼んだよレオ。ま、君なら心配ないと思うけど」
「わーってますよ、アルだんちょ」

 先ほどギルが俺にした様にレオの頭に手を置きそう言った。アルの言葉に少し照れている様だ。アルの表情は今まで俺が見たことがない表情だった。上司と部下という関係だけではないようなそんな気がした。
 それだけ告げるとアルはもう一度俺らに背を向けて今度こそ部屋を出ていった。

「じゃあ、後は頼んだぞ」

 残ったパスカルが澄ました顔でそう言って部屋から出て行こうとするが、レオがそうはさせまいとパスカルに抱き付く。何だかさっきの俺を見ているようで何とも情けない。

「なあ、パスカルも着いてきてくれよー」
「嫌ですけど……わしもアイツ苦手だし」
「俺も無理! 何させられるかわかったもんじゃ無いんだから!!」
「……こっちが無理を言って頼んだのだから、少しぐらいアイツのわがままに付き合ってやれ」

 二人の話す内容は俺には全く理解できず、ただただ呆然と立ち尽くし情けないレオの姿ととても鬱陶しそうなパスカルの会話を聞いていることしかできなかった。一体これからどんな人に会いに行くのか気になってきた。パスカルの言葉に「そりゃないぜー」と項垂れている。

「それじゃ、準備頑張れよ」

 それだけを告げて項垂れるレオを置いて、涼しい顔したパスカルが部屋を出ていった。



 

















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