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第三章 建国祭編
88 救世主
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その瞬間男の手の力が弱まり俺は地面に尻餅をついていた。正確にいうと男の手は俺の首から離れておらず男の腕が男の身体から切り離されたのだ。
「ひっ!」
息ができると安心したものの男の生腕だけが地面に落ちており、俺はあり得ない状況に驚愕し座りながら後退り生腕と男から急いで離れる。
男はというと腕を切られたというのに特に反応は無い。腕からはボタボタと赤い血が地面に水溜まりを作っている。男の顔を見ると腕を切ったと思われる俺の前にいる人物を見て嬉しそうに笑っていた。
俺を助けてくれたであろう男は俺に背を向けて立っており顔を見ることができない。しかし、その人物との会話で助けに来てくれた人物が誰なのかすぐにわかった。
「あぁ、久しぶりだなクロ。会いたかったぞ」
「久しぶりですね、ザイール様。小生は会いたくありませんでしたよ」
俺を助け、ザイールと呼ばれる男の腕を切ったのは第二連隊隊長のクロムであった。飄々としたいつものクロムの声ではなく威圧的でゾクッとするような声だった。服装も前のような着流しでなくきっちりとした軍服に身を包んでいる。
俺はただただ彼らの会話を聞いていることしかできなかった。
「お前が私の元を離れて50年ほど経つか」
「そのぐらいになりますかね。彼に手を出さないでもらえますか」
「あれは私が召喚したモノだ。生かすも殺すも私の自由ではないか?」
男はまるで人を殺すことを何とも思ってもいないような口ぶりである。それに俺をモノ扱いしている。いけ好かない男の態度に今すぐ文句を言ってやりたいところだが情けないことに恐怖で腰が抜けて立てないでいた。
「魔力を見たのでしょう。今は小生のものです」
「そうか、ならますます殺さないとな。それともお前がまた私の元に戻ってくるかい?」
「はぁ……どちらもお断りですね!」
クロムはその言葉と同時に男に切り掛かる。しかし男は軽々とその攻撃を避け続ける。そんな状況を俺は固唾を呑んで見ていると、男が急に高く飛び上がると俺の目の前に落ちている生腕の前に着地する。クロムはそれを見て庇うように俺の前に立つ。男はその姿を見てニヤリと笑った後、スンと冷酷な表情に戻り俺の方へ視線を向けた。俺は恐怖で震えクロムの腕にしがみつく。すると男の眉間に皺が一瞬寄るのが見えた。
「名は何という」
「……ぇ」
「さっさと答えろ。殺すぞ」
「サ、サタロー。尾瀬佐太郎です!」
掠れた声で俺は必死に声を縛り出した。
「そうか。今日のところはこれぐらいにしておいてやる。また会おう」
そう言って、男は自分の切られた腕を拾い上げると闇の中へ消えて行った。
またなんてお断りであるが、とりあえずいなくなった男の姿にほっと一安心する。クロムが助けに来てくれなかったと考えるだけでゾッとする。それにしてもあのザイールとか言う男一体何者なんだ。会話からクロムとは随分と親しい仲のように思えるが。俺の前に膝をついているクロムの表情をチラリと横目に見るが、浮かない顔で前髪を手でグシャと乱しながら大きな溜息を吐いている。
「だ、大丈夫か、クロム?」
「ん? あぁ、サタローの方こそ大丈夫かい?」
「う、うん。俺は全然何ともないよ!」
クロムに声をかけるといつも通りの彼の声で安心する。俺は特に怪我などなかったため問題ないとクロムに伝えた。強いて言えば腕を切り落とす以外の手段で助けて欲しかったと思うところであるが、助けてもらった以上そんな事は言えないが。ちょっとトラウマになりそうだ。
「あいつ、何者だったんだ……」
「エレボス帝国の王ザイールだよ。悪魔の親玉ってやつ」
「悪魔の親玉って……魔王ってことかよ!」
「ん、そういうことになるね~」
あっさりとそして呑気にとんでもなく恐ろしいことを口にするクロムに俺は唖然とし固まる。ならさっき俺は魔王と一対一で会話をしていたことになる。魔王なら多分あんな首を絞めるようなまどろっこしい真似なんてしなくてももっと簡単に俺のこと殺せたのだと思うと身震いが止まらない。なら、そもそも殺す気などなかったのかも知れない。クロムにかなり執着しているようだったし、クロムを誘き出すための鴨にされたのだろうか? 真実は分からない。そもそもザイールが俺を召喚したと言う話も真実かどうかも分からない。
「あいつ俺を召喚したって言ってたけど、ほんとなのかな……」
「本当だよ。ザイールがサタローをこの世界に召喚したんだ」
「!?」
聞こえないぐらいの声でぼそりと呟いたつもりだったが、クロムには聞こえていたらしく、クロムがそう答えた。
どうやら俺は本当にザイールという魔王様によってこの世界に召喚されてきたらしい。意図してこの世界に飛ばされたことに驚くが、今はそんなことよりも別のことに驚いている自分がいる。
「ていうかなんでクロムが俺が別世界の人間だって知ってるんだよ!?」
「ははっ、やっぱりそこツッコムよね。パスカルじゃないけど小生も長生きしてるってこと」
「……うーん、納得できるようなできないような……」
何だか雑に言いくるめられたような気がするが、つまりパスカルその2みたいな奴だということで納得しておこう。事情を知っている者が増えることは俺としては悪いことではない。ただ、俺がこの世界に来た経緯を知ったことで一つの不安が生まれた。本来はあの男の元へ行くべきな人間である俺が、この国へいて良いのだろうか。そんな不安が沸々と湧いてきた。そんな俺の心情に気付いたのかクロムの手が俺の俯いていた頭にそっと乗った。
「大丈夫、サタローはこの国で生きていけばいい。アイツの元になんて行ってみろ。死ぬまで下僕として飼い殺しにされる」
「か、いごろし……」
「それに下僕になれば悪魔にされてほぼ不老不死状態、半永久的にアイツに飼われることになる」
優しい仕草とは対照的にさらりと恐ろしいことを口にするクロム。何その怖い状況、半永久的とか恐ろしすぎる。悪魔の考えることなどわからないが人間の考えつかない残忍な事をしているに違いない。召喚してくれた事に関してはザイールに感謝しても仕切れないところはあるが、配合をミスしてくれたおかげでこの国に召喚できて本当に良かったと思う。
何度も召喚を繰り返しているようだったし、もしかしたら俺の次に別の人物を召喚することもありえるだろう。もし召喚が成功したら、半永久的に彼の下僕となる者が現れてしまうわけだ。
「もしまた召喚の儀式をして成功したらそいつが下僕になるんだよな」
「そうだろうね。何度も召喚の儀式を行っているようだし、まぁ、かなり雑な儀式のようだけど…….助けたいなんて思わないい方がいいよ。アイツには、いや悪魔には関わらないのが一番だから」
「そ、そうなんだ……クロムはなんだかあのザイールって奴と親しいようだったけど知り合いなのか?」
言うべきかどうか悩んでいたことを勢いに任せて聞いてみる。人の過去なんて無闇矢鱈に聞くものではないことぐらいわかっているが、気になるものは仕方ないので断られる覚悟で聞いてみる。
「気になる? あいつは昔小生が支えていた男だよ。彼の考えに嫌気がさして逃げ出したのさ。でもあいつ随分と小生を気に入ってるみたいでしつこいんだよね。まぁ、小生が鬼の一族で珍しいから気に入ってるだけだと思うけど、最近変えを見つけようと頑張ってるみたいだね……くだらないよねえ」
「そ、そうなんだ」
意外とあっさり教えてくれた事に驚きつつ、クロムが悪魔が治める国にいたことにも驚く。ならシュリとソウヒも悪魔に支えていたのだろうか。て言うか、50年前とか言ってたけどクロムって何歳なんだ? 鬼もパスカルらエルフ同様、歳の取り方が人間とは違うらしい。ならシュリとソウヒって俺より年上なのかも知れないと考えたが、頭が混乱しそうだったので考えるのはやめておくことにした。
クロム曰く、鬼の一族は喧嘩早い者が多く常に争いが絶えず鬼同士で自滅していき、今では数がかなり減っているらしい。クロムを見ている限り喧嘩早い性格には見えないけどと伝えたら「そりゃ、だいぶ大人になったからね」と遠い目をしながらそう言ったので、こいつにもヤンチャしてた時期があったのだろうなと察し、それ以上は聞かないことにした。
「ていうか、何であんな奴式典に招待したんだよ?」
「エレボス帝国は資源豊かでね。どの国も関わりたくないけど関わらないと国営が成り立たないのさ。世間体を考えての招待ってやつだね。本当は悪魔なんてみんなお断りなんだよ」
国の為に仲良くしてるって訳か。
豊かに見えるクロノス王国でも全てが揃っているわけではなく、他国との交易があって成り立っているというわけだ。悪魔とも仲良くしないといけないなんて国を運営するのも大変なことなんだろうなと人ごとのように思う。
「それと一番気になってたんだけど、そもそも何でクロムがここにいるんだ?」
死にそうなところを助けに来てくれたことはとても感謝しているが、それにしてもタイミングが良すぎた気がする。
「見張ってたんだよザイールを、何かしでかさないか。そんなことよりサタロー君の方こそ何故ここにいるわけ?」
「えっと……それは……」
クロムはジトーッとした目で俺のことを見る。そういえば俺は本来こんなところにいるはずの人間ではないことを思い出す。言うべきか言わないべきか迷っているとクロムが俺の顎を掴んで上を向かせる。
「小耳に挟んだんだけどリズと婚約したんだって?」
「え"っ! どこからその情報を?!」
「本当だったんだ」
「違う! フリだよ! フリ! リズにどうしてもって頼まれたから……仕方なく」
「頼まれて、仕方なくねえ。なら小生が頼んだらサタローは恋人になってくれるのかい?」
「えっ、それは……事情があれば」
「はぁ、サタローそれは流石にお人好しすぎるよ。そこは好きな人としか無理って言わなきゃ」
何故か呆れられてしまった。
そりゃ本当の恋人は好きな人としか無理だけど、フリぐらいだったら俺なんかが役に立つならしてもいいかなと思ってしまったのだ。
「リズにそんな気更々無いしいいかなと思って、それに俺異性に興味ないし」
「サタローがそう思っていても周りには婚約者として認識されてるんだ。まぁリズの好みさえ知ってれば誰も本気とは思わないだろうけど、間に受けちゃう人もいるからなー、特にアルとかは……」
「アルがどうしたんだ?」
「昨日アルとデートしたのにその後何もなかったのかい? 魔力が上書きされてなかったけど」
「そのまま帰ったけど、その後何するんだ?」
「……鈍感ってほんと罪だよね」
大きなため息を吐いた後、クロムは俺の額に優しいキスをして俺を支えて立ち上がった。
正直今の会話半分以上意味がわからなかったが、昨日のデートで俺がなにかミスをしてしまったと言うことが薄らとわかった。だから帰り道アルのテンションが低かったのだ。しかし、ミスしたことはわかったが何をミスしたのかわからないのでどうしよもない。
クロムは俺を立たせると「頑張りたまえ」と言い残すと庭に飛び散ったザイールの血液を魔法で跡形もなく消し去るとぬらりくらりと闇の中へ消えていった。
「ひっ!」
息ができると安心したものの男の生腕だけが地面に落ちており、俺はあり得ない状況に驚愕し座りながら後退り生腕と男から急いで離れる。
男はというと腕を切られたというのに特に反応は無い。腕からはボタボタと赤い血が地面に水溜まりを作っている。男の顔を見ると腕を切ったと思われる俺の前にいる人物を見て嬉しそうに笑っていた。
俺を助けてくれたであろう男は俺に背を向けて立っており顔を見ることができない。しかし、その人物との会話で助けに来てくれた人物が誰なのかすぐにわかった。
「あぁ、久しぶりだなクロ。会いたかったぞ」
「久しぶりですね、ザイール様。小生は会いたくありませんでしたよ」
俺を助け、ザイールと呼ばれる男の腕を切ったのは第二連隊隊長のクロムであった。飄々としたいつものクロムの声ではなく威圧的でゾクッとするような声だった。服装も前のような着流しでなくきっちりとした軍服に身を包んでいる。
俺はただただ彼らの会話を聞いていることしかできなかった。
「お前が私の元を離れて50年ほど経つか」
「そのぐらいになりますかね。彼に手を出さないでもらえますか」
「あれは私が召喚したモノだ。生かすも殺すも私の自由ではないか?」
男はまるで人を殺すことを何とも思ってもいないような口ぶりである。それに俺をモノ扱いしている。いけ好かない男の態度に今すぐ文句を言ってやりたいところだが情けないことに恐怖で腰が抜けて立てないでいた。
「魔力を見たのでしょう。今は小生のものです」
「そうか、ならますます殺さないとな。それともお前がまた私の元に戻ってくるかい?」
「はぁ……どちらもお断りですね!」
クロムはその言葉と同時に男に切り掛かる。しかし男は軽々とその攻撃を避け続ける。そんな状況を俺は固唾を呑んで見ていると、男が急に高く飛び上がると俺の目の前に落ちている生腕の前に着地する。クロムはそれを見て庇うように俺の前に立つ。男はその姿を見てニヤリと笑った後、スンと冷酷な表情に戻り俺の方へ視線を向けた。俺は恐怖で震えクロムの腕にしがみつく。すると男の眉間に皺が一瞬寄るのが見えた。
「名は何という」
「……ぇ」
「さっさと答えろ。殺すぞ」
「サ、サタロー。尾瀬佐太郎です!」
掠れた声で俺は必死に声を縛り出した。
「そうか。今日のところはこれぐらいにしておいてやる。また会おう」
そう言って、男は自分の切られた腕を拾い上げると闇の中へ消えて行った。
またなんてお断りであるが、とりあえずいなくなった男の姿にほっと一安心する。クロムが助けに来てくれなかったと考えるだけでゾッとする。それにしてもあのザイールとか言う男一体何者なんだ。会話からクロムとは随分と親しい仲のように思えるが。俺の前に膝をついているクロムの表情をチラリと横目に見るが、浮かない顔で前髪を手でグシャと乱しながら大きな溜息を吐いている。
「だ、大丈夫か、クロム?」
「ん? あぁ、サタローの方こそ大丈夫かい?」
「う、うん。俺は全然何ともないよ!」
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「あいつ、何者だったんだ……」
「エレボス帝国の王ザイールだよ。悪魔の親玉ってやつ」
「悪魔の親玉って……魔王ってことかよ!」
「ん、そういうことになるね~」
あっさりとそして呑気にとんでもなく恐ろしいことを口にするクロムに俺は唖然とし固まる。ならさっき俺は魔王と一対一で会話をしていたことになる。魔王なら多分あんな首を絞めるようなまどろっこしい真似なんてしなくてももっと簡単に俺のこと殺せたのだと思うと身震いが止まらない。なら、そもそも殺す気などなかったのかも知れない。クロムにかなり執着しているようだったし、クロムを誘き出すための鴨にされたのだろうか? 真実は分からない。そもそもザイールが俺を召喚したと言う話も真実かどうかも分からない。
「あいつ俺を召喚したって言ってたけど、ほんとなのかな……」
「本当だよ。ザイールがサタローをこの世界に召喚したんだ」
「!?」
聞こえないぐらいの声でぼそりと呟いたつもりだったが、クロムには聞こえていたらしく、クロムがそう答えた。
どうやら俺は本当にザイールという魔王様によってこの世界に召喚されてきたらしい。意図してこの世界に飛ばされたことに驚くが、今はそんなことよりも別のことに驚いている自分がいる。
「ていうかなんでクロムが俺が別世界の人間だって知ってるんだよ!?」
「ははっ、やっぱりそこツッコムよね。パスカルじゃないけど小生も長生きしてるってこと」
「……うーん、納得できるようなできないような……」
何だか雑に言いくるめられたような気がするが、つまりパスカルその2みたいな奴だということで納得しておこう。事情を知っている者が増えることは俺としては悪いことではない。ただ、俺がこの世界に来た経緯を知ったことで一つの不安が生まれた。本来はあの男の元へ行くべきな人間である俺が、この国へいて良いのだろうか。そんな不安が沸々と湧いてきた。そんな俺の心情に気付いたのかクロムの手が俺の俯いていた頭にそっと乗った。
「大丈夫、サタローはこの国で生きていけばいい。アイツの元になんて行ってみろ。死ぬまで下僕として飼い殺しにされる」
「か、いごろし……」
「それに下僕になれば悪魔にされてほぼ不老不死状態、半永久的にアイツに飼われることになる」
優しい仕草とは対照的にさらりと恐ろしいことを口にするクロム。何その怖い状況、半永久的とか恐ろしすぎる。悪魔の考えることなどわからないが人間の考えつかない残忍な事をしているに違いない。召喚してくれた事に関してはザイールに感謝しても仕切れないところはあるが、配合をミスしてくれたおかげでこの国に召喚できて本当に良かったと思う。
何度も召喚を繰り返しているようだったし、もしかしたら俺の次に別の人物を召喚することもありえるだろう。もし召喚が成功したら、半永久的に彼の下僕となる者が現れてしまうわけだ。
「もしまた召喚の儀式をして成功したらそいつが下僕になるんだよな」
「そうだろうね。何度も召喚の儀式を行っているようだし、まぁ、かなり雑な儀式のようだけど…….助けたいなんて思わないい方がいいよ。アイツには、いや悪魔には関わらないのが一番だから」
「そ、そうなんだ……クロムはなんだかあのザイールって奴と親しいようだったけど知り合いなのか?」
言うべきかどうか悩んでいたことを勢いに任せて聞いてみる。人の過去なんて無闇矢鱈に聞くものではないことぐらいわかっているが、気になるものは仕方ないので断られる覚悟で聞いてみる。
「気になる? あいつは昔小生が支えていた男だよ。彼の考えに嫌気がさして逃げ出したのさ。でもあいつ随分と小生を気に入ってるみたいでしつこいんだよね。まぁ、小生が鬼の一族で珍しいから気に入ってるだけだと思うけど、最近変えを見つけようと頑張ってるみたいだね……くだらないよねえ」
「そ、そうなんだ」
意外とあっさり教えてくれた事に驚きつつ、クロムが悪魔が治める国にいたことにも驚く。ならシュリとソウヒも悪魔に支えていたのだろうか。て言うか、50年前とか言ってたけどクロムって何歳なんだ? 鬼もパスカルらエルフ同様、歳の取り方が人間とは違うらしい。ならシュリとソウヒって俺より年上なのかも知れないと考えたが、頭が混乱しそうだったので考えるのはやめておくことにした。
クロム曰く、鬼の一族は喧嘩早い者が多く常に争いが絶えず鬼同士で自滅していき、今では数がかなり減っているらしい。クロムを見ている限り喧嘩早い性格には見えないけどと伝えたら「そりゃ、だいぶ大人になったからね」と遠い目をしながらそう言ったので、こいつにもヤンチャしてた時期があったのだろうなと察し、それ以上は聞かないことにした。
「ていうか、何であんな奴式典に招待したんだよ?」
「エレボス帝国は資源豊かでね。どの国も関わりたくないけど関わらないと国営が成り立たないのさ。世間体を考えての招待ってやつだね。本当は悪魔なんてみんなお断りなんだよ」
国の為に仲良くしてるって訳か。
豊かに見えるクロノス王国でも全てが揃っているわけではなく、他国との交易があって成り立っているというわけだ。悪魔とも仲良くしないといけないなんて国を運営するのも大変なことなんだろうなと人ごとのように思う。
「それと一番気になってたんだけど、そもそも何でクロムがここにいるんだ?」
死にそうなところを助けに来てくれたことはとても感謝しているが、それにしてもタイミングが良すぎた気がする。
「見張ってたんだよザイールを、何かしでかさないか。そんなことよりサタロー君の方こそ何故ここにいるわけ?」
「えっと……それは……」
クロムはジトーッとした目で俺のことを見る。そういえば俺は本来こんなところにいるはずの人間ではないことを思い出す。言うべきか言わないべきか迷っているとクロムが俺の顎を掴んで上を向かせる。
「小耳に挟んだんだけどリズと婚約したんだって?」
「え"っ! どこからその情報を?!」
「本当だったんだ」
「違う! フリだよ! フリ! リズにどうしてもって頼まれたから……仕方なく」
「頼まれて、仕方なくねえ。なら小生が頼んだらサタローは恋人になってくれるのかい?」
「えっ、それは……事情があれば」
「はぁ、サタローそれは流石にお人好しすぎるよ。そこは好きな人としか無理って言わなきゃ」
何故か呆れられてしまった。
そりゃ本当の恋人は好きな人としか無理だけど、フリぐらいだったら俺なんかが役に立つならしてもいいかなと思ってしまったのだ。
「リズにそんな気更々無いしいいかなと思って、それに俺異性に興味ないし」
「サタローがそう思っていても周りには婚約者として認識されてるんだ。まぁリズの好みさえ知ってれば誰も本気とは思わないだろうけど、間に受けちゃう人もいるからなー、特にアルとかは……」
「アルがどうしたんだ?」
「昨日アルとデートしたのにその後何もなかったのかい? 魔力が上書きされてなかったけど」
「そのまま帰ったけど、その後何するんだ?」
「……鈍感ってほんと罪だよね」
大きなため息を吐いた後、クロムは俺の額に優しいキスをして俺を支えて立ち上がった。
正直今の会話半分以上意味がわからなかったが、昨日のデートで俺がなにかミスをしてしまったと言うことが薄らとわかった。だから帰り道アルのテンションが低かったのだ。しかし、ミスしたことはわかったが何をミスしたのかわからないのでどうしよもない。
クロムは俺を立たせると「頑張りたまえ」と言い残すと庭に飛び散ったザイールの血液を魔法で跡形もなく消し去るとぬらりくらりと闇の中へ消えていった。
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