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第二章 本部編

55 嵐のような

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「うわー、なんか人多くないか?」

 俺はレオに連れられて城の玄関となる城門の横の茂みに隠れていた。門の前には兵士達がずらっと並んでおり、アル達が帰ってくるのを待っているようだった。その中に俺を置いていったパスカルとギルの姿も確認できる。

「お出迎えの連中だな」

「アルってやっぱ人気者なのか?」

「は?何言ってんのサタロー、あれはアルを待ってんじゃなくてエドガーのやつを待ってんだよ」

 エドガー……どっかで聞いたような名前だ。
 俺は頑張って思い出す。確かリズに教えてもらった会ってはいけない危険人物だったような……

「エドガーって、クロノス王国の第二王子のか!?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「いや、リズに会うなって忠告されてたんだよ……」

「あー、ああなるほどね、確かに、だからあの二人止めてたのか……うん、まぁ大丈夫だ!問題ない」

 レオは笑顔で俺に親指を立てて大丈夫と告げる。

 なに今の……不安しかない感じの納得の仕方だ。絶対全然問題ないわけない。レオにもあのギルとパスカルが俺に出迎えるのを止めた理由がわかったようだ。

 リズの言葉をもう一度思い出してみる。
 確か……エドガー王子は「可愛い少年と少女が好きだからサタローは気をつけろ」って言われたんだったかな。
 でも、俺可愛くないし心配いらないと思うんだけどなぁ。

 ここまで来てしまったので今更引き返すのもアレだし、とりあえず様子をうかがうことにした。

「おっ! 帰ってきたみたいだぞ」

 レオの一言で城門に目をやると兵士達が背筋をピシッとただしていた。門からは馬に乗った金色の美しい髪をなびかせたアルフレッドの姿が確認できる。その前の馬に乗っている赤紫色の髪色の男がおそらくエドガー王子だと思われる。

 リズの兄だけあり顔立ちはとても整っている。見た感じ変なところはないように見えるが、この世界見た目で判断してはいけないというのは、今までの教訓から得ている。

 馬から降りたアルとエドガー王子は、ギルとパスカルと何か話しているようだがここからでは聞き取ることはできない。

「何話してんのかな?」

「さあ? 気になんの?」

「いや、まぁどんな人なのかなと思って……」

 あそこまで会うことを止められると逆に会いたくなってしまう。アルもいるのにお出迎えできないのはもどかしい。

「じゃあ行っちゃいますか?」

「へ?……うおっ!」

 レオは不意に俺の腕を掴むと隠れていた茂みから勢いよく飛び出して、パスカル達がいる方へ走って行った。
 
「おーい! アルおかえり~」

「あぁ、レオも出迎えに来てくれたのか……サタロー?」

「久しぶりアル……」

 久しぶりに会ったアルは変わりなく、相変わらず整った顔立ちと優しい声だった。俺にとっては命の恩人で、一度諦めかけた人生に手を差し伸べてくれた人物だ。もちろんギルとパスカルも命の恩人だけど、アルには特に助けられた。

 一ヶ月ぶりとなる再会に、俺はほんの少し照れながらも嬉しさでいっぱいになっていた。
 そんな嬉しい再会の場面に初めて聞く声が俺の耳に入ってくる。

「もしや、お前がサタローか!」

「へ? そうですけど……」

 話しかけてきたのは、エドガー王子だった。やはり近くで見ると整った顔立ちでリズと同じルビーのような綺麗な瞳をしている。

 王子は俺にぐぐっと近づいて──

「!?……んん゛!」

キスしてきた。

 急な出来事で一瞬何が起きたのかわからなかったが、これは紛れもなくキスだ。それも……

「ンンッ……ふぁ!!」

舌を絡めてくる深いキスだ。ついでに尻に手を置いてきて揉まれた。俺は急いでエドガー王子の胸を押したがびくともしない。

 この人確実にやばい人だ!!

 誰か助けてと思ったその時、エドガー王子が吹き飛ばされた。そのおかげで俺から強制的に離れることとなりキスから解放されたが、王子が吹き飛ばされるというとんでもないことが起きて困惑する。

「大丈夫! サタロー」

「え……うん、ってリズ! なんでここに!」

 俺に近づいてきたのは心配そうに俺を見つめているリズだった。あまりにも急展開な状況に脳の処理が追いつかない。

「あの変態からサタローを守るためよ!」

 そのためにわざわざ来てくれたのかと、俺も含めてこの場にいる全員が唖然としてリズを見つめていた。
 確かにあの状況でこの国の第二王子を吹っ飛ばせるのは、妹であるリズぐらいだろう。
 エドガー王子は今もなお地面に伸びている。

 そんな王子を無視して俺のところに執事のような服装をした黒髪の男性がこちらへ駆け寄ってきた。この人もなかなかの美形だ。
 
「申し訳ありません、大丈夫でしたか! サタロー様」

「はい……急にだったんでびっくりしましたけど……あなたは?」

「紹介が遅れました。わたくしエドガー王子の世話係をしております、執事のキースと申します。先程はうちのバカ……ゴホン王子が大変失礼なことを、大変申し訳ありません」

 今一瞬、バカ王子と言おうとしていたような気がするが、触れない方が良さそうだ。キースと呼ばれる執事は深々と俺に頭を下げてきた。

「いえいえ! 大丈夫ですから、そんな謝らないでください!」

「ありがとうございます、王子には後でしっかりと叱っておきますので……」

 そう言ったキースさんは、目を回しているエドガー王子を持ち上げて城の方へと歩いて行った。

 ──なんだったんだ……


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