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第二章 本部編
45 狼の獣人・ルディ
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俺を置いて言い合いをしているレオとクマの獣人アーサー。
出会って間もないアーサーだが確実にレオで苦労していることが彼の目の下の大きなクマから伺える。熊だけに……
レオみたいな男が机に向かって仕事をする姿なんて想像もつかないし、やったとしても確実に手直しが必要な書類になるに決まっている。
それでも隊長を務められているということは、戦闘面においてとても優秀なのだろう。
自由な上司をもつと部下も大変だなとアーサーに同情の目を向けている間も二人の言い争いは続いていた。
「せめて部下の訓練には顔をだせ!」
「えーめんどくさい、俺がいなくてもアイツら優秀だから大丈夫だって」
「少しは隊長らしいことしろ!」
「カリカリすんなって老けるぞ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「ま、まさか、俺か!!」
「白々しい演技はやめろ」
言い争いは収まるどころかどんどん白熱していく。上司と部下の言い争いを見せられるために、俺は此処に呼ばれたのだろうか、だったら今直ぐにでも帰りたい。
「あのー、俺帰ってもいいか……」
俺の言葉にようやく俺がいることを思い出したのか、レオもアーサーも驚いた顔でこちらを向く。
「すまない、お客さんの前ではしたない姿をお見せして」
「いえいえそんな、気持ちはなんとなくわかるので……」
申し訳なさそうに謝罪してきたアーサーだが俺のフォローの言葉に目を潤ませて感動している。この人も随分苦労しているようだ。俺とアーサーの心が通じた瞬間だった。
そんな俺たちの気持ちなど全く知る由もない人物が若干一名この空間にいる。そいつは俺たちの顔を交互に見るとつまらなそうな顔をする。
「なんだよ俺をおいて二人で仲良くなっちゃってさー」
「そーだな、お前よりかは仲良くなれそうだ」
「はあ~、昨日あんなことしておいてよくいうよ」
「あんなこと?」
「聞きたいか? アーサー」
「な、なんでもないですから!」
不機嫌になったレオにここぞとばかりに仕返しの言葉をかけてやったら、とんでもないことを言おうとしたので必死に止める。
冗談でも言っていいことと悪いことがある。
せっかくレオの苦労を分かち合える人物に出会えたのに、昨日のことを話したら確実に引かれるに決まっている。
変人ばかりの魔法軍の本部内でまともな知り合いは貴重である。
アーサーは俺の反応に首を傾げ、俺は必死に誤魔化す。そんな俺をレオは笑って見ていた。恥というものを知らないのだろうかこいつは……
俺は話を逸らそうと気になっていた質問をレオにする。
「そんなことより、俺にアーサーを紹介したかったからここへ呼んだのか?」
「まぁ、アーサーを紹介したいのもあったけど、他にも」
──ガチャ
レオの話の途中で部屋の扉が開き誰かが部屋に入ってきた。どちらも耳と尻尾が生えているため獣人であることがわかる。
一人は俺より10センチほど身長が低く尖った耳に大きなふさふさな尻尾、銀色の髪が特徴的だ。
もう一人は、俺よりもかなり小さく見るからに子どもだ。こちらも尖った耳に細く長い尻尾、藍色の髪をしており首には鈴のついたチョーカーをしている。
「なんのようだよレオ!」
「どうしたの?あれ、だれだれ~?」
銀髪の少年はすこぶる不機嫌そうだが、対照的にちびっこはテンションが高く俺を見つけるとこちらに寄ってきた。
「おー、悪いな、お前たちに紹介したいやつがいたんだ!」
そう二人に向かってレオが言う。紹介したいやつというのはもしかして俺のことだろうか。
「紹介するよ!昨日知り合ったサタローだ!」
やはり俺のことだったらしい、レオは俺の肩に手を乗せて笑顔で俺の紹介をした。
俺の名前に銀髪の少年はピクリと反応を示し、俺の方へズカズカと歩いてきて真正面で止まると俺の顔を睨み見つめる。
鋭い目つきで怖い、垂れ目のおかげか若干その怖さは薄れてはいるものの確実に俺を威嚇している目つきだ。
「お前もしかしてギル副団長が連れ帰ったっていう……」
「え、うんそうだけど……」
睨みながら喋り始めた少年にビビりながら答える。そんなことよりも彼の歯が俗に言うギザ歯でめちゃめちゃ怖い。これ噛まれたら確実に食い千切られる。
「サタローとか言ったな、ギル副団長に気に入られてるからって調子に乗んなよ!」
「は、はあ……」
なんのこっちゃわからないが、とりあえず返事をしておいた。反論して逆らいでもしたら噛まれかねないからな。
今もなお俺を睨み上げ威嚇している少年に、誰か助けてくれと心の中で思っていると、俺の思いが通じたのか少年の首根っこを掴み俺から離してくれた。
「こら! 初対面で威嚇しない!!」
「ふん! 新人のくせにギル副団長に媚び売るから脅しただけだ!」
「脅すな!」
助けてくれたのはアーサー、やはり良い人だ。
俺のことを紹介したレオは首根っこを掴まれた少年を見てケラケラと笑っている。
「すまないサタロー、こいつは狼の獣人のルディだ」
「ルディはギルのこと大好きだからなー、ギルと仲のいいサタローに嫉妬してんだよ」
「ギル副団長がお前みたいな弱っちぃやつと仲良くなるわけねぇ!!」
首根っこを掴まれても懲りずに俺を威嚇してくる狼の少年ルディ。
なるほどねギルのことが大好きなのか、そう思うとなんだか可愛く見えてくる。ギルとは仲良くしているというか俺のことをよくしてくれているだけだから、心配いらないんだけどね。
あの様子だと俺が何を言っても逆効果だろうから黙っておこう。
出会って間もないアーサーだが確実にレオで苦労していることが彼の目の下の大きなクマから伺える。熊だけに……
レオみたいな男が机に向かって仕事をする姿なんて想像もつかないし、やったとしても確実に手直しが必要な書類になるに決まっている。
それでも隊長を務められているということは、戦闘面においてとても優秀なのだろう。
自由な上司をもつと部下も大変だなとアーサーに同情の目を向けている間も二人の言い争いは続いていた。
「せめて部下の訓練には顔をだせ!」
「えーめんどくさい、俺がいなくてもアイツら優秀だから大丈夫だって」
「少しは隊長らしいことしろ!」
「カリカリすんなって老けるぞ」
「誰のせいだと思ってるんだ」
「ま、まさか、俺か!!」
「白々しい演技はやめろ」
言い争いは収まるどころかどんどん白熱していく。上司と部下の言い争いを見せられるために、俺は此処に呼ばれたのだろうか、だったら今直ぐにでも帰りたい。
「あのー、俺帰ってもいいか……」
俺の言葉にようやく俺がいることを思い出したのか、レオもアーサーも驚いた顔でこちらを向く。
「すまない、お客さんの前ではしたない姿をお見せして」
「いえいえそんな、気持ちはなんとなくわかるので……」
申し訳なさそうに謝罪してきたアーサーだが俺のフォローの言葉に目を潤ませて感動している。この人も随分苦労しているようだ。俺とアーサーの心が通じた瞬間だった。
そんな俺たちの気持ちなど全く知る由もない人物が若干一名この空間にいる。そいつは俺たちの顔を交互に見るとつまらなそうな顔をする。
「なんだよ俺をおいて二人で仲良くなっちゃってさー」
「そーだな、お前よりかは仲良くなれそうだ」
「はあ~、昨日あんなことしておいてよくいうよ」
「あんなこと?」
「聞きたいか? アーサー」
「な、なんでもないですから!」
不機嫌になったレオにここぞとばかりに仕返しの言葉をかけてやったら、とんでもないことを言おうとしたので必死に止める。
冗談でも言っていいことと悪いことがある。
せっかくレオの苦労を分かち合える人物に出会えたのに、昨日のことを話したら確実に引かれるに決まっている。
変人ばかりの魔法軍の本部内でまともな知り合いは貴重である。
アーサーは俺の反応に首を傾げ、俺は必死に誤魔化す。そんな俺をレオは笑って見ていた。恥というものを知らないのだろうかこいつは……
俺は話を逸らそうと気になっていた質問をレオにする。
「そんなことより、俺にアーサーを紹介したかったからここへ呼んだのか?」
「まぁ、アーサーを紹介したいのもあったけど、他にも」
──ガチャ
レオの話の途中で部屋の扉が開き誰かが部屋に入ってきた。どちらも耳と尻尾が生えているため獣人であることがわかる。
一人は俺より10センチほど身長が低く尖った耳に大きなふさふさな尻尾、銀色の髪が特徴的だ。
もう一人は、俺よりもかなり小さく見るからに子どもだ。こちらも尖った耳に細く長い尻尾、藍色の髪をしており首には鈴のついたチョーカーをしている。
「なんのようだよレオ!」
「どうしたの?あれ、だれだれ~?」
銀髪の少年はすこぶる不機嫌そうだが、対照的にちびっこはテンションが高く俺を見つけるとこちらに寄ってきた。
「おー、悪いな、お前たちに紹介したいやつがいたんだ!」
そう二人に向かってレオが言う。紹介したいやつというのはもしかして俺のことだろうか。
「紹介するよ!昨日知り合ったサタローだ!」
やはり俺のことだったらしい、レオは俺の肩に手を乗せて笑顔で俺の紹介をした。
俺の名前に銀髪の少年はピクリと反応を示し、俺の方へズカズカと歩いてきて真正面で止まると俺の顔を睨み見つめる。
鋭い目つきで怖い、垂れ目のおかげか若干その怖さは薄れてはいるものの確実に俺を威嚇している目つきだ。
「お前もしかしてギル副団長が連れ帰ったっていう……」
「え、うんそうだけど……」
睨みながら喋り始めた少年にビビりながら答える。そんなことよりも彼の歯が俗に言うギザ歯でめちゃめちゃ怖い。これ噛まれたら確実に食い千切られる。
「サタローとか言ったな、ギル副団長に気に入られてるからって調子に乗んなよ!」
「は、はあ……」
なんのこっちゃわからないが、とりあえず返事をしておいた。反論して逆らいでもしたら噛まれかねないからな。
今もなお俺を睨み上げ威嚇している少年に、誰か助けてくれと心の中で思っていると、俺の思いが通じたのか少年の首根っこを掴み俺から離してくれた。
「こら! 初対面で威嚇しない!!」
「ふん! 新人のくせにギル副団長に媚び売るから脅しただけだ!」
「脅すな!」
助けてくれたのはアーサー、やはり良い人だ。
俺のことを紹介したレオは首根っこを掴まれた少年を見てケラケラと笑っている。
「すまないサタロー、こいつは狼の獣人のルディだ」
「ルディはギルのこと大好きだからなー、ギルと仲のいいサタローに嫉妬してんだよ」
「ギル副団長がお前みたいな弱っちぃやつと仲良くなるわけねぇ!!」
首根っこを掴まれても懲りずに俺を威嚇してくる狼の少年ルディ。
なるほどねギルのことが大好きなのか、そう思うとなんだか可愛く見えてくる。ギルとは仲良くしているというか俺のことをよくしてくれているだけだから、心配いらないんだけどね。
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