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第二章 本部編

44 熊の獣人・アーサー

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「はぁー、平和だ」

 昨日の忙しい一日が嘘かのように、まったりとした時間が流れていた。

 相変わらずの定位置となった裏庭のベンチで、さっきデニスさんたちと作ったシャーベットをパクパクと食べていた。

 この国が前世の時のように四季があるのかは知らないが、だんだんと暑くなってきているから、甘くて冷たいスイーツは皆喜んで食べてくれるだろう。

 異世界転移してきてからもうすぐで1ヶ月が経とうとしている。俺がこの世界でしたことといえば男に抱かれたことぐらいだろう。前世でできなかった悔いではあるが、こんなしょっ中していてはレア感が全くない。

 それに1ヶ月で3人の男とだ。
 せめてもう少し俺の寿命の期間が延びてくれればいいのだが、パスカルに相談したら調べておくと言われて、それ以来何も進展がない。

「あー、暇だ」

「暇だねー」

「うおっ!!」

 俺の独り言に誰かが返事をした。それも俺の座っているベンチの隣からだ。振り向くと俺が今一番会いたくない男、レオがしれっと座っていた。

「やっほー、昨日ぶりだな」

「なんでいるんだよ! 第一連隊も今日から訓練始まるんだろ!」

「あらあら、よく知ってんね。でも俺隊長だからそんなの関係ないの、俺が一番偉いから誰も文句言わないし~」

 隊長の風上かざかみにも置けない発言だ。部下たちが聞いて呆れるな。

 それにしても俺のところへ来て何のようだろうか。またやろうなんて言われたら全力で逃げるのみだ。

「何のようだよ」

「そんな嫌がるなって、ちょっとついて来てよ」

「……やだ」

 ニコニコと誘ってきたので少し考えて拒否した。コイツの笑顔の裏にはきっと何かあるはずだ。もう騙されないぞ!
 俺の返答に耳と尻尾をしょんぼりと下げて、あからさまに落ち込んでますアピールをしている。

「そっか……俺のことなんて嫌いだよな……俺はもっとサタローと仲良くしたいだけなのになー」

「うっ……」

 これでは俺がレオをいじめているみたいではないか。イジメられていたのは俺の方なのに、チラチラ潤んだ目でこちらを見てくる。

 ──鬱陶しい
 確実にわざとやっていることはわかっているのだが、レオの顔を見るとなんだが俺が悪いことしている気分にどんどんなってくる。

「はぁー、わかったよ……でどこへ行くんだよ」

「ほんとか!さっすがサタローちゃん!ほんとちょろい……じゃなくていい奴だなー」

 今コイツちょろいって言わなかったか?
 だが、こんなにも明るい笑顔を見せられるとまぁいいやと思ってしまうから俺も心底甘いと反省する。

 レオは俺の腕を引きベンチから立たせると、そのまま何処かへ歩いて行った。



◇◇◇



「とうちゃーく!」

「ここは……」

 連れてこられたのは、昨日レオがいないか聞きに来た第一連隊の兵舎だった。
 つまり、レオの部屋もここにあるわけだ。やっぱり昨日みたいなことをするつもりなのだろうか、だとしたら今すぐにでも逃げないと大変なことになる。
 俺の中に謎の緊張が走り、体が固まる。

「あれ、どったの?ほら行くよー」

「うっ、ああ」

 レオはそのまま俺の手を引っ張り兵舎の中を進んでいく。どうやらレオの部屋に行くわけではないらしく、ある一つの部屋の扉の前で止まった。
 ドアプレートには「副連隊長室」と書かれたプレートが書かれていた。

 レオはその部屋にノックもせずに堂々と扉を開けて部屋の中へ入って行った。腕を掴まれている俺もそのまま中に強制的に入ることとなった。

「やっほー、アーサー昨日話したサタロー連れてきたー」

 部屋にはレオや俺なんかよりも大柄な男が椅子に座っていた。机の上には書類の山ができており、男の顔を見ることはできないが、丸くて小さな耳が少しだけ見える。

 男はレオの声を聞くや否や椅子からノロノロと立ち上がった。

「レ~オ~、朝からいないと思ったらまた本部内ウロチョロしてたの?少しは自分の仕事しろよー!!」

 立つとより大柄なことがわかる。
 しかし、その見た目にそぐわないあまりにも弱々しい声だった。

「えー、でもアーサーがやってるしよくね?」

「よくない!!俺はお前の分の仕事もやってるんだぞ!って君は……」
 
 ノソノソと怒りながらレオに近づいてきたアーサーと呼ばれる男は、俺のことに気がついたらしくコチラに顔を向けた。
 しっかり顔を見るとどこかで見た覚えのある顔だと思った。

「「あ! 昨日の」」

 相手も俺のことを覚えていたようで声が重なる。レオだけが不思議そうな顔をしている。

「なになに? お前ら知り合いなの?」

「昨日レオはいないかって訪ねてきたんだよ、この様子だと見つかったみたいだね」

「はい、おかげさまで」

 俺たちの会話にどうにも納得がいかない様子のレオは頬を膨らませ

「えーつまんない! 俺より早くサタローに会ってるなんて!」

と、よくわからない文句を言っている。

「お前が部屋にいないのが悪いんだろ」

「だって部屋にいたら仕事しろって言うだろ!」

「当たり前だ!」

 なんか二人で言い争いが始まってしまった。このままだと俺を放置して争い続けそうなので間に入る。

「あの、そんなことよりこの方は?」

「あー、ごめんね紹介が遅れて、俺は第一師団第一連隊副隊長のアーサー、見ての通り獣人だよ」

「アーサーは熊の獣人なんだぜ、似合わないよなー」

「どういう意味だよ」

 また俺をおいて言い争いが始まってしまう。

 俺が予想した通りアーサーは熊の獣人だったようだ。確かにレオのいう通り見た目はかなり大柄で迫力はあるものの、言動が優しくて熊らしい凶暴さは見られない。

 これで凶暴だったらめちゃめちゃ怖いからこのままでいいと思うけど、なんて失礼なことを思ったのは内緒だ。
 





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