45 / 101
第二章 本部編
44 熊の獣人・アーサー
しおりを挟む
「はぁー、平和だ」
昨日の忙しい一日が嘘かのように、まったりとした時間が流れていた。
相変わらずの定位置となった裏庭のベンチで、さっきデニスさんたちと作ったシャーベットをパクパクと食べていた。
この国が前世の時のように四季があるのかは知らないが、だんだんと暑くなってきているから、甘くて冷たいスイーツは皆喜んで食べてくれるだろう。
異世界転移してきてからもうすぐで1ヶ月が経とうとしている。俺がこの世界でしたことといえば男に抱かれたことぐらいだろう。前世でできなかった悔いではあるが、こんなしょっ中していてはレア感が全くない。
それに1ヶ月で3人の男とだ。
せめてもう少し俺の寿命の期間が延びてくれればいいのだが、パスカルに相談したら調べておくと言われて、それ以来何も進展がない。
「あー、暇だ」
「暇だねー」
「うおっ!!」
俺の独り言に誰かが返事をした。それも俺の座っているベンチの隣からだ。振り向くと俺が今一番会いたくない男、レオがしれっと座っていた。
「やっほー、昨日ぶりだな」
「なんでいるんだよ! 第一連隊も今日から訓練始まるんだろ!」
「あらあら、よく知ってんね。でも俺隊長だからそんなの関係ないの、俺が一番偉いから誰も文句言わないし~」
隊長の風上にも置けない発言だ。部下たちが聞いて呆れるな。
それにしても俺のところへ来て何のようだろうか。またやろうなんて言われたら全力で逃げるのみだ。
「何のようだよ」
「そんな嫌がるなって、ちょっとついて来てよ」
「……やだ」
ニコニコと誘ってきたので少し考えて拒否した。コイツの笑顔の裏にはきっと何かあるはずだ。もう騙されないぞ!
俺の返答に耳と尻尾をしょんぼりと下げて、あからさまに落ち込んでますアピールをしている。
「そっか……俺のことなんて嫌いだよな……俺はもっとサタローと仲良くしたいだけなのになー」
「うっ……」
これでは俺がレオをいじめているみたいではないか。イジメられていたのは俺の方なのに、チラチラ潤んだ目でこちらを見てくる。
──鬱陶しい
確実にわざとやっていることはわかっているのだが、レオの顔を見るとなんだが俺が悪いことしている気分にどんどんなってくる。
「はぁー、わかったよ……でどこへ行くんだよ」
「ほんとか!さっすがサタローちゃん!ほんとちょろい……じゃなくていい奴だなー」
今コイツちょろいって言わなかったか?
だが、こんなにも明るい笑顔を見せられるとまぁいいやと思ってしまうから俺も心底甘いと反省する。
レオは俺の腕を引きベンチから立たせると、そのまま何処かへ歩いて行った。
◇◇◇
「とうちゃーく!」
「ここは……」
連れてこられたのは、昨日レオがいないか聞きに来た第一連隊の兵舎だった。
つまり、レオの部屋もここにあるわけだ。やっぱり昨日みたいなことをするつもりなのだろうか、だとしたら今すぐにでも逃げないと大変なことになる。
俺の中に謎の緊張が走り、体が固まる。
「あれ、どったの?ほら行くよー」
「うっ、ああ」
レオはそのまま俺の手を引っ張り兵舎の中を進んでいく。どうやらレオの部屋に行くわけではないらしく、ある一つの部屋の扉の前で止まった。
ドアプレートには「副連隊長室」と書かれたプレートが書かれていた。
レオはその部屋にノックもせずに堂々と扉を開けて部屋の中へ入って行った。腕を掴まれている俺もそのまま中に強制的に入ることとなった。
「やっほー、アーサー昨日話したサタロー連れてきたー」
部屋にはレオや俺なんかよりも大柄な男が椅子に座っていた。机の上には書類の山ができており、男の顔を見ることはできないが、丸くて小さな耳が少しだけ見える。
男はレオの声を聞くや否や椅子からノロノロと立ち上がった。
「レ~オ~、朝からいないと思ったらまた本部内ウロチョロしてたの?少しは自分の仕事しろよー!!」
立つとより大柄なことがわかる。
しかし、その見た目にそぐわないあまりにも弱々しい声だった。
「えー、でもアーサーがやってるしよくね?」
「よくない!!俺はお前の分の仕事もやってるんだぞ!って君は……」
ノソノソと怒りながらレオに近づいてきたアーサーと呼ばれる男は、俺のことに気がついたらしくコチラに顔を向けた。
しっかり顔を見るとどこかで見た覚えのある顔だと思った。
「「あ! 昨日の」」
相手も俺のことを覚えていたようで声が重なる。レオだけが不思議そうな顔をしている。
「なになに? お前ら知り合いなの?」
「昨日レオはいないかって訪ねてきたんだよ、この様子だと見つかったみたいだね」
「はい、おかげさまで」
俺たちの会話にどうにも納得がいかない様子のレオは頬を膨らませ
「えーつまんない! 俺より早くサタローに会ってるなんて!」
と、よくわからない文句を言っている。
「お前が部屋にいないのが悪いんだろ」
「だって部屋にいたら仕事しろって言うだろ!」
「当たり前だ!」
なんか二人で言い争いが始まってしまった。このままだと俺を放置して争い続けそうなので間に入る。
「あの、そんなことよりこの方は?」
「あー、ごめんね紹介が遅れて、俺は第一師団第一連隊副隊長のアーサー、見ての通り獣人だよ」
「アーサーは熊の獣人なんだぜ、似合わないよなー」
「どういう意味だよ」
また俺をおいて言い争いが始まってしまう。
俺が予想した通りアーサーは熊の獣人だったようだ。確かにレオのいう通り見た目はかなり大柄で迫力はあるものの、言動が優しくて熊らしい凶暴さは見られない。
これで凶暴だったらめちゃめちゃ怖いからこのままでいいと思うけど、なんて失礼なことを思ったのは内緒だ。
昨日の忙しい一日が嘘かのように、まったりとした時間が流れていた。
相変わらずの定位置となった裏庭のベンチで、さっきデニスさんたちと作ったシャーベットをパクパクと食べていた。
この国が前世の時のように四季があるのかは知らないが、だんだんと暑くなってきているから、甘くて冷たいスイーツは皆喜んで食べてくれるだろう。
異世界転移してきてからもうすぐで1ヶ月が経とうとしている。俺がこの世界でしたことといえば男に抱かれたことぐらいだろう。前世でできなかった悔いではあるが、こんなしょっ中していてはレア感が全くない。
それに1ヶ月で3人の男とだ。
せめてもう少し俺の寿命の期間が延びてくれればいいのだが、パスカルに相談したら調べておくと言われて、それ以来何も進展がない。
「あー、暇だ」
「暇だねー」
「うおっ!!」
俺の独り言に誰かが返事をした。それも俺の座っているベンチの隣からだ。振り向くと俺が今一番会いたくない男、レオがしれっと座っていた。
「やっほー、昨日ぶりだな」
「なんでいるんだよ! 第一連隊も今日から訓練始まるんだろ!」
「あらあら、よく知ってんね。でも俺隊長だからそんなの関係ないの、俺が一番偉いから誰も文句言わないし~」
隊長の風上にも置けない発言だ。部下たちが聞いて呆れるな。
それにしても俺のところへ来て何のようだろうか。またやろうなんて言われたら全力で逃げるのみだ。
「何のようだよ」
「そんな嫌がるなって、ちょっとついて来てよ」
「……やだ」
ニコニコと誘ってきたので少し考えて拒否した。コイツの笑顔の裏にはきっと何かあるはずだ。もう騙されないぞ!
俺の返答に耳と尻尾をしょんぼりと下げて、あからさまに落ち込んでますアピールをしている。
「そっか……俺のことなんて嫌いだよな……俺はもっとサタローと仲良くしたいだけなのになー」
「うっ……」
これでは俺がレオをいじめているみたいではないか。イジメられていたのは俺の方なのに、チラチラ潤んだ目でこちらを見てくる。
──鬱陶しい
確実にわざとやっていることはわかっているのだが、レオの顔を見るとなんだが俺が悪いことしている気分にどんどんなってくる。
「はぁー、わかったよ……でどこへ行くんだよ」
「ほんとか!さっすがサタローちゃん!ほんとちょろい……じゃなくていい奴だなー」
今コイツちょろいって言わなかったか?
だが、こんなにも明るい笑顔を見せられるとまぁいいやと思ってしまうから俺も心底甘いと反省する。
レオは俺の腕を引きベンチから立たせると、そのまま何処かへ歩いて行った。
◇◇◇
「とうちゃーく!」
「ここは……」
連れてこられたのは、昨日レオがいないか聞きに来た第一連隊の兵舎だった。
つまり、レオの部屋もここにあるわけだ。やっぱり昨日みたいなことをするつもりなのだろうか、だとしたら今すぐにでも逃げないと大変なことになる。
俺の中に謎の緊張が走り、体が固まる。
「あれ、どったの?ほら行くよー」
「うっ、ああ」
レオはそのまま俺の手を引っ張り兵舎の中を進んでいく。どうやらレオの部屋に行くわけではないらしく、ある一つの部屋の扉の前で止まった。
ドアプレートには「副連隊長室」と書かれたプレートが書かれていた。
レオはその部屋にノックもせずに堂々と扉を開けて部屋の中へ入って行った。腕を掴まれている俺もそのまま中に強制的に入ることとなった。
「やっほー、アーサー昨日話したサタロー連れてきたー」
部屋にはレオや俺なんかよりも大柄な男が椅子に座っていた。机の上には書類の山ができており、男の顔を見ることはできないが、丸くて小さな耳が少しだけ見える。
男はレオの声を聞くや否や椅子からノロノロと立ち上がった。
「レ~オ~、朝からいないと思ったらまた本部内ウロチョロしてたの?少しは自分の仕事しろよー!!」
立つとより大柄なことがわかる。
しかし、その見た目にそぐわないあまりにも弱々しい声だった。
「えー、でもアーサーがやってるしよくね?」
「よくない!!俺はお前の分の仕事もやってるんだぞ!って君は……」
ノソノソと怒りながらレオに近づいてきたアーサーと呼ばれる男は、俺のことに気がついたらしくコチラに顔を向けた。
しっかり顔を見るとどこかで見た覚えのある顔だと思った。
「「あ! 昨日の」」
相手も俺のことを覚えていたようで声が重なる。レオだけが不思議そうな顔をしている。
「なになに? お前ら知り合いなの?」
「昨日レオはいないかって訪ねてきたんだよ、この様子だと見つかったみたいだね」
「はい、おかげさまで」
俺たちの会話にどうにも納得がいかない様子のレオは頬を膨らませ
「えーつまんない! 俺より早くサタローに会ってるなんて!」
と、よくわからない文句を言っている。
「お前が部屋にいないのが悪いんだろ」
「だって部屋にいたら仕事しろって言うだろ!」
「当たり前だ!」
なんか二人で言い争いが始まってしまった。このままだと俺を放置して争い続けそうなので間に入る。
「あの、そんなことよりこの方は?」
「あー、ごめんね紹介が遅れて、俺は第一師団第一連隊副隊長のアーサー、見ての通り獣人だよ」
「アーサーは熊の獣人なんだぜ、似合わないよなー」
「どういう意味だよ」
また俺をおいて言い争いが始まってしまう。
俺が予想した通りアーサーは熊の獣人だったようだ。確かにレオのいう通り見た目はかなり大柄で迫力はあるものの、言動が優しくて熊らしい凶暴さは見られない。
これで凶暴だったらめちゃめちゃ怖いからこのままでいいと思うけど、なんて失礼なことを思ったのは内緒だ。
66
お気に入りに追加
2,485
あなたにおすすめの小説
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
異世界転移して戻ってきたけど、疲れきったおじさんになっちゃった元勇者が子連れで再召喚されたら総愛されになってしまった件について
鳥海あおい
BL
勇者「クロエ」として異世界転移し、任を終えて普通に暮らしていた黒江光太郎はバツイチ、ブラック企業勤務、父子家庭。育児に家事疲れで、すっかり疲れ切ったおじさんになっていた。
だがそんなある日息子の律と再召喚される。
勇者として!ではなく、異世界でかつて魔王を倒したクロエはなんとアイドル的存在になっていたうえに、パーティーのメンバーから総愛されの逆ハーレム状態になってしまう。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる