異世界では総受けになりました。

西胡瓜

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第一章 転移編

9 アルフレッド

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 テントから抜け出して1時間ほど経っただろうか。あいにく時計がないので時間の感覚がいまいちわからない。
 日が沈みかけているのを見ると、俺が死んだのが学校への通学中だったから、異世界転移をしてきて10時間ほど経っているだろう。

 テントの外に出ると数人の男たちがおり、俺のことを不思議そうに見ていたが俺は気にすることなく走り続けた。
 後ろの方から「サタロー」と心配するアルフレッドの声が聞こえた気がするが、俺は足を止めなかった。

 幸いなことに転移してきた戦場は、テントの設置してある場所から離れており戦いに巻き込まれることはなかった。
 右も左もわからない状態でがむしゃらに森の中を走り続けた為、今から自分でテントの場所に戻ることは困難である。

「あーあ、俺なにしてるんだろう」

 転移してから半日も経たない間に怒涛の展開を迎え、何が何だかさっぱりだ。ただ一つ言えるのは俺がこの世界を救う英雄になる存在では無いことは間違いなく理解できた。
 むしろみんなに迷惑をかけている。

 テントの外の男たちの服装を見てアルフレッドもギルバードもかなり位の高い兵士なのかもと思った。外にいる男たちの服装と比べてもかなり豪華な服装だったからだ。

 そんなお偉いさんたちが凡人の俺一人のために、あそこまで悩んでくれたこと自体が光栄なことなのだ。

 日が沈んだら森の中にいる俺を探し出すのはより困難になるだろう。そもそも俺のことなんてどうでもいいと思って、探していないかもしれない。

 俺が死ぬまで残り5時間ほど、とりあえずギルバードというイケメンに助けられ、アルフレッドというもう一人のイケメンにキスされただけでも前世の初告白の返事「キモっ、引くわー」よりはよっぽどいい思い出だ。

 転移してきた半日のほうが、前世の17年間よりよっぽど充実していた。それはそれで悲しいけど。

 終活の準備とでも言うように色々思いを巡らせる俺だった。



◇◇◇



 森の中で一人しょげ始めてから数時間経った。よくもまぁこんなに落ち込めるもんだと自分でも驚いているが、あたりはもう真っ暗でまるで俺の心を体現したかのようだ。

 俺の余命も残り3、4時間ほどだろうか……。
 今からこの森の中を抜け出して、男に精液くれなんてとてもじゃないけど言えない。
 パスカルみたいに可愛い顔ならワンチャンありそうだけど、平凡な俺には無謀としか言いようがない。

 なんだか体もだるくなり始めてきた。そろそろ本当に死が迫っているようだと、どんどんネガティブになっていく。
 覚悟を決めたはずなのにそれでも死ぬのは怖かった。

「ぐす、うー死にたくないよ……」

 一人だからかあまりにも情けない声で泣き出す俺の声が誰もいない静かな森に響き渡る。

 その時誰もいないはずの茂みからガサガサと音が聞こえた。俺は泣くのをやめ身構える。

「だ、だれ?」

 こんな真夜中に森にいるのなんて、俺以外だと野生の動物だろうか。魔力が尽きる前に猛獣にガブリと喰われて死亡なんてパターンもあるわけか。

 俺の声にさらに茂みが大きく揺れる。俺は座っていた腰を少しあげ、直ぐにでも逃げられる準備をする。
 茂みからの音はどんどん大きくなり、大きな黒い影が見える。バサッと言う今までで一番大きな音がして出てきたのは、

「アル……フレッドさん」

 ランプを片手に持ったアルフレッドだった。

 猛獣でないことに安心した俺は、気が抜けて浮かせていた腰を地面に戻した。
 
「サタロー良かった、見つかって……」

 アルフレッドは少し息が上がっていた。顔を見るととても焦っている様子だ。もしかして俺を探しにきてくれたのだろうか、淡い期待を抱いてしまう。

「どうして、ここに?」
「サタローを探してきたんだよ。急に出て行くから驚いた。さぁ戻ろう」

 本当にアルフレッドは俺を探しに来てくれたようだ。俺は嬉しくて近づいて俺に手を差し伸べるアルフレッドの手を取る。
 アルフレッドは俺の手を握りしめると軽々と俺を起こした。が、立ち上がった俺は頭がズキリと痛みうまく足に力が入らずそのまま前に倒れ込んでしまう。
 アルフレッドはすぐに俺を支えてくれたので転ぶことはなかった。

「はぁ、はぁ……くるしぃ」

 先ほどの少しのだるさからは一変して息が苦しくなり始め、体調がどんどん悪くなっていくのが自分でわかる。死が近づいているようだ。
 俺の異変に気づいたアルフレッドは、心配そうに俺を見る。

「サタロー、大丈夫かい!?」
「だ、いじょうぶ……」

 大丈夫ではないが、これ以上アルフレッドに迷惑をかけるわけにはいかないと彼に笑顔を向け強がりを言う。
 俺の顔を見てアルフレッドは、険しい顔をする。嘘はバレバレのようだが、これでいいと自分に言い聞かせた。

「サタロー顔を上げて……」

 朦朧とする意識の中でアルフレッドの声に無意識に顔を上げた。その瞬間アルフレッドの顔が近づき俺の唇と重なり合った。

「んっ──はぁ……アルっ」

 先程のテントよりも少し荒っぽくて、紳士的な彼のキスとは思えない焦りを感じた。驚いた俺は足に力が入らずへたり込んでしまいそうになる。
 しかし、アルフレッドは俺の腰を逞しい腕で支える。

「んっ、ん」

 クチュクチュといやらしい音が静かな森に響く。アルフレッドから注がれる唾液を飲み込むたびに、だんだんと体に力が入ってくるのを感じる。

「はぁ……アルフレッド、さん……もう、大丈夫で、す」
「はぁはぁ、そうか」

 俺はアルフレッドの肩を押し唇を離すともう大丈夫だと伝える。ランプの光のせいかアルフレッドの顔がほんのりと赤くなっている気がした。テントの中でのキスの後の余裕そうな表情はないように見えた。

 俺はアルフレッドから離れようと一歩下がろうとするが、腰を支えていた彼の腕がそれを阻止してきた。

「アルフレッドさん?」

 俺は不思議に思いアルフレッドの顔を見る。彼は何も言わずに黙っていると、急に顔を上げて

「サタロー、私とセックスしようか」

と、真剣な顔で俺にそう言った。









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