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25 羨ましいのか?

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「毒島悠太? 誰それ」

「2年の先輩だよ、知らねーか?」

「知らないなー、生徒の名前なんて全然覚えてないから」

 あのあと家に帰った俺は、日向の部屋を訪れ毒島を知っているかと聞いていた。
 日向はクラスメイトの名前と映画研究部の名前をかろうじて覚えているぐらいで、他は全く知らないらしい。

「学園でお前の名前を知らない奴はいないのに、お前は全然覚えてないんだな」

「だって、僕あの学園の生徒に興味ないし」

 さらりとひどいこと言う日向。
 学園の全生徒は日向に首ったけだと言うのに当の本人は全く興味がないなんて事実を知ったらみんなショックだろう。
 同じ学園のアイドルである、久住は表面上とはいえ優しく接していると言うのに……素直というかドライというか。

「なんでそんなこと聞くのさ?」

「久住が毒島ってやつには近づくなっていうから……」

「へー、なんか久住先輩と仲良くなってない?」

「ち、違うわ!」

「ふーん」

 全力で否定した俺の顔を見て、日向はニヤニヤと笑っている。今の関係が仲がいいというなら、そこいらにいる不良も俺と仲がいいの対象になってしまう。

「でもなんか意味深な言葉だよねー、近づくななんて」

「だろ! 久住のことだから自分にとって不利になる相手に近づくなって意味かもしれないし」

「うんうん、困ったねー」

 全然困ってる感じじゃない反応だ。他人事だからってテキトーな返事しやがって、来週には元通り日向が星学に通うんだから日向にとっても大事なことのはずなのに、本当に学園に興味ないんだな。

「それよりもさ、アルファだらけなのによくヒートにならないよね正義って」

「はは、そこいらのオメガとは気合の入り方が違うからな!」

「何その脳筋みたいなセリフ」

 ──誰が脳筋だ。
 まぁ、間違っていないので否定しずらい。俺は自分以外のオメガを見たことがないのでよくわからないが、アルファが側にいるとヒートを起こしてしまうオメガがいるんだとか。

 俺の周りには両親や日向、凛などアルファが常にいたから耐性がついているんだろう。
 あんなの突然起きたら溜まったもんじゃない。あまりヒートが辛くない俺は薬を飲めば普段通りに生活できる。
 流石の俺もヒートを気合いで乗り切るのは無理で、薬に頼る必要はあった。

 あのアルファの巣窟の中で突然ヒートが起きたらなんて想像するだけでゾッとする。その場に薬が無かったらなんて最悪な事態考えたくもない。
 よくよく考えるとオメガの天敵とも思われる場所に俺は通っているんだと思った。それを矯正したのは目の前にいる可愛い俺の弟なのがさらに恐ろしい事実だ。

「誰かいい人がいればそのまま番になっちゃえば?」

「ばーか、誰が番なんか作るかよ。俺は可愛い女の子と付き合うんだ」

「なるほどアルファの女の子に攻められたいってことだね。正義へんたーい」

「なんで俺が受けなんだよ!」

「せっかく子どもが作れる身体なのに勿体ないと思うけどなー」

 俺に近づき俺のお腹を撫でる日向、その顔はどこか羨ましそうにしているようだった。
 
「それ、女子に同じこと言えんのかよ……子どもが産めるのに結婚しないのか、子ども産まないのかって」

「うっ……正義なんかに正論言われた~」

「なんかって、ひでぇな」

 俺のことを馬鹿にしたような……嫌、常日頃から馬鹿にしているのがわかる言葉だ。
 でも、日向と凛はもし結婚しても二人ともアルファの男だから子どもはできないんだよな。そう考えるとさっき俺を羨ましそうな顔で見ていた理由もわかる気がした。

「俺の人生なんだ好きなように生きるだけだ」

「そうだけどー! でもやっぱり僕は正義に番ができてほしいなー」

「ちょ! ぐへっ」

 無茶なことを言う日向が俺に抱きついてきて、そのまま俺は後ろに倒れ込む。最近喧嘩してないから体がなまってしまったのかも。

 どうして日向がここまで俺に番を作ってほしいのかはよく分からないが、可愛い弟のお願いでも聞くことはできない。
 可愛いのに凛相手だとアイツのことアンアン鳴かせてるんだと思うと可愛さは半減してしまう。

 オメガの特徴は男でも子どもが産めることなのに、それを使わないのは他から見れば宝の持ち腐れなのかもしれない。
 だったら、俺以外の別のやつがオメガになればよかったのになんて信じてもいない神様を憎んでやる。
 
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