黒田茶花

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友との再会

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 居酒屋を出ると、皆は二次会に行くようだった。しかし宮川は終電があるため先に帰ることにした。研究費は潤沢とは言えず、事務室は何かと経費の使い方にうるさいので、事前の計画書の通り、日帰りで帰らなければならない。それに授業の準備や出張報告書の作成などの仕事も山積している。
 新宿で最終の特急列車に飛び乗ると、すぐにドアが閉まり発車した。宮川はほっとしつつ、電車に揺られながら車両の通路を歩いていった。座席未指定の特急券だったため、空いている席を見つけてランプに特急券をかざして座る。
「宮川?」
席に着いて人心地ついたところで、不意に名前を呼ばれた。宮川は驚いて顔を上げた。いかにもスポーツマンといった体格の男が見下ろしていた。その顔には見覚えがあった。
「……松本か?」
その男――松本はみるみるうちに顔を綻ばせて、ニカッと笑った。
「やっぱ宮川だ! 久しぶり!」
松本は高校の同級生だった。宮川は都内の私立進学校に通っていたが、松本はスポーツ推薦で入ってきたのだ。大学もスポーツ推薦で内部進学し、部活に明け暮れ、卒業後はメーカーの営業になったと聞いた。宮川は高校の頃から文学が好きで、スポーツとは無縁だったし、文科系の名門大に進み、アカデミックの道を選んだ。正直、松本は住む世界が違う人間だったが、席が前後だったため話すようになった――否、松本のほうから一方的に話しかけてくるようになったのだ。
「隣、座っていいか?」
松本は宮川の答えを待つことなく、隣の席のランプに特急券をかざして座った。宮川は仕方なく、当たり障りのないことを聞いた。
「仕事の帰り?」
「ああ。立川にマンションを買ったんだ。宮川もこっち?」
「実は今、甲府に住んでるんだ。山南大学に呼ばれて講師になってさ。ずいぶん遠くなったよ」
宮川は困ったように頭をかいてみせたが、内心は少し得意な気分だった。社会的地位から見ても収入から見ても、大学教員は大企業の管理職コースに相当するだろう。
「へえ、おめでとう! 宮川、昔から頭がよかったもんな」
松本は屈託なく笑って、祝いの言葉を述べる。普通であれば、嫉妬や羨望の視線を向けてきそうなものだが、松本は単純な男だ。何も考えず生きていければ苦労することもないだろうと、逆に羨ましく感じる。
 松本はその後もあれこれとしゃべっていたが、電車が立川に着くと、手を振りながら降りていった。途中から適当にあしらっていた宮川は、内心ほっとした。
 立川で降りる客は多かった。八王子を過ぎた頃には車内がかなり閑散としていた。宮川はいつもより酔っていて、少し頭が重かった。本を読む気になれず、ぼんやりと窓の外を見ていた。街灯の光が流れ星のように、次々と後方へ飛んでいく。それも次第にまばらになっていくと、暗闇の中を民家や山の黒い輪郭が流れていくばかりになった。
 宮川はスマートフォンを出して、ブラウザからツイッターを開いてみた。吉良のアカウントを探すと、今日の飲み会の写真を載せていた。宮川はツイッターの投稿をしばらく見て、雰囲気を把握してから、アカウント作成のボタンを押す。画面の指示どおりに情報を入力していくと、すぐに「宮川晴彦」のアカウントができた。図書館のアカウントや大学のアカウントをフォローし、さらに研究者仲間や吉良のアカウントをフォローすると、すぐにフォローバックされた。吉良からメッセージが来る。
『宮川さん、今日はありがとうございました! 早速始めたんですね。よろしくお願いします。今度甲府に行く日程をご相談させてください』
宮川は返事をしようと思ったが、しばらく置いておくことにした。急に晴れやかな気分になり、自然と顔が緩んでしまった。甲府に着くまで、宮川は画面をスクロールしてツイッターを眺めていた。
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