この異世界は、かつて私が創造した世界

時雨竜

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「悪川シリーズ」

「空白」三之巻

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火の神であれば、人間を家畜としながらもその約束は守ってくれるはずだ。
「風、ウルフ、義経、全員を抱えて、そっちの雪のある方へと走ってくれ!」
水本耕二みずもとこうじがどこまで近付いているのかわからなかったが、感知能力を持つ水本なら移動したとしても、すぐに私たちの居場所を掴めるはずだ。
バット・ズーが動けない以上、速さを武器にできるのは、風とウルフ・ズーと赤井義経あかいよしつねの3人…
2分ほど移動したところで、火の神は、その速さを認めた。
速さというか、素早さか…火の神も巨大な炎の鳥だけあり、速さはかなりのもの…ただ、これは単純なスピード勝負ではない。人間が蚊や蝿を追うのに苦戦するように小さな標的を捕らえるというのは骨が折れる。
火の神は、追うのをやめ、再び羽ばたきを開始した。
蚊や蝿を追うのをやめた人間は、殺虫剤で部屋ごと虫を一掃しようとする…それと同様…火の神は、羽ばたきにより山ごと一掃しようとしていた。
神が人の策にはまるとは…
これが制限時間などなければ、また違ったのだろう。
これが挑発によって怒ってなければ、また違ったのだろう。
これが二擊目を防げない状況でなければ、また違っただろう。
火の神の羽ばたきには、1つの欠点がある。
それは空気中の温度を上げるために、一定の場所で羽ばたき続けること…

***

それは、格好の的になる。

***

火の神が、羽ばたく中、山の麓から先ほどの水の巨人ほどの大きさのつらら状のものが飛んできた。
火の神は、それに気付き、的をつららに切り替え、それに向かって炎を吐いた。
それはサラマンダー・ズーのものとは比べものにならないほどの炎の柱だった。
氷の塊だったそれは次第に溶けていった。
「遅くなったな…」
水本耕二がソラを連れ、私の前に現れた。
白い衣服に赤い帯を巻いた青年…モデルはデビュー前に私の漫画を手伝ってくれていた女性のため、少し中性的な顔立ちになっている…
「…」
「終始、この通り無言だが、コイツ大丈夫なのか?」
そういえば、「空白」のソラは、周囲が状況説明をしたため、あまりセリフ量のあるキャラクターではなかったな…しかしまあ、「ナイト」の水本自身もそうなのだが…
「ナイト」の場合は、社会や神から裏切りにあったためであり、話す仲間も少なかったためでもあるが、「空白」の場合は、無口と判断されたらしいな…
「まあ、能力はかなりのものだ…それは水本、君自身も見たはずだろ?」
「ああ。確かに、水を操るだけではこんなことはできなかった。」
ソラの能力は、風を操る能力…火の神に向かっていく巨大な氷柱も、先ほどバット・ズーがやったように水を凍り付かせたものと同様の方法だ。今回の場合、それに加え、周辺の空気を操る事でそれを弾丸として撃ち出していた。
巨大なつららは、既に巨大とは言えないぐらい…少し大きめのつららぐらいに溶かされていた。
「この距離はかわせないな…」
火の神は、当たる直前につららを溶かしきるが、中から現れたのは、天叢雲剣あまのむらくものつるぎだった。
ソラは、天叢雲剣の刀身が見えた事で、軽くなったそれをさらに加速させ、火の神の翼を貫いた。
かつて、ヤマタノオロチの体から出てきたという伝説のある天叢雲剣…またの名を草薙の剣…「空白」の中でもソラの武器として使っていたものだ…
神を傷付けられるとすれば、この武器しかなかった。
火の神を貫いた天叢雲剣を、風を操作して戻って来させるとともにもう片方の翼も貫いた。
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