この異世界は、かつて私が創造した世界

「チェスシリーズ」

「ルーク」

私は話を続けた。
「800年前のイタリア王国、そこに錬金術師ゲルが設計に助言した城がある…」
「カステル・デル・モンテ…」
「そう。海波洋一みなみよういち、君が新婚旅行で旅したイタリア旅行で水流操作の力を手に入れた場所だ。」
「イタリア旅行…確かにイタリア王国の城などは巡ったが、目的は妻が好きだったDDD共和国トリプルディーの料理を楽しむため…」
「DDD共和国！？」
DDD共和国…知らない単語ではないが、通称「チェス」シリーズと呼ばれるこのシリーズで聞くはずがなかった言葉だった。いや、神西暦が使用されている時点で、本屋で世界地図を確認しておくべきだった。
「SAME」では神西暦開始とともに、土の神によって世界の形は変えられたとされ、世界全体の国土面積はほとんど変わらないが、その配置は大幅に変わり、先のイタリア王国だった場所の西隣にモンゴル帝国だった場所が配置された。
これは神の戯れなどではなく、支配をしやすくするためと、自分に刃向かう魔物たちへの牽制だった。
「800年前に行く前に、歴史書と世界地図を確認しておきたい。」
海波洋一がそれを持っていることは設定済みだ。
「これの事だろ…」
私は、世界地図を確認しながら、神西暦となって以降の歴史を読み込んだ。
世界地図上の日本は変わらず島国のままだが、西隣にアメリカ大陸だったものがあるようになっている。これではまるでアメリカを盾にしているアメリカの属国…まあ、それは現実でも変わらないか…
歴史はまあ、「GAME」「SAME」「VANE」で明かされた通りのものに実際の歴史を組み合わせたようなものになっていた。配置は変わっても、世界大戦はやってきてる事に少し呆れてしまった。
「さて、それじゃあ、頼もうか…時間は神西暦に変わる前の西暦1221年6月10日…場所はカステル・デル・モンテの建設予定地…」
そう言って、私は用意していたマンゴーを3つ渡した。
「チッ…どこまでわかってやがる。やってやるよ…これで、家族の仇を討てるなら何だってな…サクリファイス！」
海波洋一は、マンゴーを受け取り、そう唱えると、桃は枯れはてていった。
海波洋一が時間移動に使うサクリファイスには、果物を犠牲にすることで発動する。
まあ、突発的に発動できるように、常時、果物を食べているが、手元にあればそれに越したことはない。

***

サクリファイスの発動とともに、緑色の光で3人のいた空間が閉ざされ、周辺が赤い光で包まれた。「キング」初期で使った描写か…「ナイト」のときは描写しなかったし、「キング」でもテンポ感を上げるため、だんだんと描写しなくなった。…決してトーンの複数貼りがよだきくなったとかではない。
水本耕二みずもとこうじだけは、突然の出来事に辺りを見渡していた。

***

数分後、私たちはカステル・デル・モンテが建つ予定の丘の上に立っていた。
カステル・デル・モンテ、8つ塔が均等に配置された八角形の城…実際に建てられるのは、この西暦1221年より20年も先になる。キリスト教の拠点シャルトルとイスラム教の聖地メッカを結ぶ場所に建てられた城は、キリスト教とイスラム教の溝を埋めることもできたかもしれないが、実際は、本来の歴史でもそうはならなかった。神西暦元年に、世界自体の地形が変わったにも関わらず同じ場所に建てられたのは、「ルーク」でのエピソードが関係しているのだろう。
西暦1221年、この場所に、錬金術師ゲルは住んでいた。