漆黒のピルグリム

ふらっぐ

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grave digger

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 翌日、夜。
 火ノ宮紅香は、夜の街を歩いていた。とは言っても、時刻は午後九時前後、なおかつ駅前の大通りとなれば、人気は多い。その上、今日は金曜日である。商業施設――――特に飲食店の集中しているこの辺りでは、なおさらだ。
 ――――だが、そこを歩く紅香、静馬――――そしてしばらく距離をおいて歩く翔悟と猫に
変化した雪乃の目的が飲食ではないことは、その険しい目つきを見れば一目瞭然だった。
「……どう、静馬。なんか、いそう?」
「……いや、今のところは」
 すれ違う人間にも聞こえるかどうかと言う声で聞いた紅香に、静馬が同様に小さく返す。
 その答えを聞き、紅香は今度は100mほど後方を歩く翔悟に視線を送る。が、翔悟も帽子を深く被りなおすと、小さく首を横に振った。
「やっぱり、昨日の今日で来るってことはない……かな?」
「油断しないほうがいいよ。場所柄、行動に出ないだけかもしれないし、この人ごみに紛れ込んでいて、僕らが見逃してるだけかもしれない」
 その言葉に、紅香が油断なくうなずく。
 だが、その人の多さゆえに、相手が乗ってくることもありうる。
 そう、これはいわば、おとり捜査だった。向こうはどうやら、紅香のことを知っていた。だったら、こちらから姿を出せば、向こうも姿を現す。そう考えての作戦だった。というよりも、相手のはっきりした目的も規模も分からない今では、こうして直接、相手を引っ張り出すしか手段がなかったとも言える。
 作戦の詳細な内容はこうだ。まずは紅香、静馬が人通りの多い場所――――今のような駅前などを歩く。これで向こうが動きを見せるなら、こちらも行動を起こす。向こうが動かないならば――――。
「……とはいえ、このまま歩いてても、どうもただの散歩で終わりそうだね。……あれ、やってみる?」
「うう……。マジでやるの? なんだか恥ずかしいんだけど……。だいたい、半分冗談だったじゃない。そんなシチュエーションがあったら、っていう……」
「それならほら、あそこ」
 静馬が指差す先には、派手な金髪や茶髪の、いかにもちゃらちゃらとした、二十歳前後の『いかにもむりやり女の子を誘ってます』――――。というオーラを出した、男たちと――――。
「やめてください!」
 いかにも無理やりナンパされてます――――。というオーラを出した十代後半と思しき少女の姿があった。
「……なんなのよ……。こういうのって、マンガとかだとよくいるけど、話を進めるためのバイトでもあるの?」
 あまりにいかにもな光景に、紅香がため息をつく。
「さぁ? でも見ちゃったからには、ほっとけないんじゃない? 実際困ってはいるみたいだしさ、正義の味方さん?」
「はいはい……わかったよ……」
 苦い顔で歩を進める紅香は、パン、と平手で気合を入れると、きっと柄の悪い男たちを見据えて歩いていく。
 やがて、男たちの元まで歩いていくと。
「そこまでよっ! この悪党!」
 と、びしっとリーダーらしい男の顔を指差す。その顔には、若干の照れが混じっていたが。
 が、紅香の視線がが男と少女の間で止まる。男の手には、小型のナイフ。そして少女の手には、数枚の札。まわりは、男の取り巻きたちが、周囲から見えないように立ちふさがっていた。
「あらら、強引なナンパかと思ったら、まさかの強盗さんだよ」
 場違いなまでにのほほんとした静馬の声。
 そして。
 紅香の髪の色が、紅く染まった。
「人の皮を被った悪魔め……街にはびこるワルがいれば、行って紅き拳をふるい、助けを求める人あれば、行って紅き手を差し伸べる――――。あんたらに、かける情けはありゃしないっ! 煉獄の裁きを受けなさいっ! 正義の鉄拳少女、紅香見参っ! お前らの血は何色だぁーっ!!」
「……ノリノリじゃん」
 さっきまでぎこちなかった、いかにもな正義の味方の登場のセリフをよどみなく言い切る紅香に、静馬が嘆息する。
「なんだ、てめ……っ」
 男がナイフをこちらに向けたときには、紅香はその目と鼻の先まで迫っていた。
 ナイフの男をジャブの一撃で、取り巻きの男たちを、拳を横に薙いで昏倒させる。
「成敗っ!」
 と、刹那。周りかざわめき始めたその音が――――完全に、止んだ。
 紅香が顔を上げると、そこには、人の姿は一切、無くなっていた。ナイフを持った男たちも、脅されていた少女も――――。その光景に、紅香の口元に、かすかに笑みが浮かぶ。
「……来たね、ほんとの、街にはびこる、ワル」
 ゆっくりと、紅香が振り向く。
 その先には、一人の女性がいた。二十歳前後だろうか、黒い、ロングのワンピースを着た女性。短いボブで揃えた黒髪と、虚ろな黒い瞳は、まるで人形のように生気を感じさせない。
「……釣れるかどうか、賭けだったけれど、案外簡単に乗ってきてくれたね。教会の人間で、目的が邪神ならば、街中で派手に力を使えば、姿を見せるってね」
 静馬の言葉に、しかし女性は被りを横に振る。
「……邪神、目的、否」
「……なに? はっきりしゃべんなさいよっ!」
 ぼそりぼそりと話す独特の口調に、紅香ががなる。
「……目的、命、紅い少女」
 刹那、人形のように生気のない瞳が、ぎょろりと殺気に満ちた。
 次の瞬間、女性が駆ける。立っていた車道から、紅香の元へと。その右手には大振りのナイフが握られている。
「……はやっ!」
 紅香が思わず、後ろに仰け反ってかわす。さらに連続して二発、三発と繰り出される斬撃を、大きく後ろに跳んでかわす。そのままビルの壁まで飛びついた紅香は、三角とびの要領で一転、女性に肉薄する。
「……いたたきっ!」
 だが、その拳が女性をとらえたと思った瞬間、その姿が、ふと消えた。
「……えっ!?」
 困惑しながらも着地する紅香に、静馬の声が飛ぶ。
「紅香、上だっ!」
 反射的に上を見た紅香の目に映ったのは、宙に静止する女性。その左手首の袖からは、長くワイヤーのようなものが伸びている。
 紅香がその姿に気づいた次の瞬間、ワイヤーがどこかからパチンとはずれ、女性がナイフを手に急降下する。
「うわっと!」
 またしても、紅香は飛びすさってその一撃をかわした。
「……昨日の連中とは違う……あんた、何者なの!?」
 急降下しての攻撃をかわされたことなど挨拶代わりとでも言うのか、悔恨など微塵も感じさせない無表情で、女性はゆっくりと立ち上がる。
「……私。ウィノナ。……教会。グレイヴディガー……」
「なん、ですって……?」
 そのあまりに端的すぎる言葉に、紅香は困惑する。ウィノナ……彼女の名前だろうか。教会と言う言葉は、教会の人間であるということか? ……なら、『グレイヴディガー』というのは?
「なんなのよ、それ……。『グレイヴディガー』ってなに? さっぱりわかんないんだけど!」
 その言葉の不可解さに、紅香がウィノナと名乗った女性を睨む。
 だが、その視線に彼女は瞬き一つしない。
「理解……必要……無い」
 次の瞬間、ウィノナが左手を紅香に向ける。そのそでから、先端が槍のように鋭く尖ったワイヤーが打ち出される。
「くっ!」
 それを紅香はかろうじてスウェーでかわす。だが視線をウィノナに戻した瞬間、すでに目の前に彼女が迫っていた。
「うあっ!」
 反射的に身をひねるも、ウィノナの持つナイフが右腕を掠めた。
 わずかに出血する右腕を抑えながら、紅香は振り向く。そして、先ほどの速さの理由を理解する。それは、ワイヤーだった。彼女がワイヤーを打ち出したのは攻撃するためではなく、ワイヤーの先端を街路樹に自分の身を引き寄せることだったのだ。
「うう……なんかこういうやつ、苦手。小細工しないで正面から来いっての!」
「紅香相手に馬鹿正直につっこむには、勇気じゃなくて無謀さがいるけどね」
 軽く静馬は突っ込みながらも、紅香同様にその表情は険しい。紅香と同じく、一筋縄ではいかない相手と踏んでいるのだろう。
「こうなったら、ちょっと本気出すわよっ!」
 紅香が怒声とともに両腕を空に掲げると、あの邪神にとどめを刺した大剣――――バーニング・オースが炎とともに顕現する。
 その剣を見、ウィノナの表情がいよいよ暗く沈む。それは、狩人の目。それも、大地で太陽の下で行われる狩りではなく、光の届かぬ深海で、そっと獲物に忍び寄る、捕食者のような瞳。
「邪神……使う……生まれ、かわり……?」
「だからっ、あんたは何言ってんのか、ぜんっぜんわかんないっての!」
 今度は紅香が先に動いた。相手の得物はナイフ。こちらは馬鹿でかい、鉄塊もどきの巨剣だ。圧倒的にリーチは上だ。ウィノナの間合いに入る前に、紅香は大剣を振り下ろす。
 今度はウィノナがバク転しながらそれをかわした。
 紅香は間髪入れずにそれを追う。大きく一歩踏み込みながら大剣を横薙ぎに振るう。
 同じようにウィノナは後ろへ飛んでかわすが、その動きを紅香の瞳はしっかりと捉えていた。
「今度は……これもサービスよっ!」
 紅香が振るった剣の軌跡が、まるで空気との摩擦で発火したかのように燃え上がる。その勢いに、今まで揺らぐことのなかったウィノナの瞳に、驚きの色が混じった。
「……………ッ!」
 その炎に巻かれ、黒い瞳の女性がたたらを踏む。
「もらったぁっ!」
 その体勢が崩れたのを見、紅香が大きくもう一歩踏み出した。同時に渾身の力を込めて大剣を振り下ろす。
 次の瞬間――――ウィノナが取った行動に、紅香が目を疑った。
「……えっ?」
 崩れた姿勢のまま、ウィノナは無防備に右腕を差し出す。まるで、自ら右腕を切断するつもりであるかのように。
 そして――――。さながら真綿を叩いたような、ありえない軽さの手ごたえを残し、ウィノナの右腕が飛ぶ。
 唖然とした表情でそれを見る紅香が、それに気づくのは、遅かったと言えた。
……出血、していない。
はっと気づいた紅香がウィノナを見ると、その女性に、はじめて表情が浮かんでいた。それは、罠にかかった獲物を見るかのような、確信めいた、不気味な笑み。
紅香が体勢を整えるよりも早く、ウィノナがその左袖からワイヤーを打ち出す。今度は移動のためではなく、紅香の胸を狙った必殺の勢いを込めた一撃。
刹那、紅香の左胸を激痛が襲い――――だが、貫かなかった。
「……あっぶなぁ、まさか、右腕一本犠牲にして、一撃必殺狙いで来るなんて……さすがに思わなかったよ」
「……同じく」
 ワイヤーの切っ先は紅香の胸にわずかに刺さっていたが――――そのワイヤーを、紅香の右手と静馬の左手が、しっかりと握っていた。
「……ワイヤー、停止……驚愕」
 ウィノナの色のない瞳が、はじめてかすかに驚いたように揺れた。
「今度は……こっちの番っ!」
 驚きに次の行動に移れないウィノナより早く、紅香は左手の大剣を地面に突き刺すと、両手でワイヤーを握る。それをそのまま、思いっきり引き寄せた。
「……何を……」
 バランスを崩し、つんのめる形でウィノナが紅香に引き寄せられる。
「こうする……のよっ!」
 ウィノナを目前まで引き寄せた紅香は、そのままワイヤーをハンマー投げのように回転しながら振り回し……その勢いを込めて、ウィノナを上空に投げ飛ばした。
「…………ッ!」
 かすかに空気を吸う音を残し、ウィノナの身体が宙高く舞う。そして……そのまま、電線に激突した。すさまじい勢いで叩きつけられた電線は衝撃に耐え切れず、火花を上げながら千切れ飛ぶ。
 そこを流れていた電流は……皮肉にも、彼女の武器であるワイヤーを伝って、ウィノナの身体を襲った。
「…………かッ………」
 やがて、その身体が力なく、どさりと地面に落ちた。
「……うわ、やりすぎた……。投げ飛ばすだけのつもりだったのに」
 紅香が少々狼狽しながら、倒れたウィノナを見る。ぶすぶすと煙をあげるその姿が、動く様子はない。
「……心配する必要は、ないみたいだよ」
 しゃがみこんでいた静馬が、ゆっくりと立ち上がり、紅香に向き直る。その手には、先ほどウィノナが奇襲の犠牲にした右腕があった。
「……人形、だ」
「……えっ?」
 静馬がその右腕を、紅香に指してみせる。確かに、服の下は綿のような素材と、鉄のような金属の骨組みしかなかった。
「……いったい、なんだったんだろうな、こいつ……」
 それを凝視する静馬。と、その背後で。
「……右腕損傷、92%……」
「え?」
 突如、ウィノナが糸を引かれた操り人形のように立ち上がった。
「うわっ!」
 さすがに驚いたらしい静馬が、思わず後ろへ飛びすさる。
「ボディ……損傷。87%。任務……続行不可」
 その姿は、まさに壊れかけた人形だった。胴体部を形成している綿や鉄骨が露出している。だが、動力部になるような機械の類は一切ない。
「……戦略的、後退」
 驚く二人をよそに、ウィノナというそれは左袖のワイヤーを後方上空へ放つと、一瞬で宙を舞い、消えていった。
「……ほんとに、なんだったんだろ、ね……」
 あまりに一瞬ことに、呆然と見送るしかなかった紅香も、つぶやく。
 その次の瞬間。唐突に、街の喧騒が戻ってきた。
「あ……ありがとうございますっ! あなたは命の恩人です!」
「へ!?」
 突然、紅香にしがみつく人影。それは、先ほどチンピラに襲われていた少女だった。
「ちょっ、なんでいきなり元通りになるの?」
「ああ、あのウィノナってのが、空間をゆがめてたんだろうね。で、あいつが逃げちゃったから、さっきの続きになってるわけだ」
 すでに冷静さを取り戻した静馬が、のんきに状況を解説する。
「おい、すごいぞ、紅い髪の子……」
「一瞬で強盗四人をやっつけちまったぜ」
 紅香があぜんとしている間に、周囲はすっかり野次馬が集まっていた。しかもいまさら気づいたが、髪やら腕やらの変化を解いていない。
「や、やばっ!」
「あの、せめてお名前を!」
 これまたほんとにそれが仕事なのではと思えるほどお決まりのセリフで、少女が紅香に迫る。さらに悪いことに、先ほどは気づかなかったが、少女が着ているのは霧が丘高校の制服だ。
「なっ、ななな、名乗るほどのものではありませんっ! さ、さらばっ!」
 思わず紅香もベタなセリフで返しながら、野次馬の中を掻き分けて逃げ出すのだった。
 
「ぶははははははは……っ!! 最高だわこれ!! 惜しいぜ、近くにいりゃ、生でこの光景見れたのにな! くっくくくく……」
 翌日、翔悟の探偵事務所。
 そこでは、その事務所の主が新聞を手に大爆笑していた。
 そして、その傍らには怒りと恥ずかしさで真っ赤な顔をした紅香と、普段どおりのほほんと微笑む静馬の姿があった。
「これなんか受けるぞ。『怪しい男たちがいるなあなんて思ってたら、その女の子がやってきて、強盗を一瞬でやっつけたんだ! しかも、目の前で髪の色が紅く変わったんだよ!』……どこのアニメの話だよ、くくくくくくく……」
 翔悟が手にしているのは、その日の朝刊だ。そこには、昨夜の出来事がばっちりと記事として載っていたのだ。それも、なぜかかなりでかでかと。『前崎市で強盗未遂事件! 謎の少女が犯人を撃退』などと見出しまで付いている。
「しかもお前、写メ撮られてるぞ。まあ、遠目で横顔がちょっと写ってる程度だから、誰かは分かるまいが。……お前さん、これから大変だな。謎の少女なんだから、正体を知られちゃうとまずいもんな」
 いまだに笑いを堪えて小刻みに震えながら、翔悟が言う。
「……紅香、マンガみたいなのです」
 その横で微笑む雪乃も、どことなくこの事態を楽しんでいるように見える。
「……ああああ、もう! うるっさーい! こんな変な作戦を提案してきた翔さんが悪いんじゃない! なんとかしてよ、恥ずかしすぎるでしょ!」
「だってよ、まさかこんなに見事に決まるとは……。それに、できるだけ派手にやらないと、向こうだって動いてくんなかったかもしれんだろ? ついでに言えば、これだけ紅香が目立つ存在になれば、手出しだってしにくいはずだ」
 真っ赤に茹で上がった、ゆでだこのような形相で迫る紅香に、翔悟が返す。たしかに言っていることは納得できるのだが、その顔はどう見てもこの状況を楽しんでいる。
「ま、昨日の珍事を楽しむのはこれくらいにして……まじめな話もしようぜ。ちゃんと、収穫だってあったんだからな」
 笑い疲れたらしく、翔悟が大きく息をついてから言う。
「これ……だね」
 そう言ってうなづく静馬の視線の先には、ウィノナと名乗ったものの右腕――――と思しきものがある。
「一応、ざっとは調べてみたんだが……機械の類じゃなさそうだ。精巧で、金属を使って頑丈には作られてるが、こいつを見る限り、人形だな」
 翔悟がその腕の断面を示しながら言う。
「だけど、それ見た時はびっくりしたね。まさか、ロボットかと思っちゃったよ」
「お前、謎の少女対ロボ少女なんて、どう考えてもトンデモ展開すぎるぞ」
 再び笑いを堪えるように背中を震わす翔悟を、紅香が睨む。
「一応、これになにか気配が残っていないか探ってみたのですが、やはりすべては読み取れなかったのです。ただ、なにかしらの術式がかけられていた痕跡はあったのです」
 雪乃が、その腕に視線を移しながら言う。
「……術式?」
「はい。そのウィノナというものの動きと、これに残った痕跡からして、何者かが憑依した人形ではないかと」
「それもかなり高度な、な。普通に人形に魂が宿った程度じゃ、少々動けるくらいのことしかできない。できたとして、髪を伸ばす程度のことだな。よく怪談であるだろ? まあ、最近は変なやつもいるみたいだが」
「変なやつ?」
 いぶかしげな表情の紅香に、翔悟はぼりぼりと頭を掻く。
「あー、こっちの話だ、気にすんな。それより、人間と遜色ない――――いや、それ以上の動きをしてみせる憑依人形なんてのは、そうそう作れないはずだ。それに、やつが言った言葉――――」
「……『教会』、『グレイヴディガー』……」
 不意に、静馬がまじめな顔でうなづく。
「そう、それだ。だが……『教会』は恐らく『教会に所属する者』ということと考えるのが妥当だが……。『グレイヴディガー』この言葉は謎だな。教会に関連する組織かなんかなのか?」
「そういえば、ミッチーとはまだ連絡つかないの? こないだ、電話してみたじゃん」
 教会という言葉に反応して、紅香が言う。教会に関係する言葉ならば、水葉ならわかるのではないかと思ったのだ。だが、翔悟の反応は芳しいものではなかった。
「それがな、ずっと圏外になってるんだ。何かあったとしても、水葉ならうまくやるだろうが……。あいつ、仕事熱心だからな。ものすごいド田舎にでも仕事で行ってんじゃねえか?」
「あの子、本業はエクソシストですからね。今頃、悪魔さんを追っかけて、大立ち回りかもしれないのです」
 どこまで本気かわからない雪乃の調子に、紅香は前回の事件で、悪魔や死人を相手にしていた水葉の様子を思い浮かべる。
「……十分、ありえるね」
 ため息混じりに、紅香が肩をすくめた。
 
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