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The pilgrim
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遠い、異国の街。
今より、遥か昔。
嵐の前を思わせる、流れる雲の早い夜。月が現れては消え、現れては消えを繰り返す、光と闇の交錯する頃。
二人の人間が対峙していた。
一人は、少女。その決して大きくはない身体は、雲のかげった闇に隠れて、今は見えない。
一人は、青年。教会の司祭服に身を包み、血に濡れた剣を携えている。月の光に照らされたそれはぎらぎらとした鈍い光を放っている。
「……聖女様――――」
青年が、一歩、少女に歩み寄りながら、言う。
「いや――――堕ちた聖女様、と言ったほうがよろしいか? それとも――――魔女、と呼ぶべきですか?」
淡々とした青年の声からは、そこにどのような感情が込められているのか、うかがい知ることはできない。
また、対峙する少女からも、闇に隠れて、その感情を察することはできなかった。ただ、その小さな身体は、血を流すのみだった。
「――――願わくば、あなたには聖女のままでいてほしかった。みなをその力で救い、奇跡を起こし、弱きもののために戦う、聖なる乙女……」
青年が、かすかに悔恨をその表情ににじませながら、唇を噛む。
「そうすれば、私は……」
ゆらり、と。
青年が剣を構えた。
その刹那、雲が動いた。月が再びその光をのぞかせ、少女を照らし出す。
質素なローブに身を包んだ、華奢な体格の少女。ローブについたフードを目深にかぶっているせいで、その表情は窺えない。だがその奥から、強い光を持つ、その瞳が青年を貫くように見ていた。
「――――戯言は、必要ない。殺すのならば、早くやればいい」
瞳と同じく鋭い声が、青年に突き刺さる。しかし、どこかあきらめたような無関心さを秘めた言葉の通りに、少女の脇腹は血に染まっている。
「だが……例え私がここで死のうとも、お前の思い通りには、させない」
「そう、ですか……」
舞台の上のスポットライトが切り替わるかのように、今度は青年の姿を、闇が隠した。
「残念です……魔女、よ……」
暗がりで振るわれた剣閃は、誰にも見られることなく、少女を切り裂いた。
今より、遥か昔。
嵐の前を思わせる、流れる雲の早い夜。月が現れては消え、現れては消えを繰り返す、光と闇の交錯する頃。
二人の人間が対峙していた。
一人は、少女。その決して大きくはない身体は、雲のかげった闇に隠れて、今は見えない。
一人は、青年。教会の司祭服に身を包み、血に濡れた剣を携えている。月の光に照らされたそれはぎらぎらとした鈍い光を放っている。
「……聖女様――――」
青年が、一歩、少女に歩み寄りながら、言う。
「いや――――堕ちた聖女様、と言ったほうがよろしいか? それとも――――魔女、と呼ぶべきですか?」
淡々とした青年の声からは、そこにどのような感情が込められているのか、うかがい知ることはできない。
また、対峙する少女からも、闇に隠れて、その感情を察することはできなかった。ただ、その小さな身体は、血を流すのみだった。
「――――願わくば、あなたには聖女のままでいてほしかった。みなをその力で救い、奇跡を起こし、弱きもののために戦う、聖なる乙女……」
青年が、かすかに悔恨をその表情ににじませながら、唇を噛む。
「そうすれば、私は……」
ゆらり、と。
青年が剣を構えた。
その刹那、雲が動いた。月が再びその光をのぞかせ、少女を照らし出す。
質素なローブに身を包んだ、華奢な体格の少女。ローブについたフードを目深にかぶっているせいで、その表情は窺えない。だがその奥から、強い光を持つ、その瞳が青年を貫くように見ていた。
「――――戯言は、必要ない。殺すのならば、早くやればいい」
瞳と同じく鋭い声が、青年に突き刺さる。しかし、どこかあきらめたような無関心さを秘めた言葉の通りに、少女の脇腹は血に染まっている。
「だが……例え私がここで死のうとも、お前の思い通りには、させない」
「そう、ですか……」
舞台の上のスポットライトが切り替わるかのように、今度は青年の姿を、闇が隠した。
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