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マスター 植野 その1

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植野と知り合ったのは西新宿にある彼のバーだった。

店に入ると左奥にバーカウンターがあり、その右横にDJブース、フロアの中心は空いていて、フロア正面奥から右の壁に沿ってテーブル席とソファー席が並んでいる。

植野はいつもバーカウンターの中にいて、カクテルの注文をさばきながら、ひっきりなしに来る子たちの話し相手をしていた。

人気あるな、植野さん。

その日はカウンターにショットガンが並び、その場にいた数人がグラス叩きつけて競いながら煽っていた。

わたしは4杯目であえなく撃沈。

気持ちよくフロアで踊っていたはずなのに、次に気が付いたときは店の外階段に座り込んでいた。

鉄の手すりが冷たくて気持ちいい。

カンカンと鉄階段を下りる音がして、その足音が近づいてくる。
話しかけられた気がして顔を上げると、植野が体をかがめてこちらをのぞき込んでいた。

「植野さん、どしたの?」
「大丈夫?ショット飲み過ぎたでしょ、やりすぎ」

「ああ、平気。ちょっとペースが速かっただけだから…」
ふわぁと大きなあくびが出てしまった。

「店そろそろ空いてきたから、中のソファーで休みな、おいで」
そういってわたしを軽々と抱えて立たせた。

植野はとても小柄な男だ。
わたしの目線に頭がくるくらいの身長。
体は筋肉質でぎっちりしている。触るとわかる。

少し大きめのシャツとニットのベスト、太めのボトム、やわらかい顔つきと丸いメガネ、癖のあるふわふわした髪の毛のせいか、その中身がこんな筋肉の塊だと気づかれることが無い。触らないとわからない。

大きな塊のハムみたいだ。

植野が階段を一段上がったとき、彼の太い首がわたしの目の前にきた。

「植野さんハムみたいでおいしそうだね。」
ふざけてわたしは首元に噛みつくふりをする。

植野は表情を変えずにわたしの顎をおさえてそれを止めると、両手で顔を挟み中指でギュッと両耳の耳珠じじゅを抑え込んで耳をふさいだ。

外の音が消え血管を流れる液体の音と呼吸音だけが響く。

びっくりして植野を見ると、そのままじっと見つめられた。




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