4 / 21
気持ちの変化〜マユの頑張り〜
周りの変化
しおりを挟む「戦う準備も覚悟も、私はいつでも出来ています」
迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
「……はい」
口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
「……はい」
口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説


離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる