「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

久保カズヤ

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五章 この物語に名前をつけよう

最終話

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 久しぶりだね、僕だよ。君と同じただの一読者であるハデスさ。
 今回顔を出した理由は、君にも、そして葵くんやシルビアちゃん、あとルイーヌくんとかヴィルヘルくんとかも含めたみんなに「お詫び」を申し上げたかったんだ。
 もう薄々感づいてはいるかな?
 そうだね、不律くんたちが絶体絶命の大ピンチになった瞬間の出来事さ。あまりにも丁度いいタイミングで、不自然に勇者が復活しただろ?ゴメン、実はあれ僕の仕業なんだよね。

 知っている人は知っているかな?例えば神話では、『ハデス』っていう神様は結構不遇な扱いを受けているんだ。同じ名を持つ僕も、実はそれと当たらずとも遠からずってとこなんだよね。だからこそ、葵くんを見つけたその瞬間、とても彼のこれからの生き方に心惹かれたんだ。もっと彼の活躍を見てみたいと、週刊少年誌の次号を待ち望む子供の様なワクワク感がボクの中に芽生えた。
 分かってはいるんだよ。葵くんの生き方を読者として楽しんでいる僕が、あの世界に手出ししちゃいけないってことぐらい。
 でもね、あんな最終回じゃあまりにもつまらなくないかい?ここは漫画の世界では無く現実という世界だから、予定調和に物語が進むことは絶対にない。だけども僕はどうしても葵くんの、そしてシルビアちゃんの「これから」を見たくなってしまっていた。

 言い訳がましいかもしれないけど、これがあの「奇跡」の理由だ。反省してます、これは読者として、そして神様として本当にやっちゃいけないことだからね………。

 さて、と。僕の話はここでお終いだよ。
 次は「あれから」の話をしよう。あの「奇跡」から後の話だ。
 結論から言うとシルビアちゃんは難なくあのルイーヌくんの包囲網を、葵くんたちを連れたまま突破して見せた。目の前でまざまざと奇跡を見せつけられたんだ、今まで自分達の味方だった分、兵士達にはその奇跡の光景があまりにも恐ろしいものに見えたんだろう。士気は駄々下がり、包囲軍は総崩れさ。そこから抜け出すのは、たとえ負傷人同伴と言えどもあまり難しい事じゃなかっただろうね。

 そして、世界情勢の話だね。
 まぁ、言うまでも無く人間側は大混乱さ。教会のスキャンダル、勇者と魔王を逃したとして王政軍の求心力は低下。でもここは流石ヴィルヘルくんといったところか、王政へのイメージダウンの原因をほぼ教会側に擦り付けて、結果的に勇者を殺さなくても、教会が刃向えなくなるくらいに力をこそげ落としている最中らしいんだ。
 なんていうか、転んでもただでは起きないというか。そもそもこれを最初から狙っていたのか。いやはや、面白い人材だね。


 ここで葵くんとシルビアちゃんのお話は終しまいだよ。もちろんこれは「人生」ってやつだから、明白に終わりではないんだけど。

 これから君に見せるのはそれからまた数日後の、そんな「続き」の物語だ。



 さて、ここでみんなはどんな衣装が好きかな?という話をしよう。てかさせて下さい。
 世の中には様々な衣装が「萌え」文化に取り入れられている。代表例を挙げるとするならば、メイド服やスク水、ナース服、巫女服なんて物もあるな、最近の流行りは両腕に紐をつけてナントカカントカらしいけど詳しいことはよくわかんない。そして俺は例に漏れずロングスカートが大好きだ。
 ただ衣装萌えには重要な要素があることを俺は知っている、きっとこれはみんなにも頷いてもらえると思うんだ。
 衣装萌えに必要な、重要な要素。それは「初心なナチュラルさ」と「溶け込めない適度な不自然さ」だと思う。

 メイド喫茶に行っても、さほどそのメイド服自体に萌えることは無い。
 水泳大会で競泳水着やスクール水着を見たところで、あっという間にその光景に目は慣れてしまう。
 初詣に来た神社で見る巫女服に萌えるなんてことは無い。ていうかあってはならない、罰当たりだわ。
 病院で見るナース服とか、はっきり言って別に何ともない。

 だったらどんな時に「萌え」が来るのか。
 そこで俺の説く「初心なナチュラルさ」というのをまず参考にしよう。これは簡単に言い表すとするならば、その衣装を「着慣れていない」という事だ。今までこんな服を着た試しがない、みたいな女の子に様々な衣装を着せてみるというのは何か堪らないものがあるよね死ぬよねって話です。
 世の中には衣装を着るプロの方々「コスプレイヤー」なる人もいらっしゃいますが、はっきり言ってあれは萌えとは少し違う気がする。コスプレイヤーさんの写真を撮られている人達はきっと、「萌え」とかじゃなくて「スケベ根性」か「芸術」として写真を撮っている気がしてならない。
 そしてもう一つの重要な要素「溶け込めない適度な不自然さ」だが、これはその場にふさわしくない衣装を着ている状況のことを指す。
 前述でも述べた通り、相応しい場に似合った服装に「萌え」を感じることはほぼありません。そういう気持ちがあったとしたら、多分その人はちょっと危ないので気を付けてください。でもこれがふさわしくない場所での服装であれば。そう、例えばこんな風に

「さっきからどうしたんですか不律さん、ニマニマして」

 訝しげな顔で、ベッドの上で横になっている俺の顔を覗き込むシルビア。
 彼女は何が何だかわからないうちに「パジャマ風ネズミさんの着ぐるみ」を着せられていた。うん、これだけでご飯三杯はいけそうだね。
「もう………この服はどこから持って来たんですか。不律さんの故郷ではこの服を着て病人の手当てをするのが伝統だってさっき言ってましたけど、うぅ………本当なんですか?凄く恥ずかしいです」
 いや、いくらでもご飯食べられそう。「恥じらい分」万歳。
 この服を仕立て屋に早速発注してくれた仕事熱心なトロール三人組にはあとでお礼を言わないといけない。

 何でも俺はあの戦いがあった日から、ほぼ丸々三日は寝ていたそうだ。鏡で己の顔を見せてもらった時は、驚くほどゲッソリしてたよ。
 そんな傷ついた俺の体を看護してくれていたのはシルビアだった。もちろんマナドゥ、ヴェベール、オートゥイユ、そしてベアトリーチェやカストディオもみんな看護されていたんだよね。いやぁ、魔族一大ニュースだよ。勇者に魔族のトップ全員が看護されてるなんて。
 ここで一つふと疑問なのが、何故シルビアの体は傷一つなく至って健康なんだという点。本人に聞いても「不律さんのおかげですよ。奇跡が起きたんです」と嬉しそうに答えるばかりでよく分からない。俺も頭が良いわけではないし、深く考えることはやめておこうと思う。

『魔王様ぁ♪ワタクシ寝相が悪いから、どうしてか魔王様のおそばまで無意識に転がって行ってしまうかもしれないですケド、大目に見てねっ』
『ベ、ベアトリーチェさん!?そんな、ズルい………じゃなくて駄目ですよ!ただでさえ魔力中毒になってるんですから、大人しくっ、自分のベッドに戻って下さい!』
『勇者めっ、そんなワタクシを抱えてまで魔王様から引き離そうとしてっ!この卑怯モノー!!』
『ふんっ、甘いぞ勇者シルビア。儂の手にかかれば………娘の邪魔はさせぬっ』
『そんなっ、馬鹿なんじゃないんですか!?カストディオ卿、あなたが一番重傷なのに、ベアトリーチェさんを不律さんの側に移動させる為だけに「瞬間移動」を使わないで下さい!余計に体力を浪費してるじゃないですか!?』
『ぐふっ、何のこれしき………』
『『『カストディオ様ーーーっ!!』』』
『トロールの皆さんも、動いたら傷口が開いちゃいますよ!?』

 あー、騒がしい。
 あの戦いがあってからまだ数日しか経ってないだろうが、なんだこいつら、元気すぎるだろ。もしかして俺、夢でも見てたんじゃないだろうかって疑ってしまうわ。
 いくら騒いでもカストディオさんの自宅だから、特に誰に迷惑がかかるわけでも無いから別に良いのだけれど。
「くっ、はははっ………」
 傷のせいで上手く笑えないな。
「………そういえば私、不律さんが声を上げて笑ってるを顔始めて見たような気がします」
「んだよ………みんなして、まじまじとこっち見るなよ」
 馬鹿騒ぎがピタリと止み、一斉に俺の方へ物珍しげな視線が集まる。
 何だかそんな視線を一身に受けているこの状況も可笑しくて、自然に笑みがこぼれた。自分でもよく分からないんだ、遂に壊れたのかなんてことも疑ったが、壊れた末にこんなに軽やかな笑いがこみあげてくるのなら、別に壊れるのも悪くないなとか思ってしまう。

 俺は確かに、あの戦いの最中、シルビアを殺すことが出来ずに今までの自分を構成していたもの全てを自ら手放した。今ここでシルビアがこうして俺らの介護を行っているところを見ると、きっとコイツも俺と同じ選択をしたんだろう。
 本当に自分の中身が空っぽになった様な、そんな感覚がする。馬鹿猫のことを思い浮かべるたびに心が痛んでしょうがない。
「不律さん、私も同じ気持ちですよ」
「………なんのこと?」
「さぁ、何のことでしょうか?」
 意地悪気に微笑むシルビア。不思議と悪い気はしない、きっと本当に分かってるんだろうな。
「私もこれからこと、何をすればいいのかが全く分かりません。でもですね、今は別にあまり気にはならないんです。不安で無いと言えば嘘になりますけど、それ以上に何だか、楽しみでもあるんです」
「楽しみ?」
「はい。不律さんと一緒なら、全てが無くなった今でも大丈夫な気がするんです」
 なんて屈託のない笑顔。
 でも、その言葉も分からなくはない。
「まぁ………一人じゃなくて、お前らと一緒に見るこの世界は、きっと良いものなんだろうな」









 少し恥ずかしいが、そうだな、名前でも付けよう。

 俺のこのあまりにも恵まれない、理不尽で滑稽無灯なこの数日間の物語に名前をつけるとするならば─────
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