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三章 人って自分の事ばかり考えるよな。あ、俺もか。
第十三話 朝
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ちくしょう。
そう、今の俺の頭の中を渦巻くこの感情は、間違いなく「畜生」だ。
圧倒的な疲労感や眠気が体中に重くのしかかり、頭はもう軽く言語能力が失われそうなほどまでに朦朧としている。
「………スゥ………スゥ」
俺の頬に当たる穏やかな寝息。これが俺の不眠の原因の一つとなっていた。
だってそうだろ?息が掛かるほどの至近距離で、綺麗な少女が無防備に隣で眠っているんだ。俺だって健全な男子高校生だぞ、こんな状況で眠れって方が無理あるわ。マジで童貞ナメんな。
昨日の晩、シルビアが聞きたいと言ってきた俺の過去の話をしている時、いつの間にか疲労で眠りについていた彼女。これが迂闊だった。
気温も寒かったので、本能的に体温を温め合おうと身を寄せてくるシルビア。それを無理に突き放すことなんて出来ずに、俺はただただ仰向けに固まっていた。
俺が先に寝るべきだったんだ。下手にだらだらと過去のことを掘り返してたから、すっかりそのタイミングを失ってしまったのだ。
「………………」
しっかし、良い匂いがするんだこれが。女の子独特の、シルビアの匂いがその柔らかな銀髪から香ってくるんだ。
どんな匂いなのか、上手い言葉で例えたいのだがなかなか丁度良い表現が見つからない。そのままの文字道りに表すと「シルビアの匂い」とするしかないような気がする。
ん、何か俺気持ち悪いな。
そんなわけで、健全な男子高生たる俺が眠れるわけないじゃん、もう、何かいろいろ不甲斐ない自分に泣きたくなってきた。辺りが白み始めたころから、なんかこう、幸せと不幸せの狭間で俺、泣いてたんじゃないかな。
「このまま寝ててもしょうがないか………起きよう」
俺は節々がギシギシと鳴る重い体を無理やり起こし、自分が包まっていた布をシルビアにかけた。
明け方の気温というのが特に寒い。先日購入しておいた体全体を覆うゴワゴワのローブを羽織り、昨日ついできた水を替えて来ようと、桶を握って外へ出た。
吐き出した息が白くなる。またこれから急速に気温が上がり始めるってんだから、つくづく慣れない環境だなと思うよ。
「さて、と。早く水を替えて顔でも洗うか………」
あぁ、結構乾燥してるし、ハンドクリームとか欲しいな。
───ギィ………
「あ、何だ起きてたのか」
「不律さん………」
水を汲んできているうちに、水平線には太陽が半分ほど顔を出していた。肌でわかるほどの温度の上昇具合に眉をしかめながら、俺は先ほど水で洗った顔をドアから中へ覗かせる。
まだ寝ているだろうなと思っていたから、静かにドアを開けたんだけど、どうやらもうシルビアは起きていたみたいだ。少し潤ませた瞳、微かに頬に残るヨダレ跡、ポヤポヤの表情と軽くボサボサした髪の毛が、彼女が寝起き間もないことを如実に表している。
「とりあえず水を汲んできたから、顔を洗ってくれ。今日の事はそれから考えよう」
「………不律さん」
「寝ぼけてないで、早く顔を洗ってくれ。ヨダレ跡が───」
「───不律さんっ!」
「のわっ!?」
意外に水の入っている桶をシルビアの横に置いた瞬間、小さな少女が俺を押し倒すような形で、胸に思い切り飛び込んできた。小さな少女、されどその実は勇者シルビア。
クタクタの体の俺は為す術無く、彼女に思い切り引き倒される。いくらカーペットの上とはいえ、下は石畳。倒された衝撃が体を突き抜いて、もう痛いとかじゃなくて苦しい。肺の中の空気が全部絞り出された感じがする。
「グッ、ゲホッ!………ど、どうした?」
「私が、起きたら、いなくて、不律さんがいなくなってて。私、おいて行かれたのかなって、もしかして昨日の楽しかった記憶は、全部夢だったんじゃないかって、そしたら、そしたら………」
「落ち着け、落ち着いて深呼吸して。そして、もうそろそろ苦しいから、俺を、放してくれ………息が、持たんっ」
このままいったらあばら骨が折れちゃうんじゃないかしら。今度、地面を手のひらでバンバン叩いているときは降参の合図だということを教えてあげよう。
とりあえず無理矢理シルビアの体を引きはがし、俺は息を整える。その間に、恐らくまだ頭が目覚めていない彼女へ濡らして絞ったハンドタオルサイズの布地をペチンと投げつけた。べ、別に照れ隠しで投げつけたわけじゃないんだからね!
「持ってきたばかりの冷たい水で濡らしてあるから、早く顔を拭け………」
「………うん」
まるで本当に幼い子供の様に不貞腐れ、ぐしぐしとシルビアはおぼつかない手付きで顔を拭く。
「あっ………うぅ………」
「………?」
するとふとシルビアの手が止まった。というか、なんだか彼女の体の動きがピタリと止まったような気がする。
「ふ、不律さん」
「今度は何でしょうか。とりあえず一旦その布を顔から離したら?」
「それは、できませんです………」
「じゃあ早く顔を洗ってしまおうか、今日の予定もまだ話してないだろうが」
「何というか、あの、私は朝に滅法弱くて、それで、その………お恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」
「………そんなことだろうとは思ったけど、それはいいから早く布を離せ。あんまり洗いすぎると、逆に肌に良くない」
「もうしばらく、このままでいさせて下さい」
ゆっくりではあるが、未だに顔をぐしぐしと拭いているシルビア。時折その布地の中から聞こえてくる溜め息に、俺はどう反応すればいいんですか。優しく慰めればいいのですか、心温かく無視すればいいのですか。そんなことより、ちょっとトイレに行ってきていいですか?
そう、今の俺の頭の中を渦巻くこの感情は、間違いなく「畜生」だ。
圧倒的な疲労感や眠気が体中に重くのしかかり、頭はもう軽く言語能力が失われそうなほどまでに朦朧としている。
「………スゥ………スゥ」
俺の頬に当たる穏やかな寝息。これが俺の不眠の原因の一つとなっていた。
だってそうだろ?息が掛かるほどの至近距離で、綺麗な少女が無防備に隣で眠っているんだ。俺だって健全な男子高校生だぞ、こんな状況で眠れって方が無理あるわ。マジで童貞ナメんな。
昨日の晩、シルビアが聞きたいと言ってきた俺の過去の話をしている時、いつの間にか疲労で眠りについていた彼女。これが迂闊だった。
気温も寒かったので、本能的に体温を温め合おうと身を寄せてくるシルビア。それを無理に突き放すことなんて出来ずに、俺はただただ仰向けに固まっていた。
俺が先に寝るべきだったんだ。下手にだらだらと過去のことを掘り返してたから、すっかりそのタイミングを失ってしまったのだ。
「………………」
しっかし、良い匂いがするんだこれが。女の子独特の、シルビアの匂いがその柔らかな銀髪から香ってくるんだ。
どんな匂いなのか、上手い言葉で例えたいのだがなかなか丁度良い表現が見つからない。そのままの文字道りに表すと「シルビアの匂い」とするしかないような気がする。
ん、何か俺気持ち悪いな。
そんなわけで、健全な男子高生たる俺が眠れるわけないじゃん、もう、何かいろいろ不甲斐ない自分に泣きたくなってきた。辺りが白み始めたころから、なんかこう、幸せと不幸せの狭間で俺、泣いてたんじゃないかな。
「このまま寝ててもしょうがないか………起きよう」
俺は節々がギシギシと鳴る重い体を無理やり起こし、自分が包まっていた布をシルビアにかけた。
明け方の気温というのが特に寒い。先日購入しておいた体全体を覆うゴワゴワのローブを羽織り、昨日ついできた水を替えて来ようと、桶を握って外へ出た。
吐き出した息が白くなる。またこれから急速に気温が上がり始めるってんだから、つくづく慣れない環境だなと思うよ。
「さて、と。早く水を替えて顔でも洗うか………」
あぁ、結構乾燥してるし、ハンドクリームとか欲しいな。
───ギィ………
「あ、何だ起きてたのか」
「不律さん………」
水を汲んできているうちに、水平線には太陽が半分ほど顔を出していた。肌でわかるほどの温度の上昇具合に眉をしかめながら、俺は先ほど水で洗った顔をドアから中へ覗かせる。
まだ寝ているだろうなと思っていたから、静かにドアを開けたんだけど、どうやらもうシルビアは起きていたみたいだ。少し潤ませた瞳、微かに頬に残るヨダレ跡、ポヤポヤの表情と軽くボサボサした髪の毛が、彼女が寝起き間もないことを如実に表している。
「とりあえず水を汲んできたから、顔を洗ってくれ。今日の事はそれから考えよう」
「………不律さん」
「寝ぼけてないで、早く顔を洗ってくれ。ヨダレ跡が───」
「───不律さんっ!」
「のわっ!?」
意外に水の入っている桶をシルビアの横に置いた瞬間、小さな少女が俺を押し倒すような形で、胸に思い切り飛び込んできた。小さな少女、されどその実は勇者シルビア。
クタクタの体の俺は為す術無く、彼女に思い切り引き倒される。いくらカーペットの上とはいえ、下は石畳。倒された衝撃が体を突き抜いて、もう痛いとかじゃなくて苦しい。肺の中の空気が全部絞り出された感じがする。
「グッ、ゲホッ!………ど、どうした?」
「私が、起きたら、いなくて、不律さんがいなくなってて。私、おいて行かれたのかなって、もしかして昨日の楽しかった記憶は、全部夢だったんじゃないかって、そしたら、そしたら………」
「落ち着け、落ち着いて深呼吸して。そして、もうそろそろ苦しいから、俺を、放してくれ………息が、持たんっ」
このままいったらあばら骨が折れちゃうんじゃないかしら。今度、地面を手のひらでバンバン叩いているときは降参の合図だということを教えてあげよう。
とりあえず無理矢理シルビアの体を引きはがし、俺は息を整える。その間に、恐らくまだ頭が目覚めていない彼女へ濡らして絞ったハンドタオルサイズの布地をペチンと投げつけた。べ、別に照れ隠しで投げつけたわけじゃないんだからね!
「持ってきたばかりの冷たい水で濡らしてあるから、早く顔を拭け………」
「………うん」
まるで本当に幼い子供の様に不貞腐れ、ぐしぐしとシルビアはおぼつかない手付きで顔を拭く。
「あっ………うぅ………」
「………?」
するとふとシルビアの手が止まった。というか、なんだか彼女の体の動きがピタリと止まったような気がする。
「ふ、不律さん」
「今度は何でしょうか。とりあえず一旦その布を顔から離したら?」
「それは、できませんです………」
「じゃあ早く顔を洗ってしまおうか、今日の予定もまだ話してないだろうが」
「何というか、あの、私は朝に滅法弱くて、それで、その………お恥ずかしい姿を見せてしまい申し訳ありませんでした」
「………そんなことだろうとは思ったけど、それはいいから早く布を離せ。あんまり洗いすぎると、逆に肌に良くない」
「もうしばらく、このままでいさせて下さい」
ゆっくりではあるが、未だに顔をぐしぐしと拭いているシルビア。時折その布地の中から聞こえてくる溜め息に、俺はどう反応すればいいんですか。優しく慰めればいいのですか、心温かく無視すればいいのですか。そんなことより、ちょっとトイレに行ってきていいですか?
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