「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

久保カズヤ

文字の大きさ
上 下
6 / 36
二章 それでは破壊活動を始めましょう。

第六話 君の物語を

しおりを挟む
「さて、落ち着いたかな?」
「グスッ………すまん、続けてくれ」
「学年の下から二番目の顔が、さらにひどくなってるよ?まるで佐藤くんみたいだ」
「言ってやるなよ!本人だってきっと今もどこかで気にしてるんだよ!!」
 あぁ、元気でやってるかな、佐藤くん。
 高校で離ればなれになってから、一度も会ってないんだよな。まぁ、中学、小学生時代もろくに会話したことないんだけどね。
「それはさておきだ、三問目と四問目はどちらかというと質問に近かったから、答え合わせという答え合わせはこれで終了だよ。お疲れ様ぁ」
「そういえば、そうだったな………よく覚えてないが」
 ショタハデスは気味良く「ふふん」と鼻で笑うと、パチンと指を鳴らした。俺もこの状況を理解するのに数秒を要した、なんせ、ハデスの指パッチンに合わせるかのように、急に足場に階段が出現したのだ。
 その階段の数は二つ。上方に続く階段と、下方に続く階段が一つずつ。
 確か、神話でチラリと聞いたことがある。もしかしてこれはあの、振り向いてはいけない階段というやつなのではないだろうか?
「よく分かったね葵くん!そうだよ、これはあの有名な、振り向いたら地獄に引き戻されるっていう階段と同じものだよ。まぁ、もっとも、今はそんな大層な特殊能力はついてないけどね」
「今は?っていうか、俺の思考を読んだな!?」
「あははは!ところで、葵くんは知っているかな?もちろん知っているよね、葵くんが過ごしていた日本の、象徴すべき正義のヒーローを。アンパンを模した正義のヒーローさ」
「知ってるも何も、それを知らない人間は日本人じゃないよな」
「うんうん。その正義のヒーローの作者はこんなことを言いました。『正義とは、目の前で餓死しそうな人にひと欠片のパンを与えること』だと。葵くんにも、その『正義』に心当たりがあるよね?」
 雨が降っていたあの日を思う。
 俺の足元で、外の世界に怯え、びしょびしょにの体を震わせていた、小さく、醜くも、どこか自分と重なる猫を。
 そうだ。確かに俺は、互いに濡れた体のままでいるにもかかわらず、肉付が悪く、か細くなっていたあの猫と一緒に湿気たパンを食べた。
 それからも、何かとあれば猫用の食料を、自分には菓子パンを用意して、あの猫のもとに足繁く通った。

「さぁ、ここで最後の質問だよ。あの猫は辛い思いをしながらも、最後は葵くんに感謝しながら逝った。そんな奇跡の様な出会いを葵くんに施してくれたあの世界を、君はどうしたいんだい?」
「どうしたい、か」
 俺は何をするべきなんだろうか?
 自分の両の手を見た。多くの煙草の焼印の跡が、痛々しく斑点模様を描いている。
 俺はどうしたいんだ?そんなの、決まっているよ。
「もっと、もっと、より徹底的にこんな世界を壊したい………」
「ほぅ………どうして?」
「ハデスの言う通りだよ。こんなことを自分で言うのは厚かましいのかもしれないけど、でもやっぱり、俺は正しかったんだ。傷つけて、大切なものを奪って、弾圧するのがあの世界の正義で、友達を助ける人間を悪だと言うのなら、俺が、そんな世界をぶっ壊さなくちゃいけないんだ」
 たぶん、というか絶対に、俺の考え方はあまりにも極端で現実味がなく、危険すぎるのだろうな。
 今自分がどんな顔をしているのか、それは分からない。よくドラマや小説などで、相手の瞳に映った自分の表情を見る人たちがいるな。しかし、ハデスの大きく綺麗な黒い瞳に映る自分の姿はぼんやりとしていて、どんな表情をしているかなんて俺には全く分からなかった。

「正解だよ、葵くん」
「っ!?」
 ハデスが笑った。俺はその笑顔を直視した瞬間、背筋が凍りつき、その場から動くことが出来ない感覚に襲われた。
 恐怖、そう、俺が今感じたものは底知れない恐怖。自分と相手の格の違いを無理やり植え付けられたような、そんな気分だ。
 冥府を司り、死者を管轄する神『ハデス』。
 もしかして俺は、とんでもない存在に命を預けることになってしまっているのかもしれない。
「ふふっ、あはははは!まさに僕が見込んだ通りだ、葵くんみたいな人間じゃないと世界は変えられない、葵くんみたいな人間じゃないと面白くない!!」
「なっ、何の話だ?」
 ハデスは大笑いしながら、自分の目尻に浮かぶ涙を人差し指で拭う。
「葵くん、この階段を上るといいよ。階段の先には今まさに葵くんと同じく、『正しい』人間が世界によって殺されようとしている。まぁ、そいつをどうするのかは自由だけどね」
「話を、まとめてくれませんか?」
「行けば分かるさ、これは手土産だよ」
 そう言ったハデスは俺の前に、笑顔で手を差し出してきた。これは、えっと……、握手と受け取って良いのだろうか?
 ニコニコと反応を待つハデス、その笑顔の裏に何が隠れているのか測りかねるが、俺はおずおずとその握手に応じた。

───ズクン

 え?
「あ……ガァッ、クッ!?」
「ちょっとだけだよ、葵くんは男の子なんだからこれぐらい我慢しないとね」
 体が内側から破裂しそうだ。恐らく俺の限界を遥かに超える何かが、一気にハデスの手から流れ込んできている。
 今の状況を表す言葉があるとすれば、それは「何が何だか全く分からない」であろう。自分の体に起きている事なのに、何が起きているのかが全く分からないんだ。
 その苦痛から逃れようと急いで身を捻じり手を離そうとするが、つながれた手はまるでハデスの手と一体化してしまったかのように、ビクともしてくれなかった。

「ハァ……ハァ……、クッ、俺に何をした?」
「もぉ、貧弱だな。そんなんじゃ先が思いやられるよ?」
 未だ全身に不可解な痛みが残っているが、不思議と疲労感は無く、余計なことはせずに乱れた呼吸をただ整えることに努めた。
 しかし何なんだ、このナマイキショタは。事情の説明もすることなく、急に俺に苦痛を与えるだけ与えては、悪びれもせずに罵ってきやがる。
 もしもコイツが俺の弟だったら、買ったゲームを片っ端から奪い去ってやってるところだぜ。チクショー、まだ痛い。
「ところで、もうあの現実に戻してくれとかは言わないけど、この階段の先がどうなっているのかだけは教えてくれないか?まだ聞きたいことはいろいろあるけど、どうせお前のことだから上手くはぐらかすんだろ?」
「本当に物分かりが良いと言うか、どこか諦め癖がついているというか。まぁ、そのくらいなら答えてあげるよ。この上に続く階段の先には、葵くんの知らない異世界が、そしてこの下に続く階段の先には、僕が管理する冥界が広がっている」
「へ?冥界?」
「葵くんが僕の見込み違いだった時には下の階段に降りてもらうことになっていただろうけど、まぁ、もう関係のない話か!どうしたの葵くん?そんなに小刻みに震えちゃって。ところで、葵くんにはその異世界に行ってもらうことになるけど、そこで何をしろとか、そんなことで葵くんを縛るつもりは一切無い。思うままに動いてくれ、そして、報われない葵くんの生き方を、同じく報われない僕に見せてほしい。うん、それだけだよ」
「異世界とか、一体なんだよそれ!?お前の言っていることはさっきからいちいち回りくど───」

「───それじゃあ、また会おうね、葵くん。君の物語を、僕は楽しみに待っているよ」

 ………消えた。下に続く階段もまばたきと同時に消えたぞオイ。
 残ったのはこの不可解に浮かぶ足場と、天まで続いてるのかと思わせるかのような階段一本道。
「行くしかないよなぁ………。一度捨てた命を救ってもらったようなもんだしなぁ。でも、まさか死の国の神様なんかに命拾われるとは思わなんだなぁ」
 でも、この距離の階段って、俺が生きてるうちに上り切れる距離なのか?
 せめて、せめて手すりを付けてほしかった。これ途中で絶対落ちるぞ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

【完結】魔王様、溺愛しすぎです!

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」  8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!  拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。  シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264) 挿絵★あり 【完結】2021/12/02 ※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過 ※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過 ※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位 ※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品 ※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24) ※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品 ※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品 ※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

処理中です...