「むしゃくしゃして殺した」と裁判で答えたら転移して魔王になれたので、今度は世界を滅ぼそうと思う。

久保カズヤ

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二章 それでは破壊活動を始めましょう。

第五話 その気持ちを人は「愛」と呼ぶ

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「僕の世界へようこそ。君の名前は葵不律くん、だったかな?」
「………マジで、どうなってるんだ?」
「ここは冥界の狭間と呼ばれている場所だよ、質問はあるかい?」
「うん、いっぱい」
 両手を大きく広げた俺二人分くらいの直径をした円形の足場、目の前にはあの「声」の主だと思われる、少し小柄で中性的な顔立ちをした子供がいた。
 男性であれば少し長めの、女性であれば短めに見える黒髪ヘアー。あまりにも整ったその顔立ちは神秘的な何かを感じさせるほどである。
 俺が立っている足場なのだが、これもまた大きく現実離れしていた。上下左右見渡す限り暗闇に覆われていて、その空間にポツリと半径二メートル程度の足場が浮いているのだ。もし足場の外へ顔を覗かせようものなら、底の無い真っ黒な世界に落ちていってしまう自分の姿が容易に想像することができ、無意識に俺は鳥肌を立てながら、体をブルっと震わせた。
「分かった分かった、君の質問内容は手に取るように分かるよ。僕の美肌の秘訣だろ?」
「全然分かってないということが分かったよ」
「ちなみに僕は君たちでいうところの男だ、残念だったね。そして美肌の秘訣はひ・み・つ☆」
 ………あれ、ウザいぞこの神様。
 ただ、俺のコミュ障が発動していないところを見ると、この目の前のナマイキショタが冥界の神様「ハデス」だと見て間違いないだろう。
「はい、質問タイムは終了だよ。何度も言うけど、僕も暇ではないんだ。これから君には答え合わせをしてもらう、それを一通り聞いてもらったうえでもう一度、葵くんに質問をするよ。そこで本当の、君の運命が決まる」
「………随分、勝手な内容だな」
「それはお互い様だろ?」
 確かにただの底辺人間である一個人の俺が、世界を滅ぼしたいなんて勝手にほざいているんだ。この神様に意見出来るような資格はない。
 そしてそれに加え、逃げ場のない摩訶不思議な空間に連れて来られたときたもんだ。下手にこのナマイキショタの気に触れでもしたら、あっという間に俺の命は無くなってしまうだろう。
 詰まる所、俺は言うことをただ「はいはい」と聞くことしかできないのだ。ゴチャゴチャと脳内に溢れ出してくる疑問質問の数々、俺はそれをまとめて意識の奥へと押し込んだ。
「………大人しく聞くよ」
「ふふん、物分かりのいい子は嫌いじゃないよ。それじゃあ改めまして、僕の名前は『ハデス』、やりたくもない冥界の管理を押し付けられた神さ」
「ご苦労様です」
「あはは、葵くんもなかなか苦労してるみたいだけどね………っと、そろそろ本題に入らないと」
 ショタハデスは腕につけている銀色の時計を眺め、思わずため息を吐いた。
 俺のアニメやドラマにおいての先入観のせいかもしれないが、神様の世界にも「時間」という概念があったということに少し驚いた。先ほど、俺が元居た「現実」の世界で、時間が見事に止まったところを見てしまっているからなおさらである。
 しかし今は、そんなことに思考を傾けている場合ではない。「時間」の概念がどーのこーのなんて考えている暇があれば、自分の保身について考えを巡らせねば。
 あ、でも、あの現実には帰りたくないなぁ………。
「葵くんは覚えてる?僕が出した第一問目の内容」
「え、確か………あ、なんか『この一連の事件の真相』とか言ってた気がする」
「そうだね。葵くんが巻き込まれた事件の話だよ。まず、答え合わせからいこう。この事件において、可哀想な人というのは、葵くんともう一人、『浜野大輝はまのだいき』くんだよ」
「浜野、浜野………え?」
 浜野大輝、聞き覚えのないそのフルネームが、俺の記憶の一端に引っかかった。間違いない、俺と同じクラスで、柏木のグループに属していたあの赤髪DQNだ。
 しかし、なんで今更コイツの名前が?
「思い出したようだね。それじゃあ、この事件の真相を簡単に教えてあげるよ」

 まずは、あの三人組の関係性から話していこうか。柏木太雅、浜野大輝、そして金髪女子DQNの金田沙耶かねださやの三人組についてだ。あと、葵くんの認識は的を得ていて、この三人のグループは、まぁ大して珍しくもないどこにでもいるようなDQNグループさ。身体的ではなく、精神的に傷つけてくる奴らだったろ?
 話を戻すか。もちろん男女が入り組んでいるグループ、当然ながら色恋模様も存在した。早いとこ説明すると、あの金髪男女がくっついていたんだ。そのことについて浜野くんは別段何とも思って無かったようだけどね。
 浜野くんの立ち位置としては、グループの仲介役的な存在さ、特に棘のある二人が相手だったからね、気苦労もさぞ多かったろう。

 よし、ここからが本題だ。
 ここでサラっと事件の真犯人を晒しておこう。柏木くんを殺した犯人は、このDQN三人組に先輩と呼ばれている人さ、手引きしたのは金田ちゃん。要するに柏木くんは寝取られたわけだよ、いやぁ女ってのは怖いね。ついこの間まで好きだった人を殺しちゃうんだから、といっても、彼女が柏木くんに好意を持っていたかどうかと言われればそれは否なんだけどね。
 しかし、柏木くんは違った。彼は彼女のことを好きだった、あはは、葵くん、そんな顔するなよ。確かに君には別次元の話すぎて反吐が出るだろうけどね、後学の為に聞いときなって。
 当然彼女を寝取られた柏木くんは怒った。あの事件の当日に、彼はわざわざあの雑木林の前で二人を呼び出したんだ。しかし、快楽主義である金田ちゃんとまともな対話が成り立つわけもなく、先輩は女を横取りした優越感で、柏木くんの話を適当に流した。そしてあっさりと捨てられた柏木くん、そこに現れたのが君だったわけさ、葵くん。
 あの猫は要するに八つ当たりで殺された、そう、巻き込まれたんだよ君たちは。可哀想なことに、ね。
 そのあと何故柏木くんが殺されたのか、ここからは僕の管轄外だから良く知らないけど、まぁ一応形だけでも付き合ってた二人だ。彼氏が彼女の弱みの一つや二つ握っていても何ら不思議ではない。例えば、彼女が先輩を怒らせてしまうような弱みとか。

 あとは想像に難くないだろう。
 口封じに殺された柏木。ボコボコにされたうえ、罪を擦り付けられた葵くん。自分の手を一切汚さないところが、金田ちゃんの悪女っぷりに磨きをかけているよね。
 さて、浜野くんはどうだろう?
 実は、浜野くんはこの事件に一切関係ないんだ、驚きだよね。あれだけ深く関わっていたはずの仲間なのに、常に自分が取り持っていたはずのグループなのに、本当に何にも知らないんだ、彼は。
 気が付いたら仲間が一人死んでいた。もう一人の仲間とは連絡も取れない、先輩も音信不通。いきなりひとりぼっちだ。
 今まで彼らがしてきたことを考えれば、そんなに同情することも出来ないけど。浜野くんは普通に可哀想だよね、むしろ滑稽に思えてくるくらいだ。

「とまぁ、こんな感じだよ。よく分かったかな?」
「あぁ、呆れて怒りも湧いてこないね。こんなにくだらないことで捕まってたのか、俺は。そして、こんなくだらないことで………アイツは死んだのか」
「大丈夫。日本の警察は優秀さ、すぐにでも真犯人が見つかるだろうよ」
 真犯人が捕まろうが、捕まるまいが、今更俺があの現実に戻ったところで何も状況は変わらない。精々周囲からの評価が「殺人犯」から「虚言癖少年」に変わるだけだ。むしろ法廷で世界を滅ぼしてやるだなんて大見得斬ったもんだ、精神科に押し込められるのがオチだろう。
「気分はいかほどかな?」
「すこぶる優れないね」
「ふふん、良いね。それじゃあ、二問目の答え合わせもいってみようか」
 一体、何を考えているのだろうか。全く読めない。
 大人しく泳がされてみよう、というかそれしか選択肢がないわけだが。
「二問目は………あの、醜い猫が、なんと思いながら死んでいったのか………だったな」
「そうだよ、よく覚えてたね」
「今更、そんなの蒸し返したところで何になる。はっきり言って俺はその解答を聞く気はないし、もうやめてもらえないかな?」
「僕から言わせてみれば、なんで葵くんがそれほどまでにこの答えを敬遠しているのかよく分からないね」
「それは………」
「ふふん、当ててみせようか?あの猫が死ぬ必要は全くなかった、全部自分のせいだ。余計な真似をしてしまったから、本来のんびり暮らせていたはずのその命を最悪の形で奪ってしまった。とまぁ、こんな風に何もかもが自分の所為だーなんて思ってるんだろう?」
 うっ………、その外見で一瞬忘れかけていたが、こいつって神様なんだよな。
 余裕すぎるその表情を見ると、改めて自分が、ハデスの手の平の上で好きなように転がされているのを自覚してしまう。
「何を考えている?」
「考えているんじゃないよ、確かめているのさ。そして、その顔は図星だね」
「………」
「そして葵くんは、こういうことも考えている。自分のせいで死んでしまったともいえるあの猫が、死ぬ間際に思っていたこと。もしかしてそれが自分に対する憎しみや怒りではなく、感謝の気持ちであったら」
「………やめろ」
「自分のせいで死んでしまったというのに、それなのにあの猫が自分に対して好意を持ったまま死んでしまったとするならば、きっと葵くんは一生消えない十字架を自分に課するつもりなのだろう?」
「やめろ!」
「………その気持ちを人は『愛』って呼んでるんだよ。愛を知らずに育った葵くんが、その感情に目覚めた。葵くんのその心に沸々と湧いてくる後味の悪いものは、愛ゆえの罪悪感だ」
「だからなんだ!?そんなことを確認したところで、もうアイツが戻ってくることは無い!あの安らかな時間を過ごせる日が来ることは無い!!もう、こんな辛い思いはこりごりなんだ。思い出させないでくれよ、あの穏やかな記憶を………」
 苦しい。痛いほどに胸は締め付けられ、喉の奥が焼ける様に熱い。ハデスが言葉を発するたびに、俺の記憶がフラッシュバックしてしまう。
 やめろ、やめてくれ!
 何にも変え難かった充足の時が俺の瞼の裏に映し出されては、それに合わせたように胸の痛みが増していく。
「それでも、冥界の神としてこれだけは葵くんに伝えなくちゃあいけない。死に逝くものが、伝えてほしいと僕に残したメッセージを、伝えなくちゃいけない。受け止めろ、そして思う存分苦しむと良い。その分だけ人は、死に逝くものの生きた軌跡を胸に刻みつけることが出来るのだから。これが、二問目の解答だよ───」



───ありがとう。



「あの………馬鹿野郎が………っ」
「たとえ葵くんがどんな罪悪感を感じていようとも、相手にしてみれば、それは全く関係のないことなのさ。偽らざるその本音は、あの猫が葵くんに対して想っていたことと全く同じなんだから。だからこそ胸を張ると良い、葵くんは間違っていなかった」

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