79 / 142
決着
しおりを挟む
「では、あなたがどうするのかを聞かせてもらおう」
フォティアが子を産んで1ヶ月が経った。
テリオスと名づけられた子はすくすくと育ち、そして思いのほかニコラオスに似ていた。
執務室で家令のイオエル同席の下ルーカスはフォティアと向き合っている。
「私は…私はテリオスを公爵家に残し、ここを去りたいと思います」
以前よりも幾分痩せたフォティアは絞り出すような声で答えた。
「それでいいのか?」
「…はい」
再度問いかけられて、一瞬の間が開いたもののフォティアははっきりと答えた。
「わかった。ではこちらがフォティア嬢に用意した住まいになる。用意が出来次第移り住んでもらおう。そこまでは公爵家の馬車で送る」
ルーカスはフォティアがどちらを選択してもいいようにすでに住居等を用意していた。
「また、すぐに働き始めるのは難しいと思うので、職の紹介は産後半年してからとしよう。それまでの生活費は毎月月の始めに届けさせる」
場所の詳細などが書かれている書類をイオエルがフォティアに渡す。
「テリオスをこちらに残すのであれば今後フォティア嬢からの接触は遠慮してもらう。子のためを思うなら尚のこと、惑わすことはしないように」
ルーカスの言葉をフォティアはうつむいて聞いている。
そこにどんな感情があるのか、何をどう思ってその選択をしたのか、ルーカスには想像することしかできない。
「テリオスはこちらできちんと育てることを約束する。フォティア嬢の子どもではあるが、同時に兄上の子でもあるからな」
「アリシア様は納得されているのでしょうか」
そこが唯一の気がかりとでもいうように、フォティアは縋るようにルーカスを見た。
「アリシアの了承はまだ得ていない。しかし彼女はいい加減なことはしないだろう。覚悟があれば自身で育てるだろうし、彼女が無理だと言えば誰かに託すことになる。どちらであってもその養育に関しては私が責任を持つ」
ルーカスとしてもアリシアに無理を言っている自覚はある。
これから新しい命を迎えようとしているところに、さらにもう一人育てることができるのか。
ルーカスもアリシアも子育ては初めてのことだから、自分たちがどうなっていくのかはわからなかった。
ただ、テリオスには望まれて産まれてきたのだということを間違いなく伝えたいと思っている。
そしてできる限りの愛情を。
ルーカスの経験から照らし合わせても、愛情は必ずしも実の親からでなければならないというわけではない。
ルーカスにとってのカリス家の人々のような存在がいれば、テリオスは歪むことなく育つだろう。
産まれ落ちた時から背負わなくてはいけない事情は、たとえ本人にとってそれが理不尽なことであっても受け入れていくしかないのだから。
「いつになったら動けそうか、決まったら教えてくれ。それに合わせて馬車を用意する。以上だ」
ルーカスの言葉をきりに、フォティアは執務室から退室した。
「これからフォティア様を全くの野放しにされるおつもりですか?」
「いや、当面は本人にわからないように監視をつける。ニキアス殿下からもしばらくの間は報告するように指示されているからな。そうでなくても、いつかテリオスが自身の母について知りたくなった時のためにも、居所は必ず把握しておく必要がある」
イオエルの案ずる声に、ルーカスは答えた。
これでフォティアの処遇が決まった。
長く続いた事件は、やっと本当に終わったのだった。
フォティアが子を産んで1ヶ月が経った。
テリオスと名づけられた子はすくすくと育ち、そして思いのほかニコラオスに似ていた。
執務室で家令のイオエル同席の下ルーカスはフォティアと向き合っている。
「私は…私はテリオスを公爵家に残し、ここを去りたいと思います」
以前よりも幾分痩せたフォティアは絞り出すような声で答えた。
「それでいいのか?」
「…はい」
再度問いかけられて、一瞬の間が開いたもののフォティアははっきりと答えた。
「わかった。ではこちらがフォティア嬢に用意した住まいになる。用意が出来次第移り住んでもらおう。そこまでは公爵家の馬車で送る」
ルーカスはフォティアがどちらを選択してもいいようにすでに住居等を用意していた。
「また、すぐに働き始めるのは難しいと思うので、職の紹介は産後半年してからとしよう。それまでの生活費は毎月月の始めに届けさせる」
場所の詳細などが書かれている書類をイオエルがフォティアに渡す。
「テリオスをこちらに残すのであれば今後フォティア嬢からの接触は遠慮してもらう。子のためを思うなら尚のこと、惑わすことはしないように」
ルーカスの言葉をフォティアはうつむいて聞いている。
そこにどんな感情があるのか、何をどう思ってその選択をしたのか、ルーカスには想像することしかできない。
「テリオスはこちらできちんと育てることを約束する。フォティア嬢の子どもではあるが、同時に兄上の子でもあるからな」
「アリシア様は納得されているのでしょうか」
そこが唯一の気がかりとでもいうように、フォティアは縋るようにルーカスを見た。
「アリシアの了承はまだ得ていない。しかし彼女はいい加減なことはしないだろう。覚悟があれば自身で育てるだろうし、彼女が無理だと言えば誰かに託すことになる。どちらであってもその養育に関しては私が責任を持つ」
ルーカスとしてもアリシアに無理を言っている自覚はある。
これから新しい命を迎えようとしているところに、さらにもう一人育てることができるのか。
ルーカスもアリシアも子育ては初めてのことだから、自分たちがどうなっていくのかはわからなかった。
ただ、テリオスには望まれて産まれてきたのだということを間違いなく伝えたいと思っている。
そしてできる限りの愛情を。
ルーカスの経験から照らし合わせても、愛情は必ずしも実の親からでなければならないというわけではない。
ルーカスにとってのカリス家の人々のような存在がいれば、テリオスは歪むことなく育つだろう。
産まれ落ちた時から背負わなくてはいけない事情は、たとえ本人にとってそれが理不尽なことであっても受け入れていくしかないのだから。
「いつになったら動けそうか、決まったら教えてくれ。それに合わせて馬車を用意する。以上だ」
ルーカスの言葉をきりに、フォティアは執務室から退室した。
「これからフォティア様を全くの野放しにされるおつもりですか?」
「いや、当面は本人にわからないように監視をつける。ニキアス殿下からもしばらくの間は報告するように指示されているからな。そうでなくても、いつかテリオスが自身の母について知りたくなった時のためにも、居所は必ず把握しておく必要がある」
イオエルの案ずる声に、ルーカスは答えた。
これでフォティアの処遇が決まった。
長く続いた事件は、やっと本当に終わったのだった。
84
お気に入りに追加
2,705
あなたにおすすめの小説
【完結】浮気された私は貴方の子どもを内緒で育てます 時々番外編
たろ
恋愛
朝目覚めたら隣に見慣れない女が裸で寝ていた。
レオは思わずガバッと起きた。
「おはよう〜」
欠伸をしながらこちらを見ているのは結婚前に、昔付き合っていたメアリーだった。
「なんでお前が裸でここにいるんだ!」
「あら、失礼しちゃうわ。昨日無理矢理連れ込んで抱いたのは貴方でしょう?」
レオの妻のルディアは事実を知ってしまう。
子どもが出来たことでルディアと別れてメアリーと再婚するが………。
ルディアはレオと別れた後に妊娠に気づきエイミーを産んで育てることになった。
そしてレオとメアリーの子どものアランとエイミーは13歳の時に学園で同級生となってしまう。
レオとルディアの誤解が解けて結ばれるのか?
エイミーが恋を知っていく
二つの恋のお話です
あなたに嘘を一つ、つきました
小蝶
恋愛
ユカリナは夫ディランと政略結婚して5年がたつ。まだまだ戦乱の世にあるこの国の騎士である夫は、今日も戦地で命をかけて戦っているはずだった。彼が戦地に赴いて3年。まだ戦争は終わっていないが、勝利と言う戦況が見えてきたと噂される頃、夫は帰って来た。隣に可愛らしい女性をつれて。そして私には何も告げぬまま、3日後には結婚式を挙げた。第2夫人となったシェリーを寵愛する夫。だから、私は愛するあなたに嘘を一つ、つきました…
最後の方にしか主人公目線がない迷作となりました。読みづらかったらご指摘ください。今さらどうにもなりませんが、努力します(`・ω・́)ゞ
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。
完菜
恋愛
王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。
そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。
ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。
その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。
しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)
【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。
たろ
恋愛
「ただいま」
朝早く小さな声でわたしの寝ているベッドにそっと声をかける夫。
そして、自分のベッドにもぐり込み、すぐに寝息を立てる夫。
わたしはそんな夫を見て溜息を吐きながら、朝目覚める。
そして、朝食用のパンを捏ねる。
「ったく、いっつも朝帰りして何しているの?朝から香水の匂いをプンプンさせて、臭いのよ!
バッカじゃないの!少しカッコいいからって女にモテると思って!調子に乗るんじゃないわ!」
パンを捏ねるのはストレス発散になる。
結婚して一年。
わたしは近くのレストランで昼間仕事をしている。
夫のアッシュは、伯爵家で料理人をしている。
なので勤務時間は不規則だ。
それでも早朝に帰ることは今までなかった。
早出、遅出はあっても、夜中に勤務して早朝帰ることなど料理人にはまずない。
それにこんな香水の匂いなど料理人はまずさせない。
だって料理人にとって匂いは大事だ。
なのに……
「そろそろ離婚かしら?」
夫をぎゃふんと言わせてから離婚しようと考えるユウナのお話です。
大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました
柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」
結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。
「……ああ、お前の好きにしろ」
婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。
ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。
いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。
そのはず、だったのだが……?
離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。
※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる