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決着

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「では、あなたがどうするのかを聞かせてもらおう」

フォティアが子を産んで1ヶ月が経った。
テリオスと名づけられた子はすくすくと育ち、そして思いのほかニコラオスに似ていた。

執務室で家令のイオエル同席の下ルーカスはフォティアと向き合っている。

「私は…私はテリオスを公爵家に残し、ここを去りたいと思います」
以前よりも幾分痩せたフォティアは絞り出すような声で答えた。

「それでいいのか?」
「…はい」

再度問いかけられて、一瞬の間が開いたもののフォティアははっきりと答えた。

「わかった。ではこちらがフォティア嬢に用意した住まいになる。用意が出来次第移り住んでもらおう。そこまでは公爵家の馬車で送る」

ルーカスはフォティアがどちらを選択してもいいようにすでに住居等を用意していた。

「また、すぐに働き始めるのは難しいと思うので、職の紹介は産後半年してからとしよう。それまでの生活費は毎月月の始めに届けさせる」

場所の詳細などが書かれている書類をイオエルがフォティアに渡す。

「テリオスをこちらに残すのであれば今後フォティア嬢からの接触は遠慮してもらう。子のためを思うなら尚のこと、惑わすことはしないように」

ルーカスの言葉をフォティアはうつむいて聞いている。
そこにどんな感情があるのか、何をどう思ってその選択をしたのか、ルーカスには想像することしかできない。

「テリオスはこちらできちんと育てることを約束する。フォティア嬢の子どもではあるが、同時に兄上の子でもあるからな」
「アリシア様は納得されているのでしょうか」

そこが唯一の気がかりとでもいうように、フォティアは縋るようにルーカスを見た。

「アリシアの了承はまだ得ていない。しかし彼女はいい加減なことはしないだろう。覚悟があれば自身で育てるだろうし、彼女が無理だと言えば誰かに託すことになる。どちらであってもその養育に関しては私が責任を持つ」

ルーカスとしてもアリシアに無理を言っている自覚はある。
これから新しい命を迎えようとしているところに、さらにもう一人育てることができるのか。
ルーカスもアリシアも子育ては初めてのことだから、自分たちがどうなっていくのかはわからなかった。

ただ、テリオスには望まれて産まれてきたのだということを間違いなく伝えたいと思っている。
そしてできる限りの愛情を。

ルーカスの経験から照らし合わせても、愛情は必ずしも実の親からでなければならないというわけではない。

ルーカスにとってのカリス家の人々のような存在がいれば、テリオスは歪むことなく育つだろう。

産まれ落ちた時から背負わなくてはいけない事情は、たとえ本人にとってそれが理不尽なことであっても受け入れていくしかないのだから。

「いつになったら動けそうか、決まったら教えてくれ。それに合わせて馬車を用意する。以上だ」

ルーカスの言葉をきりに、フォティアは執務室から退室した。

「これからフォティア様を全くの野放しにされるおつもりですか?」
「いや、当面は本人にわからないように監視をつける。ニキアス殿下からもしばらくの間は報告するように指示されているからな。そうでなくても、いつかテリオスが自身の母について知りたくなった時のためにも、居所は必ず把握しておく必要がある」

イオエルの案ずる声に、ルーカスは答えた。

これでフォティアの処遇が決まった。
長く続いた事件は、やっと本当に終わったのだった。
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