【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢は婚約式に臨む

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立太子の儀が終わって、今度は婚約式のために移動することになった。

王族の婚約式は王都中心にある教会で行われる。
式を盛大に執り行う場合は多くの貴族を招待することになるが、今回はごく内輪で済ますと決めていた。

控え室で、私はこの婚約式のために用意したドレスに着替える。

ドレスの候補は生地にしろデザインにしろ数多くあった。
その中で、私が選んだのは白いドレスだ。
学園卒業後に予定している結婚式でも色はやはり白がいい。

これはきっと前世の影響だろう。

この世界では髪色も瞳もカラフルなだけあって、結婚式でも鮮やかな色のドレスを身につける人が多い。

それでも、やっぱり白のウェディングドレスには憧れるよね。
婚約式でも私の中のイメージは白一択だ。

そして色がシンプルになる分、生地とレースにはこだわった。
形はロールカラーのAラインドレス。

もちろんグローブも必須。
本来なら手を見せることのないグローブを選ぶところ、指輪をつけるために私はあえてフィンガーレスグローブを選んだ。

アクセサリー類はブラックの一粒ダイヤを使用したイヤリングに同じくブラックダイヤを使用したネックレス。
ネックレスは大きめの一粒ダイヤの周りに小さな透明ダイヤモンドをあしらっている。

髪の毛をハーフアップにし、メイクを完了したところで声がかかった。

「そろそろお時間です」

シスターの声にうながされ、私は教会の廊下を歩く。

今日の婚約式に参加するのは限られた人だ。
ダグラス側は婚約誓約書の証人欄にサインをする陛下、王家の婚姻関係を取り仕切るための宰相の二人。
そして私側は同じく証人欄にサインをするウェルズ家当主の兄のみ。

王族の婚約式の参加人数としては異例の少なさだろう。

さすがに正式に婚約を交わした後お披露目をしないというわけにはいかず、婚約式の後に小規模な披露パーティーを王宮で行うことが決まっていた。

正直、私的にはそれも無くて良かったのだけど。
そこはそれ、いろいろとしがらみもある訳で。

まぁ、クレアやソフィ、そしてジェシカも披露パーティーには招待できたからあとはもう楽しむしかない。

シスターの先導でチャペルの入り口まで来た私を兄が待っている。

「エレナ……今日は一段と輝いて見えるな」

心なしか眩しそうにこちらを見る兄に、なんとなく私も照れくさくなる。

「あら。お兄さまも素敵でしてよ」

正装に身を包んだ兄はお世辞抜きで素敵だった。
あの両親のせいとはいえ、これで婚約者がいなかったことが不思議でならない。

まぁ、これからウェルズ家の当主として社交界に参加することが増えれば引くてあまたになるんだろうけれど。
個人的にはそれまでの間に是非ともジェシカと婚約を結んで欲しいところである。

兄の腕に手をかけて、準備が整ったところでチャペルの扉が開いた。

婚約式とはいえ、やることはほとんど結婚式と変わらない感じだ。

まるで予行練習のようね。

そう思いながら、真紅のバージンロードを兄と共に歩く。
正面のステンドグラスから差し込む光が祭壇前のダグラスを明るく照らしていた。
いつもはどちらかというとポーカーフェイスのダグラスが今日はどことなく柔らかい表情をしている。

そして、私はダグラスの隣に並んだ。

「これよりダグラス・グラント殿下とエレナ・ウェルズ様の婚約式を始めます」

神父が婚約式の開始を告げる。

最初に行われるのは婚約誓約書の証人欄への記入だ。
ダグラスと私の見守る先で、陛下と兄がそれぞれの欄に署名する。

「それでは、お二人の署名を」

まずはダグラスが誓約書にサインをした。
思えばダグラスの筆跡を見たのは初めてかもしれない。
サラサラと流れるようにペン先が滑り、流麗な文字が描かれていく。

意外に字が上手いのね。

そう思いつつ、今度は私が誓約書にサインをする番だ。

エレナ・ウェルズ。

私の本当の名前ではないけれど、私は大切に、丁寧にその名を記した。

私たちが記入した誓約書を確認し、神父が顔を上げる。

「今この時をもちまして、ダグラス・グラント殿下とエレナ・ウェルズ様の婚約がここに結ばれたことを証明します」

神父の宣言を聞き、宰相が誓約書を受け取った。
この後誓約書は然るべきところへ保管される。

「これで正式に婚約者だ」

そう言うとダグラスが私の左手を取った。

「エレナ嬢を幸せにできるように努力する。だから、今後もそばで力を貸して欲しい」

ダグラスは『幸せにする』とは言い切らなかった。
そしてただ守るのではなく二人で協力していきたいと言ってくれる。

それは私にはとても誠実な言葉に聞こえた。

ダグラスの唇がそっと左手薬指の指輪に触れる。
昨日まではなかった指輪がそこには燦然と輝いていた。

「指への口づけが気に入りましたの?」

私は半分からかうように言った。

「唇への誓いはもう少し先だからな」

そして、からかったことを後悔する羽目になる。
恥ずかしさに頬を赤らめたことに気づいたダグラスが思わずといった風に笑う。

今までになく幸せそうなその笑い声が、私の耳に優しく響いた。
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