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悪役令嬢は儀式を見守る
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立太子の儀は厳かに行われた。
公爵家はグラント国でも上位の貴族だ。
当然入場順は最後となり、指定された定位置は王に近い場所となる。
大広間の真ん中には真紅の絨毯が敷かれ入り口から王座の下まで続いていた。
入口から見て一番奥に階段があり、数段上がった場所に王座が据えられている。
すべての貴族が入場後、陛下が王座に着いた。
「第一王子、ダグラス・グラント殿下の入場です」
進行役の声に大扉がゆっくりと開く。
その場にいる多くの者の視線が一点に注がれた。
しかしそんな視線などものともせず、いつも通りの顔でダグラスが入場してくる。
ダグラスは真っ直ぐに前を向いていた。
鍛えられた身体に黒い衣装が映え、引き締まった体躯を引き立てている。
翻るマントには王家の紋章。
その堂々たる佇まいは今まで市井に紛れて暮らしていたとは思えない、生まれながらの王子のように見えた。
同じ王子でこうも違うのね。
私は心の中で思う。
歳の差もあるとはいえ、ダグラスとライアンではまとう雰囲気が全然違う。
ライアンにはどこかしら頼りない雰囲気がまとわりついていた。
王妃の甘やかしのせいだったのか、見た目は王子様然としていてもどうしても甘ったれた感じが隠せていなかったのだ。
ダグラスは王座の下まで来ると、片膝をつく。
陛下が階段を降りてダグラスのすぐ前に立った。
「第一王子、ダグラス・グラントをこのグラント国の後継者としてここに宣言する」
陛下の言葉に、すぐそばに控えていた側近が多くの宝石で装飾された剣を差し出した。
グラント国には立太子の儀式の際に王が王子に剣を授ける習慣がある。
「謹んでお受けします」
両手で剣を捧げるように受け取るとダグラスが立ち上がった。
そしてこちら側に向き直り剣を上に掲げる。
その瞬間、広間に集まった貴族たちから歓声が上がった。
多くの貴族は王妃断罪の際のダグラスを見ている。
陛下に寵愛された側妃の子であり、ライアンよりも資質を兼ね備えているダグラスへの期待がその歓声に表れていた。
これでダグラスは対外的にも陛下の後継者として目されることになる。
自分がその隣に並び立つことを考えると身の引き締まる思いだ。
そう感じながら、私はダグラスの勇姿を見守った。
「皆も知っているように先日王妃の罪が明らかになった。また、ライアンに関しても信頼を裏切るような行為をしていたことが判明した。多くの心配をかけたことと思う」
そこまで言うと陛下は辺りを見回す。
大広間にいる貴族たちが注目していることを確認し、さらに言葉を続けた。
「今後はダグラスを王太子に据え、今まで以上に良き国となるよう導いていく」
そうやって宣言した陛下にうながされ、今度はダグラスが言葉を発する。
「陛下と側妃殿下の子とはいえ、今までは市井に暮らしていた身。不満に思う者もいることは承知している。陛下に教えを請いつつ国に貢献していきたいと思っている」
たしかに、ダグラスの立太子を不満に思う貴族はいる。
主にライアンを推していた王妃派の貴族たちだ。
しかし彼らは王妃に物申すこともできず、ライアンを正しく導けなかった者たちでもある。
王妃とレンブラント家と一緒に粛清されなかったということは悪事に手は染めていなかったのだろうが、少なくとも今後政治の世界で中枢を担うことは難しい。
ただそれでも、一方ばかりを優遇することは歪みを生むとわかっているダグラスは敢えて王妃派に言及した。
不満に思う者の言葉にも耳を傾ける、ということだ。
その言葉を彼らがどう受け止めるかまではわからない。
とはいえ、少なくとも今までと同じではいられないことはわかっているだろう。
当面は政治の場も混乱するんだろうなぁ。
管理者が不在となった領地には新たな貴族を任命し、政治の中枢ではバランス良く人員を配置する。
考えただけでも頭が痛くなりそうだ。
派閥、というものは厄介ではあるが便利な側面もある。
何かを決めなければいけない場面での意思決定のスピードは同じ派閥かそうでないかで大きく違うから。
逆に敵対する派閥の者が同じ部署にいるとそれはそれで大変だ。
今後陛下とダグラスがどうしていくのかはわからないけれど、そこら辺の事情も考慮しなければならないだろう。
「国は王族だけで動かすものではない。今後も皆の協力を願う」
陛下がそう締めくくって、立太子の義は終了した。
公爵家はグラント国でも上位の貴族だ。
当然入場順は最後となり、指定された定位置は王に近い場所となる。
大広間の真ん中には真紅の絨毯が敷かれ入り口から王座の下まで続いていた。
入口から見て一番奥に階段があり、数段上がった場所に王座が据えられている。
すべての貴族が入場後、陛下が王座に着いた。
「第一王子、ダグラス・グラント殿下の入場です」
進行役の声に大扉がゆっくりと開く。
その場にいる多くの者の視線が一点に注がれた。
しかしそんな視線などものともせず、いつも通りの顔でダグラスが入場してくる。
ダグラスは真っ直ぐに前を向いていた。
鍛えられた身体に黒い衣装が映え、引き締まった体躯を引き立てている。
翻るマントには王家の紋章。
その堂々たる佇まいは今まで市井に紛れて暮らしていたとは思えない、生まれながらの王子のように見えた。
同じ王子でこうも違うのね。
私は心の中で思う。
歳の差もあるとはいえ、ダグラスとライアンではまとう雰囲気が全然違う。
ライアンにはどこかしら頼りない雰囲気がまとわりついていた。
王妃の甘やかしのせいだったのか、見た目は王子様然としていてもどうしても甘ったれた感じが隠せていなかったのだ。
ダグラスは王座の下まで来ると、片膝をつく。
陛下が階段を降りてダグラスのすぐ前に立った。
「第一王子、ダグラス・グラントをこのグラント国の後継者としてここに宣言する」
陛下の言葉に、すぐそばに控えていた側近が多くの宝石で装飾された剣を差し出した。
グラント国には立太子の儀式の際に王が王子に剣を授ける習慣がある。
「謹んでお受けします」
両手で剣を捧げるように受け取るとダグラスが立ち上がった。
そしてこちら側に向き直り剣を上に掲げる。
その瞬間、広間に集まった貴族たちから歓声が上がった。
多くの貴族は王妃断罪の際のダグラスを見ている。
陛下に寵愛された側妃の子であり、ライアンよりも資質を兼ね備えているダグラスへの期待がその歓声に表れていた。
これでダグラスは対外的にも陛下の後継者として目されることになる。
自分がその隣に並び立つことを考えると身の引き締まる思いだ。
そう感じながら、私はダグラスの勇姿を見守った。
「皆も知っているように先日王妃の罪が明らかになった。また、ライアンに関しても信頼を裏切るような行為をしていたことが判明した。多くの心配をかけたことと思う」
そこまで言うと陛下は辺りを見回す。
大広間にいる貴族たちが注目していることを確認し、さらに言葉を続けた。
「今後はダグラスを王太子に据え、今まで以上に良き国となるよう導いていく」
そうやって宣言した陛下にうながされ、今度はダグラスが言葉を発する。
「陛下と側妃殿下の子とはいえ、今までは市井に暮らしていた身。不満に思う者もいることは承知している。陛下に教えを請いつつ国に貢献していきたいと思っている」
たしかに、ダグラスの立太子を不満に思う貴族はいる。
主にライアンを推していた王妃派の貴族たちだ。
しかし彼らは王妃に物申すこともできず、ライアンを正しく導けなかった者たちでもある。
王妃とレンブラント家と一緒に粛清されなかったということは悪事に手は染めていなかったのだろうが、少なくとも今後政治の世界で中枢を担うことは難しい。
ただそれでも、一方ばかりを優遇することは歪みを生むとわかっているダグラスは敢えて王妃派に言及した。
不満に思う者の言葉にも耳を傾ける、ということだ。
その言葉を彼らがどう受け止めるかまではわからない。
とはいえ、少なくとも今までと同じではいられないことはわかっているだろう。
当面は政治の場も混乱するんだろうなぁ。
管理者が不在となった領地には新たな貴族を任命し、政治の中枢ではバランス良く人員を配置する。
考えただけでも頭が痛くなりそうだ。
派閥、というものは厄介ではあるが便利な側面もある。
何かを決めなければいけない場面での意思決定のスピードは同じ派閥かそうでないかで大きく違うから。
逆に敵対する派閥の者が同じ部署にいるとそれはそれで大変だ。
今後陛下とダグラスがどうしていくのかはわからないけれど、そこら辺の事情も考慮しなければならないだろう。
「国は王族だけで動かすものではない。今後も皆の協力を願う」
陛下がそう締めくくって、立太子の義は終了した。
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