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悪役令嬢は護衛に願う
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行きはレオとおしゃべりをしながら歩いた小道を帰りは無言で歩く。
私への配慮なのかレオから話しかけてくることはなかった。
私はエマにかける言葉があれで良かったのか考えていた。
一度口に出した言葉を戻すことはできない。
そして自分の言った言葉には責任を持たなければならないだろう。
とはいえ、今の私にできることはもうないと思う。
私とエマの道は分かれた。
立場の違いも含めて、今後会うこともない。
つまり。
長かった私の断罪回避の生活は、とうとう終わりを迎えたのだ。
終わった……。
実感はまだないけれど。
それでも、これでやっと断罪後の死に怯えることはないのだと思うと不思議な気持ちだった。
フッと詰めていた息を吐いて、自分が少し緊張していたことに気づく。
ああ……。
終わったんだなぁ。
しみじみと思った。
見上げれば大きく育った木々が頭上を覆っている。
空を見上げるのも、思えば久し振りな気がした。
自由だ。
私はとうとうこの世界での自由を手に入れた。
まぁ、とはいえ公爵令嬢であることには変わりないし、今後ダグラスと婚約して王太子妃になることも決まっている。
前世でいうような自由とはまた違うだろう。
それでも、自分を縛っていた楔から逃れられたことが私の心を軽くしていた。
そして、そういえば、と思う。
今まであえてあまり深く追求してこなかったことを、このタイミングではっきりさせておこうと思って私はかたわらを歩くレオに視線を向けた。
「レオは、私に恋愛感情があるのかしら?」
レオのすべてを捧げる姿勢は恋愛感情だったとしても行き過ぎているような気がするが、そうではないとしたらそののめり込み具合もすごいと思う。
何の実害もなくレオ自身の望みでもあったからそのままにしていたが、ここで一度その心の内を聞いておこうと思った。
「エレナ様が望むのであれば」
「レオ自身の気持ちとしては?」
「終わりがくるかもしれない関係は怖いと思います」
なるほど。
「なのでエレナ様。僕の一番の希望はエレナ様に飼い続けてもらうことなんですよ」
レオとしてはエレナとの関係が終わることが一番恐れることなのだろう。
ここにきても何となく、私は自分とエレナを別人と感じている。
だからこんな質問もできてしまったのだけど……。
よく考えてみればかなり自意識過剰な質問!
急に恥ずかしくなったものの、自分でした質問なのだから途中で放り投げるわけにもいかない。
「私が王宮に上がるとなってもついてきてくれるのかしら?」
「もちろんです。許されるのであればこの命尽きるまでお仕えしたいと願っています」
騎士として剣を捧げるようなものだろうか。
「それがあなたの幸せだと?」
「はい」
ありがたい話だけど、本当にそれでいいのかな。
そう思うのはきっと私に前世の記憶があるからだろう。
このままだとレオはずっと一人だ。
もちろん、私はレオを頼りにしているし大切に思っている。
でもそれと家族はまた別だろう。
とはいえ、少なくとも今のレオは現状のままであることを望んでいる。
「わかりましたわ。生涯そばに仕えることを認めます」
「ありがたき幸せ」
レオにそう答えたところで、ふと私は一人の存在を思い出した。
「そういえば、ルークを引き取るのはどうかしら?」
「僕がですか?」
「ええ」
ルークは、デュランのところから預かっている少年だ。
元々はスラム街でレンブラント家出身の老人と一緒にいた子。
今はデュランの妹のミラと一緒に我が家で保護している。
「なぜ僕なのか、理由をお伺いしても?」
「気にして面倒をみてるでしょう?」
そう。
我が家の誰よりもレオがルークのことを気にかけている。
「それだけが理由で?」
「そうね。レオがこのまま私だけを大事に思い続けてくれたとして、もし私に何かあったら……と思わなくもないわね」
「それはっ!」
レオが弾かれたように顔を上げた。
その顔には不安が宿っている。
私が王太子妃に、その後王妃になれば、今までよりも危険は増えるだろう。
どれだけ平和な国であっても国内に火種のない国はない。
王族の一員になるということは危険も引き受けるということ。
今後私が命の危険に晒されることが無いとは言い切れなかった。
今のこの状況でレオがエレナを失ってしまったら……。
その心配はあながち的外れではないと思う。
「あくまで例え話よ。落ち着いて」
「しかし……」
落ち着かなさそうなレオに、私は伝えたいことがあった。
「レオ、大切なものは増やすのよ」
「?」
「大事な人は一人でなくてもいいの。だから、もっともっと、その両手に抱えきれないくらい見つけてね」
今のレオにとって大事な人はエレナのみ。
もちろんルークのことも気にかけているし、ダグラスのことは信用しているのだろう。
他にもいないわけではない。
それでも、失えないと思っている存在は一人だけ。
だから。
これは私からレオへの願いでもあった。
大切な人も物も、心配せずにもっともっと増やしていって欲しい、と。
私への配慮なのかレオから話しかけてくることはなかった。
私はエマにかける言葉があれで良かったのか考えていた。
一度口に出した言葉を戻すことはできない。
そして自分の言った言葉には責任を持たなければならないだろう。
とはいえ、今の私にできることはもうないと思う。
私とエマの道は分かれた。
立場の違いも含めて、今後会うこともない。
つまり。
長かった私の断罪回避の生活は、とうとう終わりを迎えたのだ。
終わった……。
実感はまだないけれど。
それでも、これでやっと断罪後の死に怯えることはないのだと思うと不思議な気持ちだった。
フッと詰めていた息を吐いて、自分が少し緊張していたことに気づく。
ああ……。
終わったんだなぁ。
しみじみと思った。
見上げれば大きく育った木々が頭上を覆っている。
空を見上げるのも、思えば久し振りな気がした。
自由だ。
私はとうとうこの世界での自由を手に入れた。
まぁ、とはいえ公爵令嬢であることには変わりないし、今後ダグラスと婚約して王太子妃になることも決まっている。
前世でいうような自由とはまた違うだろう。
それでも、自分を縛っていた楔から逃れられたことが私の心を軽くしていた。
そして、そういえば、と思う。
今まであえてあまり深く追求してこなかったことを、このタイミングではっきりさせておこうと思って私はかたわらを歩くレオに視線を向けた。
「レオは、私に恋愛感情があるのかしら?」
レオのすべてを捧げる姿勢は恋愛感情だったとしても行き過ぎているような気がするが、そうではないとしたらそののめり込み具合もすごいと思う。
何の実害もなくレオ自身の望みでもあったからそのままにしていたが、ここで一度その心の内を聞いておこうと思った。
「エレナ様が望むのであれば」
「レオ自身の気持ちとしては?」
「終わりがくるかもしれない関係は怖いと思います」
なるほど。
「なのでエレナ様。僕の一番の希望はエレナ様に飼い続けてもらうことなんですよ」
レオとしてはエレナとの関係が終わることが一番恐れることなのだろう。
ここにきても何となく、私は自分とエレナを別人と感じている。
だからこんな質問もできてしまったのだけど……。
よく考えてみればかなり自意識過剰な質問!
急に恥ずかしくなったものの、自分でした質問なのだから途中で放り投げるわけにもいかない。
「私が王宮に上がるとなってもついてきてくれるのかしら?」
「もちろんです。許されるのであればこの命尽きるまでお仕えしたいと願っています」
騎士として剣を捧げるようなものだろうか。
「それがあなたの幸せだと?」
「はい」
ありがたい話だけど、本当にそれでいいのかな。
そう思うのはきっと私に前世の記憶があるからだろう。
このままだとレオはずっと一人だ。
もちろん、私はレオを頼りにしているし大切に思っている。
でもそれと家族はまた別だろう。
とはいえ、少なくとも今のレオは現状のままであることを望んでいる。
「わかりましたわ。生涯そばに仕えることを認めます」
「ありがたき幸せ」
レオにそう答えたところで、ふと私は一人の存在を思い出した。
「そういえば、ルークを引き取るのはどうかしら?」
「僕がですか?」
「ええ」
ルークは、デュランのところから預かっている少年だ。
元々はスラム街でレンブラント家出身の老人と一緒にいた子。
今はデュランの妹のミラと一緒に我が家で保護している。
「なぜ僕なのか、理由をお伺いしても?」
「気にして面倒をみてるでしょう?」
そう。
我が家の誰よりもレオがルークのことを気にかけている。
「それだけが理由で?」
「そうね。レオがこのまま私だけを大事に思い続けてくれたとして、もし私に何かあったら……と思わなくもないわね」
「それはっ!」
レオが弾かれたように顔を上げた。
その顔には不安が宿っている。
私が王太子妃に、その後王妃になれば、今までよりも危険は増えるだろう。
どれだけ平和な国であっても国内に火種のない国はない。
王族の一員になるということは危険も引き受けるということ。
今後私が命の危険に晒されることが無いとは言い切れなかった。
今のこの状況でレオがエレナを失ってしまったら……。
その心配はあながち的外れではないと思う。
「あくまで例え話よ。落ち着いて」
「しかし……」
落ち着かなさそうなレオに、私は伝えたいことがあった。
「レオ、大切なものは増やすのよ」
「?」
「大事な人は一人でなくてもいいの。だから、もっともっと、その両手に抱えきれないくらい見つけてね」
今のレオにとって大事な人はエレナのみ。
もちろんルークのことも気にかけているし、ダグラスのことは信用しているのだろう。
他にもいないわけではない。
それでも、失えないと思っている存在は一人だけ。
だから。
これは私からレオへの願いでもあった。
大切な人も物も、心配せずにもっともっと増やしていって欲しい、と。
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