【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢はヒロインに面会する

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真っ直ぐに伸びた道を進み十段ほどの階段を降りるとほどなくして広い空間に出た。
ホールのようなそこは反対側の壁が半円を描くようになっており、円周の部分に等間隔で三つの扉が見える。

話によると扉を抜けた先、通路の両側に個室が設けられているらしい。

「エレナ・ウェルズですわ」

ホール手前の右手側に机と椅子が置かれそこに待機している衛兵に私は名を名乗った。

「話は伺っております。エマ・ウェインは真ん中の通路を行った先の部屋に勾留しています。こちらにどうぞ」

地下牢はどちらかというと重犯罪の者が収められる場所だ。
エマの犯した罪を考えれば地下牢に入れられたのは重い措置ともいえる。
しかしエマはある意味陛下の逆鱗に触れたようなものなので、こうなったのも当然といえば当然だった。

「私はこちらで待機しております。この扉の向こうは貴族令嬢用の牢となりますが、現在はエマ・ウェインのみが勾留されています」

考えてみれば王族のライアンとは違って、個室とはいっても壁に隔たれていないのであれば他の人に話が聞こえてしまう。
その可能性を考えておかなければいけなかった。

勾留されているのがエマだけで助かったよ。

私はホッと胸をなでおろす。

まぁ、地下牢にまで入れられるような犯罪を貴族の令嬢が犯すのは稀だし、そんな事件があれば王都中の話題になっているだろう。

外にあった扉と同様、ホールと通路を隔てる扉も一際頑丈そうだ。

衛兵の手によってギイっと重たい音を立てて扉が開く。

私はレオを背後に従えながらその扉を潜った。

通路には両側の壁に等間隔で灯りが灯されている。
その灯りと灯りの間が鉄格子となっており、そこが個室として与えられる牢屋のようだ。

牢屋の中は剥き出しの石畳のままで片側の壁に寄せて簡素な木のベッドが置かれている。
鉄格子とは反対側に簡易の手洗い場がついており、その横におそらくトイレが置かれているのだと推察された。
さすがにトイレと思しき場所にはこちらからは見えないように板が立てられている。

いずれにしてもいかにも牢屋といえる作りになっていた。
とはいえ、ここはきっと下位貴族向けなのだろう。
おそらく奥に行けばもう少しマシな個室があるように思えた。

「誰?」

人の気配を感じたのか問いかける声が聞こえる。

その声の主であるエマは、入口から二つ目の個室にいた。

「ごきげんよう、エマ様」

その個室に近づいて私はいつも通りに挨拶する。
もちろん、それがエマの癇に障るとわかって言った。

「エレナ!!」

ガシャン!!
ベッドの上に座っていたエマが駆け寄ってきたかと思うと鉄格子を両手で掴む。

エマの目はギラついていた。
見た感じは思った通りライアンとは違い痩せてもやつれてもいなかったが、綺麗に化粧をすることもできず、髪の毛の手入れもできないからか荒んだ感じがする。

「エレナ!あんたのせいであたしがこんな目に遭ってるのよ!!」
「言いがかりは止めてくださらない?私が何をしたというのです」

エマの言葉を訳すとこうだろう。

『エレナがゲーム通りの行動をしないから自分がゲームのシナリオに沿うように動く羽目になった。そのせいで自分は牢に入れられている。牢に入れられるべきはエレナのはずだ』

どこまでも自分がこの世界の中心、ヒロインであるという考えのままのエマに私はうんざりする。

なぜ、必ずゲームと同じように話が進むと思い込めるのだろう?
なぜ、悪いことをしても自分は罪を問われないと信じられるのだろう?

途中でおかしいと思う機会はあったはずなのに。
ゲームとは違うストーリーが進んだ時点で、この世界がゲームと酷似した別の世界かもしれないと考えなかったのか。

そもそも、たとえここがゲームの世界であったとしても人を陥れていい理由にはならない。
ゲームのヒロインが多くの人に好かれたのはあくまで彼女が好感を持てる人物だったからこそ。
そして逆に悪役令嬢であるエレナは言動も行動も問題があったから断罪されたのだ。

そのことが今この時になってもまだわからないエマに、私は若干イライラした。

「人に罪をなすりつけてさらには陥れるような行動をしたのはエマ様でしょう?その結果が今の状況ですわ」
「私はこの世界のヒロインなのよ!すべての人に愛される存在なの!!」

そこまで言うとエマはさらに私を睨みつける。

「公爵令嬢として何不自由なく生きてきたあんたにはわからないでしょうね。私の前世は親は離婚するし母親は女を捨てないし家には居場所はないしで散々だったのよ!だからこの世界に転生したのは神様からのプレゼントなの!!」

エマが私に言っていることは本来のエレナなら通じない話。
しかしそんなことはもはやどうでもいいのだろう。
エマにしてみれば今のやり場のない怒りをぶつける先が欲しいだけなのだろうから。

私はエマが転生者であることは気づいていた。
けれど彼女の前世がどんなだったかなんて知らない。
聞く限りエマと私の前世の境遇は似ている。

でも、それが何だというのか。

「だから?」
「え?」
「だから自分は何をしてもいいと?」

私は鉄格子を掴んでこちらを睨んでいるエマに近づく。

「甘ったれるのもいい加減にしなさいよ!」

そしてその顔に指を突きつけて言ったのだった。
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