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悪役令嬢は護衛の真意を知る
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さて。
ライアンとの面会が終わったとなれば次は……エマである。
エマに関してはエレナの思いとは関係なく、むしろ私が言いたいことがあった。
それはそうだろう。
そもそもエレナとエマには関係がない。
出会っていないのだから当然だ。
修了式の日から数日経っているわけだけど、私の予想ではライアンと違ってエマは痩せてもやつれてもいないと思う。
きっと今も変わらず、なぜ自分の思う通りの結末を迎えることができなかったのかを牢の中で愚痴っているに違いない。
ライアンと会った日から遅れること二日。
こちらも近々刑の執行として移動することが決まっているからか、比較的早く面会の許可が下りた。
「今回も……ですの?」
「そうですね。私が同行するのでなければ許可はできないとダグラス殿下が」
前回のライアンに続きエマとの面会にもダグラスは同席したがった。
しかしこれまた前回同様仕事に忙殺されて無理だったわけで。
いや、どれだけ心配してるの?
相手は牢の中なんだから何もできないでしょうに。
かなりの過保護っぷりに戸惑いつつ、レオと一緒でなければエマに会うことができないと知って私も仕方なく承諾した。
とはいえ、ライアンと違ってエマに言いたいことって前世がらみのことなんだよね。
内容的にダグラスはもちろん、レオにも聞かれたらまずい。
どうしたものか……。
内心悩みつつ対策を考えたもののそんなに簡単に良い案など浮かぶはずもなく、結局私は無策のまま当日を迎えた。
エマの入れられた地下牢は罪を犯した者の中でも貴族を対象とした牢だ。
とはいえエマは男爵令嬢。
貴族でも一番下位の家出身では、入れられる牢も平民よりはましレベルといえた。
王都には王宮の地下牢だけでなく貴族街の外れにいわゆる刑務所のような建物もある。
しかし今回エマは王族であるライアンと共謀しての罪を問われていた。
王家としてはあまり大事にしたくなかったためか、エマはそのまま王宮の地下牢に留め置かれている。
そしてライアン同様刑の執行は速やかに行われるだろう。
「レオ、あなた中までついてくるつもり?」
地下牢は王宮の中でも入り口に近い位置に設けられていた。
その場所は公にされておらず、特別に許可を得た者だけが訪れることができる。
王宮の入り口を横にそれ、木々が多く植えられている小道を歩く。
歩きながら、私は話を続けた。
「もちろんです」
「相手はエマ様よ?女性同士ですし、ライアン殿下の時のような心配はないでしょう?」
小道を少し行くと右手に頑丈な扉がついた壁面が現れる。
私たちを先導してくれていた衛兵が鍵束を取り出すと扉の鍵を開けた。
扉の向こうは窓が無く、壁につけられたランプに灯された灯りだけが唯一の光源だった。
入り口に留まり面会の間周囲の警戒にあたる衛兵を残し、私たちはその中に足を踏み入れる。
「エマ嬢にはライアン殿下の時とは別の危険があります」
危険……あのエマが?
まぁ、悪意で傷つけてくるという意味では危険ではあるけれど。
物理的にどうこうすることはできないだろう。
「エマ様が私を傷つけるようなことはできないと思いますわ」
「いいえ。エレナ様、あなたもおわかりでしょう?フィジカルにつけられた物だけが傷ではないと」
精神的な攻撃は時に肉体さえも傷つけていく。
わかってはいるけれど、今さらエマに何を言われたところで私は平気だった。
むしろいろいろ言ってやりたいのはこっちの方よね。
でも思う存分言いたいことを言ったらレオはびっくりしてしまいそうだ。
その内容をダグラスに報告されたら困る。
本当に、困る。
前世のことも説明しがたいし、場合によっては口調だって前世寄りの話し方になるだろう。
何と言ってレオをこの場に留まらせるか。
頭の中で考えを巡らせていると、不意にレオが口を開いた。
「エレナ様、私はあなたに生涯の忠誠を誓った身。たとえ何があったとしても、あなたの望まないことはいたしません」
「それはつまり、どういうことかしら?」
レオの顔を見上げると、その瞳がじっとこちらを見つめてくる。
「あなたは不思議な方です。その発想、その行動力、そして他者への思いやり、この貴族社会におけるご令嬢の持てる資質ではない。あなたはいったいどんな存在なのか。……どこから、きたのか」
レオの言葉に、心臓がドクンッと鳴った。
「以前エレナ様について調べたことがあります。そのどれも、今のあなたには当てはまらない。過去のエレナ様は別人として偽った姿なのではないか、そうとも考えました」
「しかし……」と続く言葉に私の鼓動はさらに乱れる。
「しかし、幼き頃から別人を演じる切ることは難しいと思います。必ずどこかで破綻する。そう考えた時、突飛な発想が頭を占めたのです」
レオの瞳は凪いでいた。
そのことに気づいて、レオは私を追求したいわけではないのかもしれないと思う。
「あなたは、かつてのエレナ様とは別人なのではないかと」
鼓動が速い。
握った掌に汗をかいていた。
なんと答えるべきなのか。
誤魔化すのか、それとも真実を伝えるのか。
迷った思いが私の瞳に現れていたのだろう。
ふっと息をついて場の緊張を和らげたレオが言葉を続けた。
「僕はどちらでも構わないんですよ。以前のエレナ様が偽りの姿で今のあなたが本当の姿であっても。もしくは、以前のエレナ様と今のあなたが別人であっても。大事なのは今僕の目の前にいるあなただ」
レオは、限りなく真実に近づいている。
何の根拠をもってなのかはわからないけれど、もしかすると確信しているのかもしれない。
「僕はあなたが口を噤めというなら死ぬまで誰にも漏らしません。なので、安心してください」
そこまで言って、レオは真剣な眼差しを揶揄うようなものに変えた。
「たとえ変な寝言が聞こえてきても、いびきをかいていても、もちろん誰にも漏らしていませんよ」
「…えっ!?」
私寝言を言ったりいびきをかいてるの!?
いや待て、レオが夜間に警護しているのは部屋の外!
「レオ、扉を隔てた向こうまで聞こえる寝言やいびきは相当なものよ?」
ジロッと睨む私に対してレオはニコリと笑う。
その笑顔を見て、私は肩に入っていた力を抜いた。
つまり、レオは私が何を隠していようとも、たとえそれを知ったとしても、私の意志を尊重すると言っているのだ。
決して口外はしない、と。
「わかりましたわ。エマ様のところへも一緒についてきてもらいます」
「仰せのままに」
右手を軽く胸に当て、レオはスッとお辞儀をした。
ライアンとの面会が終わったとなれば次は……エマである。
エマに関してはエレナの思いとは関係なく、むしろ私が言いたいことがあった。
それはそうだろう。
そもそもエレナとエマには関係がない。
出会っていないのだから当然だ。
修了式の日から数日経っているわけだけど、私の予想ではライアンと違ってエマは痩せてもやつれてもいないと思う。
きっと今も変わらず、なぜ自分の思う通りの結末を迎えることができなかったのかを牢の中で愚痴っているに違いない。
ライアンと会った日から遅れること二日。
こちらも近々刑の執行として移動することが決まっているからか、比較的早く面会の許可が下りた。
「今回も……ですの?」
「そうですね。私が同行するのでなければ許可はできないとダグラス殿下が」
前回のライアンに続きエマとの面会にもダグラスは同席したがった。
しかしこれまた前回同様仕事に忙殺されて無理だったわけで。
いや、どれだけ心配してるの?
相手は牢の中なんだから何もできないでしょうに。
かなりの過保護っぷりに戸惑いつつ、レオと一緒でなければエマに会うことができないと知って私も仕方なく承諾した。
とはいえ、ライアンと違ってエマに言いたいことって前世がらみのことなんだよね。
内容的にダグラスはもちろん、レオにも聞かれたらまずい。
どうしたものか……。
内心悩みつつ対策を考えたもののそんなに簡単に良い案など浮かぶはずもなく、結局私は無策のまま当日を迎えた。
エマの入れられた地下牢は罪を犯した者の中でも貴族を対象とした牢だ。
とはいえエマは男爵令嬢。
貴族でも一番下位の家出身では、入れられる牢も平民よりはましレベルといえた。
王都には王宮の地下牢だけでなく貴族街の外れにいわゆる刑務所のような建物もある。
しかし今回エマは王族であるライアンと共謀しての罪を問われていた。
王家としてはあまり大事にしたくなかったためか、エマはそのまま王宮の地下牢に留め置かれている。
そしてライアン同様刑の執行は速やかに行われるだろう。
「レオ、あなた中までついてくるつもり?」
地下牢は王宮の中でも入り口に近い位置に設けられていた。
その場所は公にされておらず、特別に許可を得た者だけが訪れることができる。
王宮の入り口を横にそれ、木々が多く植えられている小道を歩く。
歩きながら、私は話を続けた。
「もちろんです」
「相手はエマ様よ?女性同士ですし、ライアン殿下の時のような心配はないでしょう?」
小道を少し行くと右手に頑丈な扉がついた壁面が現れる。
私たちを先導してくれていた衛兵が鍵束を取り出すと扉の鍵を開けた。
扉の向こうは窓が無く、壁につけられたランプに灯された灯りだけが唯一の光源だった。
入り口に留まり面会の間周囲の警戒にあたる衛兵を残し、私たちはその中に足を踏み入れる。
「エマ嬢にはライアン殿下の時とは別の危険があります」
危険……あのエマが?
まぁ、悪意で傷つけてくるという意味では危険ではあるけれど。
物理的にどうこうすることはできないだろう。
「エマ様が私を傷つけるようなことはできないと思いますわ」
「いいえ。エレナ様、あなたもおわかりでしょう?フィジカルにつけられた物だけが傷ではないと」
精神的な攻撃は時に肉体さえも傷つけていく。
わかってはいるけれど、今さらエマに何を言われたところで私は平気だった。
むしろいろいろ言ってやりたいのはこっちの方よね。
でも思う存分言いたいことを言ったらレオはびっくりしてしまいそうだ。
その内容をダグラスに報告されたら困る。
本当に、困る。
前世のことも説明しがたいし、場合によっては口調だって前世寄りの話し方になるだろう。
何と言ってレオをこの場に留まらせるか。
頭の中で考えを巡らせていると、不意にレオが口を開いた。
「エレナ様、私はあなたに生涯の忠誠を誓った身。たとえ何があったとしても、あなたの望まないことはいたしません」
「それはつまり、どういうことかしら?」
レオの顔を見上げると、その瞳がじっとこちらを見つめてくる。
「あなたは不思議な方です。その発想、その行動力、そして他者への思いやり、この貴族社会におけるご令嬢の持てる資質ではない。あなたはいったいどんな存在なのか。……どこから、きたのか」
レオの言葉に、心臓がドクンッと鳴った。
「以前エレナ様について調べたことがあります。そのどれも、今のあなたには当てはまらない。過去のエレナ様は別人として偽った姿なのではないか、そうとも考えました」
「しかし……」と続く言葉に私の鼓動はさらに乱れる。
「しかし、幼き頃から別人を演じる切ることは難しいと思います。必ずどこかで破綻する。そう考えた時、突飛な発想が頭を占めたのです」
レオの瞳は凪いでいた。
そのことに気づいて、レオは私を追求したいわけではないのかもしれないと思う。
「あなたは、かつてのエレナ様とは別人なのではないかと」
鼓動が速い。
握った掌に汗をかいていた。
なんと答えるべきなのか。
誤魔化すのか、それとも真実を伝えるのか。
迷った思いが私の瞳に現れていたのだろう。
ふっと息をついて場の緊張を和らげたレオが言葉を続けた。
「僕はどちらでも構わないんですよ。以前のエレナ様が偽りの姿で今のあなたが本当の姿であっても。もしくは、以前のエレナ様と今のあなたが別人であっても。大事なのは今僕の目の前にいるあなただ」
レオは、限りなく真実に近づいている。
何の根拠をもってなのかはわからないけれど、もしかすると確信しているのかもしれない。
「僕はあなたが口を噤めというなら死ぬまで誰にも漏らしません。なので、安心してください」
そこまで言って、レオは真剣な眼差しを揶揄うようなものに変えた。
「たとえ変な寝言が聞こえてきても、いびきをかいていても、もちろん誰にも漏らしていませんよ」
「…えっ!?」
私寝言を言ったりいびきをかいてるの!?
いや待て、レオが夜間に警護しているのは部屋の外!
「レオ、扉を隔てた向こうまで聞こえる寝言やいびきは相当なものよ?」
ジロッと睨む私に対してレオはニコリと笑う。
その笑顔を見て、私は肩に入っていた力を抜いた。
つまり、レオは私が何を隠していようとも、たとえそれを知ったとしても、私の意志を尊重すると言っているのだ。
決して口外はしない、と。
「わかりましたわ。エマ様のところへも一緒についてきてもらいます」
「仰せのままに」
右手を軽く胸に当て、レオはスッとお辞儀をした。
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