【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢は牢に立ち入る

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先に会う予定が立ったのはライアンだった。

王族専用の牢は王宮の中でも奥まった位置に存在している。
一つの建物内で全てのことが完結するようにできており、下働きを含めてその建物の担当となった者はそこ以外で働くことはない。
下手に別の場所と兼務で働かせると情報の漏洩や脱走の手引きの懸念があるからだ。

建物の入口には厳つい容貌の衛兵が二人立っており、建物の中に入るにもまずは許可証を必要とする。

「エレナ・ウェルズ様ですね」

私の許可証を確認した衛兵に問われる。

「ええ、そうですわ。ダグラス殿下から面会の許可は得ています」
「話は伺っています。どうぞこちらへ」

そう言って衛兵は大きくて重たい扉を開けると私を中に通してくれた。

今日の面会にダグラスはついて来ると言った。
私としてはわざわざ一緒に来てくれなくてもよかったけれど、そう言ったらとても渋い顔をされてしまった。

かなり忙しそうなダグラスを私情につき合わすのが申し訳なくて断ったのに、なぜあんな顔をしたのか。
しかし結局はどうにもこうにも時間の都合がつかず、ダグラスは必ずレオを連れて行くことを条件に許してくれた。

衛兵の案内に従って廊下を歩きながら、私は隣を歩くレオに問いかける。

「牢と言っても基本的には普通の建物ですし、ダグラスは何を心配していたのかしら?」
「エレナ様、本気で言っていますか?」

なぜかレオに残念な子を見る目で見られて、自分がおかしな発言をしたのか考えたけれどわからなかった。
解せぬ。

「ダグラス殿下は、仮にもこの間まで婚約者同士であったライアン殿下とエレナ様がお二人で会うことに不安を感じてるんですよ」

……ん?
それは『焼け木杭に火がつく』的な?
いや、まさか。
私とライアンでそれはあり得ないでしょう。

「私はエレナ様の専属護衛につく前のことは詳しく知りませんが、以前のエレナ様はライアン殿下に対して好意を持っていたと聞いています。だからでは?」

ああー!
たしかに、以前のエレナはライアンに対して好意を持っていた。
まぁ、これから長きに渡って公私ともに一緒にいなければいけない相手と良好な関係を築くために『好意的であろうとしていた』のかもしれないけれど。

「そういうことですの。何も心配することなどないと思いますけれど」
「私もその意見に同意しますが、そこはほら、恋する男の複雑な気持ちということでしょう」

『恋する男』とはまたダグラスには不似合いな形容だわぁ。

そんな私の納得していない様が顔に表れていたのか、レオが困ったものだとでもいうような雰囲気を醸し出す。

そうやって二人でたわいもない話をしているうちにライアンの居住する場所に着いた。

「こちらになります」

衛兵が厳重にかけられた二つの鍵を開ける。

開いた扉の先に見えたのはこぢんまりとはしているものの普通の応接間だった。
少なくとも私が牢屋として思い浮かべるような部屋ではない。

まぁ、王族用の牢だしね。
一般人向けの牢屋とは違うのだろう。

ただそれでも、唯一普通の応接間として不似合いな物がある。
それは部屋の真ん中を仕切るかのようにつけられている鉄の格子だ。
その鉄格子を挟んで二つの一人掛けソファが向かい合っている。

私が手前側のソファに腰掛けるとレオが背後に立った。

すると格子の向こう側、左の壁についているドアが開いて誰かが入ってくる。
最初に見えたのは近衛兵だ。
その彼が振り返ると、扉からライアンが姿を現した。

会わなかったのはたった数日だ。
それでも、最後に会った終了式の時に比べてライアンが明らかに痩せたのがわかった。

自慢の一つでもあったプラチナブロンド色の髪は心なしかくすみ、痛んだような気すらする。
ロイヤルブルーの瞳には暗い影が落ちて目元には隈が見えた。

「ごきげんよう、ライアン殿下」

私の挨拶に対して、ライアンは無言だ。

「西の王領に向かわれると聞きましたわ。今後もうお会いすることはありませんでしょうし、最後のご挨拶に参りましたの」

ライアンへの沙汰は昨日のうちに本人に伝えられたと聞いている。

「私を嘲笑いに来たのか?それとも文句でも言いに?」

ライアンの返答は荒んでいた。

「そのどちらでもありませんわ」

そう。
私が言いたかったことはそんなことではない。

ダグラスに我儘を言って作ってもらった時間だ。
後悔のないように、言いたいことは言っておくと決めている。
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