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悪役令嬢は証人を召喚する
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「まずはお名前をお願いいたします」
「共有街で警邏の詰所の所長を務めております、ルドと申します」
ルドは相変わらず飄々とした感じではあったが、ここが貴族の集まる場であることを十分に理解しているのか警邏の制服をきちんと着こなした状態で現れた。
「では事件についての証言をお願いします」
「承知いたしました。今回の事件については正式にエレナ・ウェルズ嬢より捜査依頼が出されております」
そう言ってルドは一枚の書類を取り出す。
「事件の概要と捜査の結果に関しては今から申し上げますが、詳細はこちらの報告書にまとめてありますので後ほど提出いたします」
私が届けを出したことによってルドはあの事件を正式に捜査する権利を得た。
共有街で公爵令嬢が襲撃されたとなれば詰所としては何としても犯人を挙げなければならない。
そのための人員を割くこともできるし、ある意味優先的に捜査をすることができたはずだ。
「当日エレナ嬢はいつも通り学園から公爵邸へと帰宅する予定でした。ウェルズ家の馬車に乗り、学園を出たところまではいつもと同じだったのでしょう。しかしウェルズ家の使用人である御者はそのまま馬車を共有街へと向けた」
ルドの説明に周り中が聞き耳を立てている。
「共有街の外れで御者は馬車を乗り捨ててその場にエレナ嬢とダグラス殿下を置き去りにしています。そこまで彼らを連れてくるように指示されていたということでしょう。そして王妃殿下付きの影に襲撃されることになる」
ルドははっきりと言った。
襲撃犯が『王妃の影である』と。
「先ほどエレナ嬢がおっしゃっていたように、なぜ襲撃犯が王妃殿下付きの影だとわかったかについては機密との兼ね合いもあると思いますので報告書に記載するに留めます。尚、ダグラス殿下は影の一人に対して一太刀浴びせています。右肩を負傷した者がいなかったか、王宮の医務局に確認していただくのがいいかと」
王族付きの影は当然だが常にコンディションが万全であることを求められる。
しかし単独任務も多い関係上他の誰にも知られることのない怪我を負うことがままあった。
その上しっかりと治療をしない状態で次の任務につく場合もあり、結果警護や任務に支障が出る事態に陥ることも多かったのだろう。
そのことを重くみた当時の国王陛下によって、影は定期的に医務局で怪我の有無や体調のチェックを受ける体制に変わったという。
つまり、私が襲撃された時に怪我をした影がいたというなら、その影が医務局で治療を受けた履歴が残る。
ルドの指摘に王妃の背がビクリと揺れた。
「尚、事件後に詰所まで来られたダグラス殿下もエレナ嬢も、少しの怪我もなく無事であったことをここに証言いたします」
ああ。
ルドはきっと私のことを気遣ったのだろう。
たとえ私が『ダグラスに守ってもらったから何も傷を負わなかった』と言ったところで、すべての人がその言葉を信じる訳ではない。
なぜならダグラスがその時点では私の専属護衛だったからだ。
私が傷つくことはダグラスの汚点になる。
そして仮に私が傷物になったとして、ダグラスが私を庇ってその事実を隠ぺいしていると取られることも考えられた。
しかしルドと私には表面上何の繋がりもない。
無関係であると思われるルドが言うのであれば、その言葉には信憑性が増すのだろう。
「また、行方をくらませた御者についてですが、捜索の結果所在がわかりました」
「どこで見つかったのかうかがっても?」
裁判長の言葉にルドが王妃の方を見る。
「御者はレンブラント家の領地にあるカントリーハウスで雇われていました」
まぁ、雇われていたというか、軟禁されていたということよね。
今までの使用人たちと同じように、王妃やレンブラント家の悪事に関わった使用人として領地のカントリーハウスで雇われたのだろう。
「こちらがその御者に聴取をした内容をまとめた書類です。本人にも要旨を説明した上で間違いがないことを確認し、サインをもらっています」
あの御者はどんな気持ちでサインしたのだろう。
レンブラント家から上手い話があったのか、それとも何かしらの弱みや人質を取られていたしかたなく行動したのか。
そして今後の人生を領地に軟禁されて過ごさないといけないことを認識していたのかどうか。
いずれにしても何かしらの思いがあったからこそ今回聴取に応じてくれたのだろう。
「この書類において一番重要なのは、御者が誰に依頼されて共有街の外れまで向かったのかという点です」
「そのことに関しても自白を?」
「はい。間違いなく彼は言いました。『すべては王妃殿下の指示だった』と」
ルドの言葉に、場内はまたもや沈黙に覆われた。
「わたくしはこの国の王妃ですわ!そのわたくしが貴族ですらない御者に直接声をかけることがあると思いまして?」
沈黙を破るように王妃が声を上げる。
しかしその声は今までよりもかなり弱々しく辺りに響いた。
「もちろん、王妃殿下から直接のお声がけがあった訳ではないでしょう。彼は『レンブラント家から受けた命令は王妃殿下の指示だった』と言っていたので。その指示を受けた手紙を、彼はしっかりと持っていました」
ルドは事件の報告書、そして御者の聴取書類、最後に手紙をまとめると書記官の持つトレーに乗せた。
「以上が私の証言となります」
「共有街で警邏の詰所の所長を務めております、ルドと申します」
ルドは相変わらず飄々とした感じではあったが、ここが貴族の集まる場であることを十分に理解しているのか警邏の制服をきちんと着こなした状態で現れた。
「では事件についての証言をお願いします」
「承知いたしました。今回の事件については正式にエレナ・ウェルズ嬢より捜査依頼が出されております」
そう言ってルドは一枚の書類を取り出す。
「事件の概要と捜査の結果に関しては今から申し上げますが、詳細はこちらの報告書にまとめてありますので後ほど提出いたします」
私が届けを出したことによってルドはあの事件を正式に捜査する権利を得た。
共有街で公爵令嬢が襲撃されたとなれば詰所としては何としても犯人を挙げなければならない。
そのための人員を割くこともできるし、ある意味優先的に捜査をすることができたはずだ。
「当日エレナ嬢はいつも通り学園から公爵邸へと帰宅する予定でした。ウェルズ家の馬車に乗り、学園を出たところまではいつもと同じだったのでしょう。しかしウェルズ家の使用人である御者はそのまま馬車を共有街へと向けた」
ルドの説明に周り中が聞き耳を立てている。
「共有街の外れで御者は馬車を乗り捨ててその場にエレナ嬢とダグラス殿下を置き去りにしています。そこまで彼らを連れてくるように指示されていたということでしょう。そして王妃殿下付きの影に襲撃されることになる」
ルドははっきりと言った。
襲撃犯が『王妃の影である』と。
「先ほどエレナ嬢がおっしゃっていたように、なぜ襲撃犯が王妃殿下付きの影だとわかったかについては機密との兼ね合いもあると思いますので報告書に記載するに留めます。尚、ダグラス殿下は影の一人に対して一太刀浴びせています。右肩を負傷した者がいなかったか、王宮の医務局に確認していただくのがいいかと」
王族付きの影は当然だが常にコンディションが万全であることを求められる。
しかし単独任務も多い関係上他の誰にも知られることのない怪我を負うことがままあった。
その上しっかりと治療をしない状態で次の任務につく場合もあり、結果警護や任務に支障が出る事態に陥ることも多かったのだろう。
そのことを重くみた当時の国王陛下によって、影は定期的に医務局で怪我の有無や体調のチェックを受ける体制に変わったという。
つまり、私が襲撃された時に怪我をした影がいたというなら、その影が医務局で治療を受けた履歴が残る。
ルドの指摘に王妃の背がビクリと揺れた。
「尚、事件後に詰所まで来られたダグラス殿下もエレナ嬢も、少しの怪我もなく無事であったことをここに証言いたします」
ああ。
ルドはきっと私のことを気遣ったのだろう。
たとえ私が『ダグラスに守ってもらったから何も傷を負わなかった』と言ったところで、すべての人がその言葉を信じる訳ではない。
なぜならダグラスがその時点では私の専属護衛だったからだ。
私が傷つくことはダグラスの汚点になる。
そして仮に私が傷物になったとして、ダグラスが私を庇ってその事実を隠ぺいしていると取られることも考えられた。
しかしルドと私には表面上何の繋がりもない。
無関係であると思われるルドが言うのであれば、その言葉には信憑性が増すのだろう。
「また、行方をくらませた御者についてですが、捜索の結果所在がわかりました」
「どこで見つかったのかうかがっても?」
裁判長の言葉にルドが王妃の方を見る。
「御者はレンブラント家の領地にあるカントリーハウスで雇われていました」
まぁ、雇われていたというか、軟禁されていたということよね。
今までの使用人たちと同じように、王妃やレンブラント家の悪事に関わった使用人として領地のカントリーハウスで雇われたのだろう。
「こちらがその御者に聴取をした内容をまとめた書類です。本人にも要旨を説明した上で間違いがないことを確認し、サインをもらっています」
あの御者はどんな気持ちでサインしたのだろう。
レンブラント家から上手い話があったのか、それとも何かしらの弱みや人質を取られていたしかたなく行動したのか。
そして今後の人生を領地に軟禁されて過ごさないといけないことを認識していたのかどうか。
いずれにしても何かしらの思いがあったからこそ今回聴取に応じてくれたのだろう。
「この書類において一番重要なのは、御者が誰に依頼されて共有街の外れまで向かったのかという点です」
「そのことに関しても自白を?」
「はい。間違いなく彼は言いました。『すべては王妃殿下の指示だった』と」
ルドの言葉に、場内はまたもや沈黙に覆われた。
「わたくしはこの国の王妃ですわ!そのわたくしが貴族ですらない御者に直接声をかけることがあると思いまして?」
沈黙を破るように王妃が声を上げる。
しかしその声は今までよりもかなり弱々しく辺りに響いた。
「もちろん、王妃殿下から直接のお声がけがあった訳ではないでしょう。彼は『レンブラント家から受けた命令は王妃殿下の指示だった』と言っていたので。その指示を受けた手紙を、彼はしっかりと持っていました」
ルドは事件の報告書、そして御者の聴取書類、最後に手紙をまとめると書記官の持つトレーに乗せた。
「以上が私の証言となります」
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