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悪役令嬢は表舞台に立つ
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レオの告発を受けて、今度は私が証言の場に立つことになった。
「お名前をお願いいたします」
「エレナ・ウェルズですわ」
「先ほどレオンハルト殿から、王妃殿下の影によってエレナ様が害された、との告発がありました。この件に関してお伺いいたします」
貴族の娘が何者かに害される。
それは内容によっては令嬢としての未来を失うということだ。
それをあえて公表するような令嬢はまずいない。
そう考えると私の告発は信じられない行動といえた。
「私はまずここで我がウェルズ家の恥ずべき行いについて申し上げます」
『恥ずべき行い』というのはもちろんウェルズ家の両親がレンブラント家を脅した件だ。
これを明らかにすることによってレンブラント家が側妃殿下毒殺事件に関わっていたこと、王妃も同罪であることをつまびらかにする。
その上で恩赦を願い当主交代を申し出なければならない。
「我が両親は恥ずかしながらレンブラント家に対して脅迫的行為を行なっておりました」
「なっ!!」
「えっ!!」
私の告白に両親が声を上げる。
しかしあらかじめお願いしていたこともあり、そばに控えていた衛兵が両親がこちらに来ようとするのを阻んだ。
「脅迫的行為、ですか?」
「はい。まずはこちらをご覧くださいませ」
そう言うと私はドレスの下の腰巻きポケットから二通の手紙を取り出した。
「これはウェルズ家からレンブラント家に宛てた手紙です」
私は王妃の自室からレオが持ち出してきてくれたあの手紙を広げて見せた。
「内容を要約しますと『側妃殿下が毒殺だったことを知っている。そして策を弄したのが貴家であるとの確信を得ているがどうされるか』と書かれています」
「エレナ!」
私が滔々と手紙の内容を読み上げたところで父親の怒鳴り声が聞こえてきた。
もちろん、何を言われたとしても私は止めるつもりはない。
「そしてこちらが両親からの手紙に対するレンブラント家の返答ですわ」
私はウェルズ家の手紙を持っているのとは反対の手でもう一通の手紙を広げた。
「書かれていたのは一文だけ。『二つ目の月の二の舞になりたくなくば身の程をわきまえよ』」
両方の内容を読み上げて、私はどちらの便箋も封筒にしまった。
そして封蝋を見えるように掲げる。
「ご覧のとおり、双方の封筒ともに封蝋には各家の家紋が記されております」
まずはそれだけ言うと私は書記官の持っているトレーに二通の手紙を乗せた。
「この手紙を証拠品として提出いたします」
書記官がトレーを運んでいき裁判長が確認のためにその手紙を手に取る。
「たしかに、見る限りこの手紙は正式に双方の家が出したものだと思われます」
「レンブラント家からの手紙に書かれている『二つ目の月』は側妃殿下のことを指しているのでしょう。そして『二の舞』というのは殺されたくなくば大人しくしているように、ということです」
「それが、エレナ嬢の事件と関わりがあると?」
私は裁判長を真っ直ぐに見て言った。
「そう認識していただいて構いませんわ。なぜなら、私を襲ってきた犯人たちはこう言いましたから」
一旦言葉を切って私はさらに続ける。
「『警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ』」
共通する言葉は『月』だ。
「グラント国において『月』に例えられるお方は王妃殿下です。しかし『二つ目の月』と呼ばれるのであればそれは側妃殿下を表しているのかと。『隠れる』というのはお亡くなりになったことも意味しますので、やはりこの『月』は側妃殿下のことだと考えられます」
私が話せば話すほど、辺りのざわめきが大きくなっていく。
ちらりと見やれば王妃は青ざめたまま唇を噛み締め、父親は額に青筋を立てていた。
今にもこちらに怒鳴り込んできそうな父親を横で母親と衛兵が必死に押さえている。
「私は両親がそのような手紙をレンブラント家へ送っていることなどまったく知りませんでした。ですので突然襲撃されて心底驚きましたし、恐怖を感じました」
そして思い知ったのだ。
自分がいかにまだこの世界をゲームの世界だと思い込んでいたのかを。
ここが現実であり、怪我もするし命を落とすことだってあり得るということを。
「幸い専属護衛であったダグラス殿下によって犯人は撤退しましたので、私は無傷でその場を切り抜けることができましたわ」
つまり、公爵令嬢エレナ・ウェルズは決して犯人に汚されてはいないのだと、私はここではっきりと言った。
そうしないとあらぬ噂が広がりかねないもんね。
さすがに第一王子のダグラスによって守られたという話を捻じ曲げて噂にする人は少ないだろう。
「さらに申し上げますと、ダグラス殿下によって犯人である賊が王妃殿下付きの影であることが判明しております。なぜわかったのか、という点につきましては公にできない機密の部分もあるかと存じますので、この場での返答は差し控えさせていただきますわ」
影の存在自体は公になっているから言及しても問題ないだろう。
でも見分け方についてここで触れるのはまずい。
「また、襲撃事件に関しては共有街の詰所に被害届を出しております。その後の調査をしていただいておりますので、証人の召喚を求めます」
「承知しました」
そして裁判長に呼ばれて共有街詰所の所長、ルドが呼ばれた。
「お名前をお願いいたします」
「エレナ・ウェルズですわ」
「先ほどレオンハルト殿から、王妃殿下の影によってエレナ様が害された、との告発がありました。この件に関してお伺いいたします」
貴族の娘が何者かに害される。
それは内容によっては令嬢としての未来を失うということだ。
それをあえて公表するような令嬢はまずいない。
そう考えると私の告発は信じられない行動といえた。
「私はまずここで我がウェルズ家の恥ずべき行いについて申し上げます」
『恥ずべき行い』というのはもちろんウェルズ家の両親がレンブラント家を脅した件だ。
これを明らかにすることによってレンブラント家が側妃殿下毒殺事件に関わっていたこと、王妃も同罪であることをつまびらかにする。
その上で恩赦を願い当主交代を申し出なければならない。
「我が両親は恥ずかしながらレンブラント家に対して脅迫的行為を行なっておりました」
「なっ!!」
「えっ!!」
私の告白に両親が声を上げる。
しかしあらかじめお願いしていたこともあり、そばに控えていた衛兵が両親がこちらに来ようとするのを阻んだ。
「脅迫的行為、ですか?」
「はい。まずはこちらをご覧くださいませ」
そう言うと私はドレスの下の腰巻きポケットから二通の手紙を取り出した。
「これはウェルズ家からレンブラント家に宛てた手紙です」
私は王妃の自室からレオが持ち出してきてくれたあの手紙を広げて見せた。
「内容を要約しますと『側妃殿下が毒殺だったことを知っている。そして策を弄したのが貴家であるとの確信を得ているがどうされるか』と書かれています」
「エレナ!」
私が滔々と手紙の内容を読み上げたところで父親の怒鳴り声が聞こえてきた。
もちろん、何を言われたとしても私は止めるつもりはない。
「そしてこちらが両親からの手紙に対するレンブラント家の返答ですわ」
私はウェルズ家の手紙を持っているのとは反対の手でもう一通の手紙を広げた。
「書かれていたのは一文だけ。『二つ目の月の二の舞になりたくなくば身の程をわきまえよ』」
両方の内容を読み上げて、私はどちらの便箋も封筒にしまった。
そして封蝋を見えるように掲げる。
「ご覧のとおり、双方の封筒ともに封蝋には各家の家紋が記されております」
まずはそれだけ言うと私は書記官の持っているトレーに二通の手紙を乗せた。
「この手紙を証拠品として提出いたします」
書記官がトレーを運んでいき裁判長が確認のためにその手紙を手に取る。
「たしかに、見る限りこの手紙は正式に双方の家が出したものだと思われます」
「レンブラント家からの手紙に書かれている『二つ目の月』は側妃殿下のことを指しているのでしょう。そして『二の舞』というのは殺されたくなくば大人しくしているように、ということです」
「それが、エレナ嬢の事件と関わりがあると?」
私は裁判長を真っ直ぐに見て言った。
「そう認識していただいて構いませんわ。なぜなら、私を襲ってきた犯人たちはこう言いましたから」
一旦言葉を切って私はさらに続ける。
「『警告する。余計なことに首を突っ込むな。月は隠れた。それだけが事実だ』」
共通する言葉は『月』だ。
「グラント国において『月』に例えられるお方は王妃殿下です。しかし『二つ目の月』と呼ばれるのであればそれは側妃殿下を表しているのかと。『隠れる』というのはお亡くなりになったことも意味しますので、やはりこの『月』は側妃殿下のことだと考えられます」
私が話せば話すほど、辺りのざわめきが大きくなっていく。
ちらりと見やれば王妃は青ざめたまま唇を噛み締め、父親は額に青筋を立てていた。
今にもこちらに怒鳴り込んできそうな父親を横で母親と衛兵が必死に押さえている。
「私は両親がそのような手紙をレンブラント家へ送っていることなどまったく知りませんでした。ですので突然襲撃されて心底驚きましたし、恐怖を感じました」
そして思い知ったのだ。
自分がいかにまだこの世界をゲームの世界だと思い込んでいたのかを。
ここが現実であり、怪我もするし命を落とすことだってあり得るということを。
「幸い専属護衛であったダグラス殿下によって犯人は撤退しましたので、私は無傷でその場を切り抜けることができましたわ」
つまり、公爵令嬢エレナ・ウェルズは決して犯人に汚されてはいないのだと、私はここではっきりと言った。
そうしないとあらぬ噂が広がりかねないもんね。
さすがに第一王子のダグラスによって守られたという話を捻じ曲げて噂にする人は少ないだろう。
「さらに申し上げますと、ダグラス殿下によって犯人である賊が王妃殿下付きの影であることが判明しております。なぜわかったのか、という点につきましては公にできない機密の部分もあるかと存じますので、この場での返答は差し控えさせていただきますわ」
影の存在自体は公になっているから言及しても問題ないだろう。
でも見分け方についてここで触れるのはまずい。
「また、襲撃事件に関しては共有街の詰所に被害届を出しております。その後の調査をしていただいておりますので、証人の召喚を求めます」
「承知しました」
そして裁判長に呼ばれて共有街詰所の所長、ルドが呼ばれた。
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