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悪役令嬢は王妃の反撃を見る
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「ダグラス殿下、わたくしはこのグラント国の王妃。あなたの告発は言いがかりでしかありません。不敬罪にあたりますわ」
さすが、と言うべきだろうか。
王妃はレンブラント家の当主が連行された際に一瞬浮かべた焦りのような表情はすぐに消し、顔を上げて真っ直ぐダグラスを見る。
真摯な眼差しの王妃を見れば疑いを持ったこちらが間違っているような気持ちにさせられた。
「ダグラス殿下、王妃殿下を告発し罪に問うというのであれば証拠が必要となります」
「十分に承知しております」
ダグラスは王妃に向けていた視線を裁判長に移す。
「ポイントは二つです。一つ目は誰が毒薬を仕込んだか。二つ目はその毒薬はどうやって手に入れたものなのか。一つ目に関しては側妃殿下付きの侍女が紅茶に仕込んだことが事件後すぐに判明しています」
「犯人が判明しているのであれば事件はすでに解決しているのではなくて?」
「実行犯と毒殺を計画した犯人が違うのは先の暴漢事件と同じです」
「であれば、その侍女も暗殺ギルドの者だったとでも?」
「いいえ違います。侍女はグラント国の伯爵家の娘でした」
ダグラスの言葉に、王妃の目が光る。
扇に隠れた口元も緩く弧を描いた。
「側妃殿下に毒を盛った者は伯爵家の娘だった。つまり犯人はその娘。なぜわたくしがあらぬ疑いをかけられるのか理解に苦しみますわ」
暴漢事件の時のようにギルドが絡むわけでもなく、実行した者は捕まっている。
その事実だけを並べるのであればたしかに王妃へ疑いを持つこと自体咎められるだろう。
「しかし毒薬は伯爵家の娘では手に入れることができない物です。使われた毒薬はかなり特殊な物だったので。では誰がその毒薬を用意したのか?」
『特殊な毒』
その一言に王妃の眉根が微かに寄る。
「どう特殊だったのかはわかっているのでしょうか?」
「裁判長、毒薬の成分表も同様に提出しておりますのでご確認を」
ダグラスの言葉に裁判長が再びトレーから書類を取り上げる。
「毒薬には現在ではほとんど流通していない薬草や一般的ではない調剤方法が使用されていました。調べた限り伯爵家にはその毒薬を作れるだけの設備も手に入れるための流通経路もなかった」
「それで、実行犯と毒殺を計画した犯人が違うという結論に辿り着く、そういうことでしょうか?」
「おっしゃる通りです」
ダグラスと裁判長とのやり取りは、見守る貴族たちにとって予想外の内容ばかりなのだろう。
ダグラスの告発がどのような結果をもたらすのか。
立ち回りの上手な家の者たちは先のことまで考えながら見ている。
「だからと言って、わたくしとその者を結びつける理由にはなりませんわ」
パチリと扇を閉じると王妃が言った。
薬草に関して深追いされて困るのは王妃のはずなのに、そんな状況でも表面的には何の動揺も見せない。
「本当にそうでしょうか?思い当たる節はまったく無いと?」
ここにきて初めてダグラスが王妃を真っ直ぐに見た。
その瞳に宿る苛烈さに、ダグラスと陛下に血の繋がりを感じる。
「ありませんわ」
王妃にしてみればこの場では少しの隙もみせられないのだろう。
一瞬でも言い淀めば流れが一気に変わる。
そのことがわかっているかのようだった。
「だいたいにしてダグラス殿下はどのような権利があって過去の事件を蒸し返しているのでしょう?事件の捜査は軍部の仕事。越権行為ではなくて?」
たしかに、貴族の事件や揉め事は主に軍が担当する。
個人的に調べることが禁止されているわけではないが、自らの領域に踏み入られるのを嫌がる軍関係者は多い。
「母の事件を子である私が調べることが越権行為であると?」
「事件に対して疑問を持ったのであれば、正式に軍へ捜査依頼を出せばよろしいのです」
そうやって素直に依頼を出そうものなら王妃の力で握り潰されるだろう。
そんなこと少し考えればわかること。
現時点でどこまで王妃の手の者が軍関係に入り込んでいるかはわからないが、今の余裕のある態度を見る限りそれなりに上の者まで掌握していそうだ。
「まぁ、側妃殿下の件は病死として公表されていたわけですから、いまさら毒殺事件だったので捜査をとおっしゃっても捜査自体が難しいかもしれませんけれど」
そこまで言って、王妃は困ったものだとでもいうようにため息をついた。
さすが、と言うべきだろうか。
王妃はレンブラント家の当主が連行された際に一瞬浮かべた焦りのような表情はすぐに消し、顔を上げて真っ直ぐダグラスを見る。
真摯な眼差しの王妃を見れば疑いを持ったこちらが間違っているような気持ちにさせられた。
「ダグラス殿下、王妃殿下を告発し罪に問うというのであれば証拠が必要となります」
「十分に承知しております」
ダグラスは王妃に向けていた視線を裁判長に移す。
「ポイントは二つです。一つ目は誰が毒薬を仕込んだか。二つ目はその毒薬はどうやって手に入れたものなのか。一つ目に関しては側妃殿下付きの侍女が紅茶に仕込んだことが事件後すぐに判明しています」
「犯人が判明しているのであれば事件はすでに解決しているのではなくて?」
「実行犯と毒殺を計画した犯人が違うのは先の暴漢事件と同じです」
「であれば、その侍女も暗殺ギルドの者だったとでも?」
「いいえ違います。侍女はグラント国の伯爵家の娘でした」
ダグラスの言葉に、王妃の目が光る。
扇に隠れた口元も緩く弧を描いた。
「側妃殿下に毒を盛った者は伯爵家の娘だった。つまり犯人はその娘。なぜわたくしがあらぬ疑いをかけられるのか理解に苦しみますわ」
暴漢事件の時のようにギルドが絡むわけでもなく、実行した者は捕まっている。
その事実だけを並べるのであればたしかに王妃へ疑いを持つこと自体咎められるだろう。
「しかし毒薬は伯爵家の娘では手に入れることができない物です。使われた毒薬はかなり特殊な物だったので。では誰がその毒薬を用意したのか?」
『特殊な毒』
その一言に王妃の眉根が微かに寄る。
「どう特殊だったのかはわかっているのでしょうか?」
「裁判長、毒薬の成分表も同様に提出しておりますのでご確認を」
ダグラスの言葉に裁判長が再びトレーから書類を取り上げる。
「毒薬には現在ではほとんど流通していない薬草や一般的ではない調剤方法が使用されていました。調べた限り伯爵家にはその毒薬を作れるだけの設備も手に入れるための流通経路もなかった」
「それで、実行犯と毒殺を計画した犯人が違うという結論に辿り着く、そういうことでしょうか?」
「おっしゃる通りです」
ダグラスと裁判長とのやり取りは、見守る貴族たちにとって予想外の内容ばかりなのだろう。
ダグラスの告発がどのような結果をもたらすのか。
立ち回りの上手な家の者たちは先のことまで考えながら見ている。
「だからと言って、わたくしとその者を結びつける理由にはなりませんわ」
パチリと扇を閉じると王妃が言った。
薬草に関して深追いされて困るのは王妃のはずなのに、そんな状況でも表面的には何の動揺も見せない。
「本当にそうでしょうか?思い当たる節はまったく無いと?」
ここにきて初めてダグラスが王妃を真っ直ぐに見た。
その瞳に宿る苛烈さに、ダグラスと陛下に血の繋がりを感じる。
「ありませんわ」
王妃にしてみればこの場では少しの隙もみせられないのだろう。
一瞬でも言い淀めば流れが一気に変わる。
そのことがわかっているかのようだった。
「だいたいにしてダグラス殿下はどのような権利があって過去の事件を蒸し返しているのでしょう?事件の捜査は軍部の仕事。越権行為ではなくて?」
たしかに、貴族の事件や揉め事は主に軍が担当する。
個人的に調べることが禁止されているわけではないが、自らの領域に踏み入られるのを嫌がる軍関係者は多い。
「母の事件を子である私が調べることが越権行為であると?」
「事件に対して疑問を持ったのであれば、正式に軍へ捜査依頼を出せばよろしいのです」
そうやって素直に依頼を出そうものなら王妃の力で握り潰されるだろう。
そんなこと少し考えればわかること。
現時点でどこまで王妃の手の者が軍関係に入り込んでいるかはわからないが、今の余裕のある態度を見る限りそれなりに上の者まで掌握していそうだ。
「まぁ、側妃殿下の件は病死として公表されていたわけですから、いまさら毒殺事件だったので捜査をとおっしゃっても捜査自体が難しいかもしれませんけれど」
そこまで言って、王妃は困ったものだとでもいうようにため息をついた。
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