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悪役令嬢は見守る
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第一王子にとって元侯爵家当主は祖父であり、側妃は母だ。
そのことに思い至った者たちはことの成り行きを固唾を呑んで見守っている。
「また、この件をダグラスの父であり側妃の夫である余が取り仕切ること、不満を持つものもいよう。この場は裁判所ではないが、進行は裁判長に任せ、裁定は法律に順ずるものとする」
陛下の言葉に裁判長を務める伯爵家の当主が進み出た。
「陛下より任を賜りましたため、これより私が進めてまいります。また、傍聴されている皆さま方は本件の見届け人となりますので心してご参加ください」
そこまで言うと裁判長がダグラスに向き合う。
「まずは改めてお名前からお願いいたします」
裁判長の問いかけにダグラスが落ち着いた声で答えた。
「グラント国第一王子、ダグラス・グラントの名において告発します」
「では、侯爵家当主の暴漢事件について、告発内容をお願いします」
暴漢事件は当時かなり話題となっているが、実行犯を含めその目的も結局わからずじまいだったと言われている。
その事件の真相をかなりの年月を経ていまさら明らかにすることができるのだろうか、見守る貴族たちの多くがそう考えていることが伝わってきた。
「まずはじめに申し上げたいのは、侯爵家当主暴漢事件の犯人はレンブラント家の当主だということです」
ダグラスの声は低くはあるがよく通る。
その内容が会場内の隅々まで届いたと思われる一瞬後、場内は再び喧騒に包まれた。
「あのレンブラント家の当主が?まさか」
「いや、当時そういった噂はたしかにあった」
「しかし、証拠がなくてその噂も立ち消えただろう?」
常日頃は立ち居振る舞いに気をつける当主たちでさえ、今日は静かに口をつぐんでいることが難しい状況だ。
「静粛に!」
裁判長の声によりざわめきはいくぶん落ち着く。
そんな中で一人の男性が声を上げた。
「裁判長、嫌疑は私にかけられている。反論の機会をいただいても?」
男はまさしく今話題に出たレンブラント家の当主だ。
当時から代替わりしていないため、つまりこの男が今ダグラスが糾弾している相手となる。
「反論の機会は当然設ける。しかしまずはダグラス殿下の告発内容を聞いてからとする」
裁判長の言葉に、男は鷹揚に頷く。
さすが長きにわたってレンブラント家の当主を務めているだけあるよね。
動揺を顔に出さない辺りかなりやり手の気配がした。
まぁ、それくらいでなければ一連の大胆な犯行はできないだろう。
でもその余裕もいつまで持つか。
今回の告発で、ダグラスだけでなく陛下は徹底的に過去の罪をつまびらかにするつもりだ。
その思いはともするとダグラス以上の苛烈さを秘めている。
「それではダグラス殿下、事件の経緯に照らし合わせてレンブラント家当主が犯人であるとの根拠をお願いします」
裁判長の声にダグラスはしっかりと顔を上げた。
「まず、動機は王家へ自らの娘を入れること、つまり陛下の正妃にさせるためだったと考えられます。しかし当時陛下の婚約者には別の侯爵家の娘が抜擢されていた。直接その娘を狙わなかったのは、それをしてしまうと自分たちの家が真っ先に疑われることがわかっていたからでしょう」
一旦言葉を切ってダグラスが続ける。
「ではどうするか。側妃の実家は堅実な領地運営をする侯爵家。しかし社交はそれほど得意ではなかった。貴族社会の中で相反する家は少なかったが、特別に懇意にしている家も同様に少なかったといいます。令嬢の後ろ盾というのは実家の力だ。つまり、侯爵家の当主さえいなくなってしまえば、他の家々を黙らせて婚約者を変更することが可能だと考えた」
ダグラスの言は当時多くの者たちが疑ったことだ。
しかし証拠は出なかった。
たとえどれだけ怪しくとも、グラント国は法律を基に刑を定めている。
「事実侯爵家当主の事件後、陛下の婚約者はレンブラント家の者に変更となっています」
聴衆と化した貴族たちは静かにダグラスの言葉に耳を傾けている。
「異議あり」
そこへレンブラント家当主が声を上げた。
当然レンブラント家としてはダグラスの言葉を是とはしない。
「発言を認めます」
「ダグラス殿下の言われていることはすべて憶測にすぎません。何の証拠も無しに言いがかりをつけられては困る。これは冤罪です」
レンブラント家としては長年暴かれることなく過ぎてきた事実をいまさら白日の下に晒されるなんて思いもしないのだろう。
血気にはやって言いがかりをつけてくる、困った若者とでもいうような目でダグラスのことを見ている。
「たしかに証拠のない状況での発言は真実とは言い難い。ダグラス殿下、その点については?」
「おっしゃることはごもっともです」
ダグラスがレンブラント家当主に視線を合わす。
「それでは証拠をお見せしましょう」
そのことに思い至った者たちはことの成り行きを固唾を呑んで見守っている。
「また、この件をダグラスの父であり側妃の夫である余が取り仕切ること、不満を持つものもいよう。この場は裁判所ではないが、進行は裁判長に任せ、裁定は法律に順ずるものとする」
陛下の言葉に裁判長を務める伯爵家の当主が進み出た。
「陛下より任を賜りましたため、これより私が進めてまいります。また、傍聴されている皆さま方は本件の見届け人となりますので心してご参加ください」
そこまで言うと裁判長がダグラスに向き合う。
「まずは改めてお名前からお願いいたします」
裁判長の問いかけにダグラスが落ち着いた声で答えた。
「グラント国第一王子、ダグラス・グラントの名において告発します」
「では、侯爵家当主の暴漢事件について、告発内容をお願いします」
暴漢事件は当時かなり話題となっているが、実行犯を含めその目的も結局わからずじまいだったと言われている。
その事件の真相をかなりの年月を経ていまさら明らかにすることができるのだろうか、見守る貴族たちの多くがそう考えていることが伝わってきた。
「まずはじめに申し上げたいのは、侯爵家当主暴漢事件の犯人はレンブラント家の当主だということです」
ダグラスの声は低くはあるがよく通る。
その内容が会場内の隅々まで届いたと思われる一瞬後、場内は再び喧騒に包まれた。
「あのレンブラント家の当主が?まさか」
「いや、当時そういった噂はたしかにあった」
「しかし、証拠がなくてその噂も立ち消えただろう?」
常日頃は立ち居振る舞いに気をつける当主たちでさえ、今日は静かに口をつぐんでいることが難しい状況だ。
「静粛に!」
裁判長の声によりざわめきはいくぶん落ち着く。
そんな中で一人の男性が声を上げた。
「裁判長、嫌疑は私にかけられている。反論の機会をいただいても?」
男はまさしく今話題に出たレンブラント家の当主だ。
当時から代替わりしていないため、つまりこの男が今ダグラスが糾弾している相手となる。
「反論の機会は当然設ける。しかしまずはダグラス殿下の告発内容を聞いてからとする」
裁判長の言葉に、男は鷹揚に頷く。
さすが長きにわたってレンブラント家の当主を務めているだけあるよね。
動揺を顔に出さない辺りかなりやり手の気配がした。
まぁ、それくらいでなければ一連の大胆な犯行はできないだろう。
でもその余裕もいつまで持つか。
今回の告発で、ダグラスだけでなく陛下は徹底的に過去の罪をつまびらかにするつもりだ。
その思いはともするとダグラス以上の苛烈さを秘めている。
「それではダグラス殿下、事件の経緯に照らし合わせてレンブラント家当主が犯人であるとの根拠をお願いします」
裁判長の声にダグラスはしっかりと顔を上げた。
「まず、動機は王家へ自らの娘を入れること、つまり陛下の正妃にさせるためだったと考えられます。しかし当時陛下の婚約者には別の侯爵家の娘が抜擢されていた。直接その娘を狙わなかったのは、それをしてしまうと自分たちの家が真っ先に疑われることがわかっていたからでしょう」
一旦言葉を切ってダグラスが続ける。
「ではどうするか。側妃の実家は堅実な領地運営をする侯爵家。しかし社交はそれほど得意ではなかった。貴族社会の中で相反する家は少なかったが、特別に懇意にしている家も同様に少なかったといいます。令嬢の後ろ盾というのは実家の力だ。つまり、侯爵家の当主さえいなくなってしまえば、他の家々を黙らせて婚約者を変更することが可能だと考えた」
ダグラスの言は当時多くの者たちが疑ったことだ。
しかし証拠は出なかった。
たとえどれだけ怪しくとも、グラント国は法律を基に刑を定めている。
「事実侯爵家当主の事件後、陛下の婚約者はレンブラント家の者に変更となっています」
聴衆と化した貴族たちは静かにダグラスの言葉に耳を傾けている。
「異議あり」
そこへレンブラント家当主が声を上げた。
当然レンブラント家としてはダグラスの言葉を是とはしない。
「発言を認めます」
「ダグラス殿下の言われていることはすべて憶測にすぎません。何の証拠も無しに言いがかりをつけられては困る。これは冤罪です」
レンブラント家としては長年暴かれることなく過ぎてきた事実をいまさら白日の下に晒されるなんて思いもしないのだろう。
血気にはやって言いがかりをつけてくる、困った若者とでもいうような目でダグラスのことを見ている。
「たしかに証拠のない状況での発言は真実とは言い難い。ダグラス殿下、その点については?」
「おっしゃることはごもっともです」
ダグラスがレンブラント家当主に視線を合わす。
「それでは証拠をお見せしましょう」
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