【受賞&書籍化】転生した悪役令嬢の断罪(本編完結済)

神宮寺 あおい@受賞&書籍化

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悪役令嬢は傍観する

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「さて。生徒諸君には楽しいはずの舞踏会に水を差す形となったこと申し訳なく思う。事は王族の不始末。諸君らには改めて別の機会を設けることを約束しよう」

そう言って陛下が手を振ると壁際に控えていた使用人たちが一斉に片付けに入る。
舞踏会のために用意された料理や楽器類を含めて速やかに撤収していくのはさすが王宮の使用人と言えた。

「今ここには多くの貴族家の者たちが集まっている。国として急ぎ周知せねばならぬことがあるため、急遽この場を公式な発表の場とする」

陛下の言葉に多くの生徒たちは不安そうな表情を浮かべている。
そんな生徒たちの元に、開かれた扉からそれぞれの家の当主夫妻が入場しそばにやってきた。
学園に子どもが通っていない家の者たちも同様だ。

そして会場の両側に人々は分かれ、その場はあっという間に謁見の間のような状態となった。

「王妃をここへ」

人の移動に伴いざわついていた場内も陛下の一言で静まり返る。
本来王族である王妃は陛下と共に王族専用の扉から入場するものだ。
しかし今回は一般貴族と同様の入口から近衛兵に先導される形で入ってきた。

「陛下、これはいったい何のお戯れですか?」

中央に道のように開けられた場所を通り、王族スペースの前までやってきた王妃は柳眉をしかめながら問う。

不快な気持ちを表しているのか、扇を持つ手に力が込められていることが遠目からでもわかった。
プライドの高い王妃にとって常とは違う形で衆人の中を歩かされたことは屈辱的だったのだろう。
敬意を持って崇められるような視線の中での入場と今とではかなりの違いがある。

「このような場で戯れるほど余は暇ではない」

王妃はここに来るまで今日何が起こったのを知らない。
苛立ちとかすかな不安。
気持ちとしてはそんな感じだろうか。

「先ほど余はこの国にとって大きな決断をした」

陛下は会場全体を見回すとさらに言葉を続ける。

「本日をもってライアン・グラントを王太子の座から降ろし、廃嫡とすることを宣言した」

ことの一部始終を目にしていた生徒や学園関係者を除き、多くの者たちが予想外の出来事に一瞬沈黙する。
そしてその後どよめきが辺りを渦巻いた。

「どういうことだ!?」
「王子はライアン殿下だけだろう?」
「廃嫡だと!?いったい何があったというんだ」

『静粛に!』
おそらく宰相がそう声をあげようとした途端、王妃がパチリッと扇を閉じる音が響く。
それは決して大きな音ではなかったが、周りが静まるのには十分な効果があった。

「陛下。いったいどういうことかご説明を願います」

王妃は鬼気迫る表情で陛下を睥睨する。

「ライアンはエレナ嬢という婚約者がいるにもかかわらず男爵令嬢であるエマ・ウェインとの仲を深め、あまつさえ此度の舞踏会場において大勢の生徒が見守る中一方的に婚約破棄を宣言した」

陛下は一つため息をついて続ける。

「さらにはかの令嬢と共謀しありもしない罪を捏造、それを元にエレナ嬢を糾弾した。たとえ王族であろうとも罪なき令嬢に対して冤罪をかけるなど許されない。ライアンはその責任を取らねばならぬ」
「ライアンはきっとその女にたぶらかされたのですわ!」
「王妃よ。どんな理由があろうとも愚かな真似をしていいということにはならん。行動には責任が伴うこと、お主もわかっておろう?」

陛下の問いかけに王妃が言葉に詰まる。
ここで否定の言葉を吐こうものなら、王妃は権力を笠に着て無理を通すと言われるだろう。

そのことは王妃もよくわかっている。
とはいえライアンは王妃にとって唯一の子。
ライアンが廃嫡されてしまえば野望がついえてしまう。

「しかし廃嫡だなんて重すぎます。それにライアンはグラント国にとって唯一の後継者。国を思えばこそ、ライアンには反省を促し今後は国のためにいっそうの努力をさせるべきだと思いますわ」

『唯一の後継者』

それが本当ではないことを王妃は知っている。

さすがに国を統べる立場である陛下はその言葉に対する気持ちを顔に出すことはしない。
しかしかつての側妃に対する思い、そしてダグラスに対する行動を見る限り、王妃のこの言葉は陛下の逆鱗に触れそうだ。

「そうか。王妃はそう考えるのだな」

重く告げた陛下は、顔を上げると会場内の貴族全員を見るかのように視線を投げかける。

「今この場で皆に周知することがある」

そして陛下は会場の扉を見やった。

「王妃はライアンが唯一の後継者と言った。しかし余にはもう一人王子がいる」

陛下の言葉はいわば爆弾のようなものだった。

『もう一人の王子』

降って湧いた事実に会場内のどよめきが先ほどの比ではないくらいに広がる。

「その王子を紹介しよう。……入れ」

閉じられていた会場の扉が開かれていく。
多くの者たちが驚きと共に見つめる中、その人はゆったりとした足取りで歩き出した。
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