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悪役令嬢は対峙する
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ライアンの言葉に周囲の生徒がざわめいた。
ダンスホールの真ん中でライアンはエマの肩を抱いている。
そんな彼らを遠巻きに見ながら、多くの生徒の視線はライアンたちと私を行ったり来たりしている。
そしてライアンは私を指差すと言い放った。
「エレナ・ウェルズ嬢。お前の非道な行いはわかっている。私の婚約者という立場を笠に着てエマ嬢を虐げていたそうだな。そんなお前との婚約をこのまま続けることはできない。よってお前との婚約は破棄する!」
ライアンの言葉に辺りがシンッと静まり返った。
生徒たちは今耳にした言葉が信じられないという顔をしている。
ライアンのかたわらにいるエマだけがご満悦とでもいう表情をしていて一人浮いていた。
「ライアン様。私にはエマ様を虐げたという心当たりはまったくございませんわ。何か誤解があるのではなくて?」
「言い訳がましいな、エレナ嬢」
まずは否定だ。
そうすればライアンはエマが受けたというイジメを問わざるをえない。
「まだ貴族のルールに疎い状況だったエマ嬢に対して、武術大会の時に常識がないとそしっただろう」
「貴族となったからにはそのルールに従うのは当然ですわ。元平民だからこそエマ様はルールを理解するために努力が必要なのはおわかりですわよね?私はエマ様のためにご説明申し上げただけですわ」
入学して間もない頃、武術大会でエマはライアンとオーウェン、そしてベイリーに刺繍入りのハンカチを渡していた。
大会で刺繍入りのハンカチを贈るのは婚約者が務めるのが恒例。
思うにあの時点ではエマはハーレムルートの攻略を目論んでいたのだと思う。
「エマ嬢は努力していた。お前はそれを認めたくなかっただけだろう?」
いやどの口がそれを言うの?
今までのエマを見てきてそんなことを言えるなんて、目が節穴と言われてもしかたないと思うのだけど?
「そもそも、武術大会において婚約者がいる男性は他の女性から刺繍入りのハンカチを受け取るのはマナー違反ではなくて?」
正直、この話題に関してだけはオーウェンとベイリーも耳が痛いだろう。
チラッと見た視界の端では二人ともばつが悪そうな顔をしている。
「やましい気持ちがあったわけではなく、応援の気持ちを込めて刺繍してくれたハンカチを無下にするのもマナー違反だろう」
込められた気持ちがどうこうではなく、受け取ること自体が自分の婚約者に対して失礼になるって言ってるのに論点のすり替えをしている時点で話にならない。
「それに、それ以外でもエマ嬢を害している姿を私は見ている。以前廊下でわざとぶつかったのに謝罪しなかったことがあったよな?」
ああ。
エマがわざとぶつかってこようとしたところをダグラスが回避してくれたあの時ね。
「私はわざとぶつかるようなことはしておりません。そのことは私の護衛が見ておりますわ」
「エレナ嬢の護衛であれば主であるエレナ嬢のいう通りに答えるだろう?護衛の証言では信用できない。私はその現場を見ていたし、私の目にはエレナ嬢がぶつかってきたように見えた」
「角度の問題でそう見えただけでは?それに、ライアン様はエマ様のことを大事にされているみたいですし、それこそ私情が入っていないと言い切れるのでしょうか?」
私の指摘にライアンの顔に一瞬血がのぼる。
しかしすぐに気を取り直したのか言葉を続けた。
「そうか。エレナ嬢は私がエマ嬢を優先していると思い、嫉妬に駆られてそんな行動を取ってしまったということだな?」
……は?
人はあり得ない言葉を聞くと一瞬思考が止まるのだろうか。
ライアンのあまりにも見当違いな言葉に私は一瞬驚きで口を開けたままになった。
え?
何?
どこをどうしたらそんな考えに?
……危ない危ない。
口が開けっぱなしなのは令嬢としてアウトだし、うっかり心の中の言葉が口からまろび出なくてよかった。
「お話になりませんわ。ライアン様と私は王命で結ばれた婚約者同士。そこに特別な思いはないと以前も申し上げましたでしょう?」
声を大にして言いたい。
『お前に対して恋愛的興味はひとかけらもないわー!』
もちろん言わないよ!
心の中で思うだけ。
でもライアンに対して特別な思いがないということは周りにもしっかりと聞こえるようにはっきり言った。
大事なことだからなんなら二回言いたいくらいだ。
エレナが嫉妬してエマに嫌がらせをした、そのシナリオは何があっても、断じてないと否定したい。
絶対に許容できない誤解だから。
ここを誤解されると私がストレスでどうにかなりそうよー。
「つまり、私にはエマ様を害する理由がありませんわ」
私の指摘にライアンが言葉につまった。
「それに、当事者以外に誰も見ていないことに対して、どちらが正しいのかを言い合うのは水掛け論ですわ。平行線をたどるばかりで答えは出ないと思います」
私の言葉に辺りが一瞬シンとなる。
ライアンとエマ、そして私以外の生徒たちはことの成り行きを見守るだけで話に割り入ってくることはない。
そりゃあそうだろう。
王太子と公爵令嬢との言い合いだ。
口を出そうものならとばっちりを受けるのが必然。
「で……では、エマ嬢を中庭の池に突き落としたことについてはどうだ?これに関しては証拠も目撃証言もある!」
きた。
とうとう、記録のアーティファクトの出番だ。
おそらくエマが一番自信を持っている事件。
エレナに罪をなすりつけるための証拠のハンカチと、証言をしてくれる男子生徒。
その二つでもって私を追い詰めるつもりだろう。
「まったく思い当たりませんわ。そこまでおっしゃるのであれば、その証拠と目撃証言とやらをお見せいただけますかしら?」
さぁ、断罪劇の仕上げといきましょう。
ダンスホールの真ん中でライアンはエマの肩を抱いている。
そんな彼らを遠巻きに見ながら、多くの生徒の視線はライアンたちと私を行ったり来たりしている。
そしてライアンは私を指差すと言い放った。
「エレナ・ウェルズ嬢。お前の非道な行いはわかっている。私の婚約者という立場を笠に着てエマ嬢を虐げていたそうだな。そんなお前との婚約をこのまま続けることはできない。よってお前との婚約は破棄する!」
ライアンの言葉に辺りがシンッと静まり返った。
生徒たちは今耳にした言葉が信じられないという顔をしている。
ライアンのかたわらにいるエマだけがご満悦とでもいう表情をしていて一人浮いていた。
「ライアン様。私にはエマ様を虐げたという心当たりはまったくございませんわ。何か誤解があるのではなくて?」
「言い訳がましいな、エレナ嬢」
まずは否定だ。
そうすればライアンはエマが受けたというイジメを問わざるをえない。
「まだ貴族のルールに疎い状況だったエマ嬢に対して、武術大会の時に常識がないとそしっただろう」
「貴族となったからにはそのルールに従うのは当然ですわ。元平民だからこそエマ様はルールを理解するために努力が必要なのはおわかりですわよね?私はエマ様のためにご説明申し上げただけですわ」
入学して間もない頃、武術大会でエマはライアンとオーウェン、そしてベイリーに刺繍入りのハンカチを渡していた。
大会で刺繍入りのハンカチを贈るのは婚約者が務めるのが恒例。
思うにあの時点ではエマはハーレムルートの攻略を目論んでいたのだと思う。
「エマ嬢は努力していた。お前はそれを認めたくなかっただけだろう?」
いやどの口がそれを言うの?
今までのエマを見てきてそんなことを言えるなんて、目が節穴と言われてもしかたないと思うのだけど?
「そもそも、武術大会において婚約者がいる男性は他の女性から刺繍入りのハンカチを受け取るのはマナー違反ではなくて?」
正直、この話題に関してだけはオーウェンとベイリーも耳が痛いだろう。
チラッと見た視界の端では二人ともばつが悪そうな顔をしている。
「やましい気持ちがあったわけではなく、応援の気持ちを込めて刺繍してくれたハンカチを無下にするのもマナー違反だろう」
込められた気持ちがどうこうではなく、受け取ること自体が自分の婚約者に対して失礼になるって言ってるのに論点のすり替えをしている時点で話にならない。
「それに、それ以外でもエマ嬢を害している姿を私は見ている。以前廊下でわざとぶつかったのに謝罪しなかったことがあったよな?」
ああ。
エマがわざとぶつかってこようとしたところをダグラスが回避してくれたあの時ね。
「私はわざとぶつかるようなことはしておりません。そのことは私の護衛が見ておりますわ」
「エレナ嬢の護衛であれば主であるエレナ嬢のいう通りに答えるだろう?護衛の証言では信用できない。私はその現場を見ていたし、私の目にはエレナ嬢がぶつかってきたように見えた」
「角度の問題でそう見えただけでは?それに、ライアン様はエマ様のことを大事にされているみたいですし、それこそ私情が入っていないと言い切れるのでしょうか?」
私の指摘にライアンの顔に一瞬血がのぼる。
しかしすぐに気を取り直したのか言葉を続けた。
「そうか。エレナ嬢は私がエマ嬢を優先していると思い、嫉妬に駆られてそんな行動を取ってしまったということだな?」
……は?
人はあり得ない言葉を聞くと一瞬思考が止まるのだろうか。
ライアンのあまりにも見当違いな言葉に私は一瞬驚きで口を開けたままになった。
え?
何?
どこをどうしたらそんな考えに?
……危ない危ない。
口が開けっぱなしなのは令嬢としてアウトだし、うっかり心の中の言葉が口からまろび出なくてよかった。
「お話になりませんわ。ライアン様と私は王命で結ばれた婚約者同士。そこに特別な思いはないと以前も申し上げましたでしょう?」
声を大にして言いたい。
『お前に対して恋愛的興味はひとかけらもないわー!』
もちろん言わないよ!
心の中で思うだけ。
でもライアンに対して特別な思いがないということは周りにもしっかりと聞こえるようにはっきり言った。
大事なことだからなんなら二回言いたいくらいだ。
エレナが嫉妬してエマに嫌がらせをした、そのシナリオは何があっても、断じてないと否定したい。
絶対に許容できない誤解だから。
ここを誤解されると私がストレスでどうにかなりそうよー。
「つまり、私にはエマ様を害する理由がありませんわ」
私の指摘にライアンが言葉につまった。
「それに、当事者以外に誰も見ていないことに対して、どちらが正しいのかを言い合うのは水掛け論ですわ。平行線をたどるばかりで答えは出ないと思います」
私の言葉に辺りが一瞬シンとなる。
ライアンとエマ、そして私以外の生徒たちはことの成り行きを見守るだけで話に割り入ってくることはない。
そりゃあそうだろう。
王太子と公爵令嬢との言い合いだ。
口を出そうものならとばっちりを受けるのが必然。
「で……では、エマ嬢を中庭の池に突き落としたことについてはどうだ?これに関しては証拠も目撃証言もある!」
きた。
とうとう、記録のアーティファクトの出番だ。
おそらくエマが一番自信を持っている事件。
エレナに罪をなすりつけるための証拠のハンカチと、証言をしてくれる男子生徒。
その二つでもって私を追い詰めるつもりだろう。
「まったく思い当たりませんわ。そこまでおっしゃるのであれば、その証拠と目撃証言とやらをお見せいただけますかしら?」
さぁ、断罪劇の仕上げといきましょう。
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